最強のドッグフーディング「代行作業」で、機能が「使える状態」になかったことに気づいた話
はじめに
こんにちは!株式会社CastingONEでHR領域のSaaSのPdM兼エンジニアをやっている@hiroakiです。
今回のお話はドッグフーディング。ドッグフーディングとは、自社プロダクトを自分たちで使ってみることで、ユーザー視点で改善点や課題を見つけ出す取り組みのことをいいます。しかし、単に「使ってみる」だけでは見えてこない部分も多いもの。本当にユーザーの視点に立つって想像以上に難しいものですよね。今回社内のPdMで実施した「代行作業」、これは想像以上にユーザー視点でドッグフーディングできるものでした。この記事では、代行作業をやることになった背景や、その取り組みを通じて得られた学びをご紹介します!
代行のきっかけは不十分な機能の状態から
冒頭の文章で、意図的に代行業務をやっているように書いてしまったのですが、最初はそんなに綺麗な始まり方ではなく、むしろ負から始まったものでした。より詳細にお話しするためにまずは『CastingONE』のサービスについて少し説明させてください。
CastingONEは非正規雇用の掘り起こしを支援するサービス
CastingONEはHRの中でも非正規雇用を対象としたCRMを提供しています。現在主に使ってくれているユーザーの多くは派遣会社です。派遣会社はクライアント(事業会社)の求人と求職者をマッチングさせることが役割です。具体的には、求人媒体などを活用して新規の求職者を集めることが一般的です。しかし、CastingONEが注力しているのは、単なる新規の求職者へのアプローチではなく、「自社の未稼働スタッフ」や「応募したものの条件が合わず、求人から離脱してしまった求職者」に再びアプローチをかけ、新たな仕事を紹介すること、いわゆる「掘り起こし」と呼ばれる取り組みを支援することです。ユーザーが求人情報や求職者のデータをCastingONEに登録することで、LINEやメール、SMSなどを通じて適切な求職者に求人情報を届けることが可能です。このように、CastingONEは派遣会社の掘り起こし業務を効率化し、未稼働の潜在的な人材の活用を促進することができます。
データインポートをするのが実は大変
CastingONEを使うにはまず「自社の未稼働スタッフ」や「応募したものの条件が合わず、求人から離脱してしまった求職者」のデータをインポートしていただく必要があります。ただ、この作業にちょっと難がありました。というのも当初CastingONEの形式に則ったCSV形式ではないと、データインポートをすることができなかったんです。「自社のシステムからダウンロードしたファイルをCastingONEの形式にローカルで変換して、それをCastingONEにインポートする」という一連の作業を普段の業務に組み込むのは忙しい派遣会社の方には少し難しいものがありました。そこで代行作業でこの辺りをサポートすることで、CastingONEを使っていただける状態にしたのです。ということで、弊社で行なっていた代行作業はデータインポートの負が大きかったことから始まりました。
ソリューション提供後も続く代行作業
代行作業は以下の観点でユーザー側にも、弊社側にもかなり負が大きいものでした。
- ユーザーが好きなタイミングでデータを入れることができない
- 代行作業は基本週1回、前の週の分のデータを入れるという運用をしていました。そのため新規データをCastingONEにすぐ入れるということは代行作業ではできませんでした。
- 単純に弊社CSグループの時間をかなり割いてしまう
- この代行作業のために、ユーザーのCSVファイルを自社のCSVの形式に変換するツールを作成していました。CSVをインポートする作業にプラスして、このツールの作成や保守の時間も必要だったので、全体としてかなりの時間を取られていました。
そのため、代行作業がなくてもユーザーがプロダクトを利用できるように、ソリューションを提供することになりました。
データインポートのソリューション
ソリューションとしては、CSVインポートに変換設定を組めるというもので『カスタムCSV』という機能です。CastingONE内にCSVの変換設定を組んでおくことで、ユーザーが持っているCSVファイルをそのままCastingONEに入れてデータインポートすることが可能になります。「これで代行作業は発生しないし、ユーザーに自分自身でデータを好きなタイミングで入れていただける!」少なくとも当時はそう思っていました。
なぜか終わらない代行作業
あまり良くなかったのですが、『カスタムCSV』をリリースしてからは少し代行作業のことは放置してしまっておりました。「CSがユーザーに案内してくれて、適切な設定をすれば代行もその内なくなる」と楽観的に考えておりました。実際CSからも「『カスタムCSV』の機能に○○の変換設定を入れて欲しい」等の声ももらっていたため、少なくとも使ってくれていることはわかっていました。しかしなぜか代行作業はいつまでも残っています。なぜだ…?この歪み状態を解決すべく、PdMが代行作業をすることで、ユーザーのペインを自ら体験しようとなったのです。
「使える状態」になかった機能
代行作業に使用していた独自の変換ツールが残っていたため、これをまず『カスタムCSV』に組み込むことにしました。
「さて、全部変換設定組みますか!」と意気込んだのも束の間、見えてくる機能の使いにくさ。「あれ、この変換設定ないの!?」「この変換処理できないのは流石にキツいでしょ」「この部分の体験今のままだと作業的にきついな」そこまで特殊なケースを扱っているわけではないのに、課題が山積みであることがわかりました。自分たちがユーザー目線で使った時には見えてこなかったペインが色々上がってきました。この機能はユーザーにとって「使える状態」になかったのだなと学びました。
爆速の改善
以下の条件を満たすものは即効解消し、すぐにリリースしました。
- さすがにこれはないと厳しい(課題とソリューションが明確)
- 工数かからずシュッとできる
そもそも工数がかからずそこそこインパクトが出せるものであったため、もっと早く対処すべきだったと反省しております。一方改善したことでユーザーやCSには喜んでいただき、僕らとしても全ての代行ツールの変換設定を『カスタムCSV』に移行することに成功しました。そしてようやく「使える状態」になった『カスタムCSV』によって代行作業をしなくてもユーザー自身が対応できるようになっていきました。ユーザー自身が好きなタイミングでデータをインポートできるようになったため、ユーザーからは「新鮮なデータを入れられることはかなり良い」との声をいただきました。まだ改善については道半ばですが、取り組みで得られた学習結果はプロダクトに組み込んでいく想定です。
代行作業からの学び
機能が「使える状態」になっているか確認する
改めて、今回の代行で機能の「使える状態」というものを考えさせられました。個人的には以下の3つの要素が非常に重要であると考えております。
- ユーザーの直感通り動作するのか?
- ユーザーの標準的なユースケースに対応しているのか?
- ユーザーの課題がその機能で解決するのか?
『カスタムCSV』は機能として「使える状態」に達していなかったために代行作業が剥がせなかったのだと思っています。機能リリースした時もそうですし、中長期的に機能が「使える状態」にあるかはウォッチしていくべきであることを学びました。CastingONEとしてはデータインポートはプロダクトを使う上で非常に重要な要素であるため、このようなコア機能は特にですね。
また、振り返ると、CSグループとのコミュニケーションがさらに密接であれば、課題をより早期に認識し、改善に着手できたかもしれません。当時は他にも多くの優先業務がある中で、『カスタムCSV』の改善の優先度を十分に高めることができませんでした。今回は代行作業でたまたま改善の機会が得られましたが、今後はよりCSとの連携を強めていくのも重要だなと学びました。
ユーザーの靴を履く
改めて、普段のドッグフーディングのユーザー目線は限界があると感じました。特にtoBはより難易度が高いかなと。今回代行作業を通してリアルなユーザーとなって、CastingONEを使う体験をしましたが、まさに「ユーザーの靴を履く」ことができたなと実感しました。そこから見る世界は普段見る世界とは別物です。はじまりは歪なものでしたが、適切に代行作業を利用することで得られるものの大きさも学びでした。
おわりに
ここまで、代行作業の背景やその取り組みを通じて得られた学びについてお伝えしてきました。もともと機能の不十分さが発端となった代行作業でしたが、結果的にはユーザーの視点に立つ貴重な機会となりました。代行作業を通じて、プロダクトが「使える」状態にあるかどうかを自ら体験し、ユーザーのペインポイントを深く理解することができたのです。今後は、この経験を活かし、あえて代行作業を行う場を設けることで、よりユーザー目線での改善を進めていきたいと考えています。最後までお読みいただき、ありがとうございました!この取り組みが、読者の皆様のプロダクト改善の一助となれば幸いです。
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