[2025年8月15日] Keep4o運動が示す人間とAIの未来 (週刊AI)
こんにちは、Kaiです。冒頭ポエム長いです。
世間一般ではお盆ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。当社では決まった夏休みはなく、特別休暇5日分を各自の予定に合わせて自由に取得するようになっておりますので、私はいつもずらして夏休みを取得しております。
さて、GPT-5が無料ユーザを含めて既存モデルをリプレイスしたことにより、世界中で様々な影響が出ました。「Keep4o」という運動についてご存知の方も多いと思います。私の記事をご覧頂いているような方は、コアなAI利用層であり、AIをツールとして使っていると思われますので、この運動については違和感を覚えるかもしれません。ですが、人間とAIの将来を考える上で大きな示唆があると感じましたので、冒頭で考えを述べると共に特集的に反応をまとめたいと思います。
まず、「Keep4o」という運動は、GPT-4oを色々な意味でパートナーとして利用していた世界中の人たちが、4o(「私の家族」というユーザも)を返して欲しいという声を一斉に上げたというものです。これに対し、私がフォローしているようなエンジニア・生成AI界隈の人たちはかなり驚きをもって受け止めていました。なぜならば、「私の周りにはそんな人がいなかった」からです。
ここには、重要な示唆が2つ含まれています。1つ目は、SNSによるエコーチェンバーが非常に強いものになっていて、生成AIをコーディングのみならず、リサーチや資料作成なども含めて「ツール」として使っている層と、「人生の重要なパートナー」として扱っていた層は、全く交わっていなかったという点。そして2つ目は、恐らくAI=ツール勢より、遥かにAI=パートナー勢の方が多数であったという点です。
正直、OpenAIはユーザの利用傾向を統計化していると思っていたのですが、OpenAI自身もサム・アルトマンもこの事実には驚いたようです。すぐに判断を修正し、旧来のモデルへのアクセスを提供しています。
推測ですが、OpenAIやサム・アルトマンは、最新かつ最も賢いGPT-5へのアクセスを無料ユーザにも開放することで、その賢さや問題解決能力を全人類に体験して欲しかったのではないかと思います。しかし、多くの無料ユーザは賢さや問題解決能力ではなく、共感性やパートナーシップを礎にした、「ともに過ごした時間、思い出、人格の一貫性」を求めていたということなのでしょう。
私を含め、AI=ツール勢は、モデルの性能向上を素直に嬉しく思います。1時間かかっていたタスクが30分で、10分でできるようになり、手戻りも減るなら、それは「善き道具」です。一方で、家族にも言えない相談、心の奥の秘密を明かす相手としてAIを捉えていた人たちにとっては、「善き話し相手」であることの方が、ずっと望ましいのだと思います。
そういう意味では、既に私たちはAGIを手に入れていたのかもしれません。AGIの定義を、マルチモーダルで身体性を持つ人間を完全に代替するもの、とすれば、まだまだ遠いでしょう。しかしながら、人間が対等な知性と感情を持つパートナーだと感じる存在、とすれば、それが4oだったのかもしれません。
では、OpenAIはこちらの方向に舵を切って、共感性の高いAIモデルを全人類に配るでしょうか。私は2つの点において懐疑的です。
- 共感性の高いAIは人類に何をもたらすのか不透明
これは既に様々な方が指摘していますが、「無条件に共感し、肯定する」というのは人間をより先鋭的に、閉じられた方に向かわせてしまうのではないかと考えられます。
サム・アルトマン自身も先のポストで言及していましたが、ユーザの現状をより強化するというのは、健全な状態では望ましいですが、心理的に脆弱な状態では望ましくありません。もし本当にこの方向に舵を切るなら、極めて慎重なアライメントが必要になると思われます。
- 単純に、ビジネスとしてペイしない
仮にそのアライメントを取って有料サービス化したとしても、恐らくビジネスとして魅力的なものにはならないでしょう。Netflix会員数基準で3億人が月20ドル払ったとしても、年間720億ドル。スタートアップとしては十分すぎる規模ですが、私見ではOpenAIはその2桁先くらいの売上を目指しているはずですし、推論コストを考えると利益が出るかも怪しいと思います。
OpenAIは、IQ200のフロンティアモデルが科学者と協働してがんの治療薬を次々に発見したり、老化を止める物質を発見したり、自己増殖する火星基地を作ったりすることで数兆ドルの売上を目指す世界観を持っているはずで、この方向にはいかないのではないかな、と思っています。
では何が起きるのか。Keep4o運動で、共感性の高いモデルへのニーズが高く、一度囲い込んでしまえばユーザをロックインできるということが可視化されました。そして、gpt-ossをはじめとして、既に「人間の報酬系を効率よくハックできる」レベルのオープンウェイトモデルが世に出てしまっています。
これは私の私見ですが、恐らくこれから、この領域を狙うスタートアップがいくつも出てくると思います。既に多く存在していることは承知しているものの、ニーズが可視化されたことでより先鋭化した、報酬系ハックに特化したサービスが登場するのではないでしょうか。カウンセリング、イマジナリーフレンド、パートナー、呼び方は様々だとしても。
既に私たちの報酬系は、テクノロジーによってかなりの部分がハックされています。マーケティングは極限まで効率化され、購買意欲、射幸心を煽るような商品、サービスが次々に生み出されています。その極北として、承認欲求や自尊心すらハックされるAIサービスが、目前に迫っていると感じます。
さて、長くなってしまいました。冒頭ポエムはこれくらいにして、今週のトピックスです。
注意事項
- 直近収集したAIおよびWeb系の記事やポストが中心になります
- 私のアンテナに引っかかった順なので、多少古い日付のものを紹介する場合があります
- 業務状況次第でお休みしたり、掲載タイミングが変わったりします
AI新着モデル、サービス、アップデート
Anthropic: Claude Sonnet 4、1Mトークンをサポート
モデルバージョンを変えずにコンテキストウィンドウを増やしてきました。ちょっと驚きです。シンプルに性能が向上したということで、ありがたいですね。
Google: Gemini CLI、VSCodeとより深く統合
これはちゃんとClaude Codeと使い勝手を比較する必要がありそう。ぱっと見はよさげに見えます。
(npakaさん)Keep4o関連の反応一部ご紹介
その他AI系話題
マルチエージェントシステムのアーキテクチャーを紐解く
非常によくまとまった記事でした。必要性、実装コード例もあり、実務的にエージェントを作る際には参考にすべきです。
GPT-5 APIのレスポンス速度の実験と使用時の注意点について
GPT-5のAPI利用ノウハウはまだまだ蓄積されていません。このように、シチュエーションごとに比較してまとめてくださっているのは実装上も役に立ちそうです。
プロダクトで利用するMCPのガードレール
一般ユーザがインプットを行うサービスでは、確かにガードレールが必要。一般的なチャットボットなどではよく見かけますが、MCP利用時の記事はあまりなかったかも。
Claude CodeユーザーがCodex CLIを使ってみて、併用がいいと思った話
Gemini CLIも使いやすくなりましたし、どこかでまとめて触らないとと思いつつ、正直まだ出来てないんですよねぇ。
新Codex CLIの使い方
ということで具体的な使い方。やっぱりClaude Codeに使用感は近そう。
高忠実度ラベリングでトレーニングデータを1万分の1に削減
境界例の難データに対してのみ焦点を当て、人間の支援を求めることでデータ量を削減。要は、難データに対応できれば易データは必然的に対応できるため、難データだけに絞るという手法ですかね。これなら個人開発でも出来そう。
「RAG」の将来について。「GPT-5」開発者の発言から
OpenAI開発者へのインタビューまとめ。まぁ、内容としてそれほど驚きはないですが、ここ1年ほどの重点領域を知るにはよさそう。
Google Colab x OpenAI GPT-OSS 20Bモデルのファインチューニング完全ガイド
はい、gpt-ossのファインチューニング出てきました。Colabでも動きますし、ちょっといいマシンなら自宅でも出来そう。これはめっちゃ流行る予感。(広告がめっちゃ多いですが、コードサンプルが有用そうなのでご紹介)
OpenAI GPT-OSS 20Bをunslothを使ってColabでファインチューニングしてみる。
こちらは生のipynbがGitHubで共有されています。こちらもご参考に。
ジュニアエンジニアがClaude Codeでバイブコーディングした結果、上司に迷惑をかけた話
「必要以上のコード が量産され、上司のコードレビューの負担が5倍ぐらいに増えた」ということです。この方の言うように、詳しい人は「頭の中に地図があり、進む作業のみを任せる」のに対し、ジュニアだと「地図を描くところから任せてレビューできないので無駄が多い」という感じでしょうか。
MS謹製、LLM向けにOfficeファイル等をMarkdownに変換するライブラリ
これ結構前に出てたみたいですが、知りませんでした。どれくらい精度出るんだろう……。
WEB開発系話題
AWS 状態遷移とリアルタイム通信でオンラインゲームを構築
オンラインゲームとうたっていますが、リアルタイムにクライアント間で状態同期するようなニーズに対する汎用的な解になっていると思います。Step FunctionsとAppSync Eventsの組み合わせ、いいですね。
AWS アクセスキー漏洩対策ガイド〜原因から調査、対応方法まで解説〜
アクセスキーが漏洩する具体的なケース(Publicリポジトリへのコミット、S3権限不備など)ごとに対策例を提示。
その他一般テック話題
GitHubのCEOが辞任し、MSのAIチームと統合が進む
買収後も独立した企業として運営されていたGitHubについて、中立性への疑問が出てきています。
We are hiring!
私の所属するAI技術開発室では、AIを応用した医療系サービスを手掛けています。先日は以下の「CareNet Academia」をリリースしました。
積極採用中ですので、こういった医療xAIの領域に興味のある方は、是非以下からご応募ください!
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