フリーランスの委託契約とその有効範囲の話
新米フリーランスが受諾した初めての案件が偽装請負で、おかげでやたら詳しくなったので調べたことを伝えるシリーズ。2回目。
今回はフリーランスエージェント経由で委託される案件の契約の話をしたい。なお、私は1社以外エージェント契約をしていない。初手で偽装請負を引いたおかげで、エージェント経由の案件は今後受ける気がなくなったので他はわからないから、心当たりがあるなら当てはめてください。
※なお詳しいことは弁護士に確認をお願いします。
そもそも契約って何?
GPT4o曰く、「契約」の定義は次のとおりだそうな。
契約(けいやく)は、当事者間で合意した約束のことを指し、その内容に基づいて法的に拘束力を持つものです。契約は民法や商法などの法律によって規定されています。
契約の話は民法、商法、労働契約法の3つに係る。今回は民法の「契約」について深堀る。
民法の「契約」
まずは具体的な条文から見てみよう。
民法第520条(契約の成立)
「契約は、当事者がその内容を一致させる意思表示をしたときに成立する。」
例えば、売主(以下Aさん)が「売ります」と買主(以下Bさん)の「買います」が合致することで売買契約が成立する。口約束でも同じ効力がある。しかし、口約束など後から参照できないとトラブルになるため、書面(レシートや領収書など)で記録することが多い。
民法第521条(申込みの効力発生時期)
「申込みは、その申込みに対して承諾をする意思表示があった時に効力を生じる。」
契約の成立には、申込みと承諾というプロセスが必要で、意味としては次のとおり。
- 申込みは一方の当事者が契約を提案する行為
- 承諾はもう一方の当事者がその提案を受け入れる行為
例えば、AさんがBさんに対して「この本を1,000円で売ります」と提案しました(申込み)。Bさんは、「買います」と答えました(承諾)。Bさんが「買います」と答えた時点で契約が成立する。
民法第522条(承諾の通知の到達)
「承諾の通知は、その通知が申込者に到達した時に効力を生じる。」
例えば、AさんがBさんに「この商品を1,000円で売ります」というメールを送信しました(申込み)。Bさんはその提案に同意し、「その条件で買います」と返信しました(承諾の通知)。そして、AさんがBさんの返信メールを受信した時点で、承諾の通知が到達し、契約が成立する。
民法第523条(承諾の意思表示の撤回)
「承諾の意思表示は、その意思表示が申込者に到達する前に限り、これを撤回することができる。」
例えば、AさんがBさんに「この商品を1,000円で売ります」というメールを送信しました(申込み)。Bさんはその提案に同意し、「その条件で買います」というメールをAさんに送信しました(承諾の意思表示)。しかし、Bさんはすぐに気が変わり、Aさんに「先ほどの承諾を撤回します」というメールを送信しました。Aさんが「承諾を撤回します」のメールを受け取った時点で、AさんはまだBさんの「買います」というメールを受け取っていなかったため、Bさんの承諾は撤回され、契約は成立しない。
逆に、先にAさんがBさんの「買います」を受け取っていると、契約が成立する。
契約の有効範囲
AさんBさん間の契約はどこまで有効か。例えば、AさんBさんの契約は第三者に有効か。当然、有効範囲はAさんBさん当事者間に限る。当たり前である。もし第三者にも影響があるなら、契約自由の原則に反することになる。
契約自由の原則
契約自由の原則は、契約法、民法において非常に重要な概念なので、頭の片隅に入れておくといいかもしれない。
この原則は、個人や法人が契約を結ぶ際に、内容や相手方、方法、時期などを自由に決定することができるというものだ。この原則は次の四要素がある。
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締結の自由
誰と契約を結ぶか、または結ばないかを自由に決定できること。
例:AさんがBさんと契約を結ぶことを選択し、Cさんとは結ばないことを選択できる。 -
内容の自由
契約の内容を自由に決定できること。
例:契約の価格、条件、期限などを当事者が自由に設定できる。 -
形式の自由
契約の形式を自由に決定できること。
例:口頭契約、書面契約、電子メール契約など、形式を問わず契約を結ぶことができる。 -
変更・解除の自由
契約を変更したり解除したりする自由があること。
例:契約当事者が合意すれば、契約内容の変更や解除が可能である。
契約の無効や取り消し
最後に契約の無効や取り消しに取り上げておこう。
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無効な契約
- 契約内容が公序良俗に反する場合(民法第90条)や、法律に違反する場合、その契約は無効
例:賭博契約や犯罪行為を目的とした契約
- 契約内容が公序良俗に反する場合(民法第90条)や、法律に違反する場合、その契約は無効
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取り消し可能な契約(民法第96条)
- 詐欺や脅迫によって締結された契約は取り消しが可能
- 意思能力を欠く者(未成年者や精神障害者)が締結した契約も取り消しが可能
法律の世界における「無効」と「取り消し」は意味が異なるそうで、無効は「契約が最初からなかった」として扱われる。取り消しは「一旦有効に成立した行為を後から無効とする」。前者は誰でも無制限になかったことにできるが、後者は当事者間で、取り消しするには時間制限がある、と違う。
私の体験談
民法の契約に関して深堀したところで、私の体験談を紹介しよう。次の契約は成立するか考えてほしい。
問題
前提として①準委任契約に次が記載されているものとする。
準委任契約のとある一文
本契約に基づく案件の契約である旨を記載した書面を甲(会社B)乙(私)間で締結すること、または、案件の契約及び請書(甲が使用するシステム上における意思表示を含む。)を甲乙間で取り交わすことにより成立する。ただし、案件の契約記載の発行日から○日以内に、乙が許諾の回答をしない場合、本案件の契約記載内容を受託され、案件の契約が成立したものとみなす。
- 私は会社Bと①準委任契約を結んでいる。
- 会社Aと会社Bが②案件の契約を結んだ。
- 私は②の内容を見て、拒否した。
- 会社Bが私に「賠償責任を問う」と言ってきた。
- 拒否した後、○日後がすぎた。
- 会社Bは私に賠償責任を問うことができるのだろうか?
- 会社Bと私の間で、②案件の契約は一定期間後に成立するのだろうか?
答え
結論から言えば、会社Bは私に賠償責任を負わせることはできないし、②も成立しない。さらに「準委任契約のとある一文」は無効もしくは取り消しになる可能性がある。
契約の有効範囲で示した通り、契約は当事者間のみ有効である。そのため会社Aと会社Bの契約が無条件で私に及ぶことはない。民法第520〜22条や契約自由の原則から、一定期間経とうが②は成立しない。「自動で②が成立する」は会社Bの俺ルールで、これそのものがおかしいのだ。
②を有効にしたいのなら、次の2パターンがある。
- 私と会社B間で民法第99条(代理)に基づいた契約をあらかじめ結ぶ(代理人の選定)。
- 私が②を追認する。
①の契約書に「自動的に同意したとみなす」と記載したところで、私の代理人ではない、もしくは私の追認がなければ②が私と会社B間で成立することはない。
会社Bが代理人でなく、私の追認もない場合、会社Bの行動は無権代理行為と言われ、会社Bがその責務を負う。仮に会社Aが賠償を請求した場合、私ではなく会社Bが支払うこととなる。
終わりに
私の体験談の答えはフリーランス・トラブル110番の窓口弁護士に質問した答えを私の理解に合わせて再編したものになる。他の弁護士や状況によって回答は変わるので、自分がどんな状態かなど、最後は弁護士に相談しよう。
フリーランスはおそらく法律について疎いから、気づかずに契約してしまう。しかしそれは自分の当然の権利や利益を損なう行為にほかならない。実際、私がそうだった。契約は十二分に読むこと。そして疑問があれば、相手に聞くか専門家に相談する。トラップにハマらないようにするには法律を学び自衛するしかない。
そのくらいのことで弁護士を使うのはちょっと...と気が引けるのなら次を利用しよう。
私のオススメは後者のココナラ法律相談。匿名で弁護士に質問できる。身バレしないように相談事を知りたいことは抑えつつ、ふわっと書くテクニックは求められるものの、気軽に質問できる点は魅力的だ。私の状況が違法か否か、ココで質問して弁護士から回答を得たのはホントに大きな収穫だった。
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