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客先常駐における労働派遣と準委任

2024/07/26に公開

新米フリーランスが受諾した初めての案件が偽装請負で、おかげでやたら詳しくなったので調べたことを伝えるシリーズ。

(留意)労働派遣だと派遣先、派遣元、業務委託だと委託先、委託元と言い方が変わる。混乱するかもしれないので派遣先、派遣元と呼び方を統一する。

「労働派遣」と「業務委託」

外部の人の力を借りようと思った際、組織外から人を入れる契約は「労働派遣」と「業務委託」がある。この2つの違いを一言でまとめると次のように言える。

  • 派遣: 外部の人への指揮命令権がある。
  • 業務委託: 外部の人への指揮命令権がない。

「指揮命令権」は法律用語なのでわかりにくいかもしれない。もっとざっくり言えば、次のようになる。

  • 派遣: 外部の人へ仕事を『指示する。』
  • 業務委託: 外部の人へ仕事を『お願いする。』

指示する/お願いするは、前者は強制的に言うことを聞かせられるが、後者はお願いなので、外部の人が依頼された仕事を受けるか受けないか自由意志に基づき決められる。

今回はこの2契約、とくに労働派遣もしくは業務委託を直接結んだ企業とは違う場所に派遣されたとき、何がOKで何がNGなのか、その話をしたい。

余談①

人の力を借りる契約は労働法、民法にかかる。外部から労働力を借りる契約は次以外にないことを覚えておこう。

  • 請負契約(民法632条~642条)
  • 委任契約・準委任契約(民法643条~656条)
  • 派遣契約(労働者派遣契約)

私の体験エピソードとして、私が赴任していた現場の某派遣先の部長から顧客と派遣先の関係について説明を受けたことがある。

「我々の客先常駐サービスは請負でもないし、派遣でもないし、準委任(SES)でもない。客とサービス契約を結んで、我々は客先常駐し、サービス提供をしている。」(録音あり)

無論、私は「こいつ何を言っているんだ?」である。

それと同時に「これはマジでやばい。早く逃げなきゃ💦」と感じた瞬間でもあった。

後日、労働基準監督署の総合労働相談センターで某派遣先の部長の話をしたら、「なんだそれ」と驚いていた。

「業務委託契約」は法的に存在しない

さて、まず身も蓋もないが「業務委託契約」は法的には存在しない。現場では「業務委託」と聞くし、書類としても「業務委託契約書」が交わされて運用されるけれども、「業務委託」は通称なのである。では正式名称は?

業務委託契約書を読めば、「請負契約」や「委任契約」、「準委任契約」という記載がある。私の契約書にも次のように記載されている。

甲及び乙は、本契約及び個別契約が、第○条で定める準委任契約であって、請負契約又は雇用契約としての要素がないことを確認する。

この「請負契約」や「委任契約」、「準委任契約」が正式名称なのだ。

つまり、「業務委託契約を結ぶ」と言われたら、「請負契約」もしくは「委任契約」、「準委任契約」と覚えておればOK。なおSES契約、System Engineering Service契約というのもあるが、実態は準委任契約のため、「SES契約を結ぶ」と言われたら「準委任契約を結ぶ」と覚えれば問題なし。

請負契約・委任契約・準委任契約

この3契約の違いをまとめてみよう。

請負契約

  1. 仕事を依頼する人 ▶︎「注文者」
  2. 仕事を受ける人 ▶︎「請負人」
  3. 再委託可能
  4. 互いの義務
    • 請負人は約束したモノを約束した日までに約束した内容で納品する義務を負う。
    • 注文者は請負人が約束したモノを納品した対価として報酬を支払う義務を負う。

請負契約は作るモノ・期日が決まっている。アプリケーション開発やライター、絵の納品などの仕事で見られる契約だ。たとえば、Skebの受発注のフローは次の通りだ。注文者が絵師に対して絵を発注する。絵師は絵を描いて注文者に納品する。その後、注文者が絵師に対価を支払う。

委任契約・準委任契約

  1. 仕事を依頼する人▶︎「委任者」
  2. 仕事を受ける人▶︎「受任者」
  3. 再委託は原則不可(契約書に記載ない限り)
  4. 互いの義務
    • 受任者は頼まれた仕事を専門家として一般的な水準で処理する義務を負う。
    • 委任者は受任者の稼働時間に対して対価を支払う義務を負う。

委任契約・準委任契約は、端的に言えば、委任者が受任者の業務遂行能力と時間を買っているのだ。

委任契約と準委任契約の違い

ここでは委任契約と準委任契約を深堀しよう。この2契約の違いを一言でいえば、「委任する作業に法律行為が含まれるか否か」である。

  • 委任の仕事例:弁護士との委任契約、税理士の顧問業務
  • 準委任の仕事例:医師の診療、システムの運用保守

非法律職の方が委任契約を結ぶことはまずないので、業務委託=請負契約もしくは準委任契約と覚えておけば問題ない。

指揮命令権って何?

本題に入る前の最後に、指揮命令権を明らかにしたい。指揮命令権は「自分たちの仕事をさせる人に自分の命令ができるよ、動かせるよ」という権利だ。しかし何が指示命令で、何がお願いなのか、正直わかりにくいので例を挙げる。

指示命令の例

  • 9:00~18:00で働いてください。
  • 休日出勤してください。
  • この書類をこのフォーマットでまとめてください。
  • この仕事はオフィスでしてください。
  • 毎日17:00に進捗報告を書いてください。
  • この仕事は今日中に終わらせてください。
  • この仕事はあなたが担当してください。
  • この定例会に参加してください。

お願いの例

  • この書類は高品質な内容を求めます。
  • このプロジェクトはできれば来週金曜日までに完成をお願いします。
  • 今進めているプロジェクトについて、可能ならこの仕様書の作成も手伝ってください。
  • この定例会への参加をお願いします。

指示命令は受任者の意思関係ないような言い方になる一方で、お願いは受任者の自由意志によって決めてもらう言い方になる。後ほど説明する労働派遣、準委任の理解には指示命令とお願いの理解が必須で、この違いがわからないと違法行為になってしまう。

客先常駐における「労働派遣」と「準委任」

ここまで説明して労働派遣もしくは準委任を直接結んだ企業とは違う場所に派遣されたときに何がOKで何がNGかが大まかにわかるようになる。SESでよくある光景なのだが、多くの方は理解しているとは思えない。次の表はOK/NGをまとめたものである。

派遣先のアクション 労働派遣 準委任
指揮命令 できる できない
勤怠・労務管理 できる できない
時間・場所の指定 できる できない
仕事の依頼 拒否できない 拒否できる
仕事の進捗管理 できる できない

労働派遣契約で赴任してきた方は派遣先の指揮者の命令を拒否できない。しかし派遣者は派遣元と雇用契約を結んでいるため、労働基準法で守られる労働者として労働者派遣法が適用される。

準委任契約で赴任してきた派遣者の場合、派遣先が派遣者に何かを強制できない。派遣先と派遣者は対等である点で労働派遣と比べて大きく違うのだ。労働派遣で赴任してきた派遣者に対してできるアクションは派遣元が派遣先に代わって行う。

余談②

合わせ技の場合もあるので、それも紹介しよう。登場人物は会社A、会社B、労働者Xとする。

会社Aが労働者Xを労働派遣契約で受け入れ、会社Bに準委任契約で派遣する場合

こちらの場合は、直ちに違法とはならない。会社Aが労働者Xを労働派遣で受け入れているので、労働者Xは会社Aの業務命令で会社Bに赴任しているからだ。ただし会社Aは会社BからXへの指揮命令に注意を払う必要がある。会社BからXへの指揮命令があると違法と見なされる。

会社Aが労働者Xを準委任契約で受け入れ、会社Bに労働派遣契約で派遣する場合

こちらは直ちに違法となる。労働者Xは会社Aの業務命令を拒否できるにも関わらず拒否できておらず、会社Bに労働派遣されているためだ。これでは誰がXの使用者かわからない。

偽装請負

たびたび問題となる偽装請負は、派遣者の契約が請負もしくは準委任契約であるにもかかわらず、現場での扱いが労働派遣契約と同等となっている状況を指す。

偽装請負の何が問題か。

労働派遣契約では企業が背負うべき義務、例えば社会保険の支払いや解雇規制、賃金全額払いの原則(1分単位で報酬を計算)などがある。しかし、準委任契約はそれらの義務を負う、守る必要がない。準委任契約の派遣者を労働派遣として扱うことは、派遣者が本来得られた利益を派遣元、派遣先が横取りしている構図となる。

そのため偽装請負は労働派遣者法及び職業安定法で禁止されている。発覚した場合、派遣元だけでなく派遣先にも、その他関係者にも行政指導が入る。最悪のケースだと刑事事件として立件され、個人に前科がつくのだ。

最近の判例

SES企業における経歴詐称指示が違法な業務命令にあたるとして損害賠償請求を認める勝訴判決を獲得しました!

まとめ

労働派遣と準委任契約は明確に違う契約なのだが、SES業界では準委任契約なのに派遣のような扱いとなっている。業界人曰く、これがどうも普通らしい。

私も運悪く引っかかってしまい声を上げたら、直契約した派遣元のフリーランスエージェントから「業界標準」と言われ、改善する気も謝る気もまったくないと言質をとっている。

業界がこれなら自衛するしかなく、記事にした。労働派遣と準委任契約の違いを理解して、自衛できる術を身につければ幸いである。なお私がどのような手順で彼ら彼女らに対してNOと突きつけたか?別記事で書きたい。

余談③

最終的な判断は必ず弁護士に相談しよう。インターネットで弁護士を見つける方法は次が詳しい。私は本件に関しては初手で相談した。

https://www.youtube.com/watch?v=LR0jslZqyYk&list=WL&index=1&t=5s

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