不動産領域に挑む対話型AI「TASOGARE」─ 開発雑記
Tasogareとは
不動産を購入しようとする際、多くの方は「エリアはどうしよう」「価格帯はどのくらいが妥当なのか」「子どもの学区はどれがいいのか」といった、まだ明確には固まっていない多様な条件や要望を抱えています。
そうした曖昧なニーズを、対話を通じて整理し、不動産会社との商談をより効率的で有意義なものへと導く──それが私たちの開発する対話型AI「TASOGARE」のコンセプトです。
本記事では、技術的な観点に焦点を当て、TASOGAREを支える仕組みや開発時に直面している課題、今後の展望についてお伝えします。
曖昧なニーズ整理という未踏領域
不動産購入の初期段階では、ユーザーの希望はしばしば断片的で明確ではありません。「駅から近いほうがいいかも」「新築がいいけれど予算はどれくらいか分からない」など、条件がふわりと宙に浮いた状態で情報収集に臨む方も珍しくありません。
TASOGAREは、こうした曖昧なニーズをユーザーとの対話を通じて徐々に引き出し、整理します。既存のFAQボットや定型的な対話フローではカバーしきれない、柔軟な対応が求められる領域です。
この柔軟性を実現するため、私たちは大規模言語モデル(LLM)の特性を最大限に活用し、LLMが持つ言語理解・生成力を対話フローに組み込んでいます。
対話フロー制御と技術的アプローチ
TASOGAREが直面する最大の課題は、ユーザーが「まだ自分でもはっきりしていない」ニーズをどのように会話の中で整理・顕在化させるかです。ここでは、LLMを活用したいくつかの技術的手法を紹介します。
Chain-of-Thought (CoT)とReAct手法
LLMによる出力を安定化させるため、Chain-of-Thought (CoT)と呼ばれる「思考過程を明示化する」手法を用いています。これは、LLMが回答を生成する際に、内部的な推論過程をモデル内で丁寧に踏ませ、適切なステップを経たうえで確信度の高い出力を生む取り組みです。どのような手順で、思考を進行させるのか、それぞれの思考ではどれくらいの限定的に思考を実施させるのかといった部分は、明確な指針があるわけではなく、試行錯誤の連続です。
また、ReActと呼ばれる手法により、ユーザー入力(観察)→モデル出力(推論)→モデル行動(質問・回答)というサイクルを明確化し、対話を制御しています。LLMはさることながら、ユーザーがどのような入力をするのかも、全てを想定するのが難しいシステムです。ですので、考えつく限りいろんな方向性でLLMシステムを検証し、「何が最適な会話プロセスなのか」ということを日々思案しています。Tasogareの開発にあたっては、人間の心理を深く理解することが求められます。
これらの手法を組み合わせながら、「何がまだユーザーにとって整理できていない点なのか」を判断し、追加の質問や情報提示を実行し、目的の仕組みを実現しています。
RAG(Retrieval-Augmented Generation)の活用
不動産領域は地域特性、築年数、エリア名、ローカルな相場情報など、多面的な知識が要求されます。
LLMが汎用モデルとして優秀でも、特定地域の細やかな情報や企業独自のドキュメントを内包しているわけではありません。
そこで、RAG(Retrieval-Augmented Generation)を活用し、外部ドキュメントから動的に情報を取得する仕組みを導入しています。RAGにより、最新の地域情報や特定企業専用のデータにアクセスできるようになり、回答内容をより正確かつ有益なものへアップデートできます。
しかしながら、RAGに関してもまだまだ未開拓な部分があり、古い知識を適切に更新していく方法、複数の類似度の低い知識を組み合わせて適切に回答する方法等、改善していくべきことは山積しています。世の中のサービス展開や、論文等を参照し、より理想的な回答をしてくれるAIを目指し続けています。
開発フローとツール
現状の開発体制としては、AIのロジック部分は私一人で対応をしています。インフラやアプリケーション部分は別のメンバーが独立して進めるスタイルを取っています。実は私は職業としてコードを書き始めて1年ほどしか経っておらず、開発経験は未熟です。経験のあるエンジニアの方々に基盤の仕組みを固めてもらいつつ、私はAIの仕組みの部分に集中して開発を進めています。
LLMの開発に関しては、世の中に最適解が公開されていないことも多いです。そのため、検証するべき仮説を作るのも一苦労だったりします。アイデア出しの段階ではとにかく前提知識を増やすために論文や参考資料を漁り、ChatGPTとの相談を通して思考を拡散・収束させたり、ひたすら小さく仮説検証を回して、対話の品質向上や問題点の洗い出しを行っています。
対話モデルの開発は依然として未知の要素が多く、一回のチューニングで理想に近づくわけではありません。モデルを更新すると、以前できていたことが不安定になる可能性もあり、PDCAを地道に回す必要があります。これには、チューニング前後での入出力比較や、LLM自身による評価スコアリングなど、新たな検証手法が欠かせません。そういった部分も世に出ている便利なツールは活用しつつも、細かなところは内製するために仕組みを考える必要があったりします。
不動産営業プロセスとの統合
TASOGAREは、単純に情報を整理するツールにとどまらず、不動産会社との商談プロセス全体を最適化する一要素として設計しています。
不動産企業が顧客へTASOGAREを案内すれば、顧客は自分の都合に合わせて思考整理を進められ、営業マンは後から整理された情報を参照して、より的確な提案やフォローが可能になります。
このようなビジネスプロセス統合には、ヒアリング結果をデータ構造化したり、後段のレコメンド機能や外部API連携を検討したりといった、技術的にも多層的な発展余地が存在します。
ユーザー体験と表現力の追求
技術的な安定性や正確性は重要ですが、それだけではユーザーに「また使いたい」という気持ちを抱いてもらうのは難しいです。
TASOGAREは、会話の中で相槌や簡単なサマリー提示、タイミングの良い情報挿入などを工夫し、ユーザーが「ただ聞かれて答える」だけでなく、「自分の要望を少しずつ言語化していくプロセスそのもの」を楽しめるようなインタラクションを追求しています。
将来的には音声対話や、ユーザー理解度の可視化、個人に合わせた応答スタイルの最適化など、より直感的で愛嬌のある対話体験を研究していく方針です。研究するべき分野は無限に存在します。
今後の課題と展望
現段階では、曖昧な要望を引き出し、整理する部分に注力していますが、将来的には、整理した情報をもとに有益な物件や関連サービスを提示できる「提案フェーズ」を強化したいと考えています。
また、地図連携や外部データとのAPI連携によって、ローカルな土地柄や地域情報をより積極的に活用できるようにすることで、よりパーソナライズされた対話が可能になるでしょう。
ヒアリング項目の選定や、不要な情報収集を避ける判断、長期利用者向けの知識グラフ的な蓄積など、実現すべきテーマは数多くあります。
これらを一つずつクリアしていくことで、TASOGAREは「不動産購入前の曖昧な悩み」を軽減するだけでなく、「ユーザーが自分自身をより深く理解し、その上で情報収集を楽しむ」ための基盤へと進化していくと考えています。
まとめ
TASOGAREの開発は、LLMの応用やRAGの活用、CoTやReActといった先進的な技術的アプローチと、不動産領域特有のニーズ、ユーザー体験への配慮が交錯するチャレンジングな取り組みです。
技術者としては、未踏領域ゆえの試行錯誤と学びが詰まっており、PDCAを粘り強く回しながら最適解を探っています。
この「曖昧な段階の価値提供」を突き詰めることは、単に不動産業界に新たな手法をもたらすだけでなく、対話型AIが人間の意思決定をどう支援できるかという、より普遍的な問いへの挑戦でもあります。
これからも技術的発見や学びを活かし、TASOGAREと私は一歩ずつ前進して行きたいと思っています。
P.S.
この記事はChatGPTと私のコラボレーションにより執筆しています。
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