AIオーケストレーター時代の到来――コーディングよりも「組み合わせる力」と「スピード感」が鍵
背景
近年のAI技術の急速な発展により、従来エンジニアが時間をかけて行っていたコーディングやリファクタリングの大部分が、わずか数分で完了してしまう時代になりました。コードの大半はAIが自動生成でき、中級以下のエンジニアが担っていた仕事は劇的に減っていくでしょう。
しかし、その一方で、こうしたAIを効果的に組み合わせて最大限に活用できる“人材”や“仕組み”の価値が高まっています。近年、業界ではこの概念を「AIオーケストレーター」と呼ぶケースが増えてきました。
「AIオーケストレーター」という用語について
もともと「AIオーケストレーター」は、複数のAIモデルやシステムを自動で連携・統合する技術やプラットフォームを指す言葉として使われてきました。たとえば、NTTデータ先端技術やYellow.aiなどは自社ソリューションにこの概念を取り入れ、2020年代半ば以降に本格的に展開しています。特定の企業や個人が提唱したというより、業界全体で少しずつ発展させてきた概念と言えるでしょう。
一方で、近年の大規模言語モデル(LLM)や生成AIの普及により、人間が複数のAIツールを戦略的に組み合わせて企業の課題解決を図る役割も、しばしば「AIオーケストレーター」と呼ばれるようになってきました。
本記事では、特に“人間がAIを組み合わせて成果を出す”役割(ポジション)を指して「AIオーケストレーター」と呼ぶことにします。
AIオーケストレーターとは?
AIオーケストレーターとは、複数のAIツールやサービスを組み合わせ、最適な解を導き出せるように設計・調整し、企業の課題を解決に導くスペシャリストのことです。従来のように自らコードを大量に書くのではなく、さまざまなAIの得意領域や特徴を見極め、役割分担を明確にして高速に成果を上げていきます。
なぜAIオーケストレーターが求められるのか
1. 圧倒的なスピード感
これまで数十名のエンジニアが1年かけて構築していたものを、AIオーケストレーター数名で3ヶ月ほどで作り上げるケースも珍しくなくなるかもしれません。必要なコードの大部分はAIが自動生成し、人が行うのは指示出しとAIの結果を評価する作業です。従来の数倍のスピード感でプロジェクトが進むため、一人当たりの仕事量が10倍や30倍に増えることも想定されます。
2. コードの可読性・拡張性への考え方の変化
リファクタリングや拡張性の確保などは、人間が主導してコードを維持管理していた時代には必須の考え方でした。しかしAIが修正・拡張まで担うようになると、「テストが通り、動作すればOK」という実利重視のスタンスが増してきます。AI自身がある程度可読性に配慮したコードを生成しますし、人間の手が介在しづらい部分をAIが補うため、いちいち読み解く必要がなくなる可能性もあります。
AIオーケストレーターに求められるもの
多様なAIツールの知識・経験ChatGPT、Claude、Google Gemini、Deepseekなど、多種多様なAIを触った経験が必要です。それぞれの強みや最適なタスクを見極め、最短ルートで成果に結びつける判断が求められます。
スピードへの適応力AIが生成したコードや提案を即座に評価し、必要な変更を的確に指示する“素早い意思決定”が重要です。スピード感がないと、お客様の要望を満たすことができません。
LLMを触り倒す行動力AIの“頭脳”はほぼLLM(大規模言語モデル)によって支えられています。実際に触れてみないと、それぞれのLLMの回答傾向や処理速度、得意・不得意分野が掴めません。APIを通じて性能を把握するだけでも構いませんが、積極的にUIや実装例を試すと理解が深まります。
具体的なツール例と使い分け
各LLM、検索型AI
LLM - claude、Llama
検索型 - perplexity、genspark、Felo
上記の両方(LLM + 検索) - ChatGPT、google gemini、Grok、deepseek
開発、プログラミング
Cursor / GitHub Copilot
これらのツールはコーディングの大半をAIに任せることが可能で、人が行うのは指示や軽微な修正に留まります。ただし苦手とする領域もあるため、難易度の高いタスクや複雑な要件に対しては別のエージェントやLLMを利用するといった使い分けが必要です。
Devin
自立型エージェントとして、より複雑なタスクや細かい制御が求められる場面で活躍します。ただし利用コストも高めのため、使えるツールを組み合わせながら最適なコストパフォーマンスを追求するのが基本スタンスになるでしょう。
まとめ
これからの時代、エンジニアリングの本質は「自分で全部コードを書く」ことから「必要なAIを組み合わせて短期間で成果を出す」ことへシフトしつつあります。AIオーケストレーターは、その流れの中心に立つ存在です。
スピードが遅い人は、エンジニアとしての存在価値がほぼ無くなる
コーディング自体はAIツールが担い、人は指示と評価(場合によって手直し)に集中する
LLMなど多様なAIを積極的に試し、それぞれの強みを理解しておく
スピード感と柔軟な思考でAIを操る“新時代のエンジニア”こそが、これからの企業にとって不可欠な存在となるでしょう。
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