「じゃあ、あんたが作ってみろよ」に学ぶスクラムマスターとは?
ドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」に学ぶスクラムマスターとは?
概要
突然ですが、スクラムマスターの働きとは?と聞かれたら、皆さんは何をイメージしますか?
コーチングやティーチングで支援するみたいな漠然としたイメージだったり、スクラムのフレームワークを推進する人というイメージを持っていると思います。
TBSテレビ火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(以下、略称「あんたが」)は、とっても面白いドラマです。
この面白いドラマを、心理学の観点から読み解くことで、スクラムマスターとはこういうことをするんだよというのが説明できそうだなと思いました。
この記事では、「あんたが」のシーンから、スクラムマスターとして振る舞いを読み解き、スクラムマスターへの理解を促進できればなと思い、まとめます。
※あくまで個人の見解です。
Scrum Master Wayよりスクラムマスターとは
Scrum Master Wayより、スクラムマスターは4つのコア要素が求められます。
「メタスキル」・「学習」・「心理」・「リーダーシップ」をコア要素として提唱されています。

(Scrum Master Wayから引用)
スクラムチームのメンバーまたはチームが自己もしくは自チームを俯瞰し、インシデントを認知し、改善策を考え、策を実施し、ふりかえることを支援することが、スクラムマスターの責任なのではと考えています。
スクラムチームのメタ認知を高めることがスクラムマスターに求められる責務だと考えています。
スクラムマスターに求められる「メタ認知」
メタ認知の定義を高田理孝著ココロのメカニズムのP60より、引用します。
メタ認知の定義:
「メタ認知の主たる機能は、情報処理過程のモニタリングとコントロールである」
これをもう少し詳しく補足します。(Geminiの回答より引用)
メタ認知とは、自身の認知活動を客観的に把握し、思考や学習などの情報処理過程を**モニタリング(監視)し、必要に応じてコントロール(制御)**する能力のことです。この2つの要素は、自己の認知状態を把握し、課題解決や学習を効率的に進めるうえで欠かせません。
モニタリング(監視)
モニタリングは、自分の認知プロセスや進捗状況を客観的に観察・評価するプロセスです。この働きにより、自分の思考や行動が適切かどうか、課題がどの程度達成できているかを把握します。
コントロール(制御)
コントロールは、モニタリングによって得られた情報に基づいて、実際の思考や行動を調整・修正するプロセスです。これにより、目標達成に向けて適切な行動を選択し、認知資源を効率的に配分できます。
どこかスクラムのフレームワークに似ていると感じませんか?
ドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」の学びポイント
「あんたが」のドラマのシーンより、主人公の海老原勝男(以下、「勝男」)がメタ認知を向上させているシーンをピックアップし、周囲の人の働きについて着目します。
ここより先は、一部ネタバレになりますので、ドラマを楽しみにしている方は控えることをおすすめします。
アンコンシャスバイアスを解きほぐす
ドラマの概要
「あんたが」の主人公の勝男は、令和には珍しい昭和な、亭主関白感のある30前後の男性です。
特に、勝男は、「アンコンシャスバイアス」がとても強く、色々なシーンでバイアスを持って自身が感じたことを簡単に口にしてしまいます。
毎話、周囲の人との会話や経験を経て、勝男が持っているアンコンシャスバイアスを解きほぐしていきます。
この「アンコンシャスバイアスを解きほぐす」過程で、メタ認知を繰り返し、自己を俯瞰してみる能力を高めています。
(この自己を俯瞰してふりかえったシーンを勝男役の俳優の竹内涼真さんが絶妙な表情で表現してくれて、とても面白いです!)
メタ認知を高めながら、失恋で失った自己肯定感と自己効力感を取り戻し(高め)つつ、継続的なカイゼンを行っています。
この姿勢は、まさにアジャイルであり、スクラムでもあるなと感じています。
アンコンシャスバイアスとは?
アンコンシャスバイアス:
アンコンシャス・バイアスとは、「無意識の思い込み」のことです。性別や年齢、学歴などに対して、知らず知らずのうちに偏った見方をしてしまうことがあります。こうした思い込みが、採用や評価、人間関係に影響を与えることがあるため、まずは気づくことが大切です。
(アンコンシャス・バイアスを学ぼうより引用)
第一話の後輩白崎とのシーンから
後輩白崎のメタ認知を高めた「問い」
シーン
白崎と昼食を食べているところ、料理好きな白崎が作ってきたお弁当の肉じゃがに対して、勝男がめんつゆを使うことは手抜きなんじゃないかと言い放ちます。
勝男は、出汁をとらない=手抜きというアンコンシャスバイアスから、このような発言をします。
これに対し、白崎は、
「めんつゆの材料って知ってます?
そうやってバカにしてますけど、めんつゆが何でできているのかもわからないじゃないですか。」
勝男は、白崎の問に対して答えられませんでした。
席を離れてしまった白崎に対して、悩み、内省します。
そして、帰宅後めんつゆを実際に作ってみます。
そこで、肉じゃがに使われる調味料がめんつゆと全く同じだということに、気づきます。
次の日、この手作りのめんつゆを通じて、白崎と仲直りをします。
勝男自身のアンコンシャスバイアスを認め、話し合いをすることで、二人の関係性がこのシーンからぐっと向上します。
(白崎のお弁当が本当においしそう・・・)
スクラムマスターとして
このシーンから学ぶスクラムマスターの振る舞いは、「レンズ」と「変化を受容し認める」ことと言えます。
スクラムマスターは、チームメンバーに対して客観的、俯瞰的なレンズとして働きかけることができると思います。
問いを立て、気づきを与え、変化したことを素直に受け止め、認める一連のモニタリングを通じ、メンバーの心理的な変容のコントロールを手助けします。
これを繰り返すことで、メンバーのメタ認知が向上し、自己学習サイクルが噛み合い始めます。
(ドラマでも勝男はここからどんどん変化していきます!!)
第二話の後輩南川とのシーンから
後輩南川からチャレンジする姿勢を学ぶ
シーン
勝男が会社の上司と後輩とお酒を飲んでいるシーンを深堀りします。
後輩の南川がもつ焼きにはコークハイが美味しいという話をします。
ここで、勝男がもつ焼きにはビールという、しょっぱいものにはビールが合うというステレオタイプで価値観を押し付けてしまいます。
南川は、最後にこう吐き捨てます。
「別にわかってもらおうとは思わないんで」
この言葉を聞いた勝男は、我に返ります。
鮎美にも同じことを言われたこと、先日の白崎とのやりとりから自分の価値観を無意識に押し付けていることに気づき内省します。
後日、もつ焼きとコークハイの組み合わせをチャレンジし、自分のアンコンシャスバイアスを克服しようとします。
この姿を見ていた南川と和解し、一緒にコークハイともつ焼きを飲みます。
勝男は、コークハイを嗜む南川の価値観の良さを伝え、また自分の気持ちも素直に伝えます。
ここで、南川は勝男に対して良い問をします。
「まぁ、決めつけてばっかじゃ、新しい世界広がんないっすよ。
でも、元カノさんにも思い当たる節あるんじゃないんですか?」
この言葉に、鮎美との関係性を
南川ともこのシーンからぐっと関係性が改善し、白崎と南川で勝男の家に遊びに行くくらいの仲になります。
会社の食堂での、白崎と南川の会話から、南川のバイアスも解きほぐされ、(気になって観察するくらいに)認め始めています。
スクラムマスターとして
このシーンから学ぶスクラムマスターの振る舞いは、「観察」と「対話する」ことと言えます。
南川は、上記のシーンの後日、たまたま同じ居酒屋にいた勝男を発見し、影からもつ煮×コークハイに挑戦する姿を観察しています。
勝男のチャレンジしている姿を見て、その姿勢と気持ちを認め、対話します。
南川は、決めつけて話す勝男に対する苦手意識も、勝男の変化から次第になくなっていきます。
スクラムマスターも、スクラムマスターのメンバーの心理的・行動変容を促し、観察を通じてできたことを認めることが重要です。
チームが始まったばかりの状況では、何をどうしたらよいかわからないことが多いと思います。
そういった場面で、スクラムマスターがアジャイルマインドセットやScrum Master Wayをベースに観察します。
勝男のように自発的にできる場合は、観察に徹するのが良いし、そうでない場合はティーチングとして促しても良いのかなと思います。
そして、その促しにメンバーが応えたこと(心理の変化、行動の変容)を受け止め、認め、そのことについて対話しましょう。
スクラムマスターは、メンバーの変化を他者が肯定することで、メンバー自身の変わることができるという自己肯定感を高めることを手助けすることができます。
第三話の知り合いになった椿とのシーンから
椿との会話を通じた感情への共感
シーン
マッチングアプリで知り合った椿と、勝男の家でお家デートでご飯を食べるシーンがあります。
お家デートのために、勝男は前日からおでんを作って準備していました。
おでんを食べた椿は、素直な感想を勝男に伝えます。(少しデリカシーがないですが・・・)
椿「コンビニのおでんくらいには美味しい」
この一言で、勝男のプライド、気持ちに火が着きます。
と感情をぶつけ合う口論に発展します。
勝男「作った人の気持ちも想像しないで!」
この言葉を口にしたとき、ふと我に返ります。
今まで、勝男が鮎美にかけていた言葉と椿が勝男にかけている言葉は全く同じだと気づいたのです。
この気付きから、感情が一気に溢れ出してしまいます。
そこから、勝男と椿は同じ傷を負ったもの同士ということが分かり、飲み明かし語らうことになります。
そして、勝男にとって新しい「女友達」という関係性が始まります。
椿との朝食のシーンでは、今までの勝男にはなかった、新しい扉が開き、変わっていることを実感しています。
スクラムマスターとして
このシーンから学ぶスクラムマスターの振る舞いは、「メンタリング」と「マタリング※感覚を高める(存在を認める)」ことと言えます。
チームの中では、すべてがうまく行くわけではありません。時に、チームの外からの圧力で、思うように行かない場面もあります。
そのようなとき、スクラムマスターがメンバーのメンタリングを通じて、前を向けるように調整する必要があります。
第三者として、メンバーのベンチレーションしたり、その発露した気持ちを受け止めることで、存在を認められていると感じることができます。
また、スクラムマスターだけではなく、チームメンバー同士で支え会える状態を意図的に作り出すことも重要です。
そうすることで、チームへの愛着がより芽生え、チーム全体のマタリングの感覚が高まります。
メンバーが「ここにいていいんだ」と「他のメンバーのために貢献したい」という気持ちを高めます。
この気持ちが、「なぜ、私はこのチームのためにリスクを取るのか?」という問いに対する、動機を形成します。
自然と、対人リスクを取れる心理的安全性が働く、素敵なチームができることになるでしょう!
ドラマのシーンをふりかえると、お互いがベンチレーションしたことで、マタリングの感覚が高まりました。
椿にとって、飲み明かせるくらいに、勝男と過ごす勝男の家が安全な場となっています。
椿は、他者のために貢献したいという気持ちが芽生え、勝男のために朝食を作ったと考えることができます。
心理的安全性が勝男と椿の間で、形成されたことをわかりやすく描いているシーンと捉えられます。
スクラムマスターは、メンタリングを通じたマタリングの感覚を高めることで、チームの心理的安全性の場を形成することを手助けします。
※マタリングとは?
マタリング(Mattering):
「自分は価値があると認められ、チームや組織に価値を与えるユニークで重要な存在である」
(Mattering 私には価値がある より引用)
詳しくは、ハーバード・ビジネス・レビュー10月号を参照ください。
ハーバード・ビジネス・レビュー10月号
勝男を取り巻く周りの人の勝男への態度の変化
今までの勝男のふるまいから、周囲が持っていたアンコンシャスバイアスも、勝男の変化に合わせて解かれていきます。
勝男と周囲の間で、相互作用が発生し複数人での、気づきの質や受容の拡大が見られます。
勝男と周囲の人をチームと捉えると、一人の変化がチームへ良い影響を与えていると言えます。
連鎖反応が起き、個人の成長が、チーム全体に広がる可能性があることを示唆しています。
勝男の心理的変化
勝男は、勝男自身の変化、そしてその変化を認知し、認め良いFBをくれる周囲の人たちにより、マタリングが向上しています。
周囲の人(白崎、南川、椿)は、勝男の心理的な変容を認め、存在そのものを認め対話を通じて、関係性を向上させています。
この存在を承認されることは、マタリングの感覚を高め、マズローの5つの要求段階の内、「社会的欲求」と「存在欲求」を満たします。

(マズローの欲求階層説より引用)
満たされたことで、勝男の第一話のセリフ、
「鮎美ごめん、俺変わりたい」
という自己実現に向けた、自己カイゼンサイクルがより促進されていきます。
まとめ
スクラムマスターとは、スクラムチームのアウトカムのために、ここまでまとめた内容をスクラムのフレームワークを活用しながら意図的に実践することではないでしょうか。
スクラムマスターは、様々なスキルセットが求められる反面、非常に理解するのが難しい立ち位置にいると思っています。
この記事を通じて、読まれた方のスクラムマスターとは何かという解像度がほんの少しでも向上したらいいなと思っています。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
補足
マタリング(Mattering)感覚
Geminiの回答より引用:
マタリング(Mattering)感覚とは、「自分が他者や社会にとって重要であり、価値があり、必要な存在である」と感じられる感覚のことです。
日本語では「重要感」「存在意義感覚」などと訳されることもあります。これは、単に「好かれている」とか「注目されている」という感覚(所属感や自尊心)とは少し異なり、「自分が存在すること自体が、周囲に対して意味のある影響を与えている」という実感を含んでいます。
マタリング感覚の主な構成要素
マタリング感覚は、一般的に以下の要素で構成されているとされています。
注意 (Attention): 他者が自分の存在に気づき、関心を払ってくれていると感じること。無視されていない、認識されているという感覚です。
重要性 (Importance): 他者が自分のことを気にかけており、自分の意見や幸福が彼らにとって重要であると感じること。
依存 (Dependence / Reliance): 他者が自分を頼りにしており、自分の行動や存在が他者の助けや支えになっていると感じること。「自分がいなければ困る」という感覚も含みます。
認識 (Appreciation): 他者が自分の価値や貢献を認識し、評価してくれていると感じること。
マタリング感覚の重要性
この感覚は、人間の精神的な健康(メンタルヘルス)や幸福感(ウェルビーイング)にとって非常に重要です。
精神的健康: マタリング感覚が低いと、孤独感、抑うつ、不安、さらには希死念慮(生きていても意味がないと感じる)のリスクが高まることが研究で示されています。
幸福感: 自分が他者やコミュニティにとって価値ある存在だと感じることは、人生の満足度や生きがい(パーパス)に直結します。
社会的行動: マタリング感覚が高い人は、他者を助ける行動(向社会的行動)や、コミュニティへの貢献(市民活動など)により積極的になる傾向があります。
マタリングは、特に学校や職場、家庭、地域コミュニティなど、人が集団の中で生きていく上で、自分が「ここにいて良いんだ」「自分は必要なんだ」と感じるための基盤となる感覚と言えます。
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