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理想のブースを設計してみた - JaSST'25 Tokyo 編 -

に公開

はじめに

こんにちは。株式会社ビットキー Software QCチーム所属の田上です。
先日、2025年3月27日・28日に開催されたソフトウェアテストのイベント「JaSST'25 Tokyo」に参加しました。
ビットキーはプラチナスポンサーとして協賛し、スポンサー用のブースを出展しました。
今回、私はこちらのブース設計を担当しました。
ブース設計は私にとって初めての挑戦であり、未知の領域です。
ゼロからのスタートでしたが、ブースについての考察を重ねながら設計を進めました。
この試みを通じて、思い描いた理想のブースを実現できたと思います。
そこで本記事では、今回取り組んだブース設計の裏側について、考察を交えながらご紹介します。

対象読者

  • イベントにブースを出展する予定があり、設計のアイディアが欲しい方
  • ブース設計への考察を深めたい方

この記事で得られるもの

  • ブース設計のアイディアを得ることができる
  • ブース設計への考察を深めることができる

良いブースとは?

ブース設計に取り組むにあたり、まずは「良いブースとは何か」を考える必要がありました。
実際に体験していないものは適切にアウトプットできないからです。
そこで複数の技術系のイベントを訪れ、各社のブースを実際に体験して周りました。
観察した結果、魅力を感じるブースには以下の共通点がありました。

  • 目に止まりやすく、興味が引かれる
  • 間口が広く、立ち寄りやすい
  • 記憶に残る体験ができる
  • 参加者やブース担当者にかかる負荷が少ない
  • 目的が明確であり、意図が伝わりやすい
  • 対話を通して共感を得られる
  • 企業や人に好感を持てる

良いブースの特徴

これらの特徴を「構成」「コンテンツ」「オペレーション」「担当者」に分類し、深掘りしてみました。

1. 構成について

👀 視線の動きを意識した配置になっている

ブースに興味を持ってもらうためには、参加者の視線を引き付けることが重要です。
様々な角度からブースを観察したところ、目を引くブースには以下の特徴がありました。

🌟 特徴
・ 通路側から見たとき、視認しやすい角度で展示物が配置されている
・ 遠くから見ても、企画の内容を視認できる
・ ブースの配色が他のブースと差別化できている
ブースから距離を置いてみるイメージ

📏 会場や通路の大きさが考慮されている

通路が狭いと混雑し、1人に対して確保できる時間が少なくなります。
会場や通路の大きさを事前に把握し、混雑状況を踏まえた設計をしたいです。

🌟 通路が狭い場合
案内を体系化し一定の流れを作ると、効率よく体験できます。
効率よく体験できるブースのイメージ

🌟 通路が広い場合
専門性の高い情報やストーリーを提示すると、深い対話ができます。
深い対話ができるブースのイメージ

🦒 展示物に幅と高さがある

バックパネルやモニターなど、展示物の幅を広くし高さを出すと視認性が高まります。
視認性を高めると、ブースに注目が集まりやすくなります。
展示物の視認性が高いブースのイメージ

2. コンテンツについて

🎳 コンテンツの間口が広い

専門的なコンテンツと汎用的なコンテンツを用意すると、さまざまな属性の方が楽しめます。

🌟 コンテンツの例

専門的なコンテンツ 汎用的なコンテンツ
- パネルに意見を書いた付箋を貼る
- 業務の「あるある」を共有し合う
- モニターに映像を流す
- プロダクトを触れるようにする
- ノベルティを配布する
- チラシを配布する
[効果]
- 共感を得られる
- 新しい発見を共有できる
[効果]
- 視覚や触覚で楽しめる
- 間口が広がる

🧗🏻 五感に訴えるものがある

五感を刺激すると、印象に残り記憶へ定着しやすくなります。
感覚ごとに対応した手段を考えてみました。

視覚 聴覚 味覚 触覚 嗅覚
- 映像を流す
- ノベルティを雑多に配置する
- 装飾物を配置する
- 照明を使って光を当てる
- 声かけをする
- 動作音がするコンテンツを配置する
- 飲食物を配布する - プロダクトを触れるようにする - 香りに関連するノベルティを配布する

🤔 良い違和感がある

違和感は人の注意を引き付けます。展示物の配置を工夫すると良い違和感を演出できます。
違和感を演出しているブースのイメージノベルティの置き方で違和感を演出できます

3. オペレーションについて

💡 認知負荷を低減する工夫がある

限られた時間で滞りなく案内できるように、説明や理解にかかる負荷を低減したいです。
コンテンツの説明を視覚的に伝える工夫が有効だと思いました。

🌟 工夫の例
・ 企画の説明をパネルで提示する
・ 視覚的要素を強調したコンテンツを展示する
認知負荷の差を示したイメージ

🎯 ブースの目的が明確になっている

コンテンツの配置によってブースの目的を明確にすると、参加者は事前に体験の予測ができ、ブースに立ち寄りやすくなります。
コンテンツの目的を明確にしたイメージ

🏃 人の流れが考慮されている

通路の進行方向に沿って意図する順番にコンテンツを配置すると、案内がスムーズになります。
人の流れが考慮されたブースのイメージ

4. 担当者について

🧑‍🎓 役割の異なるブース担当者が配置されている

役割や得意分野が異なる担当者を配置すると、さまざまな会話に対応できます。
会話の内容に合わせて、担当者をスイッチし対応すると効果的だと思いました。
役割や得意分野が異なる担当者のイメージ

📖 ストーリーを交えて話す

製品やサービス、専門的な情報などの事実だけではなく、個人や会社のストーリーを共有すると、企業や従業員に対して親近感が湧きます。
話す内容のイメージ

💁 ブース担当者が自然体に構えている

ブース担当者が自然体に構えているブースは立ち寄りやすいと感じました。
対話よりサービスの宣伝が先行すると、取引を持ちかけられていると感じ、身構えてしまう恐れがあります。

ブースの方針を考えた

ブース設計を始めるにあたり、理想のブースを実現するための方針を考えました。
大まかな方向性を設定する目的です。
ブースへの考察をもとにして、考えを洗い出しました。
運営メンバーへ提案したところ、以下の方針が採用されました。

🎮 bitboxを解錠できたら景品をプレゼントするクイズ企画をしたい
🎨 ブースのテーマカラーを黒にしたい
👀 参加者の属性を限定しないコンテンツを用意したい
🧑‍🎓 得意分野が異なる担当者を配置したい
💡 説明コストを減らす工夫をしたい
🧗🏻 五感に訴えるようにしたい
🔦 バックパネルを光らせたい
🤔 どこかで違和感を作りたい
🏃 人や視線の流れを意識したレイアウトにしたい

提案に使用したイメージ画像

提案をする際は、イメージを画像にして共有するようにしました。
意図を直観的に伝えることができ、関係者とのやり取りが円滑になったと思います。
提案に使ったイメージ画像1集めたくなるノベルティのイメージ
提案に使ったイメージ画像2ノベルティの使用例や作成イメージ
提案に使ったイメージ画像3ブースのイメージ
※記事用に画像の一部を編集しています

ブース設計の結果

設計の結果、以下のブースが完成しました。
完成したブース

ブースのテーマ

ソフトウェアとハードウェアを横断して検証を行うという、Software QAチームの特徴を強調したテーマにしました。
さらに「テスト設計」という言葉を加え、イベントや参加者との共通点を意識できるようにしています。
今回のテーマ

ブースコンテンツの詳細

3つのコンテンツを用意しました。
「クイズ企画」「ノベルティ」「プロダクト展示」です。

クイズ企画

bitbox Challenge(ビットボックス チャレンジ)というクイズ企画を考えました。
ビットキーの製品であるbitbox(宅配ボックス)を使った企画です。
bitbox Challenge

企画内容

私たちが出題するテスト設計クイズに挑戦し、bitboxを解錠できた方に景品をプレゼントするゲームです。
bitboxの中に景品が入っています。
テスト設計クイズの回答が、bitboxを解錠するためのパスコードになります。
bitbox

タイトル

語感の良さを重視し、思わず声に出したくなるタイトルにしました。
また、サブタイトルに企画の概要を含め、内容を推測できるようにしています。

景品

クイズ企画の景品としてビットキーオリジナルポーチを用意しました。
ビットキーがノベルティとして提供している、サコッシュや巾着とデザインを合わせています。
既存のノベルティと統一感を持たせ「集めたくなるノベルティ」になるよう意識しました。
「ガジェットやケーブル類を収納し、作業のお供に持ち歩いてほしい」という思いを込めています。
ビットキーオリジナルポーチ

テスト設計クイズの冊子

テスト設計クイズの冊子を作成しました。
冊子にはテスト設計に関する問題の他に、遊び方やbitboxの解錠方法を掲載しています。
これにより、冊子を読みながら参加者自身で遊び方を理解し、手順を進められるようにしました。
テスト設計クイズの冊子
テスト設計クイズの冊子/表紙と裏表紙
テスト設計クイズの冊子/1,2ページ
テスト設計クイズの冊子/3,4ページ
テスト設計クイズの冊子/5,6ページ

テスト設計クイズの解説冊子

テスト設計クイズの解説冊子を作成しました。
これにより、回答の解説をする際にかかる負荷を低減できたと思います。
テスト設計クイズの解説冊子

問題と解説

問題と解説の作成を、弊社のテスト設計に詳しいメンバーである@鳥渕_ビットキーに依頼しました。
企画の概要を共有したところ、境界値分析やデシジョンテーブルなどのテスト技法を使った、今回のイベントに最適な問題を作成してくださいました。

ノベルティ

ブースに立ち寄ってくださった方にお配りするノベルティとして「石鹸」と「シール」を用意しました。

石鹸

不具合を洗い出せるよう、日々の暮らしに溶け込む石鹸を選びました。
テーマにある「ビットキーとあなたをつなげます」を実現するため、外箱の側面にあるQRコードから、カジュアル面談のエントリーページにアクセスできるようにしています。
石鹸不具合を洗い出す

シール

ビットキーのシールです。社内にある既存のものを使用しました。
シール主にイベントで配布されます

プロダクト展示

私たちが日々検証しているプロダクトの展示です。
スマートフォンアプリでのカギの開け閉めや、顔認証でエリアに入室する機能の実演をしました。
bitlock MINIやbitlock PROとアプリが相互に連動する様子を通して、ソフトウェアとハードウェアの領域を横断する技術の面白さを体験できる展示を目指しました。
プロダクト展示

空間づくりの工夫

理想のブースを実現するため、次の工夫を加えました。

バックパネルを光らせた

LEDテープライトをバックパネルの外周に貼ってライトアップしました。
照明によって参加者の目を引き、立ち寄りたくなるブースを演出できたと思います。
バックパネルを光らせた様子

違和感を作った

ノベルティの置き方を工夫して、わずかな違和感を作りました。
違和感によって参加者の目を引き、記憶に残す目的です。

ノベルティ 置き方
石鹸 積み上げて陳列した
シール 雑多に広げた

わずかな違和感を作った様子

動線を意識した配置にした

通路の進行方向に合わせて、意図する順番にコンテンツを並べました。
今回の会場では、参加者が左から右に進行すると想定しています。
動線を意識した配置のイメージ

ブース紹介記事の投稿

イベントの開催に合わせ、ブースの出展をお知らせする記事を投稿しました。
さらに、記事へアクセスできるQRコードを用意し、会場のサイネージに掲載しました。

✍️ ブースの紹介記事はこちら

https://zenn.dev/bitkey_dev/articles/50594fad250b10

ホワイエデジタル展示の動画

今回のイベントではプラチナスポンサーのメニューとして、会場に各社のPR動画を投影する仕組みがありました。
ビットキーのPR動画は、弊社でプロダクトのデザイン領域を担当されているDesignチームさんに作成していただきました。
ビットキーのPR動画動画の1コマです。会場では映像として投影されました

イベント当日を迎えて

オペレーションは概ね想定通りに進み、大きな問題もなく遂行できたと思います。
クイズ企画は「テスト設計クイズが勉強になる」「コンテンツが面白い」などのありがたいお声をいただけました。
企画を通して参加者とクイズを解く楽しさや、bitboxを解錠する喜びを共有できました。

会場の様子

会場の様子

ブースの様子

ブースの様子

振り返ってみて

今回の取り組みを振り返ってみました。

改善できること

1. クイズ企画の難易度が高かった

想定よりも回答に時間がかかる傾向がありました。
問題の難易度が高いことが理由だと思います。
また、テスト技法に馴染みのない方は、回答する手段がなく心理的な負荷が高いです。

🌟 工数を抑えるには
メンバーから以下の改善案をいただけました。
・ 設問の一部を記入状態にし、穴埋め形式にする

🌟 難易度のバランスをとるには
メンバーから以下の改善案をいただけました。
・ 事前に難易度が分かるようにする

🌟 回答する手段を増やすには
以下を行うと手段が増えると思いました。
・ 「答えを聞いて再挑戦する」の選択肢を冊子に含める
・ 生成AIやインターネット検索の使用を許可する

2. セッションが始まるとブースに立ち寄る人が減った

今回のイベントでは、参加者の多くがセッションを中心に行動する傾向がありました。
そのため、セッション中はブースに立ち寄る方が少なくなり、企画の進行が滞りました。
イベントの特性や参加者のペルソナを事前に分析すると、状況に応じた対応が取りやすくなると思いました。

思ったこと

1. 参加者にとってのメリット

ブース設計を始めた当初は、私たちが伝えたいことを中心に設計案を考えていました。
しかし設計の過程で、参加者に楽しんでもらうことが最も大切だと感じるようになりました。
良いブースを実現するために「私たちが伝えたいこと」だけではなく「参加者にとってのメリット」を考慮した設計を心がけたいと思いました。

2. 没入感を高める工夫

企画に挑戦する負荷よりも、楽しさが上回り、夢中になれる状態を作りたいです。
そこで物事に没入し、夢中になる心理状態を示す「フロー」という概念に着目しました。
フロー理論の考えを取り入れると、より没入感の高い企画を設計できると思いました。

🌟 フロー理論とは
心理学者ミハイ・チクセントミハイによって提唱された概念です。
人が活動に没頭し、集中している状態をフローといいます。
フローに入ると自己意識が薄れ、活動が楽しくなり、満足感を得やすくなります。
フローを構成する要素はいくつかあり、課題の内容に関与する条件は以下の3つです。

  1. 目標が明確
  2. 課題の難易度とスキルのバランスが取れている
  3. フィードバックがある

🌟 今回の企画に取り入れると
フロー理論の考えを取り入れた例を考えてみました。

条件
目標が明確 - 企画達成時の報酬をあらかじめ提示する
(景品や、テスト設計の学びになるなどの情報)
- クイズ冊子に進捗を掲載し、手順の現在位置を分かりやすくする
課題の難易度とスキルのバランスが取れている - クイズの難易度が分かるようにする
- クイズの難易度を選択式にする
フィードバックがある - 参加者へポジティブな声かけをする
- SNSで企画の状況を共有する

3. ブースを出展する目的

ブースを出展する主な目的には、情報交換や認知拡大、顧客の獲得、採用の促進などがあると思います。
このような実利的な目的は確かに重要です。
しかし、ブース出展には思い出作りという側面もあると思いました。
人の状況や立場は常に変化し続けますが、ブースでの体験は記憶として残るからです。
楽しかった記憶は、参加者にとって最大の価値になります。
そのためにも、来てよかったと思ってもらえるブースを設計したいと思いました。

最後に

この取り組みを通じて、ブース設計という貴重な経験ができました。
観察によって共通点を見出し、体系化していくプロセスは、他の場面でも活かせると思います。
この記事がブース設計に携わる方の参考になれば幸いです。
記事を読んでくださりありがとうございました。

Bitkey Developers

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