フロントエンドエンジニアが Rust で LeetCode を1ヶ月がんばってみた
2021年は Rust 頑張りたいという気持ちで LeetCode に課金して January LeetCoding Challenge 2021 をコンプリートしたので今のところの所感をまとめてみる( 成果物のまとめ )
タイミング逃して 3回ほど Time Travel チケットを使ったものの 36問は一通り完了。まったくわからなくてネットで解説探したのが 2つほど、解き方は思いついたものの詰めきれずに仕上げ部分だけネットで調べたのが 3〜4つくらい、という戦績
自分のスキル的にはガチのフロントエンドで JavaScript & TypeScript を主戦場に Kotlin, Java, Swift は業務で使えるレベル。 Ruby は必要に迫られて雰囲気で使っています
よかったこと
Rust が手に馴染んできた感じはある
最初のうちはそれこそ 1行ごとにドキュメントを検索して、、、みたいな感じだったのだけれど、 Iterator
や for
文の使い方とか、 String
, Char
, &str
の使い分けみたいなのとかはざっくり把握できていて、 vec.iter().map().collect()
みたいなのとかも意識しなくても大体書ける様になったし、ポインタ周りも(効率よい書き方ができている自信はないけれど)使うだけならまぁ問題なし、という感じ
所有権のある世界での map
の操作のお作法( map.entry(v).and_modify(|c| *c += 1).or_insert(1);
とか)みたいなのは、やっぱり繰り返し触って手に馴染ませないと、ドキュメントだけで使いこなせるようにはならないですね
これまで C
とか C#
とかほとんど使ってこなかった上に Rust はさらに文法的なクセが強い言語なので、急にコード読めとか言われるとうーん、、、という感じで読める気がしなかったけれど、今ならコードみたらフワッと内容が頭に入ってきそうなくらいの自信はつきました
ドキュメント周りの雰囲気が掴めた
「すべてがオブジェクトです」で済ませられる ECMAScript の世界と違い、 Rust は標準ライブラリで提供されているモジュールや構造体がしっかり細分化されていてそれぞれで使えるメソッドも分かれている。新しい構造体とかを使う時は調べながら戦うわけですが、なんとなくどこをみるとどんなことが書かれているかわかる様になってきた
Rust は公式のドキュメントが充実していて、さらに似た様なことを繰り返しやらされると同じドキュメントを何度も読む羽目になるので、大体の文章構造やらどこに何が書いてあるとかは把握できた感じ
特に良いな、と思ったのがドキュメントにソースへのリンクがあること。 Nightly の機能とかでも実装みるとなんとなくモジュールや構造体が提供している機能的なのが掴めるのがよかったです
コンピュータサイエンスへのコンプレックスが少し解消された
ぼくはコーダーとかマークアップエンジニアと呼ばれていた方面からキャリアを積んでいて、いわゆる CS の教育を受けたことがなくてそれがコンプレックスだったのだけれど、 Rust で LeetCode というのはかなり自分ができていないと思っていたことにチャレンジしている雰囲気があってやりがいあり
スポイラー見てしまった問題でも少なくとも解決の方向性的には間違っていなかったケースがほとんどだったので、ロジカルに考えればちゃんと正しい答えにたどり着けるんだなぁ、という謎の自信はつきました
普段は触らない量の入力値を処理させられるので、試行錯誤しながら計算量とかの肌感も得られたかな。 Rust だから参照なのか実体なのかとかも意識して実装できるのでこの辺りはメリットですね
とりあえず BTreeMap
とか BinaryHeap
とかフロントエンド開発だけしていると中々使うことのないデータ構造を触ってみるのは純粋に知的好奇心的に楽しいです(とはいえ、急に「ヒント:ダイクストラ法」とか言われても実装に 3時間くらいかかってしまうのでその辺りは辛い)
つらいこと
テストデータを作るのが辛い
Rust には型と所有権というきびしめの制約があるので、引数が node:Some<Rc<RefCell<TreeNode>>>
みたいなのになりがち。コードは主に Rust Playground で書いているのだけれど、そうするとテストケースによっては以下みたいな検証データを書かないといけない。流石に辛い
let input = Some(Rc::new(RefCell::new({TreeNode {
val: 3,
left: Some(Rc::new(RefCell::new({TreeNode {
val: 2,
left: Some(Rc::new(RefCell::new({TreeNode {
val: 1,
left: None,
right: None,
}}))),
right: None,
}}))),
right: Some(Rc::new(RefCell::new({TreeNode {
val: 4,
left: None,
right: None,
}}))),
}})));
assert_eq!(
Some(Rc::new(RefCell::new({TreeNode {
val: 7,
left: Some(Rc::new(RefCell::new({TreeNode {
val: 9,
left: Some(Rc::new(RefCell::new({TreeNode {
val: 10,
left: None,
right: None,
}}))),
right: None,
}}))),
right: Some(Rc::new(RefCell::new({TreeNode {
val: 4,
left: None,
right: None,
}}))),
}}))),
leet_challenge(input)
);
usize と i32 の変換が辛い
i32
はいわゆる Int
型、 usize
はポインター用の整数型
LeetCode では配列の操作が頻発するわけですが、その場合に使うのは主に usize
型
そして、引数や返り値として利用するのは主に i32
型
さらにいうと usize
はマイナスの値にならないので、メトリクスで経路探索するときとかに引き算したりするとポインターエラーが頻発する
まぁ、 as usize
とか as i32
って書けばいいだけなのだけれどめんどい
// NG
let next_pointer: usize = pointer - 1; // current が usize で 0 だと実行時エラー
if next_pointer < 0 { return result } // そもそも意味がない
if vec[next_pointer] != true {
result += 1;
pointer = next_pointer; // 型が一致しないのでコンパイルエラー
}
// OK
let next_pointer: i32 = (pointer as i32) - 1;
if next_pointer < 0 { return result }
if vec[next_pointer as usize] != true {
result += 1;
pointer = next_pointer as usize;
}
// also OK
let check: i32 = (pointer as i32) - 1
if check < 0 { return result }
let next_pointer: i32 = check as usize;
if vec[next_pointer] != true {
result += 1;
pointer = next_pointer;
}
break とか使えないので関数型あんまり使えない
これは Rust に限らないかもしれないけれど、パフォーマンスを考えて配列を走査して条件を満たしたらその時点で答えを返す、みたいなやつをやろうとすると関数型はあんまり使えない
まぁ、用途が違うといえばそうなのだけれど、もっと綺麗に書けないかなぁみたいな気持ちにはなる
// NG
vec.into_iter().for_each(|v| {
if v == x { return true } // for_each のクロージャ関数の return になってしまう
});
return false
// OK
for v in vec.into_iter() {
if v == x { return true }
}
return false
mutable 使いまくる
上の関数型と同じで、なるべくミュータブルにしようとすると効率が悪かったりするし、所有権の問題があるのでそもそもそのままだと実装できなかったりする
LeetCode の趣旨的にまぁ仕方ないところはあるのだけれど、もし実務で使う、となったらミュータブルにしていくと思うのでその辺りに手を慣らせられないのがちょっと残念。所有権がなければあまり気にしないのだけれど、所有権を意識しつつのミュータブルなコーディングはちょっとまだ想像つかない
逆にちゃんとメモリ空間意識して組むのはそれはそれで楽しいので切り替えてはいます(実務でどれほど使うか、、、みたいなのはありつつ)
trait 使えない
なぜか標準ライブラリしか使えない。 Python は使えるみたいなのに、、、(ひどぃ)
上のミュータブルにできないにも関わっていて、自分で実装するのはしんどいけどこの trait 使えるならここはミュータブルにするのになぁ、、、という時に諦めることが結構あった
今は慣れちゃったけど、 LeetCode のフォーラムでもリクエストあるから対応して欲しい気持ちはある
Rust がない問題がある
いざ解こうとした時に違和感を感じてよく見ると C#
ってなってることがたまにある。新しい問題で Rust の実装が間に合っていないとか?
でもそういう時は TypeScript で書くので全能感が得られて悪くはない
unwrap の誘惑に負けてしまう
if !vec.is_empty() {
let next = vec.iter().next().unwrap(); // vec は空じゃないので問題ない
}
よくないのはわかっているんだけれど、直前に値のチェックしていたり、入力値に条件がきちんと決まっているので、あまり考えずに unwrap()
つかっちゃう。まじでこれはよくないのだけれど、 Optional
のチェックとかし始めると場合によっては簡単にコード量が 1.5〜2倍くらいになっちゃうので・・・(この例は if let
使えば問題ない)
所有権はまだまだわからないけれどわかりそうな雰囲気はある
正直 Rc はまだわかんないです
// NG
if let Some(next_node) = node.borrow().next {
if next_node.val == 1 {
node.next = None;
}
}
// OK
let val = if let Some(next_node) = node.borrow().next { next_node.val } else { 0 }
if val == 1 {
node.next = None;
}
なんとか答えにたどり着けたら、他の人の解放をみて「ふむふむ、なるほどー」ってのもできるんだけれど、「ロジック完成 → コンパイルエラーの解消 → ロジックがそもそも間違っていた → 最初に戻る」みたいなのを何度か繰り返すと流石に諦めて Time Travel チケット使おうかな、、、という気になる
ただ、まぁこれは手数なのでもうしばらくやればもう少し理解できそうかも。もう一度チュートリアルやるのもアリかもしれない
新しい言語を学ぶためのプラットフォームとしての LeetCode
アルゴリズムとか設計は別に言語変わってもたいして違わないし、コンセプチュアルなので解説読めばだいたい掴めるのですよね
でも、言語仕様やら標準ライブラリの使い方とかって最終的には考えずに手が動くみないなところまで到達しないと仕事だと使いものにならなくて、そうすると沢山手を動かすのが大事で、業務でできればいいですけどそれが難しい時に LeetCode 使って手に馴染ませる、というのは結構悪くないんじゃないかなって思いました
最後に
Rust はやっぱり良い言語だし、楽しいのでこれからも頑張っていきたい。もう少し手慣れてきたら、ずっとやりたかった Real World HTTP を Rust で頑張るをやりたいです
Discussion
はじめまして、記事楽しく読ませていただきました。
「つらかったこと」に関してはいくつか自分なりのコメントがあるのでさせていただきます。(本当にマウント取りたいとかじゃなくて、できるだけRustに好印象を持ってほしいなっていう気持ちからです。お気を悪くしないでください)
テストデータを作るのが辛い
これは、RcとRefCellを組み合わせて使うのであれば、
Rc::new(RefCell::new(hoge))
とかは関数化してしまったり、テストデータも構造的に作れば解決しそうだなと思いました。break とか使えないので関数型あんまり使えない
RustのIterator型にはいろいろな関連関数(メソッド)が用意されています。(ピンとくるかわからないですがC#のLINQみたいに)
Rustではiteratorの処理を行うときはfor_eachやforを使わずにそこらへんを利用してすることが多いです。(それによりバグが発生しにくくなると私は思っています)
今回の例ですと
という風に書くことが出来ます。
どのようなものが実装されているかは以下を読むとわかると思います。
追伸: Rustのすごいところはこの手のIteratorの処理をゼロコストで抽象化しているところだったりします。(端的に言うとforで書くのに比べても遅くなりにくい(ならない)です)
unwrap の誘惑に負けてしまう
これに関しては、原理主義的にはどうかはわかりませんが、個人的にはunwrapは多用して問題ないものだと思っています。unwrapは実際は利用しては行けないものではなくて、論理的にNoneが入らない場合には利用しても良いものだと思っていただいて問題ないかなと思います。
また、個人的な感想ですがunwrap時にエラーを補足できるのでいわゆるヌルポに比べるとunwrapでabortした場合はエラーを補足しやすいと思います。
以上になります。
PS
Rustは最初はとっつきづらいですが、使っていくとだんだん他の言語が物足りなくなるぐらいには強力な開発能力(適当な造語です)を持ってる言語だと思っています。
また、wasm対応もRustチームが力を入れている関係もあってフロントエンドとの親和性も高くなっています。
beijaflorさんのRustライフを陰ながら応援しています!
@yuta hinokuma
コメントありがとうございます!
これは本当にその通りで、 LeetCode 用のユーティリティ作りたいな、という気持ちはあります。いずれ!
ですよね。そっちの書き方の方が自分も好みだし、そもそも LeetCode では「誰よりも早くなりたい!」というモチベーションじゃないので、もうちょっと
Iterator
とかを活用したコードにチャレンジしてみようと思いますこういうのワクワクしますね。 Rust 触りたくなる所です
使っている方からこういうの言っていただけるのとても参考になります
tutorial だと「 unwrap() は危険だからちゃんと assertion しようね」って書かれていたり、 TypeScript 的にはちゃんと assertion しないと怖くてしょうがなかったりするのでどうしてももやもやするんですが、 Rust の低レイヤな部分をもっと活かせるようなコーディングに慣れていけたらいいなぁ、と思っています
本当にそうですね。 Rust 言語仕様がどれもワクワクするので触っていて楽しいです
フロントエンドだとなかなか活用するシーンが少ない( wasm もユースケース限られ気味な)のですが、使いこなして使い所でちゃんと活用できるように、と精進しまていきます