🐼

WebGPU×LLM:ブラウザ実行を“実用”にする5つの準備 (ONNX Runtime Web/Transformers.js)

に公開

はじめに——「すごいけど、本番には怖い」を越える

ブラウザでテキスト生成や要約がサクッと動く時代になりました。とくにWebGPUの普及と、ONNX Runtime WebTransformers.jsの整備で「インストールなし・ゼロサーバ」での実行が、ようやく現場で使える手触りに近づいています。(onnxruntime.ai)
一方で、APIと違って“資材管理・権限・回帰”がすべてフロントに来るため、準備を飛ばすと途端に不安定になります。本稿は、実運用で破綻しないための準備だけを、短くまとめます。


1. いま、何が“使える状態”なのかを把握する

  • WebGPUは主要ブラウザで実装が進み、ブラウザ内のGPU演算が現実解に。セキュリティ修正も継続投入されており、最新版を前提にすることが実運用の最低条件です。(Chrome Releases)
  • WebNN APIは2025年9月にCandidate Recommendation Draftを継続更新中。将来的にOS/NPUのML機能を抽象化して使える見込みですが、まだ本番推奨ではない旨の注意もあります。(W3C)
    → 当面はWebGPU+既存のランタイム(ONNX Runtime Web/Transformers.js/WebLLM など)が実用ライン。(onnxruntime.ai)

2. モデルと資材の“重さ”を先に見積もる

ブラウザ推論の最大の敵はダウンロード時間です。

  • WASM本体はデフォルトで数十MB規模になりがち。ビルド最適化で8MB前後まで縮小できた事例も報告されています(設定次第)。(GitHub)
  • モデル重み量子化分割配信で初回体験を守る。CDNキャッシュとレジューム対応は必須。
  • I/Oバインディング(GPU上にテンソルを保持)やグラフキャプチャ等の最適化を使うと、再実行のオーバーヘッドが抑えられます。(onnxruntime.ai)

3. ランタイムは“二刀流”で:ONNX Runtime WebとTransformers.js

  • ONNX Runtime Web(WebGPU EP):ONNXモデル資産がそのまま活きる。IO Bindingや実行プロバイダの細かい制御が可能で、既存の推論パイプラインを移植しやすい。(onnxruntime.ai)
  • Transformers.js:Hugging Face由来の同等API感で学習コストが低い。テキストだけでなく音声・画像系のタスクにも広く対応し、“まず動かす”までが速い。(GitHub)
  • WebLLM:ブラウザ特化の高性能エンジン。ストリーミング、JSONモード、(将来)関数呼び出しなどAPI互換の開発体験を狙った選択肢。(GitHub)
    現場では一つに固定せず、用途ごとに使い分けたほうがトラブルシュートが早いです。

4. 権限と回帰を“回答時”まで通す

ブラウザLLMは入力も出力も手元で完結します。だからこそ、

  • 権限取得時(検索・ファイル読込)だけでなく、回答組立時にも再確認する設計に。参照できても出力して良いかを別判定にする運用が安全です。(Security Week)
  • 変更の影響を追うため、小さな評価セット(3〜5問)を常備し、根拠付き正答率体感レイテンシだけでも毎リリースで回す。公開されているSupport/Fluency/Nugget系の評価軸を薄く転用するとラクです。(AICompetence.org)

5. “まず触れる”ための最小構成(GitHub/デモ)

以下は実装の入口として確度が高いリポジトリ/記事です。クイックスタート→最適化→評価、の順で触るのが近道。

  • ONNX Runtime Web × WebGPU(公式チュートリアル/最適化の考え方)(onnxruntime.ai)
  • Transformers.js(ブラウザでの多タスク実行/実例ブログあり)(GitHub)
  • WebLLM(高性能ブラウザLLMエンジン。API互換の開発体験)(GitHub)
  • WebGPU×LLM デモ(ゼロインストール):サンプルから始めるのに最適。(GitHub)

注:公開は常に最新ブラウザで。Chrome 141系の安定化情報やWebGPU関連の脆弱性修正は、告知後ただちにテスト→反映を。(Chrome Releases)


まとめ——“速さ”より“整った準備”が効く

  • **最新版の前提条件(WebGPU/ブラウザ)**を満たす
  • 資材の重さを最初に削る(WASM最適化/量子化/CDN)
  • ランタイム二刀流で現実解を選ぶ
  • 権限と回帰を“回答時”まで通す
    この4点を押さえるだけで、ブラウザLLMは実用品に変わります。

実装リンク(本文冒頭に明記推奨)

  • GitHub: ONNX Runtime Web(WebGPU EP)チュートリアル/サンプル (onnxruntime.ai)
  • GitHub: Transformers.js(ブラウザ向け) (GitHub)
  • GitHub: WebLLM(ブラウザLLMエンジン) (GitHub)
  • デモ: WebGPU + LLM(ゼロインストール) (GitHub)

参考(一次情報)

  • WebGPU対応と最適化の解説、実装ガイド(ONNX Runtime Web/記事) (onnxruntime.ai)
  • WebNNの最新ステータス(W3C CRD/履歴、概説) (W3C)
  • ブラウザ側の安定化・セキュリティ修正(Chrome 141/WebGPU関連CVE) (Chrome Releases)
  • WASMサイズ最適化の実例(ディスカッション) (GitHub)

Discussion