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NHKのIBMに対する訴訟の情報を眺めてみる
なぜ作成したのか
- 業務委託契約における訴訟の動向が気になるから情報収集する
参考
システム開発中止に伴う訴訟の提起について - NHK (20250211追加)
概要
- NHKは4日、受信料契約などを管理する「営業基幹システム」の新開発のための納期が大幅に遅れることになったとして、業務委託契約先の日本IBMに対し、支払った約30億円の返還と損害賠償を求める訴訟を3日付で東京地裁に起こしたと発表した。
- 請求額は約54億7000万円。
経緯
- 2022年12月
- 競争入札で落札したIBM社と納期2027年3月、約80億円で業務委託契約を締結。
- 2024年3月
- IBM社がからNHKに大幅な開発見直しが必要であると通告。
- 2024年5月
- IBM社がからNHKに納期が1年6カ月以上延びると申し入れ。
- 2024年8月
- NHKはIBMとの契約を解除、代金の返還を要求。
- IBMは変換に応じず。
NHKの基幹情報システム
- 株式会社NHKテクノロジーズが運用管理している
- 以下のような基幹システム群の総体を指すものと思われる
- NHK番組の提案から制作、送出までを支援する「放送システム」
- 受信契約や受信料収納などの営業活動を支援する「営業システム」
- NHK職員の出退勤や会計処理等の業務を支援する「事務システム」
- 視聴者からの問い合わせなどに迅速に対応するための「視聴者対応システム」
- 現時点では、自社データセンター「ITセンター」で稼働している模様
- 「経営計画2024-2026」
- 基本方針:「これまでの実績と全国に広がるネットワークを生かし
すべての放送サービスを効率的に支えます」- 施策:「基幹システム刷新の確実な対応とトータルマネジメントへのシフト」
- 基本方針:「これまでの実績と全国に広がるネットワークを生かし
- 「2021~2023年度経営計画」に基幹システムの言及はない
原因となった案件
- 時期的にこの案件と予想。要求事項の「現行営業基幹システムの更改方法として、クラウド環境利用を前提としたリライト方式によるマイグレーションを想定する。」も、時事ドットコムの「新システムで導入予定だったインターネットを介してデータを管理するクラウド方式を断念」にも合致する
- 政府公共調達データベース
- 「営業基幹システムレガシーマイグレーションの手法および一般的な工数」
https://www.jetro.go.jp/gov_procurement/national/articles/227059/2022020900340001.html
- 「営業基幹システムレガシーマイグレーションの手法および一般的な工数」
NHK2025年度予算案(1/8)
- 更改されている予算案情報に本件に関係する情報は見られない
- NHKは8日、2025年度予算案と事業計画を発表した。
- 事業収入は前年度比13億円増の6034億円、
- 事業支出は同156億円減の6434億円。
- 事業収支差金は400億円のマイナスになった。
- 3年連続の赤字予算となり、赤字分は還元目的積立金で補う。
- 事業支出のうち、インターネットでの番組配信など、ネットサービス関連の費用として180億2000万円を計上した。
- このほか一時的な準備経費として、誰でも使いやすいアプリの開発などで29億5000万円を計上し、合計209億7000万円とした。
業務委託契約
一般的な「業務委託契約における委託元からの解約・代金返還要求」に関するポイントと判例を考える。
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契約内容と解約条項の確認
業務委託契約では、解約可能な条件や通知期間が明確に定められているかが重要。
特に「契約解除条項」が明示されているかどうかが、解約の有効性を左右する。 -
委託元の中途解約と報酬支払いに関する法律
民法第641条(請負契約の解約)では、委託元(注文者)は「完成前の段階であっても一方的に契約解除可能」とされる。
ただし、合理的理由がなければ委託先が請求する費用(損害賠償、実費、労務費など)が発生する。 - 代金返還要求の正当性
- 業務が未完の場合でも、進捗状況や発生したコストに応じた支払い義務があるかどうかが焦点となる。
- 判例上、進行した業務に対して支払われた報酬は「返還不要」とされるケースが多く、特に作業進捗が重要な判断基準になる。
過去判例との比較
契約解除の正当性と過去の判例比較
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判例1: 大成建設事件(東京地裁昭和54年)
- 発注者が中途で工事を解約したが、「中断時点までの作業進捗分は支払義務あり」と認定された。
- この判例では、完成していない部分に対する報酬返還請求が認められないケースが強調された。
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判例2: ITプロジェクト中断における返金事例(平成29年東京地裁)
- システム開発契約が委託元の事業リスクに影響した場合、進行割合にかかわらず部分返金が認められた。
本件では、契約解除理由が「大幅な遅延見込み」とされているため、IBMの履行不能(契約違反)が認定されるかが大きな争点になりそう。
契約形態と支払済み代金の扱い
- 請負契約の場合、完成品の納入が条件で未完部分の返金が妥当とされる場合がある。
- 準委任契約では、作業に対する費用は原則返金不要となることが多いが、NHKが契約解除の正当な理由として「事業継続への支障」を主張している点で契約の実質的な内容が評価される可能性あり。
今後の裁判における焦点
- プロジェクト進捗の確認:IBMが1年2カ月でどれだけ進行したかの具体的な証明。
- 遅延の責任の所在:遅延がIBMの責任によるものか、NHKの要因が含まれているかが争点になる
所感
- 「大幅な遅延見込み」の原因となったのが、クラウド方式の断念にあるのだろうか。
- NHKでは外国籍の職員による不祥事などもあったことを考えると、地政学リスクの見直しとしてクラウドサービスの安全性が見直されたりしたのであれば、その際の要因はNHK側の方針変更となると思うが、関係はあるだろうか。
- 単なるマネジメント面の問題だとしても、業務委託契約で全責任がベンダーにある、とするには相当な論拠、証跡が必要になると思うがどのような乖離があるのか気になる。
続報を待ちたい。- IBMからの見解が公表された。地政学リスクとか関係なく、レガシーシステムの分析の結果、カオス状態だから方針から見直ししましょ、と打診したけど納得してもらえなかったというもの。状況が手に取るようにわかるのが苦しい。
- 多分アジャイルで小出しにリリースしていくようなものでもなかったなのだろうと想像する。SI企業にいたころのの胃痛を思い出してつらい。
Discussion