Spring AIでLangChainのクックブックにあるRAGをなぞる
概要
LangCainのクックブックにRAGがあるので、その内容をSpring AIでなぞってみました。
前提
- 各バージョン
- Java 21
- Spring Boot 3.2.3
- Spring AI 0.8.0
- LangChain 0.1.11(ソースコードを参考にしました)
- 会話と埋め込みにはOpenAIを使用する
- モデルはSpring AIのデフォルト設定で、次のものを使用
- LangChainも同様
-
VectorStore
の実装はSimpleVectorStore
を使用する
検索から生成の流れ
LangChainではLCELというDSLを使って処理の流れを次のように書けます。
chain = (
{"context": retriever, "question": RunnablePassthrough()}
| prompt
| model
| StrOutputParser()
)
当初、処理の流れはわかるけれどパイプ演算が何をやっているのかがわからずモヤモヤしてたので、まずはそこを理解することにしました。
Pythonは__or__
メソッドと__ror__
メソッドを定義することでパイプ演算の動作を定義できます(__ror__
メソッドは右辺がレシーバーになります)。
LCELはRunnable
というクラスが処理の単位になりますが、このRunnable
クラスに__or__
メソッドと__ror__
メソッドが定義されているため、パイプ演算で処理の流れを構築できます。
つまり、前述のLCELで書かれたコードは次のコードと等価です。
chain = (
prompt
.__ror__({"context": retriever, "question": RunnablePassthrough()})
.__or__(model)
.__or__(StrOutputParser())
)
なお、__or__
メソッドと__ror__
メソッドはRunnable
以外にも引数で受け取れる型があり、内部で適用されているcoerce_to_runnable関数によって次のように変換されます。
引数の型 | 変換後の型 |
---|---|
ジェネレーター関数 | RunnableGenerator |
関数(呼び出し可能オブジェクト) | RunnableLambda |
辞書 | RunnableParallel |
そのため__ror__
メソッドに渡されている{"context": retriever, "question": RunnablePassthrough()}
は内部でRunnableParallel
へ変換されます。
ここまで理解してようやくスッキリしました。
Javaは独自にパイプ演算を定義することは不可能なので、愚直にコードを書いていきます。
ベクトルストアの構築
LangChainのクックブックではFaissというMeta社製のベクトル検索が行えるライブラリーを使用してベクトルストアを構築しています。
OpenAIを使用して"harrison worked at kensho"
という内容のドキュメントをベクトル化してストアへ持たせています。
vectorstore = FAISS.from_texts(
["harrison worked at kensho"], embedding=OpenAIEmbeddings()
)
これとほぼ同様のことをSpring AIで行うのが次のコードです。
@Bean
SimpleVectorStore simpleVectorStore(EmbeddingClient embeddingClient) {
SimpleVectorStore vectorStore = new SimpleVectorStore(embeddingClient);
vectorStore.add(List.of(new Document("harrison worked at kensho")));
return vectorStore;
}
SimpleVectorStore
は外部ライブラリーを用いずスクラッチで書かれたシンプルなベクトルストアです[1]。
SimpleVectorStore
を構築するにはEmbeddingClient
が必要ですが、依存関係にspring-ai-openai-spring-boot-starter
を追加しているのでOpenAiEmbeddingClient
がインジェクションされます。
検索
検索はVectorStore
のsimilaritySearch
メソッドで行います。
List<Document> docs = vectorStore.similaritySearch(question);
Iterator<Document> iter = docs.iterator();
if (!iter.hasNext()) {
// 検索に何もヒットしなかった
return "I do not know.";
}
similaritySearch
メソッドはデフォルトだと類似度の閾値は設定されず、上位4件までドキュメントを返します。
この辺りのパラメーターはSearchRequest
クラスで細かく設定できます。
なお、docs
をIterator
にしているのは、あとで1件目の結果が欲しいからです[2]。
生成
検索結果をコンテキストとし、質問と合わせてプロンプトを構築してChatClient
のcall
メソッドへ渡しています。
call
メソッドからは生成されたテキストが返されます。
String context = iter.next().getContent();
String prompt = """
Answer the question based only on the following context:
%2$s
Question: %1$s
""".formatted(question, context);
String answer = chatClient.call(prompt);
検索のときと同様に生成も細かくパラメーター設定が可能です。
生成の場合はPrompt
クラスが持つChatOptions
で設定を行います[3]。
なお、ChatClient
の実装クラスはOpenAiChatClient
です。
まとめ
以上でLangChainのクックブックにあるRAGをSpring AIでなぞれました。
最もシンプルな例ではありますが、Spring AIを使うことで簡単にRAGができることがわかりました。
Spring AIの今後の機能拡充も楽しみです。
ソースコード
Spring Web MVCでHTTPエンドポイントを作成し、curl
で動作確認できるようにしたものです。
-
とりあえず動かしたいときにこういう前準備なくすぐに使える部品があると嬉しくて、さすがSpringだなと思いました。 ↩︎
-
1件目を取得するために
docs.get(0)
するのではなくIterator
を使用するのは私の好みです。 ↩︎ -
OpenAI用の
ChatOptions
実装クラスはOpenAiChatOptions
です。 ↩︎
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