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量子コンピュータが来てもBitLockerは破られない?暗号と量子の関係を調べてみた

に公開

こんなポストを見かけました。

ポストの内容が読めるけどわからずモヤモヤしたので、量子コンピュータと暗号の関係について調べてみました。
記事に技術的な誤りや不正確な記述がありましたら、コメント等でご指摘いただけると幸いです🙇


🧩 BitLocker(To Go)ってなに?

BitLockerは、Windowsに標準でついてるドライブ暗号化機能です。
たとえばノートPCを落としたり、USBメモリを無くしたときに、中身を見られないように守ってくれるやつですね。

「BitLocker To Go」は、そのUSBメモリ版
パスワードを入力しないと中身を読めないようにする仕組みです。

このBitLockerの中身では、AES(Advanced Encryption Standard) という暗号アルゴリズムが使われています。

🔐 AES(共通鍵暗号)とは?

AESは、今のところ世界で最も広く使われている暗号の一つ。
Wi-Fi、LINE、VPN、BitLockerなど、いろんなところで使われています。

特徴は「共通鍵暗号」という方式であること。
つまり、暗号化も復号も同じ鍵(パスワードのようなもの) で行います。

暗号化する人 ⇄ 復号する人 が同じ鍵を共有している

鍵の長さは128bit / 192bit / 256bitの3種類。
長ければ長いほど、総当たりで解くのが難しくなります。
BitLockerのデフォルトはAES-128ですが、セキュリティを強めたい人はAES-256を使うことも。

余談ですが、個人的に共通鍵の理解に役立ったおすすめ動画がこちらです。(ありがとうございました!)

https://www.youtube.com/watch?v=pGN_-DOgN24&list=LL

⚙️ Shorのアルゴリズムとは?

ここからいよいよ「量子コンピュータ登場」の話。
よくニュースで言われる「量子コンピュータが暗号を壊す!」というのは、このShor(ショア)のアルゴリズムのことを指します。

Shorのアルゴリズムは、素因数分解をめちゃくちゃ速くするアルゴリズム。
たとえば、RSA暗号は「大きな数を因数分解するのが難しい」ことを前提にしていますが、
量子コンピュータだとそれを現実的な時間でできてしまう可能性があります。

つまり、RSAや楕円曲線暗号(ECC)は量子コンピュータに弱いということ。

ただし!
BitLockerのようなAES暗号は「共通鍵方式」なので、Shorでは壊せません。
Shorはあくまで「公開鍵暗号」に対しての脅威です。

⚡ Groverのアルゴリズムとは?

じゃあAESは無敵?というと、そうでもなくて。
AESにはGrover(グローバー)のアルゴリズムという別の量子アルゴリズムが関係します。

Groverは、総当たり(全探索)を√N倍速くするという仕組み。
つまり、通常の計算では2^128回試さなきゃいけないところを、量子なら2^(128/2) = 2^64回で済むようになります。

それでも…
2^64って1.8×10^19回(=1兆の1億倍)くらいです。
現実的に計算できる量ではないので、まだまだAES-128でも十分強力。
AES-256ならさらに安心です。

🧱 RSAが危ない理由(もう少しだけ)

RSAは「大きな数を素因数分解するのが難しい」という前提に立っています。
でもShorのアルゴリズムが来ると、指数関数的な難しさが多項式時間に短縮されてしまいます。
(難易度が"絶望的に簡単になる"感じ)

たとえば2048ビットのRSA鍵を解くのは今のコンピュータでは現実的に不可能ですが、
理論上は量子コンピュータがあれば現実的な時間で解ける可能性があります。

🧬 量子コンピュータって結局なに?

量子コンピュータは、「0か1か」ではなく 「0と1が同時に存在する状態(量子重ね合わせ)」 を使って計算します。
その基本単位が「量子ビット(qubit)」。

これにより、多くの状態を並列的に一気に計算できるのが特徴です。
ただし、なんでもかんでも速いスーパーマシンではなく
「特定の問題構造に強い」という感じです。
だから、量子アルゴリズム(ShorやGrover)みたいな"専用の攻略法"が必要になります。

🛡️ 量子耐性暗号(Post-Quantum Cryptography)とは?

じゃあRSAやECCの代わりはどうするの?というと、
すでに量子コンピュータでも解けない新しい暗号の研究が進んでいます。

それが「量子耐性暗号(Post-Quantum Cryptography, PQC)」。

米国のNIST(標準技術研究所)が中心になって標準化を進めていて、
2022年には次のような方式が選ばれています:

  • 🔑 CRYSTALS-Kyber(鍵カプセル化・暗号化用)
  • ✍️ CRYSTALS-Dilithium(電子署名用)
  • 💎 Falcon、SPHINCS+ なども候補に

ブラウザや通信プロトコルでも、少しずつPQC対応が始まっています。

🔒 結局BitLockerは大丈夫なの?

現時点では、BitLockerは量子時代でも現実的には安全と考えられています。

  • Shor → AESには効かない(公開鍵暗号向け)
  • Grover → √N倍速いけど、AES-256なら問題なし
  • AES-128でも現実的に破られるには程遠い

つまり、「量子コンピュータが出た瞬間にBitLockerが解かれる」という心配は不要です。
ただし、公開鍵暗号(RSAやECC)を使う部分は順次置き換えが必要なので、
その点は各サービスや通信プロトコル側で進化中です。

💭 じゃあ今すぐAES-256に変えた方がいい?

今はAES-128で十分です。
ただし、機密性が特に高いデータや、長期間(10年以上)保管するデータについては、
AES-256にしておくと将来的な安心感があります。

量子コンピュータの実用化は「あと10〜20年」とも言われていますが、
その頃にはさらに新しい暗号技術が標準になっている可能性も高いです。

🧭 まとめ:今回学んだこと

  • 量子コンピュータは「なんでも速い」わけではなく、特定の計算に強い
  • Shorのアルゴリズム → RSA・ECCが危ない
  • Groverのアルゴリズム → AESも√N倍速いけどまだ安全
  • BitLocker(AES)は当面安全
  • 「量子耐性暗号(PQC)」はすでに標準化が進行中!

🔗 参考リンク


🗝️ 冒頭のポスト初見では「?????🤯」だったんですが、調べてみたらだいぶスッキリしました!

量子コンピュータって「とにかく速くてパワフルな魔法のマシン」じゃなくて、
「特定の問題に強い専用マシン」なんですね。
だからAES(BitLocker)は大丈夫だけど、RSAは危ないと。

まだまだ勉強中ですが、少しずつセキュリティの世界が見えてきた気がします🔐

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