RoomCare AI: 住まいの「散らかり」とメンタルを同時にケアする【第二回AIハッカソン】
この記事は第2回 AI Agent Hackathon with Google Cloud提出用の記事です。
AIエージェントによる次世代ライフサポート構想
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1. なぜ“部屋が散らかる”のか──社会的背景
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時間的貧困
日本の就労世帯は長時間労働と家事負担の両立に苦しみ、主観的な「時間の不足感=Time Poverty」が慢性化していることが最近の尺度開発研究でも示されました。 -
過剰消費・サブスク時代の物量爆発
ECや定額サービスの普及で“モノの入口”は拡大した一方、“出口”となる手放し方・整理のスキルが追いつかず、居住空間が圧迫されがちです。 -
メンタルヘルス危機と可視化されにくいストレス
家の中の物量が多いほどストレスホルモンであるコルチゾール値が上昇し、特に女性で顕著という心理学研究が繰り返し報告されています。 -
高齢化・単身世帯の増加
片付けが困難なまま孤立し、事故や健康被害につながるケース(ごみ屋敷・孤独死)が自治体の課題になっています。
2. 解決したい社会課題
課題 | 具体的な困りごと |
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メンタルヘルス低下 | 視覚的ノイズが不安・うつ・睡眠障害を悪化させる |
生産性損失 | 物探しや判断疲れで作業効率が落ちる |
転倒・火災・衛生リスク | 高齢者や子育て家庭で事故につながる |
社会的孤立 | “散らかっているから人を呼べない”→孤独感の深刻化 |
3. ソリューション概要──
「RoomCare AI」:散らかりスコア×心のケアを同時提供するホームエージェント
機能ブロック | 仕組み | 得られる価値 |
---|---|---|
お部屋常設デバイス | • 天井や棚に設置する専用カメラが定時/オンデマンドで部屋全景を撮影 • SoC 内で 1. 通常セグメンテーション(床・家具・衣類・廃棄物など) 2. Gemma 3.0 マルチモーダル LLM が画像+メタ情報を統合し、 • Clutter Score(散らかり度) • Risk Score(転倒・火災・衛生リスク) • Mood Cue(照明・色味・ポスターなどから感情手がかり)をオンデバイス生成 |
• エッジAIにより画像をクラウド送信しない プライバシー保護 |
RoomCare: AI(LINE & WEBアプリ) |
デイリーフィードバック(毎朝7時) • 前日比グラフ • 「30 秒でできる整理タスク」 メンタルケアチャットモード • スコア低下3日連続で自動移行 • 「最近お仕事お忙しいですか?」など寄り添い質問→Gemma 3.0 が意図解釈し一緒に原因整理 • 合意した解決策を To-Do 固定、自己申告スケールで経過を記録 |
• 使い慣れた LINE UI だけで完結 • 「指示」ではなく 伴走型対話 で心理的安全性↑ |
キー Takeaways
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客観データ(部屋写真) と 主観ケア(伴走対話) を一つのループに統合し、
散らかり↔ストレスの悪循環を遮断。 - 画像推論はすべてエッジ完結。クラウドには統計量のみ送信するため
プライバシー・遅延・学習効率を同時にクリア。 - フロントエンドは LINE だけ。高齢者や IT リテラシーが低い層でも
追加アプリ不要 で導入できる。
4. システム構成
本システムは、「RoomEdge: AI」と「RoomCare: AI」に大きく分かれます。
アーキテクチャ図
RoomEdge: AI
RoomEdge: AI は、天井に取り付けた小型カメラで 定期的にお部屋の写真を撮影し、その画像をデバイス内の Gemma3:12B で即座に解析します。処理は SoC 上で完結し、画像データはインターネットへは一切送信されません。画像データは推論が終わると RoomEdge: AIからただちに消去され、端末内に残るのは暗号化された数値メタ情報のみ。「もし故障や盗難があっても生活の様子が外部に流出するのでは」という心配は無用です。
「常時録画されているようで落ち着かない」「子どもの姿や夫婦の会話まで見られたら困る」という声もありますが、RoomEdge: AI のカメラは静止画しか撮らず、人物そのものを識別するモデルも組み込んでいません。こうした仕組みのおかげで、部屋の状態を把握したいけれどプライバシーは絶対に守りたい——そんな相反する要望を、RoomEdge: AI は両立させています。
上記の要件を満たすためには、小型のガシェット上で、画像分析とマルチモーダル推論が必要となります。
今回のプロジェクトを支えているのは Gemma3:12B という軽量・高性能モデルです。パラメータ数はわずか 12 B に抑えながら、多くの一般的な LLM(70 B クラス)の応答品質に迫る実力を持ち、計算資源の乏しいSoCで動作します。
今回の実証では、手のひらサイズの Orange Pi 5(RAM 16 GB)を使用しましたが、フル推論が可能になり、エッジ側で画像解析からコメント生成までを完結できました。Gemma3:12B の “軽さと賢さ” がなければ、「完全ローカル・プライバシーファースト」の RoomEdge AI は実現し得なかったと言えます。
↓今回使用した Orange Pi 5(RAM 16 GB)
(OrangePi5 16GのSBCでもマルチモーダルLLMで十分強力な推論ができるのは正直驚きでした)
↓カメラを設置した様子
RoomCare: AI
部屋をスキャンし終えると、すぐに LINE に通知が届きます。
「どこから片付ければいいかわからない…」と感じた瞬間に、そのトーク画面で AI にひと言たずねるだけ。今の散らかり具合に合わせて “まずは床の隅に積んだ雑誌を3冊だけ処分しましょう” といった具体的で小さなステップを提案してくれるので、迷わず行動に移せます。LINE ひとつで悩みが解け、片付けが進む――そんな体験を届けます。
さらに、部屋のスコアは専用の Web アプリでいつでもチェック可能。
スマホや PC を開けば、クラスター・リスク・ムードの各スコアが色分けグラフで一目瞭然。「今日は散らかり度が 10 ポイント改善」「週末になるとリスクが上がりがち」など、変化を客観的に把握できるので、片付けのタイミングを迷わず決められます。
今後の展望
1. 画像認識精度のさらなる向上
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セマンティックセグメンテーションの前段適用
現状はワンショット画像を直接 Gemma 3-12B に渡していますが、先に軽量な SegFormer や DeepLabV3-Mobile で 床・家具・衣類・廃棄物 を領域分割し、
① カテゴリ別ピクセル比 → 定量メタ情報
② マスク済み画像 → 雑音除去された入力
を生成してから Gemma に投入する二段推論へ発展させます。これにより- 少量の散乱物を過大評価しない “甘辛バランス” の最適化
- 危険物(割れ物・可燃物)の局所検出による riskScore 精緻化
が見込めます。
2. EdgeAI ハードウェアの製品化
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専用キャリアボード+NPU SoC への移行
実証では Orange Pi 5 を用いましたが、量産フェーズではカスタムボードを設計し、筐体も生活空間になじむ薄型天井ユニットへ刷新します。 -
ハード+ファーム一体のアップデート基盤
バージョン管理付き OTA、TPM セキュアブート、リカバリパーティションを実装し、一般ユーザーでも安全にファーム更新できる仕組みを整備。 -
AI コプロセッサによる電力最適化
本実証ではスタンバイモードなどを検討して田舎たため、待機時 0.5 W 以下を目標にし、24 時間常時稼働でも電気代月 30 円程度に抑えます。
次のステップは「高精度&省電力」な完全エッジソリューションへ。
セグメンテーション導入による解析精度アップと、量産志向ハードウェアの確立で、家中どこでも安心して使える “片付けパートナー” を実現します。
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