自由度についてのメモ
自由度は“理論的な概念”であって、実データを動かすという意味ではない
自由度は、**「もしデータの生成を何度も繰り返すとしたら、統計量をどのくらい独立に変化させられるか」**という理論上の性質を表している。
つまり、「自由に動ける」とは、“想定されるサンプリングの世界”での話。
実際のデータは1回きりのサンプルで固定されていますが、推定の信頼性を評価するときには、そのサンプルが母集団からどんな確率的過程で生まれたかを考える。
自由度は、その確率過程の中での“有効な情報量”を定量化しているのです。
「制約がある」というのは、確率変数の関係式の話
平均や分散、回帰係数などの推定量は、データから算出される確率変数。
たとえば標本分散 s^2 = \frac{1}{n-1}\sum_i (x_i - \bar{x})^2 を考えると、実際のデータ x_i は固定されているが、理論的にはそれぞれが確率変数。
このとき、偏差 (x_i - \bar{x}) の和は常に0になるという数学的制約がある。
そのため、n個の確率変数 (x_i - \bar{x}) のうち、独立なのはn−1個しかない、というのが「自由度がn−1」という意味。
つまり、「制約がある」というのはデータそのものではなく、“確率的構造”の制約を指している。
自由度とは、推定量の分布を特徴づける“次元の数”
自由度は、統計量の確率分布(t分布、χ²分布など)の形を決めるパラメータとして現れる。
たとえば、標本分散の分布は
\frac{(n-1)s^2}{\sigma^2} \sim \chi^2_{n-1}という形になる。
ここでの n-1 は、分散を構成する独立な確率成分の数、すなわち自由度。
自由度が大きいほど確率分布は安定し、標本推定が母集団に近づく。
逆に、自由度が小さいと分布のばらつきが大きくなり、推定が不安定になる。
現実のデータに対してどう解釈すればよいか
現実の分析でデータは確かに「固定」されているが、そのデータが母集団からランダムに得られた一つの実現値であるという考え方が、統計的推定の出発点。
したがって、自由度とは「もし同じ母集団からデータを取り直したら、独立にどのくらい情報が得られるか」を意味しており、
固定されたデータに“後づけで制約を課す”という話ではない。
あくまで「確率的な構造上、独立に動かせる要素はn−1個しかない」という理論的な性質。
まとめ
- 自由度とは、固定されたデータの話ではなく、確率変数としての構造上の独立性の数。
- 「制約」とは、平均や回帰などの推定過程で生じる数理的な制約(例:偏差の和が0)。
- 実際のデータは固定されていても、統計的推定は「そのデータが生まれる確率的世界」を前提にしており、自由度はその世界の次元数を表す。
要するに、「自由度」とは「データそのものの自由さ」ではなく、**“データ生成の仕組みの中で、独立に情報を提供できる要素の数”**を意味する概念。
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