開発環境: Visual Studio Build Toolsのインストール手順ガイド
はじめに
Visual Studio Build Tools
を使用して、C++/C#/F#の開発環境を構築する方法を解説します。
対象読者
Windows でプログラミングをしている ITエンジニアを対象としています。
重要なキーワード
この記事であつかう重要なキーワードと注釈を掲載します:
- Visual Studio Build Tools: プログラムのコンパイルをコマンドラインから行なうツールセット
- Visual Studio Installer:
Build Tools
を構成する各種コンポーネントのインストール/アンインストールを行なうツール。 - 構成ファイル:
Visual Studio Installer
が使用するインストールするコンポーネント一覧のファイル - JSON形式: データの記述に使われる軽量なデータ形式、設定ファイルなどの記述にも使われる
- コンポーネント:
Visual Studio Build Tools
の各機能を構成する部品の単位。 - Roslyn コンパイラ: Microsoft がオープンソースで提供している C#コンパイラ
- Developer PowerShell: 起動時に各言語のコンパイルに必要な環境変数を設定した`PowerShell
- "Hello, World": プログラミング言語において、最初に書かれる簡単なプログラム。開発環境やプログラミング学習の際の基準としてよく使用される
1. Visual Studio Build Toolsとは
Visual Studio Build Tools
は、コマンドラインでプログラムのコンパイルやビルドを行なうためのツールです。
通常のVisual Studio
では、GUI上から簡単にコンパイルやビルドができますが、Build Tools
ではコマンドラインからの操作が必要となります。
Build Tools
の各コマンドは、コマンドラインから実行します。このため、自動化スクリプトやビルドツールで使用できます。
なお、Build Tools
を利用するには、マイクロソフトのライセンスに同意する必要がありますので、注意してください。
注意:
- マイクロソフト ソフトウェア ライセンス条項 に同意する必要がある
2. Build Toolsのインストール手順
Build Tools
はVisual Studio Installer
からインストールします。
インストールするコンポーネントは、通常インストーラーの GUI で選択します。
また、xx.config
という構成ファイルを使ってもインストールできます。
2.1. 構成ファイルを使用したBuild Toolsのインストール
Visual Studio Installer
に--config
オプションを指定すると、指定した構成ファイルに基づいてBuild Tools
をインストールします。
このオプションを使用すると、一度作成したBuild Tools
の構成を詳細かつ正確に再現できます。
i 下の例では、構成ファイルminimum.vsconfig
を使ってBuild Tools
をインストールします。
vs_BuildTools.exe --config minimum.vsconfig
注意事項:
- 構成ファイル
minimum.config
については、2.2を参照のこと。
2.2. 使用する構成ファイル
構成ファイルは、インストールするコンポーネントの一覧を記載したJSON
形式のファイルです。
Visual Stuido Installer
の GUI ではC++デスクトップ
などのパッケージや個別のコンポーネントを選択します。
このときに選択した各コンポーネントが、Vsconfig ファイルに記載されます。
たとえば、Microsoft.VisualStudio.Component.Roslyn.Compiler
は Roslyn というコンパイラで、C#プログラムのコンパイルに使います。
今回使用する構成ファイルは、以下の通りです。
{
"version": "1.0",
"components": [
"Microsoft.VisualStudio.Component.Roslyn.Compiler",
"Microsoft.Component.MSBuild",
"Microsoft.VisualStudio.Component.CoreBuildTools",
"Microsoft.VisualStudio.Workload.MSBuildTools",
"Microsoft.VisualStudio.Component.VC.CoreBuildTools",
"Microsoft.VisualStudio.Component.VC.Tools.x86.x64",
"Microsoft.VisualStudio.Component.VC.Redist.14.Latest",
"Microsoft.VisualStudio.Component.TextTemplating",
"Microsoft.VisualStudio.Component.VC.CoreIde",
"Microsoft.VisualStudio.ComponentGroup.NativeDesktop.Core",
"Microsoft.VisualStudio.Workload.VCTools",
"Microsoft.VisualStudio.Component.Windows11SDK.22621",
"Microsoft.VisualStudio.Component.FSharp.MSBuild",
"Microsoft.VisualStudio.Component.Roslyn.LanguageServices"
]
}
下記に、インストールする主要なコンポーネントとその説明を載せておきます:
コンポーネント | 概要 | 備考 |
---|---|---|
Microsoft.VisualStudio.Component.Roslyn.Compiler |
Roslyn コンパイラ | C#コンパイラ |
Microsoft.Component.MSBuild |
MS 製ビルドツール | 必須 (今回は使用しない) |
Microsoft.VisualStudio.Component.VC.CoreBuildTools |
VC Core Build Tools |
C++コンパイラコア |
Microsoft.VisualStudio.Component.VC.Tools.x86.x64 |
Visual C++ Tools |
Windows用C++コンパイラ |
Microsoft.VisualStudio.Component.Windows11SDK.22621 |
WIndows 11 SDK |
C/C++用標準ライブラリを含む |
Microsoft.VisualStudio.Component.FSharp.MSBuild |
F# MS Build |
F# コンパイラ |
2.3. 構成ファイルの作成
以下の手順で、構成ファイルを作成します。
-
VIsual Studio Installer
のを起動:
スタートメニューでVisual Studio Installer
を選び、インストーラーを起動します -
構成ファイルのエクスポート:
[その他]
-[構成ファイルのエクスポート]
を選び、構成ファイルを出力します
Build Tools
のインストール
2.4. 構成ファイルによるVIsual Studio Build Tools
は、インストーラーに--config <vsconfigファイル>
オプションをつけることで、構成ファイルに指定したコンポーネントをインストールします。
また、winget を使ってBuild Tools
をインストールできます。
以下の手順で、winget を使ってBuild Tools
をインストールします。
-
以下のコマンドを実行:
コマンドラインでwinget
を実行します。このとき--override
オプションでVisual Studio Installer
に--config
オプションを指定します。winget install Microsoft.VisualStudio.2022.BuildTools --override "--passive --config minimum.vsconfig"
-
インストール画面の表示:
正常に実行されれば、下記のインストール画面が表示されます
以上で、Build Tools
のインストールは終了です。
3. 開発環境の構築
3.1. パスの設定
環境変数Path
に以下のパスを追加します。PC を再起動すると、各言語のコンパイラが使えるようになります。
パス | 対象言語 |
---|---|
C:\Program Files (x86)\Microsoft Visual Studio\2022\BuildTools\VC\Tools\MSVC\14.36.32532\bin\HostX64\x64 |
C/C++ コンパイラ (Windows x64)
|
C:\Program Files (x86)\Microsoft Visual Studio\2022\BuildTools\MSBuild\Current\bin\Roslyn |
C#コンパイラ |
C:\Program Files (x86)\Microsoft Visual Studio\2022\BuildTools\Common7\IDE\CommonExtensions\Microsoft\FSharp\Tools |
F# コンパイラ |
3.2. 開発環境コンソールの設定
Build Tools
のインストールに成功すると、Windows Terminal
に`Developer PowerShell for ...'という項目が追加されます。
この項目の PowerShell は、旧来のWindows PowerShell
を使用していて使い勝手がよくありません。
代わりに、自分用にカスタマイズ済みのPowerShell Core
を使って起動するように、設定を書き換えます。
次の手順で、Windows Terminal
を書き換えます。
-
[設定]を開く:
Windows Terminal
でCtrl+,
を入力し、[設定]を開く
-
[Developer PowerShell]を選択する
-
[コマンドライン]を書き換える
コマンドラインのpowershell.exe
をpwsh.exe
書き換えて、[保存]をクリックします。
以上で、Build Tools
のインストールと開発環境の構築は終了です。
4. 開発環境の確認
Build Tools
が正常に動いているか、各言語で"Hello, World"プログラムを作成して確認します。
4.1 "Hello,World"による開発環境の確認
#3. 開発環境の構築までの操作が正常に終了していれば、C++/C#/F#の各プログラミング言語でプログラムのコンパイル/実行ができます。
この章では、動作確認用に各プログラミング言語で"Hello, World"プログラムを作成し、正常にコンパイルできるかを確認します。
注意事項:
以下は、Developer PowerShell
上で動作確認しています。
4.2. C++での動作確認
次の手順で、C++の開発環境を確認します。
-
作業用ディレクトリに移動:
Developer PowerShell
を開き、プログラミング用の適当な作業用ディレクトリに移動する。> cd ~\workspaces\temp\src\cpp
-
hello.cpp
の作成:
下記のhello.cpp
プログラムを作成:hello.cpp#include <iostream> using namespace std; void main() { cout << "Hello, I'm C++." << endl; }
-
hello.exe
の作成
C++コンパイラ (cl
)で、上記hello.cpp
プログラムをコンパイルするcl hello.cpp Microsoft(R) C/C++ Optimizing Compiler Version 19.36.32535 for x64 Copyright (C) Microsoft Corporation. All rights reserved. hello.cpp Microsoft (R) Incremental Linker Version 14.36.32535.0 Copyright (C) Microsoft Corporation. All rights reserved. /out:hello.exe hello.obj
注意:
warning
がでていても、/out:hello.exe
が表示されていればコンパイルは成功しています。 -
hello.exe
の実行:
hello.exe
を実行し、正常に動作するかを確認します。Hello, I'm C++.
上記のように、Hello, I'm C++.
と出れば正常です。
4.3. C#での動作確認
次の手順で、C#の開発環境を確認します。
-
作業用ディレクトリに移動:
Developer PowerShell
を開き、プログラミング用の適当な作業用ディレクトリに移動する。> cd ~\workspaces\temp\src\c#
-
hello.cs
の作成:
下記のhello.cs
プログラムを作成するhello.csusing System; namespace hello { public class hello { public static void Main(string[] args) { Console.WriteLine("Hello, I'm C#"); } } }
-
hello.exe の作成:
C#コンパイラ(csc
)で、上記"hello.cs"プログラムをコンパイルするcsc .\hello.cs Microsoft (R) Visual C# Compiler バージョン 4.6.0-3.23259.8 (c3cc1d0c) Copyright (C) Microsoft Corporation. All rights reserved. >
-
hello.exe の実行確認:
hello.exe を実行し、出力を確認するHello, I'm C#
上記のように、Hello, I
m C#`と出れば正常です。
4.4. F#での動作確認
次の手順で、F#の開発環境を確認します。
-
作業用ディレクトリに移動:
Developer PowerShell
を開き、一時時作業用ディレクトリに移動する。> cd ~\workspaces\temp\src\f#
-
hello.fs
の作成:
下記のhello.fs
プログラムを作成:hello.fsprintf "Hello, I'm F#"
-
hello.exe
の作成:
F#コンパイラを実行し、hello.exe を作成fsc hello.fs Microsoft (R) F# Compiler バージョン F# 7.0 のための 12.5.0.0 Copyright (C) Microsoft Corporation. All rights reserved. >
-
hello.exe の実行確認:
hello.exe を実行し、出力を確認するHello, I'm F#
上記のように、Hello, I
m F#`と出れば正常です。
さいごに
以上で、Visual Studio Build Tools
のインストールと動作確認が終了しました。
これからは、C++/C#/F#でのプログラミングができます。
make などの開発ツールと併用することで大規模ソフトウェアの開発もできますし、Rust
のようなソフトウェア開発に C++のコンパイルが必須なプログラミング言語も利用できます。
これを機会に、プログラミングの世界に飛び込んでみてください。
それでは、Happy hacking!
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