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【読書メモ】脳は世界をどう見ているのか: 知能の謎を解く「1000の脳」理論

2022/10/07に公開

脳は世界をどう見ているのか: 知能の謎を解く「1000の脳」理論を読んだのでその感想。

著者のジェフ・ホーキンスは過去に考える脳 考えるコンピューターを執筆しており、元々はPalmを創業するなどテック系の世界で成功した人物。現在は自身が設立したヌメンタという会社で脳の研究をしている。

全体的な感想として、著者がエンジニアバックグラウンドで活躍してきた人物であることから、表現や喩えがわかりやすい。内容は「知能の1000の脳理論」に辿り着くまでの過程をエピソードを交えながら述べた後に1000の脳理論の説明、そして現在のAIやこれから、人間の知能の今後についても語っている。

知能の1000の脳理論

著者は脳を古い脳(新皮質以外)と新しい脳(人類が進化させてきた新皮質)に分けており、1000の脳理論は新しい脳がどのように機能しているかに焦点を当てている。

その内容は、ざっくりとまとめてしまえば、新皮質全体に多次元の座標系が存在し、自分が知覚できる情報がさまざまな場所にマッピングされる(一つの情報も数千の場所に分散して保存される)。そして、それらの関係性を整理するモデル化が数多く行われ、脳内に世界モデルが構築される。そしてそれは絶えず学習して更新されていくというもの。

↓では少し否定的に述べられているが、一つ一つのプロセスは現在の機械学習と似通った部分もあり、今の研究の流れも大きくはズレてないなとも感じました。

AIについて

著者は現在のディープラーニングは一度、デプロイしてしまえば学習が止まるし、学習したタスクしかこなせない点などを例に人間の知能とは異なるものだとしている。現在のディープラーニングは、特定のタスクを解くという面ではすでに商業的に成功しているが、この研究の延長線上では人間のような知能(AGI)は獲得できず、別のアプローチが必要になると主張している。そこでは座標系へ知識を保存し、数多くのモデルを持って、自律的な動きによって絶えず学習することが必要となる。現在のディープラーニングには座標系が存在せず、あってもチェスをするAIが持つチェスの盤面座標や自動運転車の位置座標など特定の課題に対する座標系で他の課題の役に立たないと指摘している。

また、将来のAIは人間に似たものとはならないと予測している。人間の古い脳は主に人間の生命維持などに使われているため、AIが忠実に再現する必要はなく、古い脳が作り出している感情や目標を自ら持つ必要もないと考えている。用途は未知で想像できないとも述べている(歴史的に人類は何か新しい技術を構想した時にその用途を正確に予測できていない)。

人間の知能ついて

著者は、昔から論じられている脳をアップロードして永遠に生きることや脳と機械の融合して脅威的な知能を獲得するといった話は技術的に難易度が高く、人類にとってあまりメリットがないと述べている。理由として、脳をアップロードしたとしてアップロードされた脳はもはや自分ではなく、その存在を快くは思えない(自分を分裂させているだけ)。また、脳と機械の融合についても負傷した人の機能を補うためには十分有益だが、人類が脅威的な知能をもつために脳の全てを融合しても生物学的な脳と体はいつか衰えて死ぬだけだと述べている。そして、どちらも人類が直面している存亡のリスクに取り組んでいないと指摘している。
結局のところ人間はいつか死ぬし、地球も存在し続ける保証もないのだから、世界モデル(あなたがこれまで学んだ知識)を後世に保存して、(地球外にも)広めていくことが人類の役目ではないかといった締めくくりになっている。

最後に

備忘録として乱暴にまとめましたが、読んでいてとても面白い本でしたし、少しSFチックな未来の話も論理的に展開されていて説得力があるなと感じました。

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