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[シリーズ総括] 構成ドリフトを根絶せよ:SSOTと自動修復機能で実現する次世代インフラ管理

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本記事は「構成がドリフトしないインフラをどう設計するか」を、次世代構成管理の設計思想に基づき、SSOTとGitOpsの役割分離自動修復を軸に体系化したものです。

🔱 次世代構成管理を貫く三本柱
私たちがインフラの安定性を追求する上で、全ての設計はこの三つの原則に集約されます。

  • 一貫性(Consistency): SSOTを基盤とし、状態の正しさを保証する。
  • 冪等性(Idempotency): 宣言的構成により、操作の繰り返しが常に同じ結果をもたらす。
  • 自律性(Autonomy): 人の関与なしに、システム自身が正しさを維持する。

Chapter 1: なぜインフラは「病む」のか?ドリフトという名の自然現象

インフラストラクチャは、まるで日本の四季の移ろいのように、時間の経過と共に状態が変化していく宿命にあります。これが「構成ドリフト」です。

ドリフトは手動変更、手順差異、ロールバック忘れ、環境差など複数の要因が複合して発生します。人が手を加えれば加えるほど、設計時の「あるべき姿」から遠ざかり、「今の状態」が誰にも分からなくなる、一種の自然現象と言えるでしょう。

このドリフトを許容していては、多様化する現代の働き方、特にテレワーク環境において、安全で安定したサービスを維持することは困難になります。私たちが目指すべきは、人に依存せず、自ら正しさを保ち続ける、自律的なシステムです。

このZenn記事では、インフラの安定を追求する上でたどり着いた、「真実の源(SSOT)」と「自動修復」を統合した次世代構成管理の設計思想をお話しします。

【シリーズ総括としての位置づけ】 本章は、シリーズ全体の総括と設計思想の提示を目的としており、各技術の詳細な手順やコードは、Qiitaで公開している各章の専門記事に委譲します。


Chapter 2: 設計思想の核:SSOTとGitOpsの責務分離モデル

GitOpsは「Gitが真実の源(SSOT)」とする運用モデルですが、インフラ全体の構成管理と設定保存DBを考えるとき、私はさらに上位の概念が必要だと感じました。

それが、DBをSSOTとする二段構造の設計思想です。

責務の完全分離による構成管理

私たちが設計したSSOT戦略では、責務を完全に分離します。

  1. SSOTの責務: 構成の元データ(パラメータ・ポリシー・参照テーブル)を保持すること。
  2. GitOpsの責務: SSOTから生成された宣言的構成(YAML/Jsonnet/設定ファイル)のみを保持し、実環境に適用すること。

責務の完全分離の理由: DBをSSOTとするのは、人間の可読性ではなく「依存関係・参照整合性・履歴管理をシステムで保証する」ためです。

これにより、Gitは生成物の置き場という構造が明確になり、DB SSOTがGitOpsの上位概念として成立し、一貫性を保つ強固な基盤が生まれます。

Kubernetes環境はもちろん、TerraformAnsible Pullなど、GitOpsと同様の宣言的モデルをとる構成管理ツールにも、このSSOT戦略は応用可能です。


Chapter 3: 自律的システムへの進化:自動修復機能の設計原則

インフラを自律的なシステムへと進化させる鍵は、構成ドリフトの検知と自動修復機能にあり、この機能は冪等性の思想を強く反映します。

3階層の検知ロジックによる完全網羅

ドリフトを根絶するためには、監視に漏れがないことが重要です。検知は次の3階層で行うのが理想的です。

検知レイヤー 監視対象 主な検知ツール/手法
① SSOT → Git 設定生成物の整合性 生成エンジンの差分チェック
② Git → 実環境 宣言的状態の差分 GitOpsツールの差分監視 (Argo CD, Flux)
③ 実環境内部 OS/Configの直接変更 ファイルハッシュ比較 or Terraform drift 検知 (plan)

検知の完全性の証明: この3階層は、元データ・宣言的構成・実環境の全レイヤーを網羅し、いずれか1つがズレても必ず検知できるように設計しています。

リスクを考慮した「強度レベル」の採用

自動修復を安全に導入するためには、リスク管理を最優先し、修復の強度レベルを定義します。

強度レベル 動作 主な適用環境 実務上の推奨
レベル1 差分検出時の通知のみ 本番環境の重要度の高い設定 本番環境の基本
レベル2 Dry-run実行後、承認を経て自動修復 検証環境、Staging環境 中リスク設定
レベル3 完全自動修復(即時適用) 閉域かつ変更インパクトが限定的な領域(VDI テンプレートEphemeral 環境など) 誤爆リスクのない環境

なお、検知・修復の機構を持たない環境は「レベル0」として扱い、原則として本番環境から排除します。

詳細な手順やコードについては、Qiita公開記事にて詳細記事を公開中ですので、ご興味のある方はそちらをご覧ください。


Chapter 4: 未来への約束:構成管理を「仕組み」へ委譲するということ

SSOTから始まり、GitOps、そして自己修復へと至るこの一連の設計は、構成管理を人の作業から、仕組みそのものへ委譲するという、極めて実務的な目標を達成します。

技術的着地点(実践モデル)

  • SSOT・GitOps・自己修復を統合した本アーキテクチャは、「すべての構成変更が SSOT → Git → 実環境 の順序で必ず流れる」という、破綻しない実務モデルとして確立します。
  • この統合された仕組みこそが、次世代構成管理の完成形であり、自律性の思想的帰結です。

個人的な感想(HITOSHI)

SSOTという「真実の源」を築き、それが自ら「正しさ」を保ち続けるシステムを設計できたことは、私にとって大きな達成感です。この自動化されたパイプラインは、人の手によるミスを減らし、安定した運用を実現することで、多様化する働き方、特にテレワークがもたらす可能性を肯定的に捉える上で、不可欠な信頼の土台となります。

この設計思想が、読者の皆さんの知的好奇心を刺激し、インフラの安定化への一歩となることを願っています。

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