協調的AIエージェントシステムへ: MCPとA2Aの違いとは
1. はじめに:エージェントの台頭と相互運用性の必要性
AIの世界では、エージェントの台頭が大きな変化を生み出しています。従来のように単に指示に従うだけの受動的なアシスタントではなく、いまのAIエージェントは知覚・推論・計画・行動までを自律的にこなす存在になりつつあります。こうした進化により、ビジネスワークフローの自動化やソフトウェア開発、カスタマーサービス、科学研究といったさまざまな分野で、これまでにないレベルの生産性とイノベーションが実現されようとしています。
ただし、エージェントの活用が広がるにつれて「相互運用性」という課題も浮上してきました。初期のAIシステムは往々にしてサイロ的に動作しており、外部のデータや他のシステムとつながるのが困難でした。エージェントを他のツールやデータベース、API、さらには他のエージェントとつなぐには、毎回「グルーコード」と呼ばれる場当たり的な接続コードを書く必要がありました。その結果、「M×N問題」──M個のAIアプリをN個のツールに接続するためにM×Nの個別実装が必要になる──が発生し、統合の手間とコスト、そしてスケーラビリティに大きな壁となっていました。
こうした問題は、単にデータのやりとりをするだけでなく、自律的に意思決定するようなエージェントにおいて、より顕著に表れます。AIの可能性を引き出すには、高性能なモデルに加えて、エージェントが外部環境や他のエージェントとやりとりするための共通の仕組み、すなわち標準化されたインフラが不可欠です。
こうした背景を踏まえ、いま業界ではオープンスタンダードの整備が進んでいます。なかでも注目すべきは、以下の2つのプロトコルです。
- モデルコンテキストプロトコル(MCP):Anthropicが提案するプロトコルで、AIエージェントと外部ツールやデータソースの接続を標準化するものです。エージェントが環境から提供される機能を「発見→確認→利用」できるようにする共通言語を定義しています。
- エージェント間(A2A)通信プロトコル:Googleが発表したプロトコルで、異なるプラットフォームやベンダーで動作するエージェント同士が直接通信し連携できるようにします。マルチエージェントの連携に特化した標準言語(リンガフランカ)を提供します。
このレポートでは、MCPとA2Aそれぞれの技術仕様、設計思想、ユースケース、利点・課題を比較しながら、それらが今後のAIエコシステムに与えるインパクトを探っていきます。
2. モデルコンテキストプロトコル(MCP):エージェントとツールの接続を標準化
AIエージェントが「ただのコパイロット」から「能動的に動けるアクター」へと進化するにつれ、外部のツールや情報源との連携能力がその性能を大きく左右するようになっています。MCP(Model Context Protocol)は、こうした連携を支えるための基盤となるオープンスタンダードとして登場しました。エージェントが必要とする多様なツール群やデータソースと、安全かつ効率的に連携できるように設計されています。
2.1 定義と目的
MCPは、AIエージェント(=クライアント)と、外部ツールやデータソース(=サーバー)の間に、安全な双方向通信を確立するための汎用的なフレームワークです。エージェントが外部の「能力」を動的に発見し、利用できるようにすることで、従来必要だったカスタム統合を不要にします。
この役割は、USBが登場する以前の混沌とした周辺機器接続の世界に似ています。昔はプリンタやマウスをつなぐたびに専用ドライバが必要でしたが、USBによって統一されたインターフェースが登場し、機器の追加がぐっとシンプルになりました。MCPもそれと同じで、あらゆるエージェントとツールの接続を「M×Nの統合問題」から「M+Nの構成問題」へと変換しようとしています。
具体的には、ツール開発者がN個のMCPサーバーを用意し、アプリケーション開発者がM個のMCPクライアントを用意するだけで、M×N通りの接続が可能になります。
MCPの特徴は、既存のAPIを「置き換える」のではなく、それらのAPIを「抽象化」し、エージェントが共通パターンで扱えるようにする点にあります。これにより、複雑な「グルーコード」を書くことなく、エージェントがツールの機能とインターフェースを理解し、状況に応じて適切に活用できるようになります。ビジネス的には、導入コストの削減、既存資産の再利用、AI運用へのスムーズな移行が期待されます。
2.2 技術仕様
MCPの設計は、標準化・セキュリティ・AIネイティブなインタラクションの柔軟性を重視しています。以下はその技術的な構成要素です。
■ アーキテクチャ
MCPは、開発者向けツールでおなじみのLanguage Server Protocol(LSP)を参考にした「クライアント - ホスト - サーバー」モデルを採用しています。
-
サーバー(MCPサーバー)
MCPサーバーは、データベースやAPI、ファイルシステムなどの外部システムを「ラップ」する役割を持ちます。サーバーは、どのようなツールやリソースを提供しているかを定義し、MCP仕様に従ってエージェント(クライアント)と通信します。 -
クライアント(MCPクライアント)
クライアントは、MCPサーバーと接続し、ツールの呼び出しやリソース取得を担うコンポーネントです。各クライアントは基本的に1つのサーバーに対応し、通信の開始・応答処理・能力の検出を行います。 -
ホスト
ホストとは、チャットボット(例:Claude Desktop)やコードエディタ(例:Cursor)など、エージェントが実行されるアプリケーションを指します。ホストは、クライアントのライフサイクル管理やセキュリティポリシーの適用、エージェントに渡すコンテキストの集約を行います。
■ 通信方式
MCPは、クライアントとサーバーの通信に以下の標準プロトコルを利用します。
-
JSON-RPC 2.0
軽量かつ明快な形式で構造化されたリクエスト・レスポンスのやり取りを可能にする通信プロトコルです。 -
stdio(標準入出力)
クライアントとサーバーが同一マシン上にある場合に用いられ、シンプルかつ効率的な通信を実現します。 -
HTTP + SSE(Server-Sent Events)
サーバーが非同期でクライアントにイベントを送る仕組みです。HTTPを用いた外部接続にも対応しており、将来的には柔軟なストリーミングHTTPへ進化予定です。
■ MCPのコアプリミティブ
MCPは、サーバーが公開可能な3つの主要機能(プリミティブ)を定義しています。
-
ツール(model control)
副作用を伴う操作(例:メール送信、DB更新など)を実行する関数群。各ツールは入力/出力スキーマと人間可読な説明を持ちます。エージェントはタスクに応じて適切なツールを選び実行します。 -
リソース(application control)
読み取り専用の情報源で、REST APIのGETに相当するものです。ユーザーデータやファイルの中身など、アクションではなく「文脈の提供」を目的としています。 -
プロンプト(user control)
スラッシュコマンドやメニュー選択など、ユーザー主導のトリガーによって呼び出されるテンプレートです。エージェントに対して、ツールやリソースを「このように使ってほしい」と指示するためのものです。
■ セキュリティ設計
MCPはセキュリティにも重点を置いています。以下のような保護設計がなされています。
- ホストのポリシー管理:認証・認可・同意といったルールはホストアプリケーション側で統制されます。
- クライアント間の境界管理:異なるクライアントが互いのリソースにアクセスすることを防ぎます。
- サーバーの順守義務:セキュリティ制約やユーザー権限はサーバー側でも尊重されなければなりません。
- OAuth 2.1による認証:特にHTTP接続時は、業界標準であるOAuth 2.1を用いた認証が必須です。
- ツールアノテーション:ツールが「読み取り専用か?破壊的な変更を加えるか?」などのメタ情報を含めることで、ホストとエージェントの判断を支援します。
2.3 MCPのメリット
MCPを導入することで得られる主な利点は以下のとおりです。
- 相互運用性の確保:MCP準拠のエージェントとツールは、事前にコードを書かなくても接続・利用が可能になります。
- 「グルーコード」の削減:従来はAPI呼び出しごとに手書きしていた統合コードが不要になります。データ構造の変換などもプロトコル側で対応可能です。
- 再利用性の向上:一度作ったMCPサーバーは、他のエージェントやアプリケーションでも再利用できます。例:1つの社内Wikiサーバーを複数のエージェントから呼び出し。
- LLMに依存しない:MCPはモデルに依存せず、ClaudeでもGPT-4でも、どんなLLMでも使える設計です。
- 保守性の向上:カスタム統合のスパゲッティ化を防ぎ、MCP準拠ツールの共通基盤で運用管理が可能になります。
- セキュリティ強化:ホスト・クライアント・サーバーそれぞれの責務が明確化され、ポリシーの適用と境界の保護がしやすくなります。
- 開発スピードの向上:再利用可能な仕組みにより、複雑なタスクをこなせるエージェントの開発スピードが飛躍的に上がります。
3. エージェント間(A2A)通信プロトコル:エージェント連携の実現
MCPが「エージェントと外部ツールやデータソースの接続」に焦点を当てている一方で、AIエージェントの次の進化として求められているのが「エージェント同士の連携」です。複数のタスクを担当するエージェントが協調し合うことで、より複雑で高度な業務を自律的にこなすことができるようになります。
このようなマルチエージェントの連携を実現するために登場したのが、Googleが提唱する A2A(Agent-to-Agent)プロトコル です。異なるベンダーや異なるプラットフォーム上にあるエージェント同士が、直接かつセキュアに連携できるための共通インターフェースを提供します。
3.1 定義と目的
A2Aは、異なるベンダーやフレームワークで構築されたAIエージェント同士が直接通信し、タスクの引き継ぎや調整を安全に行えるように設計されたオープンプロトコルです。A2Aの核となる目的は、エージェントの「連携」と「役割分担」によって、チームとして動けるAIエージェントシステムを構築することにあります。
たとえば、採用業務では「候補者検索」「書類選考」「スケジュール調整」「面接フィードバック」など、複数の役割を持つエージェントが必要になります。A2Aを使えば、こうしたエージェントたちが相互に連携し、タスクを引き継いだり、情報を共有したりしながら、ひとつの業務プロセスを自動的に完結させることが可能になります。
3.2 技術仕様
A2Aは、既存のWeb技術(HTTP、JSON-RPC 2.0、Server-Sent Eventsなど)をベースに構築されており、エンタープライズ向けの要件をしっかりと押さえた設計になっています。
■ アーキテクチャ
A2Aは、2つのエージェントの間の通信を基本としています。
- クライアントエージェント:タスクを開始する側。タスクの依頼や進捗確認などのアクションを起こすエージェント。
- リモートエージェント(サーバー):リクエストを受け取り、実際の処理を行う側のエージェント。HTTPエンドポイントを公開します。
この通信はピアツーピア的で、マイクロサービス間の連携に近い仕組みです。
■ エージェント発見の仕組み(エージェントカード)
エージェント同士が「何ができるか」を事前に知るための仕組みが エージェントカード です。
-
形式:JSONで記述されたメタデータファイル。通常
/.well-known/agent.json
に配置されます。 -
内容:
- 提供スキル一覧
- エンドポイントURL
- 認証方法
- プロトコルバージョン
- 対応するモダリティ(テキスト、ファイル、フォームなど)
クライアントエージェントはこのカードを取得して、相手のスキルや通信手段を理解したうえでタスクの送信を行います。
■ タスクのやり取りとライフサイクル
A2Aでは、通信の単位を「タスク」として扱い、明確なライフサイクルが定義されています。
- 発見:リモートエージェントのエージェントカードを取得。
-
開始:タスクリクエスト(
tasks/send
やtasks/sendSubscribe
)を送信。 -
処理と更新:
- 同期:即時レスポンスを返す場合。
- 非同期:Server-Sent Events(SSE)で進捗や中間成果物を通知。
- ポーリングやWebhookによる通知も可能。
-
対話(マルチターン):リモートエージェントが追加情報を要求する際、
input-required
状態に。 -
完了:
completed
,failed
,canceled
のいずれかで終了。成果物(アーティファクト)を返すことも可能。
■ コアデータ構造
- タスク:1つのIDにひもづいた作業単位。
-
メッセージ:クライアントとエージェント間のやりとり。
user
とagent
のやりとりを表現。 - パート:テキスト、ファイル、構造化JSONなど、メッセージの中身を構成する要素。
- アーティファクト:タスクの出力結果。1つ以上のパートで構成されます。
■ モダリティと将来性
現在のやり取りは主にテキストベースですが、A2Aは将来的な音声・ビデオなども含めたマルチモーダル対応を見据えた構成になっています。画像、ファイル、フォームなど多様なインタラクションに対応可能です。
■ セキュリティ設計
- 認証方式:OpenAPI仕様に準拠。エージェントカード内に認証要件を記述。
- 安全な通信:HTTPSを前提に安全なチャネルで通信。
- 不透明な実行:実装の詳細を公開することなく、安全かつモジュール的に連携可能。
3.3 設計原則と利点
A2Aは以下のような原則に基づいて設計されており、マルチエージェントシステムを支える強力な基盤となっています。
■ 設計思想
- ピアとしてのエージェント:単なるAPIではなく、自律的に判断・応答できる存在として連携。
- 既存技術との親和性:HTTP/JSON/SSEなど標準技術を活用し、既存インフラとの統合が容易。
- モダリティ非依存:音声やビデオなど将来のメディアにも柔軟に対応可能。
- オープンで中立的:ベンダーロックインなし。誰でも実装・参加可能。
- エンタープライズ対応:非同期処理・セキュリティ・人間との連携(HITL)も考慮。
■ 主な利点
- 異なるフレームワーク/ベンダー間での真の相互運用性
- 分業による複雑な業務プロセスの自動化
- 状況に応じて他のエージェントへ動的なタスク委任
- 個別の統合を不要にし、統合コストの削減
- 柔軟で再利用可能なモジュール設計の促進
A2Aは、「専門性の高いエージェントが協調し合うAIチーム」というビジョンを実現する上で、重要な役割を果たすプロトコルといえるでしょう。
4. MCP対A2A:比較分析
MCPとA2Aは、どちらもAIエージェント間のインタラクションを標準化するという点では共通していますが、実際に扱っているレイヤーは異なります。
- MCP は、エージェントとツール・データソースとの“縦方向”の統合にフォーカス。
- A2A は、エージェント同士の“横方向”のやりとりや連携に特化。
このセクションでは、設計思想・データ共有方法・アーキテクチャ上の違いなどを項目ごとに比較し、それぞれがどのようなユースケースに適しているかを明らかにしていきます。
4.1 コア通信モデルの違い
- MCP:クライアント・ホスト・サーバー構成。エージェントが外部のツールやリソースにアクセスしてアクションやデータ取得を行います。インタラクションは「ツールを使う」「データを取りに行く」などのリクエストベースです。
- A2A:基本的にクライアント-サーバーの構成ですが、両者がエージェントという点でより“ピアツーピア”に近いイメージ。エージェント同士がメッセージをやりとりし、タスクの委任や進行状況の共有を行います。
4.2 データ・コンテキストの共有方法
- MCP:主に「ツール(アクション)」や「リソース(読み取り専用)」を通して、エージェントが外部から必要な情報を得る形式です。構造化されたスキーマに従ったデータ取得・操作が基本です。
- A2A:「メッセージ」や「アーティファクト」といった単位で、エージェント間でリッチな情報(テキスト、ファイル、JSONなど)をやり取りします。ツールやメモリを共有していなくても、メッセージベースでコンテキストの受け渡しが可能です。
4.3 アーキテクチャと結合度
- MCP:1つのエージェントが複数のツール(サーバー)に接続し、自分の能力を拡張する「コンテインメント型」の設計です。ホストアプリケーションに依存してセキュリティや制御を行うため、結合度はやや高めです。
- A2A:マイクロサービス的なアプローチ。各エージェントは独立して実装され、標準化されたインターフェース(A2A)を通じてだけ通信します。疎結合でモジュール性に優れ、柔軟な連携を可能にします。
4.4 比較表:設計・スケーラビリティ・セキュリティなど
特徴 | MCP | A2A |
---|---|---|
主な目的 | ツール・データとの接続 | エージェント同士の連携 |
通信モデル | クライアント-ホスト-サーバー | ピアツーピア(クライアント-サーバー) |
コンテキスト共有 | リソース・ツール | メッセージ・アーティファクト |
設計思想 | エージェントを拡張する | エージェントを連携させる |
結合度 | 高め(ホスト依存) | 低め(疎結合) |
スケーラビリティ | 多数のツールに拡張 | 多数のエージェント連携に拡張 |
実装の複雑性 | やや低い(ただしサーバー実装は要注意) | 高め(タスク管理・非同期処理など) |
柔軟性 | 高い(ツール定義の自由度あり) | 高い(非同期・マルチターン対応) |
セキュリティ | OAuth2.1、ツールアノテーション、ホストポリシー | エージェントカード、HTTPS、非公開実行設計 |
ユースケース例 | API、DB、ファイル連携など | 採用ワークフロー、カスタマーサポート、サプライチェーンなど |
4.5 それぞれの長所と短所
■ MCPの長所
- ツールや外部情報へのアクセスが簡単に標準化できる
- モデル非依存で柔軟に使える(ClaudeでもGPTでもOK)
- コード再利用性が高く、保守性に優れる
■ MCPの短所
- エージェント同士の連携には向かない
- MCPサーバーの運用・管理が複雑になりがち
- ホストアプリケーションに大きく依存する設計
■ A2Aの長所
- マルチエージェント連携に最適な設計
- 非同期・マルチターンの対話も柔軟に処理可能
- モジュール構成で拡張性・再利用性が高い
■ A2Aの短所
- まだ新しく、MCPと比べてエコシステムが未成熟
- タスクライフサイクルやイベント処理の実装がやや複雑
- 成功には広範なフレームワーク対応が不可欠
4.6 典型的なユースケースの違い
■ MCPが向いている場面
- AIアシスタントがカレンダーやメール、ファイルなどにアクセスする
- コーディングアシスタントがGit操作やDB操作を行う
- PlaywrightやSelenium経由でWeb自動化を実施
- 各種クラウドSaaS(Slack、Drive、Sentryなど)との連携
■ A2Aが活きる場面
- 採用・人事など複数の部署をまたぐ自動化ワークフロー
- 技術サポートエージェントとの連携によるサポート高度化
- 調査・分析・報告などのマルチエージェントによる研究支援
- ロジスティクス・CRM・在庫管理の横断的な調整タスク
5. エコシステムと最近の開発
どんなに優れたプロトコルであっても、それが広く普及し現場で活用されるためには、仕様そのものだけでなく、周辺のツール・ライブラリ・コミュニティ・業界の採用実績など、「エコシステム」の充実が不可欠です。
MCPとA2Aはいずれも比較的新しいプロトコルではありますが、それぞれが異なるアプローチで急速にエコシステムを構築しつつあります。この章では、その成長の現状と特徴を見ていきます。
5.1 MCPエコシステム:実装・ツール・採用状況
MCPはAnthropicによっていち早く提案され、開発者コミュニティを中心に早期から活発な採用が進んでいます。以下はMCPの主な強みです。
■ 豊富なSDKと仕様の整備
- MCP仕様はオープンで、公式ドキュメントも非常に充実。
- TypeScript / Python / Java / Kotlin / C# / Swift / Rustなど、主要言語向けに公式SDKが整備されています。
- エージェントとMCPサーバーを簡単に開発・連携できるようになっており、開発者の参入障壁が低いのが特徴です。
■ リファレンスと実用的なMCPサーバーが充実
- Anthropic公式のMCPサーバー例が多数提供されています。
例)ファイルシステム、Git、Webフェッチ、PostgreSQL、Slack、Google Drive、Sentryなど。 - コミュニティ主導のサーバー実装も非常に多く、次のような分野をカバーしています:
- SaaS・業務ツール:Notion、Linear、Atlassian、Zapier、Stripe など
- 開発ツール系:VSCode Devtools、Docker、E2B、Apify(ウェブスクレイピング)、Browserbase(クラウドブラウザ)
- データベース系:PostgreSQL、MySQL、SQLite、ClickHouse、Snowflake、BigQuery、Redis、Neo4j、Qdrant など
- クラウド&監視系:AWS、Cloudflare、Sentry、Axiom、Metoro(Kubernetes監視)
- 検索・マッピング:Google Maps、Brave Search、Kagi、Exa、Search1API
-
ナレッジ系:Obsidian、eBook、PKM、翻訳、メモリ管理システム など
この幅広い実装は、開発者のニーズに対してMCPが非常にフィットしていることを示しています。
■ 周辺ツールも続々登場
- MCP Inspector:GUIでサーバーの動作確認ができる公式ツール。
- mcp-get:CLIでMCPサーバーのインストールや設定を行える便利なユーティリティ。
■ 業界での採用実績
- OpenAI(Agents SDK)やMicrosoft(C# SDKの共同開発、Playwright MCP実装)もMCPを支持。
- GoogleもGemini SDKへのMCP対応を示唆。
- 企業の導入事例も増加中(例:Block、Apollo、Replit、Zed、Sourcegraph、Codeiumなど)。
このように、MCPは「ボトムアップ型(開発者駆動)」のエコシステムとして、すでに多くの実績と拡がりを見せています。
5.2 A2Aランドスケープ:パートナーシップと戦略的展開
A2AはGoogleが中心となって設計・提案されたプロトコルであり、MCPとは異なる「トップダウン型(企業・業界主導)」の展開が特徴です。
■ 仕様とリファレンス実装
- 仕様書や技術ドキュメントはすべてGitHub上で公開(Apache 2.0 ライセンス)。
- サンプル実装(Python / JavaScript)や、マルチエージェントWebアプリのデモも提供されています。
- コマンドラインツールや、LangGraph / CrewAI / Genkit との統合例も登場しており、既存フレームワークとの共存を重視した戦略となっています。
■ 業界の強力なパートナー支援
A2Aの初期発表時には、以下を含む50社以上がパートナーとして名を連ねました:
- 大手エンタープライズSaaS・ソフトウェア企業:Salesforce、SAP、Box、ServiceNow、Atlassian、Intuit、Workday、PayPal など
- クラウド&データベース:MongoDB、UKG
- AIスタートアップ・フレームワーク提供者:LangChain、Cohere
- SIer・コンサルティングファーム:Accenture、BCG、Capgemini、Deloitte、Infosys、PwC、KPMG、TCS
この規模感は、A2Aが特に「複数システムにまたがる業務連携」など、エンタープライズ向けのシナリオに照準を合わせていることを物語っています。
■ コミュニティとの連携も模索中
- GitHubでのIssue / Discussionへの参加を推奨。
-
awesome-a2a
のような非公式リソース集が登場。 - FlowiseAIなど、一部OSSプロジェクトではすでにA2Aサポートの要望が寄せられています。
■ MCPとの違い:エコシステム戦略の比較
観点 | MCP | A2A |
---|---|---|
拡がり方 | 開発者中心のボトムアップ | 業界連携を活かしたトップダウン |
重点分野 | ツール統合、コーディング支援、SaaS連携 | 複雑な業務自動化、エンタープライズ連携 |
採用促進手法 | 実装の手軽さとコミュニティ貢献 | パートナー連携とフレームワークとの統合支援 |
MCPが「多くの小さなニーズに早く対応」するスタイルであるのに対し、A2Aは「大きな課題を標準化で一気に解決」しようとするアプローチだといえるでしょう。
6. 相乗効果と将来の展望:MCP + A2A
MCPとA2Aは、同じ「AIエージェント間の相互運用性を支えるプロトコル」でありながら、それぞれが異なるレイヤーで機能するため、実は競合関係ではなく、補完関係にあります。
業界でもこの点は明確にされており、GoogleやAnthropicも、両プロトコルを連携させることでより柔軟で協調的なAIエージェントシステムが構築できると示唆しています。
6.1 補完的なレイヤー構造
MCPとA2Aは、それぞれ異なる「役割」を持っており、連携することでエージェントの能力を多層的に拡張できます。
■ レイヤー1:ツールとデータへのアクセス(MCP)
- エージェントが外部環境(API、データベース、ファイルなど)とやりとりするためのインターフェース。
- MCPにより、エージェントは必要な情報を取得したり、ツールを通じてアクションを実行できます。
■ レイヤー2:エージェント間連携とタスク共有(A2A)
- 複数のエージェントが連携し、タスクを分担・調整するための仕組み。
- エージェントが得意分野を活かしながら協力する“チームプレイ”を実現します。
このように、MCPが外部とのインターフェースを担い、A2Aがエージェント同士の連携をつなぐという構造が、今後のAIアーキテクチャの主流になると考えられています。
6.2 組み合わせたユースケースの具体例
両プロトコルを連携させると、よりダイナミックなワークフローが実現できます。以下のようなシナリオが想定されています。
■ ケース:カスタマーサポートの自動エスカレーション
- 顧客がチャットボット(アシスタントエージェント)に相談。
- エージェントがMCP経由で注文情報を取得(社内DBサーバー)。
- 問題が技術的と判断し、A2Aでテクニカルサポートエージェントへタスク委任。
- テクニカルエージェントはMCPを使ってログを取得・解析。
- A2A経由で解決策を返答 → チャットボットがユーザーに通知。
■ その他の複合シナリオ
- 採用業務:スクリーニングエージェントがMCPで履歴書を分析 → A2Aでスケジュール調整エージェントへ連携
- 研究支援:データ収集エージェント(MCPでWebスクレイピング) → 分析エージェントへA2Aで受け渡し → 結果を報告
- サプライチェーン管理:ロジスティクスエージェント(MCPで追跡APIに接続) → CRMエージェントとA2Aで遅延通知 → 運用エージェントに対応依頼
こうした例は、A2AがMCPによって強化されたエージェント同士をつなぐ**“調整のレイヤー”**として機能していることを示しています。
6.3 将来展望(2025年以降)
今後、MCPとA2Aは以下のような技術的・産業的トレンドの中核を担っていくと予想されます。
■ 標準の成熟
- どちらのプロトコルも「1.0 安定版」リリースに向けて進化中。
- 医療・金融・製造など特定業界向けの拡張仕様も登場する可能性があります。
■ 自律エージェントの本格化
- 「コパイロット」から「完全実行型」への進化が加速。
- エージェントが自発的にタスクを割り振り、チームを組むような流れ(=デジタルワークフォース)が普及。
■ エンタープライズとの統合深化
- ERPやCRMと連携した“業務の裏側で動くエージェント”が当たり前に。
- カスタマー対応なども、複数エージェントが裏で連携し支援する形へ。
■ よりリッチなコンテキスト共有・記憶管理
- MCP/A2Aが担う「明示的なインターフェース」に加えて、個々のエージェントが記憶・履歴・知識を持ち始める。
- 将来的には、共有メモリやチーム単位のコンテキスト共有も議論されるかもしれません。
■ マルチモーダル対応の標準化
- A2Aがすでに設計しているように、今後は画像・音声・動画のやりとりも増えていくでしょう。
- GUIやAR/VRとの連携も視野に。
■ セキュリティ・倫理・透明性の強化
- 自律型エージェントが意思決定に関わるようになると、ガバナンス・説明責任・プロンプトの信頼性が重要に。
- 将来的には、通信内容や履歴をブロックチェーン等で追跡・検証する仕組みが必要になるかもしれません。
■ マーケットプレイスの登場
- エージェントそのものを“アプリ”のように探して組み合わせる「AIエージェントストア」的な世界が来る可能性も。
- MCPやA2Aは、こうしたマーケットプレイス内での“相互運用性の標準”としても期待されます。
7. 結論:エージェントインタラクションの未来をナビゲートする
AIエージェントは今、単なる「アシスタント」から、複雑な業務を実行できる自律的な存在へと急速に進化しています。それに伴い、課題となるのが「エージェント同士」や「ツール・データ」との連携、つまり相互運用性の確保です。
この課題に対し、2つの強力なオープンスタンダードが登場しました。
-
モデルコンテキストプロトコル(MCP)
エージェントが外部ツールやデータソースと接続・対話するための統一されたプロトコル。
複雑なグルーコードを不要にし、効率的なツール接続を可能にします。 -
エージェント間プロトコル(A2A)
異なるエージェント同士がベンダーやフレームワークを超えて安全に連携・調整できるようにするための共通言語。
チームとして機能するマルチエージェント連携を実現します。
この2つは補完的な存在であり、それぞれが「個の能力強化(MCP)」と「チームとしての連携(A2A)」を支える役割を担います。
プロトコル導入で得られる価値
- ベンダーロックインの回避:共通プロトコルにより、異なるベンダーのツールやエージェントもスムーズに接続可能。
- M×N問題の解消:あらゆるツールとエージェントを個別に繋ぐ必要がなくなり、スケーラブルな設計が可能に。
- 再利用性と保守性の向上:統合コードの簡素化により、メンテナンスコストが大幅に削減。
- AIシステムのモジュール化:MCP/A2Aによって、個別のエージェントやツールを“部品”のように組み合わせて柔軟に構築可能。
導入時に検討すべきポイント
-
目的の明確化
ツール連携が中心(MCP)か、エージェント間連携が必要(A2A)か、あるいは両方か。 -
エコシステムの成熟度
MCPは多くのMCPサーバーとSDKがすでに存在。
A2Aは主要フレームワークとの統合が進行中で、今後の伸びしろが大きい。 -
システムアーキテクチャとの整合性
シンプルなアシスタントにはMCP中心、複数エージェントを連携させたいならA2A中心など、設計指針を整理。 -
継続的な情報収集
どちらも進化中のプロトコル。定期的な仕様更新やコミュニティの動向はフォローが必要。
最後に
MCPとA2Aは、AIエージェント時代の通信インフラの中核となる存在です。
私たちは今、スタンドアロンのAIから「協調的AIエージェントシステム」への大きな転換点に立っています。
この変化を正しく捉え、適切なプロトコルを採用することで、よりモジュール化され、スケーラブルで、安全なエージェントアーキテクチャが実現できます。
エージェントシステムを構築・導入しようと考えるエンジニアやアーキテクトの方々にとって、本記事がその第一歩となることを願っています。
未来のAIエージェントは、繋がり、協力し合い、そして共に“考える” 存在へ。
その実現を支えるのが、まさにこのMCPとA2Aなのです。
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