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「具体 ⇄ 抽象」トレーニング を読んで

2025/02/25に公開

はじめに

「具体 ⇄ 抽象」トレーニング を読み興味深い内容について「本の内容」と「所感」を記載する。

本書について

人類の知の発展の歴史について

本の内容

本書の中で繰り返し綴られている考えの根っこの部分。
これは人間の知の発展を情報の横軸抽象の縦軸で簡単に表した図となっている。

  • 情報の横軸は情報量の増加を表しており、江戸時代には存在しなかったものが現代では当たり前になっているように時間とともに増加する情報量をグラフで表現している。
  • 抽象の縦軸は簡単にいうと 「法則の発見」「言葉や数といった抽象概念の発展」 を表しており、数式などが最たる例として紹介されている。

これら二つの軸は密接な関係にあり、一聞いて十を理解すると言うように人間は普段の生活の中でも情報を抽象化し、それを他の情報にも当てはめ発展を繰り返している。
本書では「お金」の例を紹介しており、遥か昔は魚や肉などといった生活必需品(具体抽象の文脈における具体)を物々交換していたが貝殻・鉱石、紙・硬貨といった価値の変動しない物(具体抽象の文脈における抽象)へと変化している。

近年ではデジタル化により抽象化が加速しており、10年前は枕元に置いていたアラームや店舗で収集していた不動産の情報などがスマホ一つに集約(抽象化)されている。

さらに本書の中では、今の社会が情報の横軸に偏っていることについても言及している。
抽象の縦軸と具体の横軸の違いの一つに答えがあるか無いかという違いがあるが、今の学校の仕組み上、先生と生徒という枠組みの中で授業をしなければならない為具体を教材にする方が勝手が良い。
そのような理由から具体を重要視する価値観が生まれ、社会に根付いてしまったのだという。

所感

特定の事象を式に変換して別のアイデアを創造するという暗黙知として使われていたテクニックを綺麗に言語化している。

AIの発展は本書発売当初(2020年)では予想していなかったくらいに目覚ましい進歩を告げており、誰もが無料で汎用的AIを活用し専門知識に触れる事が出来るようになった。(特に最新のChatGPT o1 PROでは具体に止まらず、より抽象的な問題を解けるという話をXで見た)

今後私たちに求められていくスキルというのは徐々に変化していき、学校で扱う教材も変わっていくのかなと思った。

具体にのみフォーカスすると問題の根本解決が行われない

本の内容

問題解決は具体・抽象を観点に以下の三つに分類分けする事ができるという。

具体→具体
具体→具体と抽象レベルがない「表面上の問題解決」
言われた通り何も考えずそのまま対応するというパターンで「値段が高いと言われたので下げた」といったもの。
また、「前例があるからやる」や「成功体験をそのまま問題に当てはめる」などが挙がる。

抽象→抽象
具体→具体と具体レベルがない「机上の問題解決」
「少子化対策について検討しております」といった具体性のない答えているようで答えていないパターン。
失敗が出来ない官僚的な組織などで見受けられるそう。

具体→抽象→具体
「根本的問題解決」で本書が目指すパターン
発生した問題をしっかりと具体化した後に抽象化により根本的問題を捉え、さらに解決の為具体に下すもの。

所感

三つの中でも陥りがちな「具体→具体」という抽象レベルがない「表面的な問題解決」について深ぼっていく。
「具体のみ」は発生した問題部分のみをフォーカスして何も考えずに解決策を展開するもので、例として以下のような事例が思いつく。

ケース1

息子が友達の女の子を泣かせてしまったので息子を説教した。

ケース2

部下に仕事を任せたところ、数値が間違っている資料を先方に送信していた。
理由を聞いたところ時間がなく数値の計算の確認を怠っていたとの事だったので資料をレビューする仕組みを導入した。

ケース2については一つ上の抽象レベルに上がってはいるものの再発防止策を導入しただけで根本的解決とは言えないもので「具体→具体」の良い例となっている。

ではどのようなアプローチをするべきかと言うと、このようなインシデントが発生した際は根本的原因の追求再発防止策の導入を行うべきだと考えている。
なぜなら根本的原因の追求を行わずに再発防止策の導入のみを行なうという事は、蜂の巣ではなく蜂単体を駆除するのと同じでまた別の蜂を駆除する羽目になるからだ。加えて部下にとってみれば再発防止策のみを導入した上司は問題を見て見ぬふりをしているように思え信頼関係に悪い影響を与えるものとなってしまう。

そうは言っても問題解決のフレームワークとして使用されるロジックツリー(Why?を木構造的に積み上げていく手法)では深さ=8でようやく根本原因に辿り着けるといわれている為、根本的原因の追求を行うことは想像以上に忍耐強さが求められる。(問題にもよるやろというツッコミはある)

以下上述の事例における今後起こり得る展開。

ケース1

息子が友達の女の子を泣かせてしまったので息子を説教した。

  • 仮に息子が過酷ないじめを受けており、耐えきれず加害者の女の子に反抗した結果だった場合、息子に対するいじめは続き、かつ親への信頼を損ねる結果となる。

ケース2

部下に仕事を任せたところ、数値が間違っている資料を先方に送信していた。
理由を聞いたところ時間がなく数値の計算の確認を怠っていたとの事だったので資料をレビューする仕組みを導入した。

  • 数値の計算の確認を怠っていた原因は残業時間の多さからなる睡眠不足によるものだった。再発防止策として資料をレビューするようにはなり数値の誤った資料を先方に送信する事例は聞かなくなったが、部下は睡眠不足から営業成績が落ち始め経営にも影響が出始めてしまった。

このような空回りどころか悪手ともいえる解決策を展開するのではなく「具体→抽象→具体」とまずは現実の問題を具体的に捉え、それを抽象化(Why?を問い続ける)し根本課題を突き詰め、最後にそれを実施する為に具体化を行うべきだと改めて思う。

その一方、そもそも 具体を捉えるというのは私たちが想像している以上に難しいと思っており、一例として意思決定に慣れていない人(私もだが)と一つの課題について議論していると考え抜かれていない意見、いわゆるジャストアイデアを挙げてくることがそこそこある。
話を聞くと発生している問題への理解が曖昧だったり、解決策がMECE(漏れなくダブりなく)でない事が多いので私自身これから具体化のIN/OUTは全力で考え抜けるようにしていきたい。

抽象化とは「マジックミラーを破る」こと

本の内容

抽象化とは具体の世界から抽象度を上げることで具体 ⇄ 抽象ピラミッドの上に上がる事を意味する。
言い換えると抽象化できていないと言うことは抽象の世界が見えておらず言わば暗黒世界のようになってしまっている。
このように下(具体の世界)から上(抽象の世界)を見上げたとしても何があるかわからない状態を 「ガラスの天井」 と呼ぶそう。(ググると女性の社会進出の意味合いで使われる事の方が多そう)
逆はどうかと言うと抽象の世界にいる人は五感で感じ取れる為、具体の世界が見えているのだという。

問題解決という場面においてどのような差が生まれるかについてだが、具体の世界に生きる人は先の「具体→具体」といった言わば前例踏襲や再発防止策の実施などのアプローチとなる、与条件や外部環境が変わらない状況下においてはある程度効果があるが、現実はそうではなく安定期と変革期の連続である為どこかで誤った判断を行なってしまう。

一方抽象の世界で生きる人は前例踏襲する際にも「以前の背景や理由」と「今の背景や理由」を照らし合わせた上で実施判断を行なうなどメタ的視点に基づいたアプローチを行う為、安定期・変革期問わず活躍することとなる。

所感

まず思ったのは「抽象の世界の人は具体の世界を見えている」というのは強い表現だなと思った。

貨幣のような抽象の下に物々交換といった五感で感じ取れる具体がある場合には成り立つ話ではあるが現実はそうではなく、抽象の下に抽象があるケースがほとんどで、JavaやPythonといった高級言語を普段書いている私たちエンジニアが具体のボトムである機械語を理解しているかというとそんな訳はなく、何なら人によっては高級言語が実行されるまでの処理フローを全く理解していない人もいる。

仕事においては更に複雑で、ビジネスの流れを川に例えて上流・下流というが下流(現場)の状況はプロジェクトの中で常に変化し続けている。その為管理職の人間が現場を監視せずに管理業務ばかりに目を向けていては現場で発生している変化に気付けず誤った判断や重大なインシデントに繋がってしまうだろう。
私自身管理周りの仕事をし始めてから具体の仕事がボヤけてきた実感があるので「ガラスの天井」というのは上にも下にもあり、自分がいる領域から離れれば離れるほどボヤけて見えるものだと思うので意識的に抽象の縦軸を日々広げていく必要があるなと思った。

「頼む」「頼まれる」のメカニズム

本の内容

「頼む」人と「頼まれる」人とでは見ている抽象度が異なるため、具体と抽象によるコミュニケーションギャップが発生するという。そのようなギャップがどのようなメカニズムで発生しどのような問題になるか、そしてそれをどう解決していくかについて解説している。

頼み方には指示が具体的か抽象的か、期待が具体的か抽象的かの2x2で4通りありそれぞれ以下のような結果となり得る。

  • パターン1:指示は具体的で期待も具体的(面倒見の良い上司)
    a. 指示も期待も具体的なケースで新入社員などに有効
  • パターン2:指示は抽象的だが期待は具体的(部下は丸投げされたと感じる)
    a. 懇切丁寧な指示を期待している部下に「適当にやっておいていいよ」といった頼み方をしてしまっているパターン。期待が具体的な分、部下は丸投げされたと感じてしまう。
  • パターン3:指示は具体的だが期待は抽象的(マイクロマネジメント)
    a. やり方が定着している部下に手取り足取りやり方を支持するケース、自分のやり方で仕事を進めたい部下に対して細かい指示を行なってしまっている。
  • パターン4:指示は抽象的で期待も抽象的(任せるのが上手い)
    a. 好きなやり方でやっていいよと指示して部下が喜ぶケースでシニア層が期待する頼み方。

パターン2・4のような抽象度の高いシニア向けの指示の仕方は新入社員が見ている抽象・具体の世界に含まれない知識・考え方が必要となる為ミスマッチな指示であり、同じようにパターン1・3のような具体性の高いジュニア向けの指示は自分のやり方が定着しているシニアにはミスマッチなものとなる。

また、指示の抽象度の高さと結果のサプライズ具合のレンジは比例している為、注意が必要となる。

所感

忙しさを言い訳にパターン2をやってしまう事が多々ある自分にとっては耳が痛い話😇
新入社員にはパターン3→1→4の順番でタスクをアサインしていくのが定石なのかなと思った。
とはいえパターン2についても相手の理解度に合わせて抽象度を調整すればパターン1になり得るかと思うので上の図はあくまでも部下の理解度と指示の具体度で相対的に考えていきたい。

おわりに

「具体 ⇄ 抽象」トレーニング、とても良い本でしたし今回記事にして自分の考えをアウトプットしたことで本書の中でいう抽象(本の内容)→具体(自分の考えとして昇華)が出来て自分の中での知の発展を実感した😎

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