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分散型コンピューティング「AO」とは? - Hyper Parallel Computer

2025/02/27に公開

ブロックチェーン技術が進化を続ける中、従来のスマートコントラクトプラットフォームの限界を超える新たな分散型コンピューティングの波が来ています。
その中心にあるのが「AO」(読み方は「エーオー」)です。
AOは単なるブロックチェーンプロトコルではなく、無制限の並列処理能力を持つ分散型スーパーコンピュータと呼べるものです。
今回はこのAOの概要と技術的特徴を掘り下げていきます。

AOの基本概念:アクター指向の分散コンピューティング

AOの「AO」は「Actor Oriented(アクター指向)」を意味しています。
アクターモデルとは並行計算の一種で、独立した「アクター」と呼ばれる計算ユニットが非同期にメッセージを交換しながら動作するモデルです。
このモデルはErlangなどのプログラミング言語で採用されており、高い並行性と障害耐性を実現します。

従来のブロックチェーン(例:Ethereum)とAOの根本的な違いは、計算リソースの共有方法にあります。
Ethereumでは全ノードが同じ状態を共有し、シングルスレッドで順次処理を行うため、スケーラビリティに限界があります。
一方、AOはメモリを共有せず、メッセージパッシングによって通信する無数の独立したプロセスを並列実行できます。
この違いがAOのスケーラビリティの源泉です。

// 従来のブロックチェーン上のスマートコントラクト(概念的な例)
contract SharedState {
    uint256 public value;
    
    function updateValue(uint256 newValue) public {
        value = newValue; // 全ノードで同じ状態を共有
    }
}

// AOのアクター指向アプローチ(概念的な例)
// 各プロセスは独立して動作し、メッセージで通信
process ValueStore {
    local value = 0
    
    on receive "update" with newValue:
        value = newValue
        send acknowledgement to sender
}

AOの技術アーキテクチャ

AOは「単一システムイメージ(SSI)」として機能します。
これは物理的には分散していても、ユーザーからは単一のコンピューティング環境として見えるというものです。
SSIの概念はクラスタコンピューティングで用いられてきましたが、AOはこれを完全に分散化された環境で実現しています。

AOのアーキテクチャは主に三つのコンポーネントから構成されています。

  1. スケジューラユニット(SU):メッセージにユニークな順序付けをして、Arweaveに永続的に保存する役割を担います。

  2. コンピュートユニット(CU):実際にプロセスの状態を計算し、メッセージの処理結果を提供します。

  3. メッセンジャーユニット(MU):ユーザーやプロセス間でメッセージをリレーし、システム全体の連携を実現します。

これらのコンポーネントが連携することで、AOは分散型でありながら一貫した計算環境を提供します。
各「プロセス」は独立した計算単位であり、他のプロセスとはメッセージを通じてのみ通信します。

AO architecture

上図はAOにおけるメッセージの流れを示しています。ユーザーからのメッセージはMUを通じてSUに送られ、順序付けられた後Arweaveに保存されます。
CUはこれらのメッセージを処理し、結果を返します。

無制限のパラレルプロセスと拡張性

AOの最も大きな特徴の一つは、リソース制限のないプロセス実行能力です。
従来のスマートコントラクトプラットフォームでは、ガス代やブロックサイズの制限がありましたが、AOではそうした制約がありません。

-- AOプロセスの例(Lua言語)
-- 大規模データセットを処理できる
Handlers.add(
  "processData",
  function(msg)
    -- 巨大なデータセットを処理するコード
    local result = performComplexCalculation(msg.Data)
    ao.send({Target = msg.From, Data = result})
  end
)

さらに、AOはArweaveとのネイティブ統合により、無制限のデータストレージにアクセスできます。
プロセスは必要に応じてArweaveからデータを読み込み、巨大なデータセットに対しても処理を行うことが可能です。
これにより、機械学習モデルの実行や大規模なデータ分析など、従来のブロックチェーンでは不可能だった用途も実現できます。

AOのもう一つの重要な特徴は「自律起動」機能です。
従来のスマートコントラクトはユーザートランザクションによってのみ「起動」しますが、AOプロセスは定期的なcron処理のように自律的に実行されるよう設定できます。
この機能により、バックグラウンドタスクや定期的な処理を自動化するアプリケーションの開発が可能になります。

AOのセキュリティモデル

AOは「ホログラフィックステート」と呼ばれる概念を採用しています。
これは、プロセスの状態がメッセージのログによって暗黙的に定義されるという考え方です。
コンセンサスはメッセージの順序付けに対してのみ行われ、計算結果そのものについてはコンセンサスを取りません。

このアプローチにより、各ノードは自分に関連するプロセスの状態のみを計算すればよく、全てのプロセスの状態を検証する必要がありません。
これがAOのスケーラビリティの鍵となっています。

また、AOのセキュリティモデルは「AO-Sec Origin」というプロセスを中心に構築されています。
これは経済的セキュリティを提供するための基盤であり、様々なセキュリティメカニズムのためのトークンステーキングを可能にします。

セキュリティ面での柔軟性も特筆すべき点です。AOでは各プロセスがどのセキュリティモデルを採用するかを自由に選択できます。
高セキュリティが必要なプロセスは複数の検証者からの承認を要求する設定にしたり、速度優先のプロセスはより軽量なセキュリティ設定を選んだりすることが可能です。

AOエコシステムの開発ツール

AOエコシステムには、開発者向けに様々なツールが用意されています。

aos: AOオペレーティングシステム

aosはAOの対話型シェルであり、プロセスの作成や管理、メッセージの送受信などを行うことができます。
LuaベースのAPIを提供しており、簡単にAOプロセスを開発できます。

# aosのインストール
npm i -g https://get_ao.g8way.io

# プロセスの起動
aos

aoconnect: JavaScriptライブラリ

aoconnectはJavaScript/TypeScriptで書かれたライブラリで、ブラウザやNode.jsからAOとやり取りするための機能を提供します。

// プロセスへのメッセージ送信例
import { message, createDataItemSigner } from "@permaweb/aoconnect";

await message({
  process: "process-ID",
  tags: [
    { name: "Action", value: "Ping" }
  ],
  signer: createDataItemSigner(wallet),
})

AO開発CLI: モジュール開発のための環境

最近リリースされた「AO dev-cli」は、AOのWASMモジュールをビルドするためのツールです。
LuaだけでなくC/C++などの言語でのモジュール開発もサポートし、より高度なカスタマイズが可能になっています。

# プロジェクトの初期化とビルド
ao init myproject
cd myproject
ao build

アプリケーション開発事例とユースケース

AOの柔軟性とスケーラビリティを活かしたアプリケーション開発が進んでいます。

スマートコントラクト開発の新パラダイム

AOでは、プロセス間のメッセージパッシングを基本としたモジュラーな設計が可能です。
これにより、複雑な機能を持つアプリケーションでも、小さなプロセスの組み合わせとして実装できます。

トークン実装とDeFiの可能性

AOでは簡単にトークンやその他の金融プリミティブを実装できます。
以下はシンプルなトークン実装の例です。

-- シンプルなトークン実装例
if not Balances then Balances = { [ao.id] = 100000000000000 } end

Handlers.add('Transfer', Handlers.utils.hasMatchingTag('Action', 'Transfer'), function(msg)
  assert(type(msg.Tags.Recipient) == 'string', 'Recipient is required!')
  assert(type(msg.Tags.Quantity) == 'string', 'Quantity is required!')

  local qty = tonumber(msg.Tags.Quantity)
  assert(Balances[msg.From] >= qty, 'Insufficient Balance!')
  
  Balances[msg.From] = Balances[msg.From] - qty
  Balances[msg.Tags.Recipient] = (Balances[msg.Tags.Recipient] or 0) + qty
  
  ao.send({
    Target = msg.From,
    Tags = { ["Action"] = 'Debit-Notice' }
  })
  ao.send({
    Target = msg.Tags.Recipient,
    Tags = { ["Action"] = 'Credit-Notice' }
  })
end)

AIや機械学習との統合

AOの無制限リソース実行環境は、AIモデルの実行や大規模データ分析など、従来のブロックチェーンでは不可能だった用途に適しています。
これにより、オンチェーンでAIを活用したアプリケーションの開発が現実的になります。

AOの今後:マイルストーンとロードマップ

AO開発は着実に進んでおり、最近では「AOコアリレー」が実装され、支払い機能がリリースされました。
これにより、HyperBEAMノードを通じてAOへの支払いゲートウェイが実現しています。

今後のロードマップには、さらなるクロスチェーン機能の拡張や、開発ツールの充実などが含まれています。
AOエコシステムは急速に成長しており、様々な開発者コミュニティからの参加も増えています。

まとめ

AOは従来のブロックチェーンベースのスマートコントラクトプラットフォームの限界を超え、真に分散化されたコンピューティング環境を提供します。
アクター指向のアーキテクチャ、無制限の並列処理能力、柔軟なセキュリティモデルなど、多くの革新的特徴を備えています。

開発者にとって、AOは新たな可能性を開くプラットフォームであり、これまで技術的制約で実現できなかったアプリケーションの開発が可能になります。
今後の発展が非常に楽しみな技術であり、Web3の次世代を担う重要なインフラストラクチャになると期待されています。

Arweave Japan

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