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分散型ストレージ「Arweave」とは - Pay once, store forever

2025/02/26に公開

Arweaveとは:永続的な分散型データストレージの仕組み

Arweaveは、「Pay once, store forever(一度支払えば永久に保存)」というコンセプトを実現するために設計された分散型データストレージプロトコルです。
従来のクラウドストレージが定期的な支払いを必要とするのに対し、Arweaveでは一度の支払いでデータを永続的に保存することができます。

Arweaveの核となる技術は「blockweave(ブロックウィーブ)」と呼ばれる独自のデータ構造で、これは従来のブロックチェーンを拡張し、効率的な大容量データストレージのために最適化されています。従来のブロックチェーンとの主な違いは、各ブロックが単に前のブロックだけでなく、過去のランダムな「リコールブロック」にもリンクしていることです。
この構造により、ネットワーク参加者(マイナー)はデータをアクセス可能な状態で保持するインセンティブを持ち、効率的なデータ検証メカニズムが実現します。

Arweaveのアーキテクチャ:ブロックチェーンからブロックウィーブへ

ブロックウィーブ構造の特徴

従来のブロックチェーンでは、各ブロックは前のブロックのハッシュを含むことで連鎖しています。
一方、Arweaveのブロックウィーブでは、各ブロックが2つのブロックへのリンクを持ちます。

  1. 前のブロック(通常のブロックチェーンと同様)
  2. ランダムに選択された過去のブロック(「リコールブロック」)

この二重リンク構造により、ネットワークは過去のデータへのランダムなアクセスを頻繁に必要とするため、参加者はデータを維持するインセンティブを持ちます。

2.2 リコールブロックとリンケージの仕組み

リコールブロックの選択は、前のブロックのハッシュとブロック高に基づいて決定されます。
この決定論的だが予測不可能な選択メカニズムにより、マイナーは新しいブロックをマイニングするためにリコールブロックを保持している必要があります。

リコールブロック高 = 前ブロックのハッシュ % 前ブロック高

この仕組みにより、ネットワーク全体で過去のブロックが適切に保存・複製されることを保証しています。

データの可用性とアクセシビリティの確保

Arweaveでは、トランザクションデータは256KiBのチャンクに分割され、マークルツリー構造で管理されます。
これにより、効率的なデータ検証と取得が可能になります。
データはネットワーク全体で複製され、一部のノードが離脱してもデータの可用性が損なわれないよう設計されています。

ブロックシャドウによる効率的なデータ配信

Arweaveは「ブロックシャドウ」と呼ばれる技術を採用しており、新しいブロックが生成された際に完全なブロックではなく、最小限の情報のみをネットワーク上で共有します。
これにより、大量のデータを含むブロックであっても、ネットワークの帯域幅要件を大幅に削減することができます。

Proof of Accessとストレージインセンティブモデル

Proof of Accessの概念と実装

Proof of Access(PoA)は、Arweaveが採用する独自のコンセンサスメカニズムです。
これは、マイナーがリコールブロックにアクセスできることを証明するためのものです。

PoAのプロセスは以下の通りです。

  1. 新しいブロックのマイニングを試みるノードは、リコールブロックにアクセスできる必要がある
  2. ノードはリコールブロックのデータをPoW(Proof of Work)のハッシュ計算に含める
  3. 有効なハッシュを見つけると、そのノードは新しいブロックを生成できる

このメカニズムにより、マイナーは過去のデータへのアクセスを維持するインセンティブを持ちます。

マイナーのインセンティブ構造

Arweaveのマイナーは主に二つの方法で報酬を得ます。

  1. ブロック報酬: 新しいブロックの生成に対する報酬
  2. トランザクション手数料: ユーザーがデータをアップロードする際に支払う手数料

興味深いのは、トランザクション手数料の大部分が「ストレージエンダウメント」と呼ばれるプールに移され、時間をかけてマイナーに分配される点です。

エンダウメントプールとトークンエコノミクス

ストレージエンダウメントは、データの長期保存を経済的に持続可能にする鍵となる仕組みです。
ユーザーがデータをアップロードする際に支払う手数料の大部分はこのプールに移され、マイナーへ継続的に分配されます。

ArweaveのネイティブトークンであるARの供給量は固定されており、インフレーション率は時間とともに減少する仕組みになっています。
これにより、トークンの希少性が確保されながらも、マイナーへのインセンティブが長期間維持されます。

ストレージ価格の決定メカニズム

Arweaveのストレージ価格は、以下の要素に基づいて決定されます。

  1. ストレージハードウェアのコスト
  2. ハードウェアの平均故障間隔時間(MTBF)
  3. 電力コスト

さらに、ストレージコストは時間とともに減少する傾向にあります(クライダーの法則)。
Arweaveのプロトコルはこの傾向を考慮し、データの永続的な保存に必要な一時払いの価格を算出します。

Arweaveのエコシステム:AO、AR.IO、Permaweb

AOコンピューターの役割と特徴

AOは、Arweave上に構築された分散型コンピューティングシステムで、「アクターモデル」に基づいています。
これにより、無制限の並列プロセスを実行できる環境が提供されています。

AOの主な特徴:

  • 並列性と効率性を実現する「アクター指向」モデル
  • Arweaveの永続的ストレージとの直接統合
  • プロセス間のメッセージパッシングによる協調
  • モジュラー設計によるカスタマイズ性の高さ

AOは、従来のスマートコントラクトプラットフォームの制限を超え、複雑な分散アプリケーションを構築するための強力な基盤となっています。

AR.IOネットワークとゲートウェイの機能

AR.IOは、Arweaveネットワークのアクセシビリティを向上させるために設計された分散型ゲートウェイネットワークです。
ゲートウェイノードはデータの読み書き、インデックス作成、クエリなどの重要な機能を提供します。

AR.IOの主要コンポーネント:

  • ゲートウェイアドレスレジストリ(GAR): ネットワーク上のゲートウェイを追跡
  • データ共有プロトコル: ゲートウェイ間のデータ効率的な共有を実現
  • コンテンツモデレーション: オペレーターが独自のコンテンツポリシーを実装
  • インセンティブメカニズム: ARIO トークンによるゲートウェイ運営者への報酬

AR.IOにより、ユーザーとアプリケーションはArweaveネットワークのデータに効率的にアクセスでき、開発者はより豊かなユーザーエクスペリエンスを構築できます。

Permaweb:永続的なWebの実現

Permawebは、Arweave上に構築された永続的なWebプラットフォームです。
従来のWebアプリケーションと同様に動作しますが、一度デプロイされると変更や削除ができないという特徴を持ちます。

Permawebの特徴:

  • HTTP標準と互換性があり、通常のWebブラウザでアクセス可能
  • コンテンツの改ざんや検閲に耐性
  • データの永続性が保証されている
  • 明確な所有権とプロベナンス(来歴)の記録

これにより、検閲に強く、永続的なWebコンテンツやアプリケーションを構築することが可能になります。

Arweave Name System (ArNS)の仕組み

ArNS(Arweave Name System)は、人間が読みやすい名前をArweaveのトランザクションIDにマッピングするシステムです。
これにより、長く複雑なトランザクションIDの代わりに、簡単な名前でコンテンツにアクセスできるようになります。

ArNSの主な機能:

  • 名前の登録とリース
  • 無制限の下位ドメイン(under_names)
  • 動的な価格モデル
  • スマートドメインとしての柔軟な設定

ArNSはAR.IOネットワークのゲートウェイによって解決され、ユーザーフレンドリーなエクスペリエンスを提供します。

開発者向けツール:Arweaveでの開発を始める方法

Arweaveエコシステムには、開発者がアプリケーションを構築するための多様なツールが用意されています。

Arweaveウォレットとキーの管理

開発を始めるには、まずArweaveウォレットが必要です。
これはデータのアップロードや取引のための資金を管理し、デジタル署名を生成するために使用されます。

// NodeJSでのウォレット作成例
const { createWallet } = require('arweave-wallet-generator');
const wallet = await createWallet();

ArweaveJS SDKの利用

ArweaveJSは、JavaScriptからArweaveネットワークとやり取りするための公式SDKです。

const Arweave = require('arweave');
const arweave = Arweave.init({
    host: 'arweave.net',
    port: 443,
    protocol: 'https'
});

// データのアップロード例
async function uploadData(data, wallet) {
    const tx = await arweave.createTransaction({ data }, wallet);
    await arweave.transactions.sign(tx, wallet);
    await arweave.transactions.post(tx);
    return tx.id;
}

aosコンソールとaoconnect

aosは、AOプロセスと対話するためのコマンドラインツールで、Luaプログラミング言語を使用してAOプロセスを作成・管理します。

# aosのインストール
npm install -g https://get_ao.g8way.io

# プロセスの作成
aos myprocess

aoconnectは、JavaScript/TypeScriptからAOプロセスと対話するためのライブラリです。

import { message, createDataItemSigner } from "@permaweb/aoconnect";

// メッセージの送信
await message({
  process: "process-id",
  tags: [
    { name: "Action", value: "Greeting" }
  ],
  data: "Hello world!",
  signer: createDataItemSigner(wallet)
});

AR.IO ゲートウェイとGraphQL

AR.IOゲートウェイは、GraphQLエンドポイントを通じてArweaveデータのクエリを可能にします。

{
  transactions(
    tags: [
      { name: "App-Name", values: ["ArweaveApp"] }
    ]
    first: 10
  ) {
    edges {
      node {
        id
        owner { address }
        data { size }
        tags {
          name
          value
        }
      }
    }
  }
}

ユースケース:Arweaveの実装例と可能性

永続的なWebアプリケーション

Arweaveを使用して開発されたWebアプリケーションは、一度デプロイすると変更や削除ができません。これにより、検閲に強く、永続的なアプリケーションを構築できます。

例えば、Mirror.xyzという分散型ブログプラットフォームはArweaveを使用しており、一度公開されたコンテンツは永続的に保存されます。

NFTと永続的なメタデータ

NFT(非代替性トークン)のメタデータをArweaveに保存することで、NFTアセットの永続性を確保できます。
IPFS等の他の分散型ストレージと異なり、Arweaveでは一度の支払いで永続的なストレージが保証されます。

// NFTメタデータのアップロード例
const metadata = {
  name: "My NFT",
  description: "A unique digital asset",
  image: "ar://<Arweave TX ID for image>"
};

const metadataTxId = await uploadData(JSON.stringify(metadata), wallet);

分散型アーカイブとデータ保存

Arweaveは、重要なデータの長期保存に適しています。
例えば、歴史的記録、科学データ、ジャーナリズムなどの分野で利用されています。

インターネットアーカイブのような大規模なアーカイブプロジェクトでもArweaveの採用が進んでおり、重要な情報の永続的な保存が実現しています。

分散型ソーシャルメディア

検閲に強く、データの所有権が明確な分散型ソーシャルメディアプラットフォームの構築にもArweaveは活用されています。
従来の中央集権的なプラットフォームとは異なり、コンテンツの検閲や削除が困難であるため、表現の自由を守るツールとして機能します。

Arweaveの経済モデル:「一度支払えば永続的に保存」の仕組み

ストレージエンダウメントの詳細

Arweaveの「Pay once, store forever」モデルを支えるのがストレージエンダウメントです。
これは、データのアップロード時に支払われた手数料の大部分を保持し、時間をかけてマイナーに分配するプールです。

エンダウメントの計算式:

ストレージ永続コスト = データサイズ × GBHコスト × 時間

ここで重要なのは、ストレージコストが時間とともに減少する傾向(クライダーの法則)を考慮している点です。
この減少率が継続する限り、有限の支払いで無限の時間のストレージが理論的に可能になります。

ARトークンの供給と分配

ARトークンの供給量は以下のように設計されています:

  • ジェネシスブロックで55,000,000 AR
  • 追加で11,000,000 ARがマイニング報酬として徐々に供給
  • 最終的な上限は66,000,000 AR

これにより、希少性が確保されつつ、マイナーへのインセンティブが継続的に提供されます。

トランザクション価格の計算

トランザクション価格は複数の要素から構成されます。

  1. 永続ストレージコスト(ストレージエンダウメントへ)
  2. マイナーへの即時報酬(トランザクションを含めるインセンティブ)
トランザクション総コスト = 永続ストレージコスト + マイナー即時報酬

長期的な持続可能性のメカニズム

Arweaveのエコノミクスは以下の原則に基づいています。

  1. ストレージコストは時間とともに減少する
  2. エンダウメントからの報酬は長期間にわたって分配される
  3. マイナーは効率的なストレージ技術に投資するインセンティブを持つ

このモデルは、テクノロジーの進化による効率化を活かし、データの長期保存を経済的に持続可能にします。

Arweaveがもたらす情報の永続性と検閲耐性の意義

デジタル情報の消失と改ざんの問題

デジタル時代の皮肉は、情報量が爆発的に増加する一方で、その情報の寿命が短くなっていることです。ウェブサイトの平均寿命は数年程度とされ、「リンク切れ」は日常的な現象となっています。
また、中央集権的なプラットフォームでは情報の改ざんや削除が容易であり、デジタル記録の信頼性は常に脅かされています。

Arweaveによる情報の永続的保存

Arweaveは、この問題に対するソリューションを提供します。

  • データは一度アップロードされると変更不可能
  • ネットワーク全体でデータが複製され、単一障害点が存在しない
  • 経済的インセンティブにより、データの長期保存が保証される

これにより、重要な情報、歴史的記録、知識が将来の世代のために保存されることが可能になります。

検閲耐性と表現の自由

Arweaveネットワークの分散性により、情報の検閲が技術的に困難になります。
単一の権威や組織がコンテンツの削除を強制することはできません。
これは特に言論の自由が制限されている地域において重要な意味を持ちます。

プライバシーと責任のバランス

一方で、不変性はプライバシーの課題も提起します。
Arweaveのモデレーションシステムでは、各ノードオペレーターが独自のコンテンツポリシーを設定でき、ネットワーク全体で許容されるコンテンツに関する分散型の合意形成が可能です。

AR.IOネットワークでは、ゲートウェイがフィルタリングの役割を果たし、エンドユーザーが閲覧するコンテンツをコントロールできます。
これにより、情報の永続性を保ちながらも、社会的責任のバランスを取ることが可能になります。

他の分散型ストレージソリューションとの比較

IPFSとの比較

IPFS(InterPlanetary File System):

  • コンテンツアドレス指定型のP2Pファイル共有システム
  • データは「ピン」されている限り利用可能
  • 経済的インセンティブは標準では組み込まれていない

Arweave:

  • 一度支払えば永続的に保存
  • マイナーへの経済的インセンティブが組み込まれている
  • トランザクションIDによる参照とArNSによる名前解決

主な違い:
IPFSはデータの可用性に経済的保証がなく、ノードがデータを保持し続ける明確なインセンティブがありません。
一方、Arweaveはストレージエンダウメントによる長期的な経済的インセンティブを提供しています。

Filecoinとの比較

Filecoin:

  • IPFSに経済的インセンティブを追加したシステム
  • ストレージプロバイダーとクライアント間で時間ベースの契約
  • 継続的な支払いモデル

Arweave:

  • 一度の支払いで永続的なストレージ
  • グローバルなエンダウメントプールからの報酬
  • マイナーは全体のデータに対して報酬を得る

主な違い:
Filecoinは継続的な支払いモデルを採用しており、データの保存には定期的な更新が必要です。Arweaveは一度の支払いで理論上は永続的な保存を提供します。

Siaとの比較

Sia:

  • 分散型クラウドストレージマーケットプレイス
  • 時間ベースの契約とエスクローシステム
  • 継続的な支払いモデル

Arweave:

  • データの所有権と永続性に焦点
  • 一度の支払いモデル
  • ブロックウィーブ構造による効率的なデータ検証

主な違い:
Siaはより従来のクラウドストレージに近いモデルを採用しており、短期から中期のストレージに最適化されています。
Arweaveは長期的なデータ保存に焦点を当てています。

まとめ

Arweaveは単なる分散型ストレージプロトコルを超え、デジタル情報の永続性という重要な課題に対するソリューションです。ブロックウィーブというデータ構造、Proof of Accessコンセンサスメカニズム、そして持続可能な経済モデルを組み合わせることで、「一度支払えば永久に保存」を実現しています。

AOコンピューター、AR.IOネットワーク、Permawebといった補完的なコンポーネントは、このビジョンをさらに拡張し、開発者やユーザーにとって強力で使いやすいエコシステムを提供しています。

情報の消失や改ざんがデジタル時代の大きな課題となる中、Arweaveのような技術は私たちの集合的な知識と歴史を保存するための重要なツールとなるでしょう。
開発者として、この革新的なテクノロジーを理解し活用することで、情報の永続性という社会的課題の解決に貢献できることを願っています。

Arweave Japan

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