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作曲者のための四畳半アトモスシステム①

2024/04/25に公開

このセットアップが目指すこと:

  • Dolby Atmos Music音源を作成できること。
  • Dolby Atmos Music音源のミキシングをある程度スムーズに行えること。
  • Dolby Atmos Home Entertainment Studio Technical Guideline(以下、ガイドライン)のうち、
    • スピーカーが配置されるべき角度に準拠すること。

このセットアップが目指さないこと:

  • Dolby Atmos Music音源のマスタリングを行えること。
  • ガイドラインのうち、
    • スピーカーとの間に確保すべき距離について基準を満たすこと。
    • スピーカーが再生可能であるべき周波数帯域をフルでカバーすること。
    • 再生可能な音量の基準を満たすこと。

初めまして。エンジニアの大内です。

エンジニアといっても、私は普段、ITのエンジニアをしてお金をいただいています。よって、第三者の音源に対し、音の最終決定権を持ったこともなければ、その責任を負ったこともありません。体系的な勉強を受けたわけでもなければ、その予定もありません。
ですから、こういった記事を投稿することにも迷いましたが、いちユーザーの挑戦として捉えていただければ幸いです。

作曲者としてのモニタリング環境

マスタリングエンジニア・ミキシングエンジニアとして活動するには、より多くの人に作品の意匠を理解してもらえるよう、定量的な概念(等ラウドネス曲線など)も加味した上で音響上の調整を行うことが求められると思いますが、作曲者は作品の意匠を構築することに専念して良いのではないでしょうか?

A: 例えば私の友人は、音楽家として活動し、ベルリンやロンドンでも公演を行い、日本でも様々なシーンのアーティストとコラボレーションして活躍、またストリーミングの再生数も数十万を超えていますが、彼女のモニタリング環境は、Apple Earpods(白い有線イヤホン)です。

B: 各アーティストには音に対するこだわりがあり、それは必ずしも、万人に対する正解、皆が楽しめる音の最小公倍数ではないはずです。耳を刺すようなギター音を採用する場合もあれば、声がマスキングされるほどブーミーな808を採用する場合もあります。

少し極端な例を挙げましたが、モニタースピーカーと称し販売されている製品にはあまたの種類があり、周波数特性や位相特性はもちろん、その設置環境から使用音量まで様々です。各アーティストがなるべく再生可能帯域の広いスピーカーを選び、適切な距離と一定以上の音量を確保するのはあくまで努力義務だと思っています。

しかし、いざDolby Atmosに話を移すとなった途端、高額な機材がないとモニタリング環境をインストールできないとの確信に至ってしまい、その可能性へアクセスしないのは勿体なさすぎます。

今回、ガイドラインを参考にしつつ、日本の住宅事情や昨今の円相場によって実現が難しい項目については準拠しないものと割り切って、実験を進めていきます。

スピーカー選定、より大事なこと

スピーカーが音を再生するので、なるべく再生可能な帯域が広いものを選ぶ。最大音圧が高いものを選ぶ。といった考え方は、ステレオのセットアップにおいては間違いありません。
しかしDolby Atmosにおいては少し事情が変わってきます。

A: スピーカーを設置すべき位置(角度)があらかじめ決まっていますから、それを守らないことには話になりません。サラウンドスピーカーを前方に置いてしまえば、その状況下で作成された音源は想定通り再生されないだけでなく、マスタリングだけは有料スタジオで、というユースケースにも対応不能になってしまいます。

B: 角度が決まっているということは、部屋の状況に合わせてスピーカーを動かしたりすることも難しくなります。

以上の理由で、奮発して大口径のスピーカーを購入しても、吸音の必要性が生じてさらに出費がかさんだり、結局ローカットを施しスピーカーの能力をフルで使えない、といったことも考えられます。

スピーカー選定より大事なことは、「設置する部屋の状況を把握すること」です。

すでにモニタースピーカーをお持ちの方は、現在の部屋の特性をある程度把握していることかと思います。
特定の帯域が膨らむ・特定の帯域が欠けるといった現象が再現している場合、まずはその問題の解決にあたるのがよいでしょう。DSPやソフトウェアでの補正を視野に入れてもよいと考えます。

例えば160hz付近がブーミーだとして、ステレオではその条件を念頭におけば脳内補正できるかもしれません。しかし、単純計算でスピーカーをあと9機増やすと考えた時、問題は無視できないほど大きくなります。

スピーカー選定

部屋の状況を把握したところで、スピーカーを選定します。

A: 現在の部屋の環境で再生可能な出力の限界を、ステレオのシステムで使い切っている場合、たとえば、ベッドルームスタジオと呼ばれる6畳間に7インチウーファーの2Wayスピーカーをを置いて、十分な音量でモニタリングしている場合などは、そもそもスピーカーを設置する音量的な余裕がありません。現在お使いのスピーカーより出力が小さいモニタースピーカーを使用する必要があります。

B: スピーカーのモデル・シリーズを揃えてください。LchとRchで違うスピーカーを導入することが誤りであることは明確です。現在のステレオシステムをそのまま活かし、そのほかのスピーカーを「増設」することでAtmosシステムを実現しようとすると、かえってお金も時間も無駄に費やすことになるでしょう。

C: 妥協点を探ってください。私は恥ずかしながら、Yamaha HS5の音を聞いたことがなく、入門者向けのスピーカーと勘違いしていました。しかし楽器屋に出向き再生したところ、値段に見合わないクオリティの高さに驚き、広く使われる理由にも納得したことがありました。安価でもよい選択肢は増えています。前述した通り、鳴らしきれないスピーカーにお金をかけても意味がありません。実際店舗に出向いてサウンドを聴くのもとても大事です。

D: サイズ違いを許容してもよいと考えます。例えば、Yamaha HS8、HS7、HS5のようなシリーズ。または、Genelec 8040、8030、8020のようなシリーズ。センター(C)、L、Rの3台のみ、一回り大きなスピーカーを備えているスタジオ様もありますし、天井4ch(Ltf、Ltr、Rtf、Rtr)のみ、一回り小さなスピーカーを備えているスタジオ様もあります。これは工夫として許容していい範疇と考えます。

②に続きます。

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