中学生にAtCoderでプログラミングを教える記録 1回目 〜 背景と環境概要
この記事の内容
ソフトウェアエンジニアが中学生の子にプログラミングを教えていく様子を記録する。この記事は1回目。これまでやってきたことと、今回AtCoderにチャレンジするための環境について概要を記す。
3行で
- 10歳頃にScratchとSwiftPlayground、HumanResourceMachineでプログラミングに触れる
- 現在、公立中に通う13歳。自由に作るより、問題を解くほうが好きとのこと。AtCoderをやってみては、ということに。
- MacBookAirにVSCode等の環境を構築した。
子が小学生時代に学んだこと
Scratchの猫やSwiftPlaygroundのバイト君を動かしながら、プログラミングの基礎概念を習得した。
それらをいじってみた経験を通じて、「コードを書いてそれを実行すると、そこに書かれた通りに順番にコンピュータが動作する」ことを理解しており、変数、代入、四則演算、条件分岐、繰り返し、関数呼び出し、関数定義などの基本概念を習得している。
SwitchのHumanResourceMachineというゲームを時々プレイしている。アセンブラのような言語体系と、使いづらいエディタを駆使して、複雑な処理を書いている。これを書けるのなら、今の普通の構造化言語は書けるに決まっていると思い、教えるタイミングを虎視眈々と狙ってきた。
HumanResourceMachine は Switch だけでなく、iPhone や Android でもプレイできる。プチプラなので、興味のある方はプレイしてみてほしい。
私はZ80や370アセンブラ(IBMのメインフレームのアセンブラ)の経験があるが、このゲームでは子に勝てない。書きづらくて泣きが入る。もっと書きやすいモダンな言語で書かせてほしいし、IDEを使わせてくれ。
子の特性と現在の状況
こんな説明をすると、特別賢い子のように見えるかもしれないが、そういう感じでもない。親バカフィルタで見ると、何をしても「天才では!?」と思ってしまうが、いや、冷静になれ、そうではないのだ。この人は自分の気持ちに素直に行動する、平凡な公立中学生だ。ちょっとやってみて、ワカンネと思った瞬間に飽きてすぐ放り出すし、楽しんでいるかと思ったら次の瞬間には別のことをしていたり、かなりチャカチャカしている。私とは時間の流れが違うのだろう。いわゆる思春期だ。我が家では、思春期の人はそういう生き物なのだ、という前提で、こちらが接し方を考える方針でやっている。
思春期の人に対しては、話を持っていくタイミングや、楽しさに格別気を配らねばならない。会社の新人研修より百倍くらい「おもてなしの心」が必要だ。全国の思春期のお子さんをお持ちの保護者の皆さん。勝手に仲間意識を抱かせていただいております。いつもお疲れ様です。われわれは頑張っている。間違いない。思春期の相手をやっていれば、新人など可愛いものと思える。
中学生になって学校で英語を勉強した結果、コードやコマンドやメッセージなど、全体に抵抗感がなくなり、一部読めるようになってきているらしい。今になって、「小学のときは画面にあふれるアルファベットや記号が暗号のように見えて、なかなかやる気にならなかった」と、ぶっちゃけてくる。けっこう楽しそうだと思ったのに、なんだ、無理してたのかよ。笑 子供というのは気楽そうに見えて、実は大人が思うよりいろいろ考えているし、気を遣っている。親に合わせてくれる優しいところがあるいい子なのだ。
「プログラミングは作りたいものを作るのが一番いい」とよく言われるが、子はそのような自由課題に戸惑いを見せる。「課題を解いていくほうが好き」なのだそうだ。だがプログラミングは学校の勉強みたいに問題集が揃っているわけではない。HumanResourceMachineみたいなゲームがそうそうたくさんあるわけでもないし、競技プログラミングにチャレンジするのが良いかもしれないと考えた。
ではこのタイミングでAtCoderに挑戦してみるか。夏休みを使ってやってみることになった。
環境構築の方針
AtCoderはブラウザだけでもチャレンジできるが、初心者が試行錯誤しながら学んでいくには手がかりが少なく学習しづらい。文法エラーくらいは実行前に指摘してもらいたいし、デバッグ実行もしたい。この際、VSCode
でいろいろ試しながら理解を深められるよう、環境を作ることにした。
用意した環境
AtCoderやGitHubのアカウントの登録、操作に必要な基本コマンド(homebrew
やgit
など)のインストールなどはいちいち書かない。
- Python3.8 と仮想環境
-
online-judge-tools
とatcoder-cli
Visual Studio Code
1. Python3.8 と仮想環境
Python
かJavaScript
かどちらがいいか選ばせたところ、「Python
にしようかな」とのことで、インストールする。
-
python
のバージョン管理としてpyenv
をインストール -
pyenv
を使って3.8.13
をインストール
AtCoderではPython3
として3.8.2
が使用されているため、3.8
系の最新を使うことにした。その他3.10.5
もインストール。 - AtCoder用のフォルダを作り、そこで仮想環境を作っておく
mkdir AtCoder; cd AtCoder; python -m venv .venv
online-judge-tools
と atcoder-cli
2. この記事を参考にして、コマンドラインでAtCoderから問題やテスト入力などの取得、書いたコードの提出ができるようにした。
設定
~/Library/Preferences/atcoder-cli-nodejs
├── config.json
├── python3/
│ ├── solve.py*
│ └── template.json
└── session.json
{
"oj-path": "/Users/username/.pyenv/shims/oj",
"default-contest-dirname-format": "{ContestID}",
"default-task-dirname-format": "{tasklabel}",
"default-test-dirname-format": "tests",
"default-task-choice": "inquire",
"default-template": "python3"
}
#!/usr/bin/env python
{
"task": {
"program": [["solve.py", "solve_{TaskID}.py"]],
}
}
この設定をすると、たとえば abc 086 コンテストのA問題を取得した時にこうなる。
- フォルダ名…コンテストID
- 解答ファイル名…コンテストID+タスクID
Visual Studio Code
3. 必要な拡張機能をインストールし、設定をして、実行のハードルを下げておく。
-
Python
に必要な拡張機能 -
Command Runner
…VSCode
からコマンドを発行できる拡張機能
設定
Command Runner 設定
"command-runner.commands": {
"acc new": "cd ${workspaceFolder} && acc new ${input} && code -m $(\\ls -1t */*/solve*.py | head -1)",
"oj test": "cd ${fileDirname} && oj test -c ./${fileBasename} -d ./tests",
"acc submit": "cd ${fileDirname} && acc submit ./${fileBasename}",
"acc task": "cd ${fileDirname} && acc task"
},
この設定をすると、上記コマンドをタイプしなくても、一覧から選んで実行できるようになる。
デバッグ実行の構成
{
"version": "0.2.0",
"configurations": [
{
"name": "Python: 現在のファイル+入力1",
"type": "python",
"request": "launch",
"cwd": "${fileDirname}",
"program": "${file}",
"console": "integratedTerminal",
"args": ["<", "tests/sample-1.in"],
"justMyCode": true
},
{
"name": "Python: 現在のファイル+入力2",
"type": "python",
"request": "launch",
"cwd": "${fileDirname}",
"program": "${file}",
"console": "integratedTerminal",
"args": ["<", "tests/sample-2.in"],
"justMyCode": true
},
{
"name": "Python: 現在のファイル+入力3",
"type": "python",
"request": "launch",
"cwd": "${fileDirname}",
"program": "${file}",
"console": "integratedTerminal",
"args": ["<", "tests/sample-3.in"],
"justMyCode": true
}
]
}
この設定をすると、入力ファイルを選んでデバッグ実行できる。
ここまで支度してから、本人の余裕のあるタイミングで「今日やってみる?」とお伺いを立てるのだった。
【次の記事】
2回目はいよいよ子本人へのレクチャーを開始。とはいえコードは1行も書かない回。
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