書評:「Azure OpenAI Serviceではじめる ChatGPT/LLMシステム構築入門」
購入理由
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Azureを選んだ理由
AWS,GCP,Azureなどクラウドはいくつかありますが- まんべんなく浮気して結局どれも中途半端だったので1つ熟達したい
- ChatGPTと連携したサービスを考えたい
と考えて、パブリッククラウドで唯一OpenAI社のモデルをプロダクトに組み込んでいるAzureを選びました。
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この書籍を選んだ理由
日進月歩な領域なのでなるべく参照が新しいのは重要だと考えておりましたの2024年1月24日発売の「Azure OpenAI Serviceではじめる ChatGPT/LLMシステム構築入門」を購入しました。
おすすめポイント
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全体感というか結論
おすすめです。執筆次点(2024年5月)では電子書籍版が実質半額だったので購入したという下心もあったのですが、紙の本で購入しなおそうかと思っています。手元に物理的に置いておきたいです。- Azure内のサービスに限定されない、サービスの使い方の紹介に留まらない知識が身につくのがgood
- 「ChatGPTとは?」「プロンプトエンジニアリングとは?」のような概論
- AIオーケストレーションなどの構成についての知識
- などなど
- Azure内でどう実装するかの専門的な知識が身につくのがgood
- Azure OpenAI Serviceについて
- RAGの実装方法
- などなど
- Azure内のサービスに限定されない、サービスの使い方の紹介に留まらない知識が身につくのがgood
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特に刺さったポイント
実は技術的な内容もさることながら、著者の方の考え方や補足的な内容という斜め上の部分が刺さっておりまして、そちらについて述べたいと思っています。幸い検索したところ、こちらの書籍の書評は既にちらほらありましたので、本文の引用をしつつ紹介させていただきます。第8章 Copilotフロントエンド,p.300,columnより引用
自然言語入力は非常に手間がかかります。
(中略)
このあたりが検索エンジンが完全にLLMベースに置換され切らない理由なのではないかと筆者(伊藤)は考えています。正直自分は普段何かを調べるとき、めっきりgoogleを使わなくなりました。ほとんどChatGPTで済ませてしまっています。理由はいくつかあって、
- 課金しているので元をとりたいという貧乏根性
- 抽象的な、あいまいな事柄について回答が得られること
- 例(イテラブルという言葉をど忘れしたとき):forループの対象になる概念ってなんだっけ?
- ハルシネーションがあるだろ!という突っ込みにはgoogleで検索上位に出てくる胡散臭い記事があるのでどっこいどっこいでしょと個人的には思うこと
などが挙げられます。なのでこの書籍を読むまではLLM信者とまではいかないまでも、もう全部LLMでよくない?くらいには思っていました。
しかし、こちらの書籍の引用箇所を読んで、「確かに…!」と考えを改めました。引用の文章は音声インターフェースのコンテキストで出てくるものであり、手での入力の手間に関しては従来>LLMとなるので、手じゃない入力(音声)なら優位性が出てくる、という趣旨です。私もタイピングが速い方ではないのですが、現場にいくと一定の年齢以上の方にとって、早い遅いではなく、そもそもタイピングが苦痛という方を見かけることがあり、そことつながって来るなと感じました。今ChatGPTを使っているのは世間的に見るとまだ少数派であることを忘れ、もっと手前で詰まっている方を置いてけぼりにして技術を何でもかんでも置き換えてはいけないのだと思いました。完全に置換するのではなく、選択肢を増やすという著者の方の意見に強く感銘を受けました。
本来、LLMに関する本なので「全部LLMで解決できる!」のように書いた方が都合がよかったりするんじゃないかと思うんですが、敢えてその弱点に触れていく姿勢が素晴らしいと思いました。
p.388から付録B ChatGPTの仕組み(詳細)が始まるのですが、これが本当に素晴らしかったです。もしかしたら失礼に値するかもしれないんですが、この付録だけで元が取れるなと感じるレベルでした。
どう素晴らしいかと言うと、とにかくわかりやすかったです。
わかりやすかった点は以下が挙げられます。
- 文章が長すぎず簡潔
- 数式が出てこないので概念の理解に集中できる
- LLMの変遷において、従来モデルと新しいモデルの関係がわかりやすい
数式を書いて表現するであろうところを言葉で書いてくださっていて、「あーあの式ってそういうことを言っていたんだ」とアハ体験できます。数式アレルギーの人にはもちろんのこと、数式って割と読者側がその式の「気持ち」をくみ取る必要があると思うんですが、この本ではそれすら著者の方がやってくださっています。イメージとしては、本来は食材しか買うことはできないので、購入して家で料理下手な自分が料理をしなくてはいけないところを、同じ食材をプロの料理人が調理して作り置きしてくださっていた、みたいな感じです。
まとめ
斜め上の進め方で恐縮ですが、付録Bの内容が私の中では今まで読んできたどんな書籍や技術ブログよりもわかりやすかったので、ぜひこの書籍を購入した方は付録まで読みつくすことをおすすめします。もちろん本文も素晴らしかったので、興味のある方は書店などで手に取ってみてください。
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