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なぜAppleはiPhoneに指紋認証を復活させないのか

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前書き

iPhoneに関してよく目にする声として、

  • 「Face IDは便利だけど、やっぱり指紋認証も欲しい」
  • 「サイドボタンにTouch IDを仕込んでくれればいいのに」
  • 「Androidはどっちもできるのに!」

といったものがあります。

たしかにこれらはユーザビリティの観点ではもっともな意見です。

ですが私は、Appleが今後iPhoneに指紋認証を復活させることはないと考えています。

今回はその理由について、セキュリティの観点を中心に解説します。

💡 本記事は筆者の見解に基づいた推察です。


結論

  • 指紋認証とFace IDは同じ「生体認証」カテゴリーに属するため、認証要素として重複
  • 2種類の生体認証を導入しても2要素認証(2FA)にはならず、セキュリティ強化の根拠として弱い
  • AppleはFace IDをUXとセキュリティの両立手段と位置づけており、生体認証の分岐を好まない
  • Dynamic Islandの導入などからも、Face IDを中核技術とする方針がうかがえる

2FA(2要素認証)と指紋・顔認証

**2FA(Two-Factor Authentication)**は、「異なる認証要素を2つ使って本人確認を行うこと」です。主な認証要素は以下の3つに分類されます。

  1. 知識要素:パスワードやPINなど、本人が「知っている」情報
  2. 所持要素:スマートフォンやトークンなど、本人が「持っている」もの
  3. 生体要素:指紋、顔、声など、本人の「身体的特徴」

たとえば「パスワード + 顔認証」は異なる要素を組み合わせているため2FAとなりますが、「顔認証 + 指紋認証」はどちらも生体要素のため、2FAとは見なされません


Appleが指紋認証を復活させない理由(技術・運用面)

1. 生体認証のバッティング

Face IDに失敗した際、代替手段として指紋認証を許すと「生体情報 × 生体情報」という認証のリトライにすぎず、セキュリティ上の強化になりません。

これは**Authentication Assurance Level(AAL)**という米NISTが定める基準にも反します。

🔍 参考:NIST SP800-63-3
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/093e09a7-2ffe-4a41-971a-5c0dcfd3c0b3/20220125_meeting_trust_dx_01.pdf

2. AppleのUX方針とFace IDへの一本化

AppleはFace IDを「高セキュリティ × 高UX」の技術として推進しており、指紋認証との併用は設計の複雑化一貫性の欠如を生む可能性があります。

Dynamic Islandの導入や、Apple WatchへのTouch ID非搭載なども、Face ID中心主義の表れといえそうです。


Appleの公式見解

Appleのセキュリティガイドラインにも、以下のように記載されています。

Face ID とTouch IDはパスコードやパスワードに取って代わるものではありませんが、ほとんどの状況でアクセスをより速く、より簡単にします。

Appleプラットフォームセキュリティガイド(17ページ)

つまり、生体認証は便宜的なロック解除手段であり、Appleは常に「パスコードが最も重要」と考えていることがうかがえます。


補足:2段階認証と2要素認証の違い

よく混同されがちですが、

  • 2段階認証(2-Step Authentication):段階が2つある認証(例:パスワード+ワンタイムコード)
  • 2要素認証(2FA)異なる要素を組み合わせた認証

という違いがあります。

以下のような組み合わせは「2段階」ではあっても「2要素」ではない点に注意です。

認証方式 2FAとして有効? 備考
顔認証+指紋認証 同じ「生体情報」なので無効
パスワード+顔認証 知識要素+生体要素
PINコード+パスワード 両方とも知識要素

結論まとめ

  • Appleは指紋認証をiPhoneに再搭載しない可能性が高い
  • その理由は技術的な制約ではなく、セキュリティ設計の思想と一貫性の問題
  • Face IDによる生体認証はあくまでUX向上のための手段であり、Appleの認証フローにおける主軸は今もパスコード
  • 「指紋 + 顔」では2FAにならず、セキュリティ上の強化にもつながらない
  • AppleはFace IDを軸に、今後のUXとセキュリティ戦略を描いていると考えられる

参考リンク

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