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アナリティクスエンジニアの仕事はどこにあるか

2024/02/28に公開

データ分析・AIへの注目は引き続き強い一方で、データ系職種は細分化が進んだ影響でやりたいこととマッチするポジションを見つけることが難しくなっていると感じている。特に新しい領域に属するアナリティクスエンジニアリングはデータエンジニアとデータアナリストを繋ぐポジションということもあり

  • データエンジニアまたはデータアナリストの業務の一部として定義されている
  • ポジション名はアナリティクスエンジニアとなっているが、job descriptionを読んでみると求職者が想定している領域ではない

といったケースも見られる。

転職活動でアナリティクスエンジニアの仕事を探す際には、データ関連職種を総当たりで調べることもできなくはないが、アナリティクスエンジニアが必要とされやすい企業の特徴というものは一定存在するので、限られた時間を有効活用する上でも、ある程度の絞り込みは行いたい。

直近の転職活動で苦労した箇所でもあるので、今回はそうしたアナリティクスエンジニアが必要とされる企業の特徴・探し方について整理してみたい。

アナリティクスエンジニアの業務内容とポジション数

前提として、アナリティクスエンジニアの仕事内容はdbt Labsが提唱している定義を引用すると、データエンジニアとデータアナリストの中間的な役割を担う人材として、

  • データ変換処理に対してDevOpsのようなソフトウェアエンジニアリングのベストプラクティスを適用する
  • データアナリストなどビジネスサイドに提供するデータの品質を担保する
  • ドキュメンテーションなどを通じてデータ分析活動の生産性を向上させる

といった役割が期待されることが多い。さらに領域が拡張されて、組織内のデータ利活用の拡大やセマンティックレイヤーを使ったBIツールへの接続なども担当としている企業もある。

そのため、データを管理・運用できるエンジニアリングスキルと、整備したデータを実際に利用するビジネスサイドとのコミュニケーション能力・ビジネス理解を兼ね備えていることが求められる。

dbt Labs曰くアナリティクスエンジニアの採用によって、データ分析の生産性が10倍になることも珍しくないという。仮に50人の組織で各自が20%のリソースでデータ分析を行っており、1人のアナリティクスエンジニアの採用によってその生産性が10倍になったとすると、1人で9人分の余剰リソースを生み出すことができるになるため、かなりレバレッジを利かせられる職業であることがわかる。

しかしながら、アナリティクスエンジニアの求人数はまだ少ない。生まれて比較的間もないということもあるが、LinkedInで全世界を対象に求人を検索しても、データアナリストが29,000件、データエンジニアが27,000件に対して、アナリティクスエンジニアはまだ4,500件程度だ。

需要がないというよりかは、アナリティクスエンジニア専門のポジションを作るステージに達している企業が少ないことに理由がある。実際には誰かが担当すべきフェーズになっている会社でも、エンジニアリングスキルを身に着けた一部のデータアナリストが独自に頑張っていたり、データサイエンティストやデータエンジニア、データアーキテクトなどとしてスコープの広い求人が出ており、業務内容に実質アナリティクスエンジニアの領域も含まれる、というパターンが多い印象だった。

求職活動する側の戦略として、まずはアナリティクスエンジニアと呼ばれているポジションからリストアップしていくのは順当ではあるが、とはいえそれだけでは現状では応募できるポジションが限られてしまう。そのため、他のデータ関連職種も視野に入れて、事業内容やカルチャーの観点からアナリティクスエンジニアリングのニーズが高いか、実際に取り組めそうな企業かどうかを見極めていくと良い。

事業内容

当たり前であるが、アナリティクスエンジニアを必要とする企業はすでに保有するデータの価値を理解し、一定規模のデータ組織が存在するなど、活用がある程度の段階にまで進んでおり、データを整備するニーズが高い企業である。

このステージに達した企業はまだ限られており、一般的にはWebサービスやモバイルアプリなど、生成されるデータをデータ分析や機械学習モデルへのインプットといった形で活用することでプロダクトをさらに強化できる企業が先行している。また、データ組織がプロダクト側との距離が近い形で存在できるため、リソース確保や連携が行いやすいことも理由として考えられる。

特に、非IT産業で生まれているデータに対して、モバイルアプリやAIによる解析を提供するようなビジネスを行っている企業では、アナリティクスエンジニアが必要とされていることが多い。こうした企業にとっては、データは単なるマーケティング活動や経営管理のためだけではなく、製品そのものであるため、保有するデータを最大限に活用することがビジネスの成功に直結する。

こうした企業は、いわば既存の事業者が実現できなかったDXを代替している形になる。事業者から受領した生データを加工してプロダクトとして提供したり、テキストデータなど品質が安定しないデータを対象にしている場合は、プロダクトとしての水準を満たすデータ品質を担保することの難易度が高い。ほかにも、医療分野など提供するデータの品質が文字通り命に関わる場合や、法令の制約が厳しい領域でも、低品質なデータによる事業リスクが大きいため、品質担保の重要性が増す。そのため、こうした領域を専門とするアナリティクスエンジニアの需要が大きくなる。

逆の例として、複数店舗を持つ高級レストランの経営においては、マーケティング活動や在庫管理などでデータが活用できるが、良質な食材をどう調理するか、優秀なシェフをどこから確保するのかといったデータがあまり貢献できない課題も数多く存在する。このような業種だと、ITやデータ組織に対してリソースを割り当てるというトップダウンの合意形成ができるか、分社化などの形で独立した権限を与えない限りは、組織内でのリソースの奪い合いになる。そのため、カルチャー面での後押しが重要になってくる。

カルチャー

非Web系企業では、さきほどの例のようにデータ活用を進める難易度は高くなってしまうものの、経営層が積極的であるなど、データ活用が組織全体に浸透するようなカルチャーの醸成に成功している場合は、アナリティクスエンジニアが必要とされるケースが出てくる。

例えば、ビジネスサイドの社員でも一定のデータ分析リテラシーがあるような教育を行っており、BIツールやSQLを使ったデータ分析が日常の業務で行われている企業や、データアナリストが潤沢に確保できており、中央のデータ組織だけでなく各事業ごとにも配置できている企業などでは、各チームそれぞれで日々多くのデータ分析と意思決定が行われている。それ自体は望ましいことだが、各々が自由に集計することによって、データの品質が保証されない、データの定義がバラバラになってしまうなどの問題が発生する。

具体的には、マネジメント陣にチームAとチームBからレポートが提供されたが、微妙に数値が異なっており、どちらが正しいのかわからない、ということが起こりうる。もっと悪いケースを想定すると、それぞれのチームが間違ったデータを元に真逆の意思決定を行ってしまう、ということも起こりうる。

こうした状況では、各所で行われている無数のデータ分析に対して統制をかけ、一定の品質を保証できるチームを新設するインセンティブが出てくる。その新しいチームが、生データから分析に使いやすいDWHを作成する、データの定義を統一する、データの品質を保証する、などの役割を担うことで、点在するデータ分析者の負荷を減らし、生産性を上げることができるようになる。

非Web系企業でこうした体制が実現できている日本では企業はまだ多く見かけることはないが、AIブームの後押しもあり、データ活用を進める企業は今後も増えていくだろう。

アナリティクスエンジニアの仕事を見つけるには

データ活用を始めた企業はまずはビジネス職であるデータアナリストやデータサイエンティストの採用から始めるが、データ活用が一定の規模にまで拡大すると、業務効率化のためにデータの品質を保証する中間役としてのアナリティクスエンジニアの存在が必要になる。

アナリティクスエンジニアの仕事を見つけるには、

  • アナリティクスエンジニアとしての求人が出ている
  • データ活用が進んでいることを社外にアピールしており、データ関連職種の一業務として取り組める

企業に対してアプローチしていくのが良いだろう。アナリティクスエンジニアというポジションで求人が出ている場合は、少なくとも比較的新しい職種の名前を知っていて、データ職種を細分化した上で求人を出しているため、Hiring Manager以上のマネージャー層がデータ活用のトレンドを深く理解しており、既に一定の成果を上げていことが分かる。

他のポジションからアナリティクスエンジニアリング領域に取り組めるかを知りたい場合には、Job Descriptionの読み込みに加えて、以下のような質問をしてみると、アナリティクスエンジニアが必要となるフェーズに到達できているかをある程度類推することができる。

  • データ関連組織の規模・体制
    • 初期フェーズとしてデータサイエンティスト・データアナリストを最低限確保して実績を上げているか
    • データエンジニアリング業務は専任のデータエンジニアの確保やビジネス職でも運用できるマネージドサービスの導入が完了しているか
  • ビジネスサイドのデータ利用状況
    • BIツールの利用者数が非常に多く、Salesなど非データ分析職でも使いこなせているか
    • DWHから自らSQLを書いてデータを取得できるビジネス職が一定以上いるか

中長期的な需要トレンドについては、アナリティクスエンジニアは整えたデータの受け手なしに成立しない職種であるため、データアナリスト・データサイエンティストの需要とある程度相関する形になるだろう。古典的なデータエンジニアリング領域がマネージドサービスで置き換えられているように、何らかのイノベーションによってデータ分析職の需要が消滅すると、アナリティクスエンジニアも必要なくなる可能性はゼロではない。とはいえ、目下のところ多方面で脅威と目されている生成AIは、アナリティクスエンジニアにとってはドキュメンテーションや反復的なSQLクエリ作成などの作業を自動化してくれる味方であり、当面は牙を剥くことはないように見える。

その他参考文献

  • 日本企業でのデータ利活用状況の推移

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/eng/WP2020/chapter-3.pdf

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