第1回:BDD(振る舞い駆動開発)とは?AI時代における仕様管理への解決策
ChatGPTなどのAIツールを使ってコーディングするのは、もはや当たり前になりつつあります。私自身も日常的に活用していますが、仕様のやりとりがチャットの中に埋もれてしまい、後から確認・管理するのが難しいと感じる場面が増えてきました。
この問題を解決する方法の一つが、AIツールとBDD(振る舞い駆動開発)を組み合わせた開発ワークフローです。
本連載「AI × BDDで変わるソフトウェア開発|自動化と高品質を両立する新時代の開発手法」では、3回にわたってその具体的なワークフローをご紹介していきます。
キーワードは、「仕様を自然言語で記述し、それをもとにAIと開発とテストコード生成をする」 という新しいスタイル。仕様とコードの間のギャップを埋め、開発効率と品質を同時に高めるヒントが詰まったシリーズです。
📘 この連載の概要
ChatGPTやGitHub CopilotなどのAIツールが普及し、コードを"書く"スピードは劇的に向上しました。
しかし一方で、「そもそも何を作るべきか?」「この仕様はどこに残っているのか?」という課題はより深刻になっています。
この連載では、以下の要素を組み合わせた次世代の開発フローを提案します:
- BDD(Behavior Driven Development)による仕様の明文化
- Gherkin形式による自然言語シナリオ
- AIツールによるコード生成とテスト生成
- Playwright + Cucumberによる自動E2Eテストの実行
- 仕様・実装・テストをGit上で一元管理
👤 対象読者
- JavaScript / TypeScript の開発経験がある方
- AIツール(ChatGPTやCopilot)を開発に活かしてみたい方
- 自動テストやE2Eに興味がある方
- チーム開発で「仕様の齟齬」や「認識のズレ」を感じたことがある方
まず第1回では、その中核となる考え方「BDD(振る舞い駆動開発)」について掘り下げて解説します。
✅ この記事で分かること
- BDD(Behavior Driven Development・振る舞い駆動開発)とは何か?
- BDDが必要とされる背景(Three Amigosなど)
- 仕様・テスト・ドキュメントを1つにまとめる価値
- AIツールのチャットは“仕様管理”には向いていない
- AI時代こそ、なぜBDD的な考え方が重要になるのか?
💡 BDDとは?〜仕様・開発・テストの「共通言語」〜
BDD(振る舞い駆動開発)とは、「このアプリはどう振る舞うべきか?」を自然言語ベースのシナリオで定義し、それを仕様・テスト・ドキュメントとして活用する開発手法です。
🔍 背景:なぜBDDが必要なのか?
現代のチーム開発では、次の3者が密接に関わります:
- 👩💼 ビジネス担当(プロダクトオーナー)
- 👨💻 開発者(エンジニア)
- 🧪 テスト担当(QAエンジニア)
🧠 それぞれ「別のもの」を見ている現実
実際には、彼らはそれぞれ違う観点・ドキュメント・言語を見ながら開発に関わっています。
役割 | 見ているもの | 使っている言語や視点 |
---|---|---|
ビジネス担当 | 顧客の要望、価値、業務フロー | 自然言語、会話、スライド、Notion、Excelなど |
開発者 | 実装仕様、データ構造、技術要件 | TypeScript、API設計、IDE上のコード |
QAエンジニア | テスト条件、境界値、バグの再現性 | テストケース、テスト管理ツール(TestRailなど) |
このように、3人がそれぞれ“別のドキュメント”を見ている状態では、
仕様のズレ・テストの抜け漏れ・手戻りが起こりやすくなります。
🤝 BDDで「全員が同じものを見る」状態へ
BDDでは、この3者が 共通の自然言語シナリオ(=Gherkin) を作成・参照します。
- 👩💼 ビジネス担当は、Gherkinの
Feature
やScenario
を読んで「ビジネス要件が満たされているか」を判断 - 👨💻 開発者は、それに基づいて仕様通りのロジックを実装
- 🧪 QAは、同じGherkinからステップ定義を使って自動テストを実行・検証
このように、全員が“同じシナリオ”を軸に開発・テストを進められるようになるのが、BDDの最大のメリットです。
✅ BDDで書かれたシナリオの例(Gherkin)
Scenario: 正しいログイン
Given ユーザーがログインページを開いている
When 正しいメールアドレスとパスワードを入力する
Then マイページに遷移する
このシンプルな構文で、仕様・テスト・ドキュメントが一体となった資産をチームで共有できます。
テキストベースでコードの様に管理できるので、Gitで履歴が管理できるようになります。
🧱 チャットは“実装”には強いが、“仕様管理”には向いていない
AIはコード生成には非常に優れていますが、
それがどんな意図で書かれたのか、どんな要件に基づいているのかまでは
コードには自動的に記録されません。
- 🗑 仕様の意図が「使い捨てのチャット」に閉じ込められてしまう
- 📄 チームで共有すべき内容が、個人のチャットセッションに留まる
- 🔍 後からコードを読み返しても、要件やユースケースが再構成できない
先程の3人に加え もう1人仕様を共有する人が増えた ような状態ですねw
🧩 BDDはAI時代の仕様管理の解決策になる
Gherkinなどで書かれたBDDシナリオは:
- 📄 構造化された自然言語としてGitで管理できる
- 🧠 人間にもAIにも読みやすいフォーマットである
- 🔁 実装コードやテストコードと一緒にバージョン管理が可能
つまり、仕様をチャットに埋もれさせない唯一の手段がBDDとも言えます。
これはAI駆動開発における 「信頼できる仕様の見える化」 なのです。
🧭 この連載で実施するBDD・AI駆動開発の流れ
次の記事は
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第2回:Cucumber・Gherkin・Playwrightとは?BDDの必須ツール
ではBDDでの開発に必要なツールについて説明をします。
👨💻 著者について
東京とアムステルダムを拠点に、東欧やパキスタンのオフショアチームとフルスタック開発、QAコンサル、テスト自動化、BDD、PMあたりをやっています。
ChatGPTやPlaywrightを活かした自動テストや開発環境づくりのご相談も歓迎です。
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