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フレームワーク全盛時代の SOLID 原則再考

2025/02/22に公開

フレームワーク全盛時代の SOLID 原則再考

SOLID 原則とは?

SOLID 原則は、長い間ソフトウェア設計において重要な指針とされてきました。これらの原則は、コードの保守性や拡張性を高めることを目的としており、特にオブジェクト指向プログラミングにおいて強調されてきました。

  • Single Responsibility Principle(SRP: 単一責任の原則): クラスは単一の責任を持つべきであり、変更理由が一つに限定されるようにする。
  • Open-Closed Principle(OCP: 開放・閉鎖原則): ソフトウェアの拡張には開かれているが、修正には閉じているべき。
  • Liskov Substitution Principle(LSP: リスコフの置換原則): サブクラスは、基底クラスと置き換え可能であるべき。
  • Interface-Segregation Principle(ISP: インターフェース分離の原則): クライアントは自分が使わないメソッドへの依存を強制されるべきではない。
  • Dependency Inversion Principle(DIP: 依存関係逆転の原則): 高レベルモジュールは低レベルモジュールに依存すべきではなく、両者とも抽象に依存すべき。

これらの原則を適用することで、ソフトウェアの柔軟性が向上し、長期間にわたって持続可能なコードを実現できると考えられてきました。しかし、フレームワークの進化やクラウドの普及により、これらの原則を厳密に適用する必要性は変化しています。

フレームワークとクラウドが変えた設計のあり方

近年のフレームワークは、SOLID 原則の多くをあらかじめ実装済みの形で提供しています。これにより、開発者が個別に設計を工夫しなくても、多くのベストプラクティスを享受できる環境が整っています。

さらに、クラウド環境の台頭により、アプリケーション設計の観点が変わりました。オンプレミス環境では、拡張性やスケーラビリティを考慮した設計が求められることが多かったのに対し、クラウド環境では、必要な部分だけを効率的に利用するアーキテクチャが主流となっています。そのため、従来のオブジェクト指向の設計原則とは異なる視点での最適化が求められるようになっています。

特に、OCP(開放・閉鎖原則)と ISP(インターフェース分離の原則)の適用については、再考の余地があります。

Open-Closed Principle

OCP は、「ソフトウェアの拡張には開かれているが、修正には閉じているべき」という原則です。従来、この原則を実現するために、開発者は抽象クラスやインターフェースを設計し、将来的な拡張を見越したコードを記述することが推奨されてきました。

しかし、現代のフレームワークは既にこの原則を強力にサポートしています。例えば、Spring や Laravel のようなフレームワークでは、プラグインアーキテクチャや DI(依存性注入)によって、変更を最小限に抑えながら新しい機能を追加できます。

このため、アプリケーションレベルで過度に OCP を意識して抽象化を行うことは、

  • 深いクラス階層の増加によるコードの複雑化
  • フレームワークとの整合性の低下
  • 拡張を見越したが結局不要だった抽象の増加

といった問題を引き起こし、むしろメンテナンス性を損なう可能性があります。そのため、現在の開発では、「拡張のための設計をあらかじめ行う」ことよりも、必要になった際に適切な変更を行うほうが効率的です。

Interface-Segregation Principle

ISP は、「クライアントは自分が使わないメソッドへの依存を強制されるべきでない」という原則です。これにより、インターフェースを細かく分割し、依存関係を最小限に抑える設計が推奨されてきました。

しかし、近年のフレームワークでは、標準的なインターフェースや DI コンテナを提供することで、この問題を解決済みです。例えば、

  • REST API のエンドポイントごとの役割分担
  • フレームワークが提供する汎用インターフェースの活用
  • 動的 DI による適切な依存関係の解決

といった機能によって、開発者が ISP を意識せずとも適切な設計が行えるようになっています。

むしろ、アプリケーション側でさらにインターフェースを分割しすぎると、

  • コードの見通しが悪化する
  • 実装が過剰に抽象化され、理解しにくくなる
  • フレームワークの標準 API との整合性が取れなくなる

といった弊害が生じる可能性があります。そのため、ISP を厳格に適用するのではなく、フレームワークの提供する抽象を活用しつつ、シンプルな設計を心がけることが重要です。

まとめ

SOLID 原則は、ソフトウェア設計の基本として今も価値のある概念です。しかし、フレームワークの進化とクラウド環境の変化によって、すべての原則を厳密に適用する必要性は低下しています。

現代のエンジニアリングでは、フレームワークなどの基本レイヤーが SOLID 原則に従った設計であることは理解しつつ、それを利用するレイヤーは逆に設計をシンプルに保つ努力がむしろ求められます。不要な抽象化を避け、フレームワークの設計意図を尊重することで、より柔軟で保守しやすいコードを実現できます。過剰な抽象は、将来的な拡張の妨げとなることもあるため、適度なバランスを見極めることが重要です。

技術の進化に合わせて、設計原則も柔軟に捉え直すことが求められています。

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