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場の量子論と格子正則化について

2021/12/10に公開

この回では、(相対論的な) 場の量子論と、格子正則化の話をしてみたいと思います。大学2-3年生位の話で頑張りたかったのですが、どうしても難しくなってしまいました。もし理解できなくても、あなたは悪くないです。

また符号・規格化などがあやしいところが多々ありますが、エッセンスは間違っていないと思います。ただ、おかしいと思ったら手元の教科書でご確認ください。

場の理論・ 場の量子論とは?

物理学において、場とは何でしょうか。色々な回答があるとは思いますが、ここでは空間座標と時間の関数の事だと思えば良いです。量子性を考慮しない範疇、つまり古典論では、偏微分方程式を解くことによってよって場(という関数)が定まります。

数学を少し知ってる人向けの話ですが、場は関数というよりは、ファイバーバンドルのセクションです。

例を考えてみると、わかりやすいかもしれません。代表的な例はMaxwell 方程式でしょう。

(\partial_x,\partial_y,\partial_y)\cdot\vec{E}(x) = \rho(x)

これはその一部のガウスの法則ですが、これを解くと、電場というベクトル場\vec{E}(x) (つまりはベクトル値関数)が定まります。そしてベクトル場と荷電粒子の力学系を解く、というのが古典力学でなされるパターンですね。

さて、素粒子を研究している物理学者が単に「場の理論」といった場合、それは場の「量子論」のことを指します。この記事では場の量子論、そしてその正則化とは何なのかを見ていきます。

以下では、統計力学(イジング模型)、調和振動子(古典、量子)、場の量子論(クライン・ゴルドン場)、正則化、格子ゲージ理論の順にお話していきます。

イントロ1/3 イジング模型

統計力学では、まずハミルトニアンがあり、その分配関数が閉じた形で求められれば、色々な熱力学的な量が計算できたのでした。

これはネタバレなのですが、実は場の理論も統計力学と似た構造をもちます。なので1次元のイジング模型 (イジングの師匠のレンツが考えた磁石のトイモデル) で振り返ってみましょう。

イジング模型のハミルトニアンは、s_i \in \{-1,1\}、そしてiを格子点の番号、N個のサイト(格子点)があるとして

H[s] = -\sum_{<j,k>}^N s_j s_{k}

<j,k>は最隣接の項のみの足し算を意味します。また[\;\cdot\;]sに関しての汎関数(今の場合、s_1,s_2,\cdots,s_Nのすべての値によって決まる、多変数関数と思えば良いです。)ということを表しています。隣同士のsが同じ符号だとエネルギーが下がります。

統計力学で興味があるのは、以下の期待値です。逆温度\beta=1/Tでの期待値は、

\langle O[s] \rangle_\beta = \frac{1}{Z(\beta)}\sum_{\{s_i\}_i} O[s] e^{-\beta H[s] }

と書けます。Z(\beta) = \sum_{\{s_i\}_i} e^{-\beta H[s] }は規格化定数です (\langle 1 \rangle_\beta=1を保証します)。また\sum_{\{s_i\}_i}はすべての可能な\{s_i\}_iの組み合わせです。たとえばN=3のとき、

  1. s_1,s_2, s_3 = +1,+1,+1
  2. s_1,s_2, s_3 = +1,+1,-1
  3. s_1,s_2, s_3 = +1,-1,+1
  4. s_1,s_2, s_3 = +1,-1,-1
  5. s_1,s_2, s_3 = -1,+1,+1
  6. s_1,s_2, s_3 = -1,+1,-1
  7. s_1,s_2, s_3 = -1,-1,+1
  8. s_1,s_2, s_3 = -1,-1,-1

2^3=8 通りの和になります。この和を状態和といいます。

状態和を使ってマクロな量、たとえば磁化(磁石の強さ)は

M (\beta) = \frac{1}{Z(\beta)}\sum_{\{s_i\}_i} (\sum_i s_i) e^{-\beta H[s] }

で計算されます。

非常に単純で有名な模型なので、計算法や応用は色々と議論されています。

  • 平均場近似、高温展開、低温展開、くりこみ群
  • 数値計算(モンテカルロ法、テンソルくりこみ群)
  • 機械学習(ニューラルネットを使用して相転移を判別。もしくはスピングラスとしてニューラルネットを解釈する、等)

上記のイジング模型は、1次元では常磁性相(いわゆる鉄っぽい相)しかありませんが、2次元以上では相転移をおこし、強磁性相(いわゆる磁石っぽい相)と常磁性相という非自明な相構造をもちます。

イントロ2/3 調和振動子(古典)

1次元の調和振動子1個

力学では調和振動子の運動を習うと思います。解析力学という枠組みでも同様に計算できます。

後に出てくるので、ラグランジュ形式から始め、ハミルトニアンを得ましょう。調和振動子のラグランジアンLは、座標をq、速度を\dot qとして、

L = \frac{m}{2}\dot{q}^2 - \frac{m \omega^2}{2}q^2

となります。あとに出てくる作用とはS=\int dt Lで関係します。運動量p

p = \frac{\partial L}{\partial \dot q}

で得られるので計算すると、p=m\dot qであることがわかります。そしてルジャンドル変換、

H = p \dot q - L

をすると、ハミルトニアンは、

H = \frac{1}{2m}p^2 + \frac{m \omega^2}{2}q^2

となります。

質量などに今は興味がないので、m=1\omega = 1とおくと、

H = \frac{1}{2}p^2 + \frac{1}{2}q^2

となります。

以下では使いませんが、このハミルトニアンに対して、ハミルトン方程式

\frac{d}{dt}q(t) = \frac{\partial H}{\partial p},
\frac{d}{dt}p(t) = -\frac{\partial H}{\partial q},

を計算すれば、運動方程式が定まり、運動方程式をtで積分をすれば運動がわかるのでした。

後述するように場は調和振動子の集まりだとみなせるのでここがスタート地点になります。

1次元のたくさんの調和振動子

調和振動子がたくさんつながったものは、物性論に出てくる原子の振動を表す模型になっています。

1次元空間で、1種類の原子がたくさんつながってる状況を考えます。i番目の原子の座標をq_i、運動量をp_iとするとハミルトニアンは

H = \frac{1}{2} \sum_i p_i^2 + \frac{1}{2}\sum_i (q_{i+1}-q_{i})^2,\\

となります。これが場の量子論の基礎となります。

イントロ2/3 調和振動子(量子)

この世は実は量子です。なので調和振動子も量子論にしてしまいしょう(雑な導入)。

1次元の調和振動子1個

量子化の手順は、正準変数(わからない人は力学変数と思ってください)のペアp, qに対して

[\hat{q},\hat{p}] = \mathrm{i}\hbar

を課すのでした。ここで[A,B] = AB-BAという正準交換関係です。また\hbarはディラック定数とよばれる物理定数です。
ただの数だったpqを演算子=作用素=無限次元の行列に格上げしてることに対応します。すると対応するハミルトニアン

H = \frac{1}{2}\hat{p}^2 + \frac{1}{2}\hat{q}^2

も無限次元の行列になります。これを対角化すると、エネルギーが固有値として出てきます (というのが量子力学なのでした)。

そのためには以下のような常套手段があります。

まず以下の昇降演算子を定義します。\omegaを復活させてみると、昇降演算子と呼ばれる演算子は

\begin{align} a=\sqrt{\frac{\omega}{2 \hbar}}\left(\hat{q}+\frac{\mathrm{i}}{\omega} \hat{p}\right)\\ a^\dagger=\sqrt{\frac{\omega}{2 \hbar}}\left(\hat{q}-\frac{\mathrm{i}}{\omega} \hat{p}\right) \end{align}

のように定義できます。pqについて解いて、ハミルトニアンに代入すると、

H = \hbar \omega \big(\hat a^\dagger \hat a + \frac{1}{2}\big)

が得られます。

こうすると、ハミルトニアンの基底状態(エネルギーが最も低い状態)を表す状態ベクトル|0\rangleは、

\hat a |0\rangle = 0

を満たすベクトルとして定義できます。そしてエネルギーが1つだけ高い状態を

|1\rangle = \hat a^\dagger |0\rangle

で作れます。一般にn番目に高エネルギーの状態は、

|n\rangle \propto(\hat a^\dagger)^n |0\rangle

と作ることができます。これはハミルトニアンを対角化する基底になっています。

量子力学を習ってない人は、

a = \begin{pmatrix} 0 & 1\\ 0 & 0 \end{pmatrix},\;\; a^\dagger = \begin{pmatrix} 0 & 0\\ 1 & 0 \end{pmatrix}

|0\rangle = \begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}|1\rangle = \begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}みたいな物をイメージしておいてください。この例は2次元ですが、調和振動子は、これの無限次元版になってます。

このような(一般に複素の)ベクトルが住んでいる空間をヒルベルト空間と言います。性質の良いベクトルの入った集合だと思って問題ありません。

a^\daggerはエネルギー準位をあげ、aはエネルギー準位を下げます。そのため昇降演算子と呼ばれます。

ハミルトニアンのn番目の固有値は、E_n = \langle n|H|n\rangleから

E_n = \hbar \omega \left(n+\frac{1}{2} \right)

とわかります。

以下では記号の煩雑性を避けるため、演算子であっても\hat{}をつけないことにします。

1次元のたくさんの調和振動子

調和振動子がたくさんあっても同様に、1個のときと同様に量子化できます。今は調和振動子がN個あるとしましょう。詳細は省きますが、量子化条件をi,j=1,2,3,\cdots ,Nとして

[q_i,p_j] = \mathrm{i}\hbar \delta_{i,j}

と取ります。\delta_{i,j}はクロネッカーのデルタです。ハミルトニアンは

H = \frac{1}{2} \sum_i p_i^2 + \frac{1}{2}\sum_i (q_{i+1}-q_{i})^2

だったので、うまく昇降演算子をa_k, a_k^\dagger (k=1,2,\cdots,N)とさだめると、

H = \sum_{k=1}^N \hbar \omega_k (a^\dagger_k a_k+\frac{1}{2})

とハミルトニアンが書けます。

これは、あるk番目の調和振動子の準位を上げ下げする昇降演算子a_ka_k^\daggerを作用させる形になっています。

つまり、N個の調和振動子がある場合には、最もエネルギーが低い状態(基底状態)は、

|\Omega\rangle \equiv |0\rangle_1 |0\rangle_2 \cdots |0\rangle_N \equiv |0\rangle_1 \otimes |0\rangle_2 \otimes \cdots \otimes |0\rangle_N = \bigotimes_{k=1}^N |0\rangle_k

となるわけです。これは、\forall ka_kに対し、a_k |\Omega\rangle = 0を満たします。

もし、k番目の調和振動子の準位を1つあげたければ、|\Omega \ranglea_k^\daggerを作用させれば良いわけです。こうやって状態を作ることができます (このような空間をフォック空間と呼びます)。

量子系の時間発展

物理量の測定目盛りを調節し、\hbar = 1の単位系を取ることにします。

量子力学において、系の状態ベクトルの時間発展は、シュレーディンガー方程式で記述されました。

\mathrm{i}\frac{d}{dt} |\Psi(t)\rangle = \hat{H} |\Psi(t)\rangle

これの形式解は、

|\Psi(t)\rangle = \mathrm{e}^{ -\mathrm{i} \hat{H}t } |\Psi(0)\rangle

です。特に\mathrm{e}^{ -\mathrm{i} \hat{H}t }は時間発展演算子と呼ばれます。

この |\Psi(t)\rangle をつかって期待値を取ると、ある時刻での物理量がどれくらいの大きさで観測されるかがわかるわけです。

量子力学での経路積分

ここから少しアドバンスドな話題になります。ファインマンによると、

\text{演算子形式の量子力学の振幅}=\text{経路積分と呼ばれる連続無限次元積分}

です。たとえば初期状態を|i\rangle、時間がtだけあとの終状態を|f\rangleとすると、

\langle f|e^{-\mathrm{i}\hat{H} t}|i\rangle \sim \int_{\psi(0)=i\\\psi(t)=f}\mathcal{D}x e^{\mathrm{i}S[x]}

となります (難しい議論を避けるために比例定数などをごまかしてます)。Sはハミルトニアンに対応するラグランジアンを積分した作用です。ここで、\mathcal{D}xは経路積分測度と呼ばれるもので、

\mathcal{D}x = \prod_{t\in \mathbb{R}} dx(t)

です。つまり 連続無限個の多重積分です

(習ったことがある人は) よく導出を思い出してみると、時間をt = i a, i=1,2,3\cdots, N と離散化していました。aは離散化間隔です。なので離散バージョンの極限だと思ってみると上の式は、

\mathcal{D}x =\lim_{a \to 0, \\Na=t} \prod_{i=1}^N dx_i

です。a\to0の連続極限はN aが予め決めていた時間tに固定して取ります。

離散版の方は、計算法はよくわからなくても、定義はしっかりできることがわかります。定義とは、それぞれの積分の計算をしてからa \to 0をとれば良いというわけです。

時間の離散化に対応して、作用S[x]の中の運動項(微分項)も

\dot{x} = \frac{dx}{dt} \Rightarrow \lim_{a\to0}\frac{x_{i+1} - x_{i}}{a}

となることに注意してください。一方で、ポテンシャル項は影響を受けません。

場の量子論(連続時空)

場の古典論

相対論的な古典場の理論は、ローレンツ変換に対する応答性で決まる、さまざまな場を使って展開されます。量子論はそれを量子化して得られますが、まず場ローレンツ変換に対する応答性で決まるとはどういう意味でしょうか?

そのものの定義を与えるのは難しいのでたとえ話でごまかしたいと思います (興味のある人はローレンツ群の表現で調べてみてください)。

たとえばビー玉が敷き詰められたテーブルと鉛筆が敷き詰められたテーブルがあるとします。テーブルの回るように視点を変えた時にビー玉の方は同じ様に見えますが、鉛筆の方は区別できます。ローレンツ変換も似たことができ、ビー玉の方の様にローレンツ変換しても区別できないものをスカラー場、鉛筆の方のような区別できるものををベクトル場といいます(不正確な定義です)。場はこの様にローレンツ変換したときの結果がどうなるかで分類されています。実はローレンツ変換した結果の``複雑さ''がスピンと呼ばれる量になってるのですが、それについては場の理論の教科書を参照してください。

ベクトル場の典型例は電磁場でしょう。意味は説明しませんが真空中のマクスウェル方程式は、

\begin{array}{ll} \nabla \cdot \boldsymbol{B}(t, \boldsymbol{x}) & =0 \\ \nabla \times \boldsymbol{E}(t, \boldsymbol{x})+\frac{\partial \boldsymbol{B}(t, \boldsymbol{x})}{\partial t} & =\mathbf{0} \\ \nabla \cdot \boldsymbol{D}(t, \boldsymbol{x}) & = 0 \\ \nabla \times \boldsymbol{H}(t, \boldsymbol{x})-\frac{\partial \boldsymbol{D}(t, \boldsymbol{x})}{\partial t} & = \mathbf{0} \end{array}

ですが、これは

S[A] = -\frac{1}{4} \int d^4x F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}

という作用の変分から導くことができます。ここでF_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\muです。A_0は静電ポテンシャル、A_i (i=x,y,z)はベクトルポテンシャルです。また大カッコ[\cdot]という記号は場の汎関数(=関数の関数)であるという印です。解析力学で作用がxの汎関数になったのと同じです。また、\mu,\nuなど繰り返している記号に関しては\mu=0,1,2,3までの和を取っています(アインシュタインの規約)。F^{\mu\nu} = \eta^{\mu\rho}\eta^{\nu\sigma}F_{\rho\sigma}\eta = \operatorname{diag}(-1,1,1,1)としています。

電磁場は身近なのですが、電磁場の量子論を展開するには少し厄介な事(ゲージ固定など)があるのでここではスカラー場を考えてみましょう。(実際には格子ゲージ理論では非可換ゲージ理論もゲージ対称性を損なわないまま取り扱うことができます)。

スカラー場は、前述の通りローレンツ変換しても区別できないような場です。その支配方程式はクライン・ゴルドン方程式と呼ばれ、

(\partial^2 + m^2)\phi(x) = 0

とかけます。ここでx=(\vec{x},t)という4元ベクトルです。この\phi(x)はスカラー場と呼ばれるただの実関数なのですが、古典的対応物はなく、量子版のものしか現実世界には存在しません。量子版のスカラー場は、湯川のπ中間子や、ヒッグス粒子として観測されています。古典的な場として見える電磁場とは対照的です。この方程式は偏微分方程式なのですが、マクスウェル方程式と同様に初期条件などを設定して解くことができます (今回は解きません)。

クライン・ゴルドン方程式は、

S[\phi] = \int d^4x \frac{1}{2} \left(\phi\partial^2 \phi + m^2 \phi^2 \right)

という作用から変分原理で導出できます。

普通の解析力学と同じ要領でルジャンドル変換するとハミルトニアンが得られます。

H_\text{KG} = \int d^3 x\left[ \frac{1}{2} \pi^{2}(\vec{x})+\frac{1}{2}(\nabla \phi)^{2}(\vec{x})+\frac{1}{2} m^{2} \phi^{2}(\vec{x}) \right]

ここで\pi(x)は共役運動量(場)です。これはフーリエ表示すると、

H_\text{KG} =\frac{1}{2} \int \frac{d^{3} \vec{k}}{(2 \pi)^{3}}\left[\pi(\vec{k}) \pi(-\vec{k})+\left(\vec{k}^{2}+m^{2}\right) \phi(\vec{k}) \phi(-\vec{k})\right]

となります。これは(\vec{k}でラベルされる連続無限個の)調和振動子と本質的に同じであることがわかります。これを使うと量子論が展開できます。

場の量子論

量子力学のレシピに従って

[\hat\phi(\vec{x},t),\hat\pi(\vec{y},t)] = \mathrm{i} \hbar \delta^{(3)}(\vec{x}-\vec{y})

と正準交換関係を場に課し、ただの多変数関数(古典場)だった\phi(x)\pi(x)を演算子\hat\phi(x)\hat\pi(x)に格上げします。ここでtは時間で、上の交換関係を同時刻交換関係と呼びます (詳細は触れられませんが、ローレンツ変換も考えるとこれで十分であるとわかります)。

ここで座標\vec{x}や時間tは(量子力学とは違って) 演算子ではなく、ただのラベルであることに注意してください。たくさんの調和振動子の場合のインデックスiと同じ役割です。場の量子論では\vec xtは場の演算子を指定するただの(連続な)ラベルになります (余談ですが弦理論では逆で粒子の座標と時間も演算子になります)。

場の、時空全体での基底状態、いわゆる真空状態を定義してみましょう。まず場の線形結合を取り直し、生成消滅演算子を定義しましょう。調和振動子の昇降演算子と同じです。

\phi(\vec k)=\frac{1}{\sqrt{2 \omega_{\vec k}}}\left(a(k)+a^{\dagger}(k)\right), \pi(\vec k)=-\mathrm{i} \sqrt{\frac{\omega_{\vec k}}{2}}\left(a(k)-a^{\dagger}(k)\right)

となります。すると真空状態|vac\rangleは、任意の運動量kに対して

a(k)|vac\rangle = 0

を満たすベクトルとして特徴づけられます。ここでkは連続な運動量なので対応して

|vac\rangle = \bigotimes_{i\in\mathbb{R}^{3}} |0\rangle_i

となります。ここで|0\rangle_i はそれぞれの生成消滅演算子が作用する状態です。いま時空点が連続無限個あるので対応して 連続無限個のテンソル積 になっています。よくわかりませんか?僕にもよくわかりません。

ですが、このまま行きましょう。状態|\Psi\rangleの時間発展は、

\mathrm{e}^{-\mathrm{i} H_\text{KG} t} |\Psi\rangle

でかけます。このH_\text{KG}は場のハミルトニアンで、a(k)a^\dagger(k)で書かれています。

これを計算する手法の集まりが場の量子論ということができます。

また対応して経路積分形式でも得られます。たとえば真空の間の遷移確率(分配関数) Z

Z = \int \mathcal{D}\phi e^{\mathrm{i}S[\phi]} = \int \mathcal{D}\phi e^{\mathrm{i}\int \frac{d^4 k}{(2\pi)^4} [-\frac{1}{2}\phi k^2 \phi - \frac{m^2}{2}\phi^2]}

です。最後の等式はフーリエ表示で書きました。ここで\mathcal{D}\phiは場の経路積分測度で

\mathcal{D}\phi = \prod_{t\in \mathbb{R}}\prod_{\vec{x}\in \mathbb{R}^3} d\phi(\vec{x},t)

という連続無限次元 の積分を表します。各時空点でのあらゆる\phi\in \mathbb{R}の形の足し上げを意味します。これも、よくわかりませんがそんなものです。
一方で、フーリエ表示の分配関数を見てみると、ほぼ(連続無限の)ガウス積分であることがわかります。なので形式的には計算可能です。

場の量子論の中心的な計算対象は、相関関数と呼ばれるもので、

G(x,y) = \langle0| \top[\hat\phi(x)\hat\phi(y)] |0\rangle

といったものです。ここで\top は内側の演算子を因果律を守るように並べ替える時間順序演算子と呼ばれるものです。このような相関関数を計算できると、粒子の散乱断面積(衝突しやすさみたいな量)を計算でき、実験と比較することができます。相関関数の計算は、演算子形式でも経路積分形式でもできます (どちらでも構いません)。

たとえば経路積分形式だと、

G(x,y) =\frac{1}{Z} \int \mathcal{D}\phi e^{\mathrm{i}S[\phi]} \phi(x) \phi(y)

というある種のモーメント積分の無限次元版として計算できるわけです。このSも本質的には調和振動子、つまりほとんどガウス積分なので無限次元であろうと、形式的な計算はできるわけです。

今までは自由場(相互作用がない場合)で計算してきました。相互作用を考えないと粒子の衝突などが記述できません。スカラー場の場合にはたいてい作用(というかラグランジアン)に

\frac{\lambda}{4!}\phi^4(x)

という項を足すことになります。くりこみ可能性と言われるある種の無矛盾性条件(のようなもの) を満たし、系に要求する対称性を満たす限り、項を加えても大丈夫です。ここでは僕は、4次元でくりこみ可能で\phi\to-\phiの対称性を要求したのでこれしかありません。

相互作用をいれると、径路積分の計算ができなくなります。なぜなら自由場は本質的に調和振動子だったから計算できただけで、相互作用をいれると調和振動子でなくなるため計算できなくなります。経路積分形式の言葉では、自由場は本質的にガウス積分だったからできたわけで、ガウス積分に4乗をいれたら計算法はわかりません。

そこで普通は0<\lambda \ll 1を仮定し、e^{\lambda \int d^4x \phi^4(x)}をテイラー展開して、無限級数和と経路積分の順序を交換し、計算してしまいます。類似の1次元積分でみてみることにします。ガウス積分に4乗項が入ったとして、以下のようなものです。

\begin{align} z &= \int_{-\infty}^\infty dx \; e^{-\frac{1}{2}x^2-\frac{\lambda}{4!}x^4},\\ &= \int_{-\infty}^\infty dx \; e^{-\frac{1}{2}x^2}e^{-\frac{\lambda}{4!}x^4},\\ &= \int_{-\infty}^\infty dx \; e^{-\frac{1}{2}x^2}\sum_{n=0}^\infty \frac{1}{n!}[-\frac{\lambda}{4!}x^4]^n,\\ &\overset{?}=\sum_{n=0}^\infty \int_{-\infty}^\infty dx \; e^{-\frac{1}{2}x^2}\frac{1}{n!}[-\frac{\lambda}{4!}x^4]^n, \end{align}

これは摂動論と言われます。この(?)の部分の積分と無限和の順序交換は許されていませんが、漸近級数として意味を持っており、途中で足し上げるのを止めれば良い精度がでます。実際、量子電磁力学 (QED, Quantum electrodynamics) の摂動計算は12桁以上も実験値と一致することが確かめられています。

しかしながら摂動論で記述できない効果も多々あります。たとえばクォークの閉じ込め、カイラル対称性の自発的破れなどです。クォークの閉じ込めにより、単独クォークが観測できず、カイラル対称性の自発的破れのおかげで原子核は電子の2000倍の質量を得ています (もしなければ電子の10倍位です)。なので摂動論を超えた計算法が必要となるわけです。

また相互作用が入った場合には、無限自由度からくる発散が出てくることを付け加えておきます。

虚時間形式・松原形式

ここで少し奇妙ですが、\beta \in \mathbb{R}_{+}として

t \to -\mathrm{i}\beta

と置き換えてみることを考えてみます。すると時間発展演算子が変わるので、系の時間発展は、

\mathrm{e}^{-\mathrm{i} H_\text{KG} t} |\Psi\rangle \to \mathrm{e}^{-\beta H_\text{KG} } |\Psi\rangle

となります (\beta > 0でうまく収束するように符号を選びました)。

対応して、|n\rangleをハミルトニアンの固有状態とすると、時間発展演算子のトレースは

\operatorname{Tr}[ \mathrm{e}^{-\mathrm{i} H_\text{KG} t}] = \sum_{n} \langle n| \mathrm{e}^{-\mathrm{i} H_\text{KG} t} |n\rangle \to \sum_{n} \langle n| \mathrm{e}^{-\beta H_\text{KG} } |n\rangle = \sum_{n} \langle n| \mathrm{e}^{- \beta E^\text{KG}_n } |n\rangle = \sum_{n} \mathrm{e}^{- \beta E^\text{KG}_n }

統計力学のボルツマン重みになります。ここでE^\text{KG}_nはエネルギー準位です。これを松原形式 (虚時間形式)と言います (虚時間形式と松原形式は境界条件の自由度の分だけ正確には異なってもいいのですがここでは割愛します。松原形式では量子統計力学になるようにスピンごとに適切に境界条件を定める必要があります。素粒子における余剰次元と有限温度の対応からここから細谷機構なんかも出るのですが詳しくはSGCライブラリをご参照ください)。細かいことはおいておくと、

虚時間形式は、実時間と同じハミルトニアンを使う、虚時間で時間発展をする系 を考えてることに対応します。

虚時間形式でも物理量、たとえば相関関数などが計算できます。虚時間形式で得られた相関関数は解析接続を通して実時間 (ミンコフスキー時空とも言います)に変換できます(正確にはそこは仮定なんですが)。 またゲージ理論の非摂動効果のインスタントンの計算などにも虚時間形式が役立ちます。

なお場の理論の有限温度系を考える場合には、ミンコフスキーに戻らなくても熱力学量(温度と圧力の関係、松原グリーン関数等)を計算できるので解析接続は問題にはなりません。

(分かっている人向けの) 注意なのですが、ハミルトニアンは共通ですので、虚時間で計算しても実時間で計算しても時間に依存しない量は結果は同じになります。例えばQCDハミルトニアンの固有値であるハドロンの質量はどちらの形式でも同じになります。

この置き換えを経路積分形式で行うと、

Z = \int \mathcal{D}\phi e^{\mathrm{i}S[\phi]} \to \int \mathcal{D}\phi e^{-S_E[\phi]} = Z_E

となります。ここで

S_E[\phi] = \int_0^\beta d\tau \int d^3x (-\sum_{\mu=1}^4 \frac{1}{2} \phi \partial_\mu\partial_\mu\phi + V[\phi] )

というユークリッド作用と呼ばれるものです。実時間ならポテンシャル項の前は-ですが、虚時間形式だと+になります。つまり見た目はハミルトニアンと同じになります。

見てわかる通り、(ユークリッド形式の)場の量子論はほぼ統計力学です。なので実は統計力学の道具を利用することができます。道具というのはたとえば数値計算やくりこみ群、近年だと機械学習などです。楽しいですね。

アドバンスドな話で(僕も詳しくない話で)すが、ユークリッド形式でのすべての相関関数があればミンコフスキー形式での場の理論を復元できるという話もあります。

すこし冗長ですが、あまり教科書にきっちりと書いてないので虚時間の話をしました。

離散的な空間の上の場の量子論

さて、少し話を戻して演算子形式の場の理論に戻ります。場の演算子が作用する先が連続無限個のテンソル積になっており、よくわかりませんでした。そこで離散化をしてみたいと思います。

離散化するにあたって次の問題があります。それはポテンシャルエネルギーは各点ごとに独立していますが、微分項をどうするかです。

ここではラプラシアンを

\partial^2 \phi(x) \to \frac{1}{a^2}\sum_{\mu=1}^3(\phi(x+a\hat\mu) + \phi(x-a\hat\mu) - 2\phi(x))

と離散化します(一意ではありません)。ここで\hat \mu\mu方向の単位ベクトルです。

この様に理論を離散化すると、次の事がわかります。離散化したバージョンの演算子形式の場の理論での真空状態は

|vac\rangle = \bigotimes_{i \in \mathbb{Z}^3}|0\rangle_i

となります。この積はよくわかります。さらに空間の大きさを有限の領域にして、 その内側だけで理論を考えます。するとテンソル積の個数を有限にできます。たとえば上手い境界条件をいれると

|vac\rangle = \bigotimes_{i \in \mathbb{L}} |0\rangle_i

となります。\mathbb{L}は格子点の集合で1次元の場合にはL_xを格子点の数とした時には1,2,3,\cdots,L_x-1となり、また周期境界条件では格子座標iに対してi + L_x \sim iとなります。

空間を離散化すると量子化条件もi,j \in \mathbb{L}として

[\phi({i},t),\pi({i},t)] = \mathrm{i}\hbar \delta_{{i},{j} }

となり、多自由度系の量子化条件と形式的に一致します。これで場の量子論の``よくわからなさ'' が(少しは)解消できました。

逆に実は、ここは1変数の積分や微分の定義と同じく、連続版の場の理論は離散化した理論をスタート地点として\Delta \to 0L_x\to\inftyの極限で定義されるものであると言えます。

運動量の言葉で離散化を言えば、0<\Delta=1/\Lambda_{UV} \ll 1という高エネルギー側のカットオフ\Lambda_{UV}を導入したことに対応します。カットオフ無限大が連続理論になっています。

これは場の理論既習者に対するコメントですが、摂動計算で出てくるループ積分でもカットオフ正則化をやるとは思います。しかし、あちらでは、ヒルベルト空間が無限個の積になったままですとか、後述するように経路積分測度は正則化されていませんので、それらとは微妙に異なることをやっています。他にも摂動論で出てくる次元正則化も測度の正則化はできていません。

量子論としての連続極限

さて、a\to0の極限は注意する必要があります。というのは、いま、測定できる量は相関関数だけだからです。つまり、x=i ay=a jとした時に、G(i a,ja )の値を保ちながらa\to0を取る必要があるわけです。例えて言うならば、スマホで写真を取るときに、写ってるものや範囲を変えずに解像度だけを上げていく感じでしょうか。それには、場の大きさや結合定数をa\to0に動くのに合わせて調整しながら行う必要があります。それを理論的に説明するのには、くりこみ(群) を考えなければならないのですが、本稿のレベルを遥かに超えるため、ここでは割愛します。詳しくは、Wilson-Kogut の有名なレビューなどをご参照ください。

実時間と虚時間

離散化した後に量子化したハミルトニアンをH_{\rm disc} と呼びましょう。 実時間でも虚時間でも、ある状態の|\Psi\rangleの時間発展は

\mathrm{e}^{-\mathrm{i}t H_{\rm disc}}|\Psi\rangle,\;\;\; \mathrm{e}^{-\beta H_{\rm disc}}|\Psi\rangle

とすれば定義できます。量子コンピュータを用いた場の理論の研究では、前者が使われます。以下では最もよく使われ・理解されている虚時間形式(つまり後者)に話を絞りましょう。

虚時間・離散時空の場の量子論

離散化したハミルトニアンの系を経路積分してみましょう。通常の経路積分では時間の離散間隔を0にする極限をとりますが、空間を離散化しているので時間も離散にとどめておきましょう。すると相互作用項をV[\phi_n]と書いておくと

S_{E,lat}[\phi] = \sum_n (-\sum_{\mu=1}^4 \frac{1}{2} \phi_n( \partial^2_{\rm lat}\phi)_n + V[\phi_n] )

となります。

そして対応する経路積分(つまり量子化)は、

Z_{E,lat} =\int \mathcal{D}\phi e^{-S_{E,lat}[\phi]}

ここで

\mathcal{D}\phi = \prod_{n\in \mathbb{L}^4} d\phi_n

また、ここで\mathbb{L}^4 は4次元のトーラス上の格子座標です。

ここで着目すべきは、経路積分測度\mathcal{D}\phiが有限次元積分になっていることです。これは何の問題もなく定義されています。相互作用の大きさにも関係がありません。

お疲れ様でした。これが格子上のスカラー場の理論と呼ばれるものの定義です。
(連続極限については前述の通りくりこみ群で考察する必要があります。)

ちょうどリーマン和の極限で積分を定義しているように、有限次元多重積分を用いて場の理論を定義しています(というのは言い過ぎで、極限が取れるかが問題になり、4次元ではスカラー場は相互作用が無いときのみ極限が取れると思われている)。

格子ゲージ理論

ここからは少し駆け足で格子ゲージ理論についてお話します。

離散群と連続群について

ここで群について不慣れな読者もいるので離散群と連続群を見てみます。

群とは

ある集合G とその要素の間に定義された2項演算(つまり2つの引数からある1つの結果を返す関数)\starが以下の性質を満たす時、「G\starに対して群をなしている」といいます。(性質の良い集合になっており、様々な分野に応用されています。)

  1. 演算\starについて閉じている。すなわち、g_1, g_2 \in Gのとき、g_1 \star g_2 \in G
  2. 演算子が結合則をみたす。すなわち任意のg_1,g_2,g_3に対して(g_1\star g_2) \star g_3 = g_1\star (g_2 \star g_3)
  3. 演算\starの単位元がある。すなわち任意のg \in Gに対してe\star g = g \star e = gとなるeGに含まれている。
  4. 演算\starに関しての逆元がある。すなわち任意のg \in Gに対してg^{-1} \star g = g \star g^{-1} = eとなるg^{-1}Gに含まれている。

たとえば、Z_2 = \{-1,1\}は積に対して群を成しています。この群の要素は2個です。

また2次元の回転行列

R(\theta) = \begin{pmatrix} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix}

すべて集めた集合

\mathcal{R} = \{ R(\theta) | \theta \in \mathbb{R} \}

も行列積に対して群を成している。これを特にSO(2)と呼びます。SO はSpecial orthogonal の頭文字です。反転を含まない、実ベクトルの長さを変えない変換行列の集まりです。Z_2の場合は、要素は1番目、2番目と離散的にラベルされているのに対し、回転群の例では、群の要素が連続的なパラメータ\thetaによって指定されています。このようなものを連続群やリー群と呼びます (正確な定義ではないです)。\thetaは数えられませんので連続群の要素数は無限です 。

素粒子物理で出てくる例として、他にもU(N)SU(N) 、つまりUnitary 群やSpecial unitary 群というものがあります。それはN次元の複素ベクトルの長さを保つ変換のなす群のことです。例を挙げてみましょう。

U(1) 群の要素はe^{\mathrm{i}\theta}、(\theta\in \mathbb{R})と書かれます。

SU(2) 群の要素はe^{\mathrm{i}\theta_1\sigma_1+\mathrm{i}\theta_2\sigma_2+\mathrm{i}\theta_3\sigma_3}=e^{\mathrm{i}\sum_{j=1}^3\theta_j\sigma_j}、(\theta_1,\theta_2,\theta_3\in \mathbb{R})と書かれます。ここで\sigma_j はパウリ行列です。SU(3)というもの頻出なのですが、それも3\times 3のパウリ行列に似た行列(ゲルマン行列、8種ある)を使って定義されます。

Z_2ゲージ理論

イジング模型では格子点nの上にイジング変数s_n\in Z_2が定義されていましたが、ボンド上に変数を定義することもできます。ボンド上にイジング変数を定義したものをZ_2ゲージ理論と呼ばれるものになります。4次元のユークリッド作用の定義は、

S_{E,lat}[u] = \frac{\beta}{2}\sum_n \sum_{\mu\nu} [1-u_\mu(n)u_\nu(n+\hat\mu)u_\mu(n+\hat\nu) u_\nu(n) ]

ここでu_\mu(n) \in \{-1,1\}です。また\mu,\nu=1,2,3,4、そしてnは4次元の格子点すべてを走ります。\hat \mu\mu方向の単位ベクトルです。量子論にするには、イジング模型と同様に状態の足し上げをします。

Z_{E,lat} = \sum_{\{u\}:\text{All possible}} e^{-S_{E,lat}[u]}

ここで\{u\}:\text{All possible} は、イジング模型同様、すべての可能な状態の和を意味しています。つまり、各リンクでu_\mu(n)\pm 1をすべての組み合わせで割り当てたものの和です。

この理論は次のような局所変換に対する不変性を持っています。

u_\mu(n) \to z_{n} u_\mu(n) z_{n+\hat\mu}

ここでz_n \in Z_2 です。このように座標に依存した対称性はゲージ対称性とよばれています。対比すべきはイジング模型が、全スピンを一斉に反転するs_j \to -s_jという変換に対して不変だったことです。イジング模型のこの対称性は大域的対称性と呼ばれています。Z_2ゲージ理論は、イジング模型と違い、局所的なZ_2対称性を持つ理論なわけです。さて、このゲージ理論の離散群での対称性を一気に連続群に格上げします。

SU(N_c)ゲージ理論

SU(N_c)群をゲージ群とする格子ゲージ理論の作用は、

S_{E,lat}[U] = -\frac{\beta}{2N_c}\sum_n \sum_{\mu\nu}\operatorname{Re} \mathrm{tr}[{\bold 1}-U_\mu(n)U_\nu(n+\hat\mu)U^\dagger_\mu(n+\hat\nu)U_\nu^\dagger(n)]

です。ここでU_\mu(n)\in SU(N_c)です (N_c \times N_c の特殊ユニタリー行列)。この理論では、格子のボンドの上にN_c \times N_c の特殊ユニタリー行列がそれぞれ載っています。

そして連続群に対しては全状態の足し上げは、格子上の経路積分(ここでは単なる有限次元の多重積分)に置き換えられます。

Z_{E,lat} =\int \mathcal{D}U\; e^{-S_{E,lat}[U]}
\mathcal{D}U = \prod_{\mu=1}^4\prod_{n\in \mathbb{L}^4} d U_\mu(n)

ここでd U_\mu(n)は群の変換に対して不変な積分要素です(ハール測度といいます)。

この理論は、以下の変換に対して不変になっています、

U_\mu(n) \to \Omega(n) U_\mu(n) \Omega^\dagger(n+\hat\mu)

ここで\Omega(n)\in SU(N_c)です。この変換は上のZ_2 の変換と同じく、座標に依存した変換でゲージ対称性とよばれています。この理論は、作用S_Eだけでなく、分配関数Z_Eもゲージ対称性を持っています。

この分配関数、及びUの確率分布は発散も持たず、有限次元積分で定義されているため、何の不定性もなく、定義されています。このため、格子上のゲージ理論は上の作用と分配関数でゲージ理論を定義していると言われます。

量子効果を加味した連続極限を考えるにはくりこみ群が必要ですが、その解析から、U(1)格子ゲージ理論は連続極限が取れないがSU(N_c)なら大丈夫、などがわかりますが、本稿では省略します。

SU(N_c)ゲージ理論の古典的な連続極限

さて、形式的に格子上のゲージ理論を手に入れたわけですが、格子間隔0 の極限は知っているゲージ理論になるのでしょうか。量子論の連続極限は難しいため、ここでは格子作用の連続極限を見てみましょう。

ここでリー群SU(N_c)の要素はパウリ行列と指数関数を使って表せることを思い出してU_\mu(n) = \exp(\mathrm{i}a g A_\mu (n))とアンザッツをおきます (gはゲージ結合定数です)。またA_\mu(n)N_c\times N_cのトレースが0のエルミート行列に値をとる関数です (つまりN_c=2のときにはパウリ行列で展開できます)。aは格子間隔です。このアンザッツをaについて展開します。

すこし記号を導入しましょう。

\begin{align} \mathcal{P}_{\mu\nu}(n) &= U_\mu(n) U_\nu(n+\hat\mu) U^\dagger_\mu(n+\hat\nu)U^\dagger_\nu(n), \end{align}

とおきます。これはプラケット(Plaquette)と呼ばれるエネルギー密度です。

このときに作用は、

\begin{align} S_\text{E}^{SU(N_c)}[U] &=\frac{\beta}{2 N_c} \sum_{n} \sum_{\mu}\sum_{\nu \neq \mu} \operatorname{Re} \operatorname{tr} \left[ { \boldsymbol 1}_{N_c\times N_c} - \mathcal{P}_{\mu\nu}(n) \right], \end{align}

となります。

U_\mu(n) = \exp\left[ {\rm i} g a A_\mu(n) \right].

行列 A, B, に対しては、Campbell-Baker-Housedorff 公式,

\begin{align} {\rm e}^{ A} {\rm e}^{ B} = {\rm e}^ {C} \end{align}

ただし

\begin{align} C = A+B + \frac{1}{2}[A,B]+ \frac{1}{12} \left( [A,[A,B]] + [B,[B,A]] \right). \end{align}

が成立します。

これを使うとプラケットの前半部は、

\begin{align} U_\mu(n) U_\nu(n+\hat\mu) &= \exp\left[{\rm i} g a A_\mu(n) \right] \exp\left[{\rm i} g a A_\nu(n+\hat\mu) \right],\\ &= \exp\left[ K_1 \right] \end{align}

ただし

\begin{align} K_1 = {\rm i} g a A_\mu(n) + {\rm i} g a A_\nu(n+\hat\mu) + \frac{1}{2}[{\rm i} g a A_\mu(n) ,{\rm i} g a A_\nu(n+\hat\mu)]+ O(a^3). \end{align}

とわかります。そしてさらにテイラー展開

\begin{align} A_\nu(n+\hat\mu)= A_\nu(n) + a \partial_\mu A_\nu(n) + O(a^3), \end{align}

を使うと、

\begin{align} K_1 &= {\rm i} g a A_\mu(n) + {\rm i} g a A_\nu(n) + {\rm i} g a^2 \partial_\mu A_\nu(n) + \frac{1}{2}[{\rm i} g a A_\mu(n) ,{\rm i} g a A_\nu(n) + {\rm i} g a^2 \partial_\mu A_\nu(n)]+ O(a^3),\\ &= {\rm i} g a \left(A_\mu(n) + A_\nu(n) +a \partial_\mu A_\nu(n) \right) + ({\rm i} g a )^2 \frac{1}{2}[A_\mu(n) , A_\nu(n) ]+ O(a^3). \end{align}

となります。

もう一方は、 A^\dagger_\nu(n) = A_\nu(n)に気をつけると

\begin{align} U^\dagger_\mu(n+\hat\nu)U^\dagger_\nu(n), &= \exp\left[-{\rm i} g a A_\mu(n+\hat\nu) \right] \exp\left[-{\rm i} g a A_\nu(n) \right] ,\\ &= \exp\left[ K_2 \right] \end{align}

ただし

\begin{align} K_2 &= -{\rm i} g a A_\mu(n+\hat\nu)-{\rm i} g a A_\nu(n) + \frac{1}{2}[-{\rm i} g a A_\mu(n+\hat\nu), -{\rm i} g a A_\nu(n)]+ O(a^3),\\ &= -{\rm i} g a A_\mu(n)-{\rm i} g a^2 \partial_\nu A_\mu(n) -{\rm i} g a A_\nu(n) + \frac{1}{2}[-{\rm i} g a A_\mu(n)-{\rm i} g a \partial_\nu A_\mu(n), -{\rm i} g a A_\nu(n)]+ O(a^3),\\ &= -{\rm i} g a (A_\mu(n) +A_\nu(n)+ a \partial_\nu A_\mu(n)) + ({\rm i} g a )^2 \frac{1}{2}[A_\mu(n), A_\nu(n)]+ O(a^3), \end{align}

とわかります。

最終的にプラケットは

\begin{align} {\rm e}^{ K_1}{\rm e}^ {K_2} = {\rm e}^ {K_3} \end{align}

ただし

\begin{align} K_3 &= {\rm i} g a \left(A_\mu(n) + A_\nu(n) +a \partial_\mu A_\nu(n) \right) + ({\rm i} g a )^2 \frac{1}{2}[A_\mu(n) , A_\nu(n) ] \\& -{\rm i} g a (A_\mu(n) +A_\nu(n)+ a \partial_\nu A_\mu(n)) + ({\rm i} g a )^2 \frac{1}{2}[A_\mu(n), a A_\nu(n)] + (\cdots) + O(a^3), \end{align}

とわかります。ここで \cdotsa\to0で消えてしまう項を表しています。そしてさらにまとめると、

\begin{align} K_3 &= {\rm i} g a^2 \left( \partial_\mu A_\nu(n) - \partial_\nu A_\mu(n)\right) + ({\rm i} g a )^2[A_\mu(n) , A_\nu(n) ] + O(a^3),\\ &= a^2 {\rm i} g \Big( \left( \partial_\mu A_\nu(n) - \partial_\nu A_\mu(n)\right) + {\rm i} g [A_\mu(n) , A_\nu(n) ] \Big)+ O(a^3). \end{align}

とわかります。ここで場の強さと呼ばれる量を

\begin{align} F_{\mu\nu} = F_{\mu\nu}(n) = \partial_\mu A_\nu(n) - \partial_\nu A_\mu(n) + {\rm i} g [A_\mu(n) , A_\nu(n) ] . \end{align}

と定義すると、K_3

\begin{align} K_3 &= a^2 {\rm i} g F_{\mu\nu}+ O(a^3). \end{align}

O(a^3)で場の強さに等しいことがわかります。すなわちプラケットは、

\begin{align} \mathcal{P}_{\mu\nu}(n) &= {\rm e}^ { a^2 {\rm i} g F_{\mu\nu}+ O(a^3) }. \end{align}

と書けます。これを使うとゲージ作用も以下のように展開できます。

\begin{align} S_\text{E}^{SU(N_c)}[U] &=\frac{\beta}{2 N_c} \sum_{n} \sum_{\mu}\sum_{\nu \neq \mu} \operatorname{Re} \operatorname{tr} \left[ { \boldsymbol 1} - {\rm e}^{ a^2 {\rm i} g F_{\mu\nu}+ O(a^3)} \right],\\ &=\frac{\beta}{2 N_c} \sum_{n} \sum_{\mu}\sum_{\nu \neq \mu} \operatorname{Re} \operatorname{tr} \left[ { \boldsymbol 1} - \left( { \boldsymbol 1} + a^2 {\rm i} g F_{\mu\nu} + \frac{1}{2} (a^2 {\rm i} g F_{\mu\nu})^2 + O(a^6) \right) \right],\\ &=\frac{\beta}{2 N_c} \sum_{n} \sum_{\mu}\sum_{\nu \neq \mu} \operatorname{Re} \operatorname{tr} \left[ a^4 \frac{1}{2}g^2 F_{\mu\nu} F_{\mu\nu} + O(a^6) \right],\\ &= \sum_{n} \sum_{\mu}\sum_{\nu \neq \mu} \operatorname{Re} \operatorname{tr} \left[ a^4 \frac{1}{2}F_{\mu\nu} F_{\mu\nu} + O(a^6) \right],\\ &=a^4 \sum_{n} \sum_{\mu}\sum_{\nu \neq \mu} \operatorname{tr} \left[ \frac{1}{2}F_{\mu\nu} F_{\mu\nu} + O(a^2) \right] \to \int d^4 x_\text{E} \frac{1}{2} \operatorname{tr} F_{\mu\nu} F_{\mu\nu} . \end{align}

ここで \operatorname{tr} F_{\mu\nu} = 0 and \beta = 2N_c/g^2 をつかいました。

これは(ユークリッド符号での) Yang-Mills 作用と呼ばれる、マクスウェル方程式の拡張になっています。

ここで分かったことは、格子正則化した作用からスタートしても、欲しい作用での計算が行えそうだ、ということです。

また上で述べた格子上のゲージ理論は、ゲージ対称性などの対称性を保ちつつ、場の量子論を正則化した形で定義できているのがわかると思います。

言っていないこと

ここまでで、メインの話は終わりです。以下では言い残した事柄をリストアップしておきます。

クォーク

ここでクォークなどのフェルミオンはどうするのか、という問題があります。それにはカイラル対称性について説明する必要があります。時空の離散化とカイラル対称性が関連しているというニールセン・二宮の定理など、面白い話があるのですが話しませんでした。

ゲージ対称性

格子ゲージ理論では、ゲージ対称性について摂動論を超えた理解ができます。その中で重要なのではエリツァーの定理とよばれる対称性の破れに関連する定理なのですが本稿では話しませんでした。

数値計算

格子ゲージ理論といえば、スーパーコンピュータを用いた数値計算を思い浮かべる人も多いかと思います。そのことには触れることができませんでした。HMC (Hybrid Monte-Carlo or Hamiltonian Monte-Carlo) と呼ばれるベイズ統計学の文脈で使われるサンプリングアルゴリズムがあるのですが、もともとは格子ゲージ理論の数値計算のために考案されたアルゴリズムです。また熱浴法は、Gibbs サンプリングアルゴリズムと等価です。この辺りはディープラーニングと物理学に書きました。

機械学習との関わり

近年では、格子ゲージ理論に機械学習のアイデアを取り込もうとする動きがあります。たとえば、Flow based sampling algorithmや(僕とNagaiさんが考案した)ゲージ共変ニューラルネットなどがあります。詳細は論文をご参照ください。

もし、格子ゲージ理論に興味を持った方がいらっしゃりましたら、LatticeQCD.jl でぜひ遊んでみてください!

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