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量子論から量子コンピュータへ

2020/09/24に公開

量子論のルール

量子コンピュータを説明するため、ここでは[清水]に従って量子論のルールとして以下の3つを採用しよう。(以下では簡単のために縮退がある場合を除いておく。)
微妙に不正確な表現を使ってたりもするが、詳細は割愛する。

  1. 系の状態は複素ベクトル |\psi \rangleで記述される。これを量子状態と呼ぶことにする。
  2. 物理量は、自己共役演算子\hat{A}で記述される。観測される値は、\hat{A}の固有値の内の1つaが対応する。固有値は必ず実数になる。また固有値aに対応する固有ベクトルを|a \rangleと書くことにしよう。すなわち、A|a \rangle= a|a \rangleである。
  3. ある固有値aを観測できる確率P(a)は、P(a) = |\langle a | a \rangle|^2と与える。

最後のルールをボルンの規則とよぶ。
自己共役演算子\hat{A}とは、\hat{A}=\hat{A}^\dagger = ((\hat{A})^*)^\topを満たす行列で、だいたいエルミート行列だと思っておけば良い。

加えて、以下のルールを要請する。

a. 量子状態|\psi \rangleを変更できるのは、ユニタリー操作(ユニタリー変換)と測定のみである。ユニタリー変換とは、ざっくりいうとベクトルの長さを保つ回転のようなものである。より正確には、ここではU^{-1}=U^\daggerを満たす行列と定義する。

b. 測定を行うと、状態ベクトルは測定を行った基底のいずれかに射影されてしまう。

古典コンピュータで計算・情報処理とは何だったかを思い出すと、あるビット列を変換し、所定のビット列を得ることであった。上記のルールを駆使して状態ベクトルを操作し、ある入力ベクトルから所定の出力を行うのが量子コンピュータを用いた情報処理である。

古典コンピュータとの比較は、

\begin{array}{c|c|c} & \text { 古典計算機 } & \text { 量子計算機 } \\ \hline \text { 单位 } & \text { ビット } & \text { キュービット } \\ \hline \text { 状態の表現 } & 2 \text { 進数 } & \text { 複素べクトル } \\ \hline \text { 操作 } & \text { 論理演算 } & \text { ユニタリー操作、測定 } \\ \hline \text { 物理法則 } & \text { 古典電磁気, 熱力学 } & \text { 量子力学 } \end{array}

の様にまとめられるだろう。キュービットについては次節で触れる。

量子ビットあるいはキュービット

量子計算においてもビットに対応するものが必要であるので2準位系を導入しよう。物理系において 2 準位系は、例えばスピンがある。これは

|\uparrow\rangle=\left(\begin{array}{l} 1 \\ 0 \end{array}\right), \quad|\downarrow\rangle=\left(\begin{array}{l} 0 \\ 1 \end{array}\right)

の様にかける。状態ベクトルはベクトルであるため c_0c_1を複素数として

|\psi\rangle=c_{0}|\uparrow\rangle+c_{1}|\downarrow\rangle

という重ね合わせの原理をみたす。ただし係数は|c_{0}|^2 + |c_{1}|^2 = 1の様に規格化されている。 さらに全体にかかった位相因子は測定にかからないため無視するが多数の 2 準位系があるときには相対位相は観測される量となる。ここで上の|\psi\rangle状態を考えて、|\uparrow\rangleが観測される確率を考えてみる。ボルンの規則から、上向きを観測する確率は

P(\uparrow)=\|\langle\uparrow \mid \psi\rangle\|^{2}

となる。計算してみると、

P(\uparrow)=\left|c_{0}\right|^{2}

を得る。

量子計算を行うには、このような2準位系とみなせるものであれば何でも良い。たとえば、

  1. 核子スピン
  2. トランズモン(超伝導体を用いた方式の一種)
  3. トポロジカル絶縁体
  4. イオントラップ
    等がある。
    2準位系を再現した各素子をキュービット(qubit)と呼ぶ。

量子コンピュータを用いた計算は、キュービットを多数ならべて、それぞれにユニタリー変換を繰り返し適用し、最後に測定を行って結果を読み取ることで行われる。

(気が向けば続きを書きます)


参考文献

  • [清水] 「量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために」 清水 明、サイエンス社、(2004/4/1)

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