Based Rollupの完全解説
はじめに
ブロックチェーンの世界で、スケーラビリティは常に中心的な課題として存在してきました。特にEthereumエコシステムにおいて、この課題への取り組みは様々な形で進められてきましたが、その中でBased Rollupは特に注目に値する革新的なアプローチを提示しています。
本記事では、Based Rollupの概念、技術的詳細、そしてブロックチェーンエコシステムにもたらす影響について、包括的な解説を提供します。
Based Rollupの誕生と進化
Based Rollupの概念は、2021年にVitalik Buterin氏が「An Incomplete Guide to Rollups」という記事の中で「Total Anarchy」として最初に言及したことに始まります。当時の構想では、「誰でもいつでもバッチを送信できる」というシンプルながら革新的なアイデアが提示されました。
その後、2023年3月にJustin Drake氏が「Based rollups—superpowers from L1 sequencing」という研究記事を発表し、Based Rollupの正式な定義と設計思想を確立しました。Drake氏の定義によれば、Based Rollupとは「そのシーケンシングがベースL1によって駆動されるロールアップ」を指し、具体的には「次のL1プロポーザーが、L1のサーチャーやビルダーと協力して、次のロールアップブロックを次のL1ブロックの一部として許可なく含めることができる」システムとされています。
この定義は、従来のロールアップアーキテクチャに対する根本的な再考を示唆するものでした。
アーキテクチャの詳細解説
Based Rollupのアーキテクチャは、従来のロールアップと比較して特徴的な構造を持っています。以下、各レイヤーの詳細について解説します。
セトルメント層
Based Rollupにおけるセトルメント層は、完全にEthereumに依存しています。これは単なる技術的な選択ではなく、セキュリティとファイナリティの観点から重要な意味を持ちます。
従来のロールアップでは、独自のセトルメントメカニズムを実装する必要があり、それに伴う複雑性とリスクが存在していました。一方、Based Rollupではこれらの課題を完全に解決し、Ethereumの持つ堅牢なセトルメントインフラストラクチャを直接活用します。
このアプローチにより、以下のような利点が生まれます:
- 検証の即時性:プルーフの検証がEthereumのブロック生成プロセスに直接組み込まれる
- セキュリティの向上:Ethereumのコンセンサスメカニズムによる直接的な保証
- 運用コストの最適化:追加的なインフラストラクチャが不要
データアベイラビリティ層
データアベイラビリティ層もまた、EthereumのインフラストラクチャとP2Pネットワークを直接活用します。この設計により、データの可用性と永続性が強力に保証されます。特筆すべきは、EIP-4844(proto-danksharding)の導入後、Based Rollupがどのようにblobsを活用するかについての展望です。
Blobsの導入により、データ保存コストの大幅な削減が期待される一方で、データの可用性と検証可能性は維持されます。これは、Based Rollupの経済性とスケーラビリティを更に向上させる重要な要素となります。
コンセンサス層
Based Rollupの最も革新的な特徴の一つは、独立したコンセンサス層を持たない点です。代わりに、Ethereumのバリデータネットワークが直接トランザクションの順序付けを行います。
この設計choice(選択)は、以下のような重要な影響をもたらします:
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システムの単純化
Ethereumのコンセンサスメカニズムを直接活用することで、追加的なコンセンサス層の実装と維持が不要になります。これにより、システム全体の複雑性が大幅に低減されます。 -
セキュリティの強化
独立したコンセンサス層を持たないことで、そこに起因する潜在的な脆弱性やアタックベクターが排除されます。 -
経済的効率性
追加的なバリデータやステーキングメカニズムが不要となり、運用コストが最適化されます。
実行層
Based Rollupの実行層は、効率性と柔軟性を重視して設計されています。トランザクションの実行はオフチェーンで行われますが、その結果はEthereumのセキュリティによって保証されます。
実行層では以下のような高度な最適化が施されています:
- 効率的な状態管理メカニズム
- スマートな並列処理の実装
- 最適化されたデータ構造の採用
MEVへの革新的アプローチ
Based RollupにおけるMEV(Miner Extractable Value)の取り扱いは、従来のアプローチとは大きく異なります。MEVの流れを詳細に理解することは、システム全体の経済的インセンティブ構造を理解する上で重要です。
MEVの分配メカニズム
Based RollupにおけるMEVは、主にL1バリデータに流れる設計となっています。これは単なる技術的な選択ではなく、経済的なインセンティブ設計の観点から重要な意味を持ちます。
具体的には以下のような流れで処理されます:
- L2トランザクションのMEV機会の特定
- L1ブロックビルダーによる最適な順序付けの実施
- L1バリデータへの利益の分配
この設計により、システム全体の経済的セキュリティが強化されます。特に重要なのは、この仕組みがL1の経済的持続可能性に直接貢献する点です。
MEVの分類と影響
MEVは大きく2つのカテゴリーに分類されます:
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混雑MEV(約80%)
トランザクションの包含に関連するMEVで、主にガス料金のオークションメカニズムを通じて発生します。Based Rollupでは、この種のMEVはより効率的に処理され、ユーザーにとってより予測可能なコスト構造を提供します。 -
競合MEV(約20%)
取引順序の操作により発生するMEVで、サンドイッチ攻撃やフロントランニングなどが含まれます。Based Rollupでは、この種のMEVもL1レベルで管理されるため、より公平な取り扱いが可能になります。
技術的な考察と将来の展望
ブロック時間の最適化
Based Rollupは現在、Ethereumのブロック時間(約12秒)に制限されていますが、この制約に対する革新的なソリューションが検討されています。特に注目すべきは、リステーキングを活用した即時事前確認のメカニズムです。
この仕組みでは、L1バリデータの一部が将来のブロック提案時にBased Rollupブロックを含めることを事前にコミットします。これは、バリデータが少なくとも32ブロック先まで、誰がどのブロックのプロポーザーになるかを知っていることを利用しています。
スケーラビリティの展望
Based Rollupの将来的なスケーラビリティ改善には、以下のような方向性が考えられています:
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シャーディングとの統合
EIP-4844の導入後、Based Rollupはblobsを効率的に活用することで、データ可用性のコストを大幅に削減できる可能性があります。 -
パラレル実行の最適化
トランザクションの並列処理をさらに効率化し、スループットを向上させる取り組みが進められています。 -
レイヤー間の最適化
L1とL2の間のより効率的な通信メカニズムの開発が進められています。
他のロールアップソリューションとの詳細な比較
Based Rollupと他のスケーリングソリューションを比較することで、その独自の価値提案がより明確になります。
従来のロールアップとの比較
従来のロールアップと比較した場合、Based Rollupは以下のような特徴的な違いを持ちます:
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シーケンシングメカニズム
- 従来のロールアップ:独自のシーケンサーを使用し、それに伴う複雑性とリスクが存在
- Based Rollup:L1バリデータが直接シーケンシングを行い、追加的な複雑性を排除
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セキュリティモデル
- 従来のロールアップ:独自のセキュリティ仮定が必要
- Based Rollup:完全にEthereumのセキュリティに依存
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経済的モデル
- 従来のロールアップ:独自のトークンエコノミクスが必要な場合が多い
- Based Rollup:トークンレスでの運用が可能
シェアードシーケンサーとの比較
シェアードシーケンサーアプローチと比較すると、以下のような違いが明確になります:
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アーキテクチャの複雑性
- シェアードシーケンサー:追加的なコンセンサス層と運用の複雑性
- Based Rollup:最小限の追加コンポーネントで実現
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スケーラビリティ特性
- シェアードシーケンサー:潜在的に高いスループット
- Based Rollup:L1のブロック時間に制限されるが、高い信頼性
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経済的影響
- シェアードシーケンサー:MEVがシェアード層に集中
- Based Rollup:MEVがL1に流れ、システム全体の経済的セキュリティを強化
まとめと展望
Based Rollupは、ブロックチェーンスケーリングに対する革新的なアプローチを提示しています。Ethereumのインフラストラクチャを最大限に活用することで、以下のような優位性を実現しています:
- 最高レベルのセキュリティとライブネス保証
- システム設計の単純化による高い信頼性
- 効率的なMEV分配によるL1の経済的強化
- トークンレスでの運用可能性
特に、高いセキュリティと信頼性が求められるエンタープライズアプリケーションや金融アプリケーションにとって、Based Rollupは魅力的なソリューションとなっています。
今後の発展として、以下のような進化が期待されます:
- EIP-4844との統合によるさらなるスケーラビリティの向上
- リステーキングメカニズムを活用した即時性の改善
- より効率的なデータ圧縮技術の導入
- クロスロールアップ通信の最適化
Based Rollupは、その革新的なアプローチにより、ブロックチェーンスケーリングの新たな可能性を切り開いています。今後のEthereumエコシステムの発展において、Based Rollupが果たす役割は更に重要になっていくことが予想されます。
この技術革新は、ブロックチェーン技術の民主化とスケーラビリティの向上という大きな目標に向けた、重要な一歩となるでしょう。
参考↓
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