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経済的発注量

2024/08/05に公開

経済的発注量(Economic Order Quantity, EOQ)とは、在庫管理において発注費用と在庫保管費用の合計を最小化するための最適な発注量を求めるためのモデルです。通常、商品を発注には発注費用が発生しますが、1 度に大量に発注することで、商品 1 個あたりの発注費用は安くなる傾向にあります。しかし、大量発注を行うと、在庫の保管量が多くなるため、保管費用が増加してしまいます。発注費用と保管費用はトレードオフにあり、どちらも同時に安くすることは難しいと言われています。

発注の方針 発注費用 在庫保管費用
頻繁に少量発注 (発注回数が多いので)高い (在庫が減るため)安い
たまに大量発注 (発注回数が少ないので)安い (在庫が増えるため)高い

トレードオフの関係にある発注費用と保管費用の合計値を最適化して安くするような発注量を経済的発注量と呼びます。経済的発注量のモデルでは、毎回同じ数量の商品を発注することを想定しており、

経済的発注量 = sqrt(2 × 年間需要 × 1回の発注費用 / 商品1個あたりの年間保管費用)

で計算できます。

今日はこの式の導出過程について解説します。

発注費用

発注費用には、原材料の配送費用、製造元での製造費用、製造元から倉庫への輸送費、発注にかかる事務作業費など、発注にかかる全ての費用が含まれています。

1年間で見込まれる商品の販売個数(需要量)を D とし、1 回当たりに発注する商品の数量を Q 個とすると、1 年間の発注回数は D / Q となります。1 回の発注に S 円かかるとすると、年間の発注費用は発注回数×発注費用で決まるので、

S_t = \frac{D}{Q} S

このとき、発注量 Q に対して、年間発注費用 S_t は反比例の関係にあり、以下の図のようになります。

在庫保管費用

在庫保管費用は、倉庫において商品を保管するために必要な管理費用や保険料などが相当します [1]

Q 個の商品を発注した後、商品が一定のペースで出荷され、最終的に在庫がゼロになることを考えます。このとき、初回発注分の在庫が全て出荷されるまでの間の在庫数の平均は Q / 2 個となります。

基本的に、在庫保管費用は在庫として保管する商品の個数に比例するので、商品 1 個あたりの年間保管コストを H とすると、1 年間の保管費用は

H_t = \frac{Q}{2} H

となります。

経済的発注量の導出

年間の発注費用と在庫保管費用の合計

C = S_t + H_t = \frac{D}{Q} S + \frac{Q}{2} H

を最小化したいので、\mathrm{d}C / \mathrm{d}Q = 0 となるような Q を計算すれば良いことがわかります。これを求めると、

\hat{Q} = \sqrt{\frac{2 D S}{H}}

となり、経済的発注量の式に一致することがわかります。

グラフで書くと、経済的発注量は以下の赤い線(発注費用 + 保管費用)を最小化するような点に対応しています。

経済的発注量の問題

一見合理的に見える経済的発注量ですが、実際の発注を考えるとそのまま適用できないことも多くあります。現代ではあまり使われないようです。

  • 商品の需要の変動を考慮していません。年間を通して一定のペースで出荷されることを想定しているため、需要の増減により、余剰在庫や欠品などのリスクがあります。
  • 発注費用を定数としていますが、実際には発注個数によってボリュームディスカウントがあったり、時期によって発注コストが変動することがあります。
  • コンピュータなどで発注業務の自動化が進んでいるため、昔に比べると発注費用は小さくなっているようです。発注費用が十分小さい場合は、欠品しないようなギリギリの在庫数を保つように高頻度で発注をかけるような動きになるため、欠品率と保管費用の調整という意味合いが強くなります。
脚注
  1. 在庫保管費用として、在庫品への資本コストを考えることもあります。資本コストとは「在庫の保管費用に支払ったお金を別な商品の販売や設備投資等に回した時に得られたであろう機会原価」です。一般的に、正確な数値を計算することは難しいので、最低所要投下資本利益率(資本コスト率)を使って、最低でも得られるはずだった利益額を見積もるようです。 ↩︎

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