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マルチテナントとは
マルチテナントとは
マルチテナント(Multitenancy)とは、一つのアプリケーションやデータベースを、複数の異なるテナント(顧客や企業)が共有して利用するソフトウェアのアーキテクチャのことです。
例えば、多くのクラウドサービス(SaaS)がこの方式を採用しています。
代表的な例としては、以下のようなサービスが挙げられます。
- Google Workspace(旧G Suite): 多くの企業がGmail、Google ドライブ、Google カレンダーを契約していますが、これらはすべてGoogleが提供する一つの巨大なシステム上で動いています。各企業のユーザーは、他の企業のデータにアクセスすることはできません。
- Salesforce: 顧客管理(CRM)サービスの代表格です。多くの企業がSalesforceを利用していますが、各社の顧客データは互いに隔離されています。
- Shopify: 多くのECサイトオーナーがShopifyを使ってネットショップを開設していますが、すべてのショップはShopifyが管理する共通のインフラ上で運用されています。
マルチテナント方式の主なメリットは、インフラやメンテナンスのコストを削減できる点です。一つのシステムを運用するだけで、複数の顧客にサービスを提供できるため、効率的な開発・運用が可能になります。
マルチテナントの開発で気をつけること
マルチテナント開発では、主にデータの分離とセキュリティに細心の注意を払う必要があります。あるテナントのデータが、誤って別のテナントからアクセスされることが絶対にないようにしなければなりません。
1. データの隔離とセキュリティ 🔒
これはマルチテナント開発で最も重要な点です。データの隔離方法には、主に以下の3つのパターンがあります。
- スキーマ(データベース)分離: テナントごとに独立したデータベースやスキーマを用意します。最も安全な方法ですが、インフラコストや管理が複雑になります。
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共有データベース(カラム分離): すべてのテナントのデータを一つのデータベースに保存し、各テーブルに
tenant_id
などのカラムを追加してデータを分離します。最もシンプルで、コストを抑えられます。ただし、アプリケーションロジックで常にtenant_id
を指定する必要があり、実装ミスがセキュリティリスクに直結します。 - 共有データベース(テーブル分離): ユーザーテーブルは全テナントで共有し、注文テーブルはテナントごとに分けるなど、一部のテーブルを分離する方法です。
どの方式を選ぶかは、セキュリティ要件、コスト、スケーラビリティを考慮して決定します。
2. パフォーマンスとスケーラビリティ 📈
テナントが増えるにつれてパフォーマンスが低下しないよう、設計段階から対策を講じることが重要です。
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データベースの最適化: 共有データベース方式の場合、
tenant_id
にインデックスを張ることは必須です。これにより、データ検索が高速化されます。 -
キャッシュ戦略: テナントごとにキャッシュを分離・管理します。
tenant_id
をキーに含めることで、キャッシュの競合を防ぎます。 - 非同期処理: 時間のかかる処理(レポート生成やデータインポートなど)は、バックグラウンドで非同期に実行し、メインのアプリケーションへの負荷を軽減します。
3. テナント固有のカスタマイズ 🎨
顧客ごとに異なる設定や機能を管理できるようにすることも考慮が必要です。
- 設定管理: テナントごとの設定(ロゴ、カラースキーム、機能の有効/無効など)をデータベースに保存し、動的に読み込めるようにします。
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ドメイン管理:
tenant1.yourdomain.com
のようにサブドメインでテナントを識別できるようにしたり、カスタムドメインに対応できるようにしたりします。
4. 共通ライブラリとGem 📦
マルチテナントに対応しているライブラリやGemを活用することで、開発効率を上げることができます。
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apartment
: Railsでスキーマ分離を簡単に実現するためのGemです。リクエストごとに自動でテナントを切り替える機能を提供します。 -
acts_as_tenant
: 共有データベース方式で、tenant_id
のスコープを自動で適用してくれるGemです。共有データベース方式を選ぶ際に非常に便利です。
これらのポイントに注意して開発を進めることで、安全でスケーラブルなマルチテナントアプリケーションを構築できます。
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