オレトク賞攻略方法
そんなものはない
いきなりの出オチで申し訳ありませんが、オレトク賞の攻略法なんてものはありません。
攻略方法なんてものはない!ということが分かったというポエムです。
タイトル詐欺なのですが、2024年のオレトク賞最終選考会を終えてものすごく楽しくて悔しくて嫉妬して、でもものすごくすがすがしい今の気持ちをまとめたかったので、釣られて来てしまった貴方も少しお付き合いください。
オレトク賞とは
オレトク賞は一般社団法人MAさんが主宰してるヒーローズ・リーグの部門賞です。
(ヒーローズ・リーグについては一言で説明するのが難しいのですが、去年娘が初参加して書いた感想文もその一面をよく表現していると思います)
ヒーローズ・リーグの大きな特徴は多数の部門賞が用意されているという点です。
2024年大会ではMAヒーロー、オンラインヒーロー、ルーキーヒーロー、アバナード Human Impactヒーローの4賞を頂点に、プチヒーロー賞2部門、コミュニティーサポーター賞10部門、Myヒーロー賞41部門、メディアサポーター賞4部門、テクニカルサポーター賞24部門、合計81部門の賞が設定されています。
オレトク賞はコミュニティサポーター賞の一つであり、求められているのは「誰のためでもない、とにかく自分が欲しいものをこだわって作った」作品です。
過去2回オレトク賞にエントリーし、厳しい審査の目にさらされた身として理解したのは、ここで求められているのは完成度の高い小ぎれいな作品ではないということです。
日常生活の中では社会性とか体裁だとかのベールに包んで隠したつもりでいた己の欲求の発露。あるいは、人目にさらすのもはばかられるような、個人の歴史を赤裸々に表現した私小説的作品こそが求められているのです。(たぶん)
そもそも彼らが望んでいるのは作品ですらなく、その作品を作らざるを得なかった作者の情動であり、欲望の凝り固まったエゴの写像であり、それでも満たされない作者の飢えみたいなものなのではないでしょうか。(しらんけど)
2024年に現れた野生のプロトタイパー
2024年の最終選考会への選出の連絡が来たのは、最終選考会をわずか4日後控えた11月24日でした。
油断していた自分も悪いのですがプレゼン用に新たなネタを仕込む時間的余裕はありません。
エントリーしたのは2年前にもプレゼンした作品の改良品。一方百戦錬磨の審査員は少々の驚きには不感症になっている恐れもあり、よほど大きなインパクトを与えられなければ勝てる見込みはありません。しかもこの作品は数カ月前に別のコンテストでもプレゼンしており、オレトク審査員のお一人がその時の審査員でもあったという悪条件。前回のプレゼンではそれなりに趣向を凝らした構成にしていたのですが、同じ仕掛けが二度も通用するとは思えません。
少々悩んだものの、中途半端な仕込みや演出はやめて作品や作品を作るうえで得た「愛」を4分間のプレゼンにこれでもかと詰め込む正面突破作戦を試みました。はたして本番では矢折れ弾尽きたものの全力を尽くしたことに十分満足し、無事持ち時間を終えることができました。
しかしそこに現れたのが私たちを混乱の渦に巻き込む二人の野生のプロトタイパーたちでした。
第一の野生の刺客
一人目の野生のプロトタイパーはhirotakaster(本文中では、Protopedia上での登録名を使用させていただきます)さん。作品は大量のソレノイドを使ってみたかったです。
(実際のプレゼンの様子はこちら)
hirotakasterさんとその作品には以前から注目していて、Maker Faireなどでもよくお会いしていました。作品は496個のソレノイドを並べて配線して動かす、というもの。
hirotakasterさんが今回のソレノイドアレイの制作を開始したころ、私も256個のサーボアレイを無心に作っていたことから意気投合した覚えがあります。
プレゼン中、何度も映し出される配線沼。
hirotakasterさんはプレゼンの最中、1000本近い配線をながめながら終始ニコニコされています。「これが見たかったんすよ」といとおしそうに声をかけ、カメラに写します。
作品そのものはもとより、作品に投影されるhirotakasterさんの愛がなぜか心を打ちます。
「主旨と言えるものはなくて、ただソレノイドをいっぱい使いたかっただけ」「ソレノイドが爆音で動く音を聞くとテンション爆上がりしてしまった」などと供述するhirotakasterさん。
質疑の時間も質疑を越えて得体のしれない愛が盛り上がり、とどめは審査員久下さんの「さっきから何かしゃべってるようで何もしゃべってない」
たしかにそうなんだけど、なぜかすべてが会場の全員に伝わっているのです。
質疑のさなか、当のhirotakasterさんは500個のソレノイドを1000本のケーブルでつなぐという常人なら気絶しそうな作業を楽しいとまで言い始めます。禅であり写経でありドーパミンでありベータ波でありそれらのカクテルで酩酊しているんじゃないかと思います。
そんなステータス異常が、絡み合った配線のイメージをトリガーに再帰し拡張されていく曼荼羅絵図。それはもう悟りなのか解脱なのか、おそらく魂の階梯を一つ上ってしまったのではないでしょうか。hirotakaster上人にアーメン。
第二の野生の刺客
二人目の野生のプロトタイパーはMaruさん。作品は音のARを用いた究極のイントロクイズ「アタック・ドン」です。
(実際のプレゼンの様子はこちら)
この作品はイントロクイズの皮をかぶった競技かるた推しアプリです。
プレゼンは開始直後から不穏な雰囲気を感じさせていました。競技かるた超人のMaruさんが、凡人にはわからない理不尽さを訴えています。人間の音に対する反応速度を測定するなど、一見アカデミックな香りまで漂わせていますが、論の根底に流れる問題意識は私たちには慮ることの難しい超人的な時空の事象です。
課題解決方法の提示あたりからさらに限界を突破し始めます。
実際の読み上げをはじめる0.3秒前に、札を判別できる程度の最低限の長さの音を拡張現実上の音として現実の音に重畳して聞いてしまうという解決策を提案して実証。超時空の事象すぎてZoomのフレームレートでは追いつきません。もしかすると不確定性のはざまに落ち込んでいるのかも。
こののち、アプリの便利機能や実装方法の説明が続くのですが、超人の見る世界観にあてられた私たちはそれどころではなく、プレゼンの内容がなかなか理解に結び付きません。
おそらく作品のコンセプトは理解できていると思うのですが、なぜかプレゼンが進むほどに、本当に私の理解が間違っていないのか自信が持てなくなってくる不思議な感覚に襲われます。
「脳が音を判別して体が反応するには0.3秒かかる。だけど私は0.1秒の音があれば札を識別できている」
「遅すぎる体の反応速度の壁を越えて、識別できたその瞬間に札に触りたい。。。。ので0.3秒後の音を現実世界に拡張音として重畳して聞く」(繰り返しになりますが作品の説明は諦めます)
超人的な競技かるたの世界で、人間の能力の壁を突き抜けたいという欲求をテクノロジーで満たそうとするアプローチです。
拡張現実上の音が聞こえていない周りの人には、Maruさんが第一音と同時にかるたに触れている様に見えます。ご当人も一般人には識別不可能な程度の拡張現実上の音を聞いて現実の第一音と同時に札を取れたことに満足しているご様子。でも反応に0.3秒かかっていいることには違いはなく何となく腑に落ちず、それでいいのか?と問いかけたい私。。。でもMaruさんの満足そうな主張になぜか納得したくなる私。
しかしある瞬間、論者の感情にシンクロし、あらゆることが腑におちてしまい、あとはその世界観の中をいくばくかの不安とおかしなな高揚感を感じながら押し流されていくのみです。
どれだけ文字数を使ってもまったく説明できていない気がしますので、少しでも興味を持たれた方には是非プレゼン本編のご視聴をお勧めします。
Maruさんは栗原さんの研究室の教え子さんだということで、栗原さんからのコメントはなし。しかし印象的だったのは、プレゼン後の質疑で審査員久下さんの第一声
「栗原さんは何を教えてるんですか?」
続く山本大策さんから
「栗原さんは天才を育てています」
との指摘に対する栗原さんの
「個性を育てているだけです」
との苦しい言い訳。
目の前で繰り広げられる発表者と審査員と師匠と弟子が入り乱れる空中戦に、投げ銭でも投げたくなる気分です。
その時かろうじて私が気づいていたのは、ここにも理屈や道理を超えて、有無を言わせぬ暴力的な世界観の押し付けで見るものを納得させてしまう人が存在したということ。Maruさんもまた真正の野生のプロトタイパーだったのです。
果たしてオレトクは攻略できるのか
今年のプレゼンでは諸般の事情と過去の経験から、テクニックを捨て正面突破を図ったつもりでいました。
しかしながら二人の野生のプロトタイパーの姿を目の当たりにした私は、自分のプレゼンの小賢しさを見せつけられた思いに、恥じ入ると同時に強い嫉妬を感じていました。
彼らは自分の視点から見た作品の姿や価値を我々に押し付け、その態度はある種の傲慢さすら感じさせます。傍若無人でできたこん棒に天真爛漫を振りかけて殴りつけられるような体験でした。でもそれは決して不快ではなく、プレゼンのテクニックを超越した部分で、我々に多くのものを訴えかけてくるのです。
彼らの幸せそうな姿に、私はもとより審査員の方々も困惑を隠しきれていないように見受けられました。
おそらく彼らのプレゼンはプロダクトのプレゼンとしては王道ではありません。限られた時間内でユーザーに対して必要な情報を与えられているのか?という視点では、必要を満足している様には思えないのです。営業シーンでの商品プレゼンとしては成立していないでしょう。
一方でこのプレゼンはオレトクの場では完璧です。彼らはおそらく知らず知らずのうちに己の価値観に沿って作品の価値を充分に伝えることに成功しています。彼らが意図的にそのようなプレゼンをし得るのであれば天才か詐欺師のどちらかでしょう。
大げさに言うなら、私はこの選考会で少なからぬものを得たり失ったりした気がしています。
失ったのはわずかばかりの自信です。得られたものはまだ言語化し得ません。
多少なりとも理解できたのは、オレトク最終選考会において小賢しいプレゼンテクニックなどというものは一切通用しないのだということです。審査員の方々はそれがどんなプレゼンであろうと、作品と作者自身から匂い立つエゴや魂の叫びを察知するやいなや、敏感に反応し喰らいついて白日のものにさらけ出してくれるでしょう。
彼らも人間であり、情けも(たぶん)あるので、われわれの人格を破壊するようなことはありません。
でもじわじわと、「ここがあなたのウィークポイント(快感の源泉)ですよね」とでも言わんばかりにいじってくれるはずです。
もう一度記事のタイトルにもどってオレトク賞の攻略方法を考えるとするならば、「攻略しないのが攻略方法」と言えるかもしれません。テクニックを使って攻略するのではなく、自分の作品と向き合ってそのなかに見つけたエゴを堂々と押し通す。
時間に余裕があるならばプレゼン資料にページを付け足すのではなくて、作品を、より欲望に忠実な姿に磨き上げることに使うべきでしょう。
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