【開発SE】業務知識としての『実地棚卸』の裏側
記事の概要
今回は開発についての直接的な内容ではないが、おそらく開発案件でよく耳にするキーワード『実地棚卸』について、知っておくと現場での会話が弾むかもしれない業務知識を紹介する。
よろしければ、1つの引き出しとして覚えておいてもらえると幸いである。
まず初めに
筆者は過去に『実地棚卸の代行サービス』の企業に21年在籍した。
- 作業員と現場監督の兼任を8年 → 社内SEを13年
- 棚卸代行は結局21年間、多かれ少なかれずっとやってた。
- 日本国内およびアジア諸国(上海、韓国、タイ、マレーシア、シンガポール)の小売業も実施。
そもそも実地棚卸って?
簿記や販売士などの勉強や、大学で経済を勉強した方々はご存じと思われるが、知らない方々のために超ざっくり説明すると、下記の通りとなる。
- 企業の決算において売上原価を確定させる重要な業務
- 商品や製品を扱う企業が決算前のタイミングに実施する業務
業務システム開発は企業における財務や会計が関係することが多いため、それに伴う実地棚卸の結果が関係する。
実際の作業は?
では、結局どんな作業をすると『実地棚卸の結果』が得られるのか?
一言で言えば『物を数える』で終わるのだが、下記のような作業である。
- 実際に置いてある商品や製品の在庫を数える。
- 上記の結果と帳簿を比べる(帳簿には仕入や販売を記録した『理論在庫』が記載されている)
- 結果と帳簿が一致しない場合、どちらが正しいのか検証する。
- 検証結果を確定させる。
上記以降は会計処理となるが、今回は省略する。
数えるの大変そう。。。
業務自体の流れは上記の通りだが『物を数える』のは一言で片付けられない、重労働である。
多くの企業では、下記のような苦労があると考えられる。
- 丸一日・・・いや、下手したら数日かかる(事前準備・整理もあるため)
- 通常営業と一緒にやるのは、従業員に大きな負担がかかる。
ちなみに、上記を解消するために業者に委託する場合のメリットは下記の通りである。
- 作業が速い(休業や営業時間短縮などの機械損失が減る)
- ロスが少ない(いつも様々な店舗で数えているから)
- 従業員の負担が減る(作業しなくて良いので、残業が減る)
ただし、業者に委託する場合は当然サービス料金が発生するので、トレードオフを考慮しなければならない。
業態別の特徴
では、主な業態で実際に作業する際に「これは大変だ」と実感した点を紹介する。
コンビニ
- 棚卸をしながら通常の業務もこなさなければならない(自社実施の場合)
- 来店客が居るので、買い物の邪魔などクレームにならないようにしないといけない(業者の場合)
- 作業中に売れた分は、後から検証するのが困難である(帳簿との比較に手間取る)
- 作業中および作業後も極力、売場を綺麗に保ちながら作業する(作業スピードが落ちる)
つまり、コンビニの棚卸が大変なのは『24時間営業・年中無休』だからである。
スーパー
- 売場が寒い(特に冬場の閉店後。節電のため暖房を切ることもあるが冷蔵や冷凍は切らない)
- 冷凍食品やアイスを数えるのがツライ(素手だと凍る。でも軍手だと数えづらい;)
少なくとも筆者は、スーパーの棚卸が『棚卸の基本』 のような位置づけだと考えているので、寒さ以外に大変だった印象は無い。
尚、冷凍は他の業態にもあるが、手が凍るくらいの量を数えるのはスーパーならではだろう。
ドラッグストア
- 空箱が紛らわしい(薬や化粧品は、空箱をレジに持っていく販売方式もあるため)
- 見た目で違いが分かり辛い商品が多い(化粧水や美容液などパッと見が同じなのでミスに繋がる)
- コスメは数えるのに時間がかかる(商品の種類が多く、サイズが小さいため)
やはり薬や化粧品が大変である。逆にそれ以外の商品(食料品や日用品)は、スーパーとあまり変わらずスムーズに作業できるはずだ。
調剤薬局
ドラッグストアと併設されることも多い、調剤についても紹介する。
尚、これについては筆者の経験ではなく『現役のベテラン薬剤師さん』からの情報提供である(多謝!)
- 同じ名前の薬でも、ある時点でメーカーが変わるため管理の負担が増える。
- 一包あたりの重量がそれぞれ異なるので、登録の手間が大きい(漢方薬が該当)
- 包装単位が細かいのでミスを誘発しやすい(14錠包装、10錠包装などをよく見る必要がある)
- 計量の手間が大きい(軟膏・粉・液体など、大きな瓶から少量ずつ取り出して提供するため)
- 同一カテゴリですら単位が異なる(例:目薬は本数または容量で換算)
そもそも医薬品の管理自体がシビアであることはイメージできるが、それが数える単位にも影響し作業の負担の増加に繋がっているものと考えられる。
酒屋
- 瓶が多いので、落として割らないよう気を遣う(結構良い値段するし)
- バラ売りとケース売りを間違えると、とんでもない差異が発生する。
- ケース売りの商品をバラで数えようとして開封してしまう(業者の場合はクレームになる)
上記はスーパーやドラッグストアにも言えることではあるが、酒屋では割合が圧倒的に多い。
ホームセンター
- とにかく終わらないw(広い!!)
- 外売場が寒い(冬場)
- 重い(資材とかドデカいものも数える)
- 怖い(高い場所に登ったりすることがあり、危険を伴う)
- 恐い(鎌やノコギリ、チェーンソー、意外に紙ヤスリでケガをする;)
- 細かい(ネジ、釘、ワッシャなど1つ数円のものが超大量に・・・※重量換算の場合もある)
小売店で一番大変なのは、間違いなくホームセンターだろう。
延べ3000店舗以上の棚卸を経験した筆者は、そう考える。
1店舗あたりの規模が圧倒的に大きいのもそうだが、言ってみれば『棚卸の技術の総合力を求められる』業態だからだ。
アパレル
- 物量の割に時間がかかる(1つ1つバーコードをスキャンするのが主流)
- 汚さないように気を遣う(包装されてない商品が多い)
- 作業後の復元が大変(綺麗に畳んで並べるため)
- 年中暑い売場が多い(テナントはほとんどそう。空調が切られてるか効いてない;)
見た目はオシャレなアパレルも、なかなか苦労が多い。
作業するうちに手が汚れて「商品をダメにしちゃった・・・」なんてことが無いよう気をつけなければいけない。
スーパーとは逆で『暑さ』が大変である。
本屋
- 物量の割に時間がかかる(棚の本は1つ1つバーコードをスキャンするのが主流)※アパレルに似ている
- 汚さないように気を遣う(包装されてない商品が多い)※アパレル同様
- 平台がめちゃくちゃ積んである!(重くて数えにくい)
- ストッカー(引出)が開けにくい!(大量に詰め込み過ぎ)
- 倉庫の段ボールが大変(重くて、何箱も積みあがっている。作業後に積み直さないといけない;)
- バーコードの無い本や読めない本が面倒(洋書など。特殊な方法で登録する)
- 同じ本なのに値段が違う!(消費税3%~5%時代や、洋書の輸入時期によるものなど)
本の1冊1冊はさほど重く感じないが、まとまると腰を痛めかねないくらいの重量になる。
そういう意味では、ホームセンターに次ぐ大変さかもしれない。
百貨店
- バックヤードがとにかく狭い!
- 数えてはいけないものがある(委託販売など自店のものではない場合)
- 同じ商品なのに、置いてある場所が違うと別の商品扱いになる(独自ルールと思われる)
- 入館手続が大変(業者の場合。時間がかかったり最悪入館不可;)
売場が華やかだが、各テナントのバックヤードは通路が狭く在庫でパンパンになっている場合が多い。
最後に
いかがだっただろうか?
要件定義や設計~開発、はたまた運用保守でも耳にするかもしれない 『実地棚卸』の裏側はこういう感じである。
一部の企業では、棚卸作業の削減や効率化に向けたシステム開発が行われていたりもするが、現場レベルではまだまだ従業員による手作業がメインである。
今後、技術の進化によって完全自動化ができるのか?
どうしたらそうできるのか?を考えるのも、ひとつの勉強になるかもしれない。
ともあれ今回の内容は、決算に必要な数値を求めるために頑張っている方々をイメージすることで、よりよいシステム開発が出来るように役立てて頂けると幸いである。
ここまで読んで頂き、多謝!! m(_ _)m
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