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プロペラの誘導速度について

2025/02/17に公開

はじめに

プロペラが回転したときに誘起される速度がどれくらいになるか、計算及び実測したので、まとめてみました
航空業界では、プロペラという言葉は、飛行機のように前進するための回転翼の場合に使用され、ヘリコプターのようにホバリングするための回転翼の場合はローターと呼ばれます
本来マルチコプターのようなホバリングする機体の場合、プロペラではなくローターという用語の方が適切かもしれませんが、比較的プロペラという用語がドローン業界では使われることが多いので、プロペラと呼ぶことにしています

理論について、最もシンプルな考え方として、運動量理論(Momentum Theory)があります
これは、プロペラの回転面を円板として扱い、その面で発生する推力から、運動量保存則を用いて誘導速度を導出する方法です
ヘリコプターの空力の教科書の最初に書かれている内容です
しかし、この仮定では、プロペラを回転面として扱っているので、プロペラブレードのピッチ角分布や様々な形状分布に拡張することができません
そこで登場するのが、翼素(よくそ)理論(Blade Element Theory)です
翼素理論とは、ブレードを半径方向に細かく分けて翼素として扱い、それぞれの空気力を求め、それをブレード全体で合計することによって、ブレード全体の推力やパワーを計算するものです
それをさらに拡張したもので翼素運動量理論(Blade Element Momentum Theory)というものがあります
これは、運動量理論と翼素理論を組み合わせたものです
翼素理論だけでは誘導速度分布がわかりません
そこで、運動量理論と組み合わせて、誘導速度分布を算出します
ここまでくると少し難しい話になってしまうので、今回は最初の運動量理論から説明します

運動量理論

プロペラを円板とみなし、円板部分で速度が増加されると考えます

円板の十分上流で速度がV、円板部分での速度の増分(誘導速度)をv_{1}、円板の十分後流での速度の増分をv_{2}と仮定します
また、円板によって生じる推力をTとして、この推力は、運動量と力積の関係より、単位時間当たりの円板を通る空気量mと、十分上流と十分下流の速度差v_{2}の積であるため、

T = m v_{2}

となります
円板は推力Tを生じながらV+v_{1}の速度で動いていることになるので、仕事率P

P = T (V + v_{1})

となります
この仕事率は、十分上流側と十分下流側の運動エネルギーの増加分なので

P = \frac{1}{2} m [(V + v_{2})^2 - V^2]

となります
上記3つの式を解くと

v_{2} = 2 v_{1}

が得られます
さらに、単位時間当たりの円板を通る空気量m

m = \rho A (V + v_{1})

であるため、これを用いると

T = 2 \rho A (V + v_{1}) v_{1}
P = 2 \rho A (V + v_{1})^2 v_{1}

と表せます
ホバリングの場合、V = 0となり、プロペラ半径をRとすると

T = 2 \rho \pi R^2 v_{1}^2
P = 2 \rho \pi R^2 v_{1}^3

となるため、ホバリングのときの誘導速度v_{1_{h}}

v_{1_{h}} = \sqrt{\frac{T}{2 \rho \pi R^2}}

となります
では、実際に計算してみたいと思います
プロペラ直径が 9インチで、推力が 9.8N(=1kg)の場合を考えてみます
上の式は、長さの単位はメートルで、推力の単位はニュートンです
大気密度を1.225 kg/m^{3}とすると、誘導速度v_{1}
v_{1} = 9.9 m/s
となります

実際の速度計測

セットアップ及び試験方法


今回は、9インチのプロペラを使いました
ロードセルにモーターとプロペラを取り付け、プロペラを逆向きに取り付けてプロペラ後流が上方に流れるようにしました
使用したものは下記の通りです

  • バッテリー : 4S リポバッテリー
  • モーター : SunnySky 2212 980KV
  • プロペラ : Gemfan 9047

プロペラ後流に速度センサー(カノマックス製アネモマスター)を入れて、風速を計測しました
しっかりとした治具を用意せず、手で持ちながら計測したので、正確な値ではありません
あくまでもざっくり試験してみました

サーボテスターを使ってモーターの回転数をコントロールしました
ロードセルの値を見ながら、10N程度の推力になるようにモーターの回転数を調整し、そのときの風速を測定しました
測定した位置の半径方向は、目分量ですが、半径の20%, 40%, 60%, 80%, 100%です
プロペラ面からの距離は、だいたい10cm程度です

測定結果

下記のような結果になりました

半径位置 %R 風速 [m/s]
20 2
40 15
60 18
80 5
100 0

40~60%くらいの位置がとても速く風が流れていることがわかります
やはり、中心付近はブレードのスピードも遅いので、風の速度も遅いです
また、100%R位置では、プロペラ面から10cmくらい離れると、流れが絞られて、後流から出ているような感じでした(速度が逆向きになったり不安定な状態)
翼端渦の影響で不安定な流れになっているのかと思います
上記表をグラフにしたのが下記になります

とても分布に偏りがある結果となりました

運動量理論との比較

今回、9インチのプロペラが9.8Nの推力を発生している場合の誘導速度について、運動量理論を用いて計算しました
また、同じ条件下において実験を行い、風速分布を計測しました
実験結果より、風速は半径方向の分布に偏りがあり、運動量理論とは大きく異なることがわかりました
まあ、当たり前の結果です
だからといって、運動量理論は使えないわけではありません
では、この分布をならしたときに、理論と一致するかを検証してみます
下の図のように、プロペラの円板を上から見たときに、半径方向に微小な幅を持つ\delta A_{i}の部分に一様に速度v_{1, i}が流れていると考えてみます

誘導速度の平均値v_{1 average}は以下の式で表せます

v_{1 average} = \frac{1}{A} \sum v_{1, i} \delta A_{i}

今回計測したのは、20%R刻みだったので、前後に10%の幅を持たせてみました
例えば、40%Rの位置で15m/sの風速だったので、30%R~50%Rまでが15m/sの風速であると仮定するということです
この方法で計算してみると、v_{1 average} = 8.5 m/sとなりました

運動量理論の計算結果はv_{1} = 9.9 m/sですが、今回の実験はかなり雑に行っているので、比較的一致したと考えています

まとめ

プロペラが誘起する風速について、運動量理論によって導出し、さらに実験結果と比較しました
実験結果より、プロペラの半径方向に沿って、風速に偏りがあることがわかりました
実際に誘起される風速の平均値と、運動量理論は一致することが確認できました
風速分布はプロペラ形状によって変化しますが、よほど変な形のプロペラでない限り、そこまで大きく分布は変わらないと思います
なので、ざっくりプロペラ後流の風速が知りたいのであれば、知りたい環境のプロペラ半径、そのときの推力をベースに運動量理論で誘導速度を求め、最大値はだいたい2倍くらいになると考えて問題ないと思います

この風速分布を理論的に求めるためには、翼素運動量理論まで踏み込まないといけません
翼素運動量理論を使ってプロペラの性能を計算するプログラムを組んだことがあるので、今度紹介します

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