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AIで冷蔵庫をコンビニに〜50倍に成長、出店数100万店を目指すイオンの新ECサービス「グリーンビーンズ」の舞台裏〜

2025/01/01に公開

みなさん、あけましておめでとうございます。

イオンネクストで技術責任者CTOをしております樽石です。

昨年イオンネクストのIT部は、AEON TECH HUB (13本) や当社ストーリーメディア(5本) 、Advent Calendar(5本)に記事を執筆しました。合計23本です。

https://engineer-recuruiting.aeon.info/aeon-tech-hub/tag/aeonnext
https://www.wantedly.com/companies/company_5831950/stories
https://qiita.com/advent-calendar/2024/aeon

また、イベントは7回登壇しているので、外部発信は合計で30回行いました。2週間に1回以上のペースです。これは一重に当社のメンバーの努力の賜物です。みなさん、ありがとうございました。

さて、イオンのDXスタートアップ企業であるイオンネクストは、「グリーンビーンズ」という食品ECサービスを提供しています。皆さま、ご利用いただいたことはありますでしょうか?エリア内でまだご利用されたことがない方は、ぜひ一度お試しいただければと思います。自宅の冷蔵庫を、AIを使ってあなたに最適で長持ちする商品の保管庫に生まれ変わらせることができます。

今日はその秘密についてご紹介させていただきます。

グリーンビーンズの成長

まず、現在のグリーンビーンズの規模についてご紹介いたします。

グリーンビーンズは2023年7月にローンチし、サービス開始から1年半が経過しました。当初は11自治体で始まったグリーンビーンズですが、今年の12月には東京23区全域にエリアを拡大し、今後もさらに拡大する予定です。

以下のグラフは、サービスがローンチしてから現在までの注文数の変化を示しています。注文は一貫して増加し、昨年の最大注文数はローンチ初日の注文数の48倍になりました。


各四半期の1日最大注文数の推移 (最大注文数は6倍を達成)

物流2024年問題を乗り越えて

グリーンビーンズ事業において、デリバリークルーの拡充は極めて重要です。しかし、少子化による労働世代の減少や2024年物流問題がクローズアップされる中、クルーの拡充は簡単ではありません。

https://jta.or.jp/logistics2024-lp/

それでも、グリーンビーンズは順調に体制を拡大し、本年12月に東京23区全域にエリアを拡大することができました。

グリーンビーンズは自社配送を行っており、エリアを拡大するため配送網の整備が必要です。これは、ハブ&スポークモデルと呼ばれる方式で行っています。

ハブとは郊外にある大型倉庫、スポークは配送先近くに設置される中継所です。大型トラックで配送された荷物は、スポークで宅配バンに入れ替えられ、配送先まで届けられます。大型トラックに積載されている荷物は、キャスター付きのフレームに換装されており、中身を取り出すことなく平行移動して宅配バンに入れ替えできます。これらの入れ替え作業はデリバリークルーが行う必要はなく、別のスタッフによって分業されています。そのため、デリバリークルーは出勤したらすぐに出発し、宅配先での接客に集中することができます。

デジタル化およびシフトファースト受注

これを実現した鍵は、デジタルを活用したデリバリー業務の民主化です。商品がどこに置かれているかをバーコードで常に監視し、誰でも簡単に配送オペレーションを実現できるようになりました。ECサイトの注文は配送システムと密接につながっており、デリバリークルーのシフトに合わせて注文を受け付けるようにしています。これにより、注文の取りすぎを防ぎ、クルーの労務負荷を軽減します。

また、宅配バンには宅配用車載ナビを搭載し、初めての場所でも迷わずにお客様に商品を届ける仕組みを開発しています。開発にあたっては、私が自らデリバリークルーと配送を共にし、見つけた課題を解決するシステムを内製化しました。

詳細については、こちらの記事をご覧ください。

https://engineer-recuruiting.aeon.info/aeon-tech-hub/interview_car_navigation_app

こういった地道な改善活動を繰り返し、デリバリークルーの限られた就業時間を有効に活用できるようにしています。

AIで冷蔵庫をコンビニに

グリーンビーンズは東京都心を中心に多くのお客様にご利用いただいております。しかし、グリーンビーンズは他の食品小売店とはどのように異なっているのでしょうか。

グリーンビーンズを紹介する際、私は「店舗のないスーパー」と表現することがありますが、実際には店舗はお客様のご自宅の中に存在していると考えています。

多忙な時や病気で外出できない時、リモートワークのランチタイムですぐに調理して食事を済ませなければならない時など、買い物に時間を割くことは難しいです。しかし、もし自宅に店舗があったらどうでしょうか?冷蔵庫の扉を開けると必要なものがすぐ目の前に確実に用意されている状況を作り出すことができたら便利ですよね。

グリーンビーンズが目指しているのは、各家庭に最適化されたスーパーを、ご自宅内に出店することです。すなわち、冷蔵庫をコンビニのように便利なお店にすることを目指しています。

どうやるか?

どうやって便利なお店にするのか?それは

「必要なものを冷蔵庫にあらかじめ入れておく」

というシンプルなものです。言葉で言うのは簡単ですが、実際にはそう簡単ではありません。食品の購入は加工品ではなく、素材が大半です。つまり、食卓ですぐに食べられるご馳走ではなく、それらのもとになる野菜や肉といった素材商品をたくさん買い、それを冷蔵庫に入れておく必要があります。商品ごとに一度にどれぐらいの量を買うべきなのか、どれぐらいの頻度で買い足す必要があるのか、こういったことを全ての商品について正確に理解しておかないと、冷蔵庫の商品が不足したり、余ったりしてしまいます。

簡単そうですが、これがなかなか難しい。まして買い物を複数人で分担するようになると、相手が何を買ったかを全て把握しておかなければならず、すぐに破綻してしまいます。これを解決したのが「グリーンビーンズ」です。

50点の商品を数秒で購入するスマートカート

グリーンビーンズでは、どの商品をいつどれぐらい買うべきなのかをAIが考えてくれる機能を実現しました。これを「スマートカート」と呼んでいます。スマートカートは過去の購買履歴をもとに、今回購買する可能性の高い商品をワンタッチでカートに投入します。


スマートカートで45品の商品を数秒でカートに追加

大きな特徴は、定期的に買う商品とその商品の購入点数を、AIが購買履歴から自動的に学習することです。数回グリーンビーンズ上で購入するだけで、おすすめのカートが自動で作成されます。

この技術は、グリーンビーンズの在庫管理に使っている「予測発注技術」を応用しています。RPO(Recommended Purchase Order)と呼んでいるもので、詳細は以下の記事で解説しています。

デジタルによる小売革命!「RPO」が導く需要予測の新たな可能性~平均在庫日数を30日以上から8日に短縮
https://www.wantedly.com/companies/company_5831950/post_articles/944708

買い物の分担

また、スマートカートを使えば買い物を簡単に分担出来ます。例えば、以下のような分担です。

この場合、スマートカートの使い方を知っている人が世帯に1人いれば、他の人は使い方を知っている必要はありません。その人が「スマート同居人」に依頼するだけです。スマート同居人は数秒で買い物カゴの叩きを作り、そのカゴを渡します。本人は渡されたカゴの中身を確認し、不必要な商品を取り除くだけで買い物が完了します。

配送時間はiCal形式でメールが送付されます。これをカレンダーアプリに登録すれば、他の予定と同様に簡単に予定管理ができます。共有カレンダーに登録すれば、家族同士での受取の管理も簡単です。

また、カートの中身は出荷前の締め時間まで編集が可能です。それまでに変更したい商品があれば、いつでもどこでも簡単にカート編集ができます。さらに、編集は複数台のスマホから同時に行えるので、締めの直前に複数人で手分けして買い物カゴを編集すれば、買い物時間をさらに短縮することができます。会話も生まれます。

垂直統合により実現

食品ECは非食品より難易度が高いです。その理由は衛生管理です。食べ物には消費期限があり、保存方法にも制約があります。そのため、製造から宅配まで一貫した品質管理が必要です。これを実現するため、グリーンビーンズは「入荷」から「宅配」までを自社で垂直統合し、品質管理を適切に行えるようにしています。

このような一貫した品質管理を実現するには、それを支える情報システムの整備が極めて重要です。グリーンビーンズのサービスを実現するデジタルプラットフォームを私たちは「イオンネクスト・プラットフォーム」と呼んでいますが、これは上述の垂直統合された事業モデルをソフトウェアで適切に定義し、実現したものです。事業モデルが垂直統合であるため、プラットフォームも垂直統合になっています。

下図は、イオンネクスト・プラットフォームのサービスコンポーネントスタックです。

クラウドからエッジまであらゆる領域を統合したプラットフォームで、今日のコンピュータ・サイエンスの大半の部分をカバーしています。これはすなわち、イオンネクスト・プラットフォームの開発に関わるということは、「コンピュータ・サイエンス」のほとんどの領域の開発に携わることを意味します。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/計算機科学

加えて、このプラットフォームでグリーンビーンズサービス自身とそれを支える会社運営をともにソフトウェアで統合しています。これをイオンネクストでは「Software Defined Company」と呼んでいます。

最新のロボティクスとAIテクノロジー

メーカーから提供される商品は、一度にたくさん入荷する方が規模の経済が働くためコストが下がります。一方で、最終的に納品する冷蔵庫は世帯向けに少量多品種の形でお届けする必要があります。

グリーンビーンズのサプライチェーンの肝は、大量の商品を各戸の冷蔵庫向けに仕分けしなおし、一括で各戸に配達することです。従来、このオペレーションは極めて労働集約的でスケールしませんでした。

そこでグリーンビーンズは、この一連の流れを最新のロボティクスとAIテクノロジーをフル活用して垂直統合しています。これにより、人間の10倍以上の効率で24時間フル稼働し、東京都市圏のすべてのお客様のご自宅に、それぞれに最適化された出店が可能になる供給基盤を実現しました。

ムーアの法則で増える業務システム

下図はこの1年のイオンネクスト・プラットフォームの業務システムの数の推移です。1.8倍に増加しました。

業務システムは従業員DXの要です。今年は会社に存在する業務システムをイオンネクスト・プラットフォームの一部として統合管理する仕組みの開発を行ってきました。これにより、業務システムの拡大に耐えうる基盤が完成しています。Software Defined Company のすべての業務システムはANX1アーキテクチャにより具体化され、12のコンポーネント、4つのオフィスにグループ化されます。

このアーキテクチャにより、業務システムはムーアの法則を維持し続ける予定です。

店舗数100万店に向け、今年もアクセル全開で

以上、昨年のグリーンビーンズ成長の裏側をご紹介しました。グリーンビーンズは最先端テクノロジーを垂直統合し、東京中にスケール可能な自宅内コンビニの出店を実現しました。グリーンビーンズにおいて新規会員の獲得は「出店」を意味し、現在の出店数は40万店を突破しています。供給力はまだまだ増やすことが可能で、まずは今の倍の水準である「100万店」を目指していく予定です。

特に近年、冷蔵庫も多様化しています。各部屋に設置可能なミニ冷蔵庫や、リビングに設置可能なテーブル型冷蔵庫、車載冷蔵庫など、キッチンに1台だけ大型冷蔵庫が存在していた時代から大きく変わってきています。

冷蔵庫をコンビニにする試みは、パナソニック社とも共同実験を始めています。

https://news.panasonic.com/jp/press/jn241031-1
https://aeonnext.co.jp/assets/file/news/241031R_1.pdf

多様化した冷蔵庫を有効に活用するには、AIによる商品の注文は極めて重要です。

グリーンビーンズとは、AIで家事を分担し、冷蔵庫を簡単にコンビニにするサービス

マーケティング会社の最新の調査によれば、共働き子育て世帯は都心を中心に増え続けています。そういった世帯が自分や家族への投資を継続するためには、お互いが働き続けられる生活基盤の構築が極めて重要です。

AIを活用して買い物を分担し、冷蔵庫をコンビニにするグリーンビーンズのデジタル基盤。今年はこのシステムをさらに磨き上げます。お客様の買い物を根底から変え、お客様の自己実現の一助となれるよう、そしてその供給力を維持し続けられるよう、引き続き邁進します。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000022.000136256.html

イオンネクストは一緒に働く仲間を募集しています。この取り組みに興味のある皆さま、この規模のシステムの開発初期に関われる経験はほとんど存在しません。ぜひ一緒に働きましょう。

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