New Relicの”ゼロNull”問題に僕らがハマる理由を考えてみた
こんにちは。イオンスマートテクノロジー株式会社(AST)でSREチームの林 aka もりはやです。
当社で利用しているNew Relicは”フルスタックオブザーバビリティ”を提供してくれる素晴らしいサービスです。本記事ではNew Relicが提供している機能の一つSyntheticを利用したアラートが自動復旧しなかった問題が、New Relicユーザの多くの方(?)が経験する”ゼロヌル問題”であり、私たちがなぜハマるのかを自分なりに考えてみました。(要因は複数あるため、シリーズ化するかもしれません)
TL;DR
はじめに要点を記載します。
- New RelicのSyntheticのアラートが自動復旧しない状態に気づいた
- 調べるとNew Relicでよくある質問”ゼロNull”が原因だった
-
filter
によるサブ句を利用しないとWHERE句で要素に一致するデータがない場合、0ではなくNullの値が返される事象だった
New Relicの”ゼロNull”問題とは
New Relicの”ゼロNull”問題について簡単に説明します。詳しくはNew Relicの中の方が記載している”ゼロヌル問題”をみていただくのが早いですが、実際に回復しないアラートを体験したユーザ目線で記載します。
要点は以下です。
- New Relicのアラートを設定する場合、Alert Conditionのthresholdsで閾値を定量的に設定する必要がある
- Syntheticなどの監視の結果を定量化するために
COUNT
を利用するのが一般的 - New Relicの
COUNT
はWHERE句でHitするものがないと0
ではなくNull
がリターンされる - WHERE句の条件で
SyntheticがFAILEDした場合はCOUNTして1を返す
場合、テストが正常終了した際にnot FAILED
が永久的にNullがリターンされて復旧することがない
と箇条書きでまとめても、いまいちピンとこないかもしれません...(私のように)
COUNTの結果はゼロが返るものだという誤解
COUNT
で 0
ではなくNullがリターンされることへの誤解の理由を説明するために、New Relicを離れて一般的なDBの話をします。(New Relicの仕様と異なるため、あえて誤解と表現しました)
例としての以下のテーブル及びデータが存在する場合に、MySQLやPostgreSQLがどのような動作をするかを確認します。
- テーブル"CHECK_RESULT"は2つのカラムをもつ
- カラム1は日付型の"datetime" *PostgreSQLの場合は"timestamp"
- カラム2は文字列型の"result"
- "result"には"FAILED"か"SUCCESS"のどちらかが入る
結果は以下に記した通り、MySQLとPostgreSQLは COUNT
関数で WHERE
を利用したクエリがヒットしない場合ゼロ(0)を返します。これらのDBでの経験がNew Relicの仕様と異なることが私の勘違いに繋がりました。(そして多くのDB経験者にも同じことが起きるのではと考えています)
MySQLの場合
コンテナを使ってサクッと環境を用意します。私のPC環境ではコンテナ操作を podman
を利用していますがdockerをお使いの方はそのまま docker
へ置き換えても動作するはずです。
$ podman pull mysql:latest
$ podman run --name some-mysql -e MYSQL_ROOT_PASSWORD=my-secret-pw -d mysql:latest
$ podman exec -it some-mysql mysql -p
-> my-secret-pw を入れる
起動と接続に続いてテーブルを作成します。いきなり create table
を実行すると以下のエラーが出たため use mysql
でDBを選択しました。
ERROR 1046 (3D000): No database selected
> use mysql
> create table check_result(datetime datetime, result varchar(10));
さて、テーブルが作成されレコードが1行もない状態で count
をしてみましょう。
mysql> select count(*) from check_result;
+----------+
| count(*) |
+----------+
| 0 |
+----------+
1 row in set (0.01 sec)
結果はゼロです。Nullではありません。続いていくつかレコードを挿入します。イメージとして5分間隔のチェックで 10:10, 10:15 の2回だけFAILEDが記録された状況の再現です。
mysql> insert into check_result values ('2024-05-09 10:00:00', 'SUCCESS');
mysql> insert into check_result values ('2024-05-09 10:05:00', 'SUCCESS');
mysql> insert into check_result values ('2024-05-09 10:10:00', 'FAILED');
mysql> insert into check_result values ('2024-05-09 10:15:00', 'FAILED');
mysql> insert into check_result values ('2024-05-09 10:20:00', 'SUCCESS');
mysql> insert into check_result values ('2024-05-09 10:25:00', 'SUCCESS');
mysql> insert into check_result values ('2024-05-09 10:30:00', 'SUCCESS');
この状態でFAILEDをカウントすれば、当然2となります。
mysql> SELECT count(*) from check_result WHERE result = 'FAILED';
+----------+
| count(*) |
+----------+
| 2 |
+----------+
1 row in set (0.00 sec)
New RelicのWindow Durationが5minの場合を想定し、復旧後の 10:25-10:30の間をカウントします。
mysql> SELECT count(*) from check_result WHERE result = 'FAILED' AND datetime BETWEEN '2024-05-09 10:25:00' AND '2024-05-09 10:30:00';
+----------+
| count(*) |
+----------+
| 0 |
+----------+
1 row in set (0.00 sec)
このようにMySQLではFAILEDなレコードがHITしない場合は0になるのが仕様です。
PostgreSQLの場合
こちらもコンテナを使ってサクッと環境を用意します。繰り返しになりますが私のPC環境ではコンテナ操作を podman
を利用していますが docker
へ置き換えても動作するはずです。
$ podman pull postgres:latest
$ podman run --name some-postgres -e POSTGRES_PASSWORD=mysecretpassword -d postgres:latest
$ podman exec -it some-postgres psql -U postgres
起動と接続に続いてテーブルを作成します。
postgres=# create table check_result(datetime timestamp, result varchar(10));
さて、テーブルが作成されレコードが1行もない状態で count
をしてみましょう。
postgres=# select count(*) from check_result;
count
-------
0
(1 row)
結果はゼロです。Nullではありません。続いていくつかレコードを挿入します。イメージとして5分間隔のチェックで 10:10, 10:15 の2回だけFAILEDが記録された状況の再現です。
postgres=# insert into check_result values ('2024-05-09 10:05:00', 'SUCCESS');
postgres=# insert into check_result values ('2024-05-09 10:10:00', 'FAILED');
postgres=# insert into check_result values ('2024-05-09 10:15:00', 'FAILED');
postgres=# insert into check_result values ('2024-05-09 10:20:00', 'SUCCESS');
postgres=# insert into check_result values ('2024-05-09 10:25:00', 'SUCCESS');
postgres=# insert into check_result values ('2024-05-09 10:30:00', 'SUCCESS');
この状態でFAILEDをカウントすれば、当然2となります。
postgres=# SELECT count(*) from check_result WHERE result = 'FAILED';
count
-------
2
(1 row)
New RelicのWindow Durationが5minの場合を想定し、復旧後の 10:25-10:30の間をカウントします。
postgres=# SELECT count(*) from check_result WHERE result = 'FAILED' AND datetime BETWEEN '2024-05-09 10:25:00' AND '2024-05-09 10:30:00';
count
-------
0
(1 row)
このようにMySQLと同様にPostgreSQLではFAILEDなレコードがHITしない場合は0になるのが仕様です。
New Relicのクエリ順序によるNullの動作
上述したように過去のRDBMSでの経験からCOUNTの結果は 0
だと考えてしまいましたが、New Relicは仕様が異なります。
New Relicでは、アラートのためのNRQLの COUNT(*)
が WHERE result = 'FAILED'
の場合 FAILED
がなければ 0
ではなく Null
が返されます。
この動作は以下の説明を読むことでわかりやすくなります。
NRQLアラート条件を作成する - NRQL条件および演算のクエリ順序
該当部分を引用します。
NRQL条件および演算のクエリ順序
デフォルトで、集計ウィンドウの期間は1分ですが、必要に応じてウィンドウは変更できます。集計ウィンドウが何であろうと、New RelicはNRQL条件のクエリの関数を使用して、そのウィンドウのデータを集計します。クエリは構文解析され、以下の順序でシステムによって実行されます。
- FROM 句。どのイベントタイプを取り込む必要があるのか?
- WHERE 句。何を除去できるのか?
- SELECT 句。今、フィルタリングしたデータセットから何の情報を返す必要があるのか?
NRQLの動作として 2. WHERE句
の段階で全てのデータが除去された場合 3. SELECT句
は実行されず Null
が返されることとなります。
そうです、ここで 0
ではなく Null
が返されるのです。(大事なことなため2回書いた)
filter
関数
対策としての この(個人的に)直感的ではないNullが返却される動作に対して、New Relicはもちろん対策を用意してくれています。
”ゼロヌル問題”より以下に引用します。
また、別の方法としては、SELECT 句で filter 関数を用いる方法が挙げられます。NRQL の WHERE 句で条件を儲けるのでなく、SELECT 句の filter 関数でフィルタリングした結果を count することで 数値としてのゼロ (0) が記録できます。
SELECT filter(count(*), where result = 'FAILED') FROM SyntheticCheck WHERE monitorName = 'My Cool Monitor'
つまり、Synthethicを活用する私たちのアラートのNRQLは filter
を用いた以下のような形にすることでNullではなく確実に 0
か 1
を結果にとることが出来るようになりました。
SELECT filter(count(*), WHERE result = 'FAILED') AS 'Failures'
FROM SyntheticCheck
WHERE entityGuid IN
(‘<Synthetic monitorsのGuIDその1>’,
‘<Synthetic monitorsのGuIDその2>’,
‘<Synthetic monitorsのGuIDそのN...>’)
FACET monitorName
まとめ
以上、New Relicの”ゼロNull”問題にハマる理由を、一般的なDBの例も踏まえて理由づけしてみました。違いを理解することで少しでもNew Relicユーザの皆様の誤解(あえて強い表現)が減らせると幸いです。
PS: filter
を使ってNullを回避したはずが、Window Durationの兼ね合いでやっぱりNullを得ていて、閾値を下回らなかった話もあるため気が向いたら連載予定です。
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