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アトム(現実)とビット(仮想)の融合が始まった。テクノロジービジョン2023から世界の向かう先を知る

2024/03/05に公開

*本記事は過去のウェビナー記事をZennに再掲載したものとなります。

2022年、アクセンチュアが発表した世界のテクノロジートレンドに関する最新の調査レポート「Accenture Technology Vision 2023(テクノロジービジョン2023)」では、「アトムとビットが出会う時 – 新たな現実世界の礎を築く」と題し、企業が今まさに事業の再創造を加速させようとする中で、現実とデジタルの融合を促すテクノロジーのトレンドを定義しました。

現実(アトム)と仮想(ビット)がなめらかに融合を始めた

まずは2022年の内容を振り返ります。テクノロジービジョン2022では「メタバース連続体」を大きなトレンドとして取り上げ、仮想と現実の間が曖昧になっていく点に言及しました。

仮想世界と現実世界がそれぞれ同じくらいの情報量を持ち、なめらかに融合するという世界は着実に近づいてきています。この融合が実現すれば、十人十色の顧客体験どころか、一人十色と呼べるほどの究極のパーソナライゼーションも可能になっていくでしょう。

すべての基盤となるデジタルアイデンティティ

プロローグとしてテクノロジービジョン2022のトレンドと昨今の技術進化を紹介したところで、ここからテクノロジービジョン2023の内容に入っていきます。テクノロジービジョンでは以下の4つのテクノロジー・トレンドが提言されましたが、今回のウェビナーでは前半の3つにフォーカスして講演を行いました。

最初のトレンドは「デジタルアイデンティティ(Digital Identity)」です。

デジタルIDは古くて新しい話であり、昔からIDの重要性は認識されてきました。しかし、いまだにトレンドであり続けているのは、それが変革の困難なテーマでもあるからです。

現在、多くの人々はサービスごとに複数のIDを持ち、そのデータは企業や行政に囲い込まれた状態にあります。そうではなく、すべての個人が生まれながらに固有のIDを持ち、それを企業や行政が使うという「ユーザー起点のID生成」をめざすべきです。

理想を言うは易しで、実現困難な世界に思われるかもしれませんが、実は既にインドでは具現化しています。2009年時点で大多数の国民に金融サービスが届けられておらず、IDのない国民も大半でした。

そこでインド政府は、「India Stack」というデジタルID基盤の構築に取り組みます。最初に着手したのは「Aadhaar(アダール)」というデジタルIDの発行であり、日本のマイナンバーにも近い仕組みですが、生体情報もセットでデジタル化している点が特徴です。

そして、このデジタルIDをAPI経由で公開することで、企業はそのIDを利用することが可能になります。現在、アダールによって、ほぼすべての金融機関において約10分で本人確認手続きができるようになっていますが、ポイントは各企業がeKYCの仕組みを作る必要がないということです。*eKYC:electronic Know Your Customerの略称。オンライン上で身元確認を完結する仕組み。

現在では、インドのスタートアップ企業の約84%がアダールを使って自社サービスを提供しているなど、圧倒的にサービスの規模が拡大しています。

データを独占せず、透明性を保つことが競争優位になる

2つ目のトレンドは「私たちのデータ(Your data, my data, our data)」です。

データ利用では「透明性」というキーワードが重要になります。データの独占や不透明な利用からの脱却は、今や競争優位にも直結する重要な課題となっています。

透明性を担保するということは、APIによるデータ公開を指しています。APIによって様々なデータを公開することで、個人にとっても、企業にとってもベネフィットになるという考え方です。

そして、ここでもケーススタディとしてインドのIndia Stackが挙げられます。India Stackの「Account Aggregator」は自分のデータを共有する際に共有する範囲や条件の同意を付与する仕組みであり、これによりスムーズな融資の実現につながります。

こうした仕組みは、最先端の技術が必要不可欠なわけではありませんが、仮想と現実をなめらかにつなぐための非常に重要な基盤になっていきます。

DXを基盤にしたAI Transformationが起こる

3番目のトレンドは「一般化するAI(Generalizing AI)」です。

仮想と現実のなめらかな融合において重要なキーが生成AIです。生成AIを活用して現実世界とコンピューティングの間をなめらかに融合させるUX革命はAIX(AI Transformation)と呼ばれます。

今までDXの文脈でデジタルツインと呼ばれていたものは大雑把なロジックであり、たまたま検索しただけのキーワードに関連する広告が表示され続けるなど、現実世界の事象としては、決して良い体験にはつながっていませんでした。

しかし今後は、より高度なロジックと生成AIにより、文脈に応じた「一人十色」のコミュニケーションが可能になっていきます。

ただし、誤解してはならないのは、DXに意味がないわけではなく、むしろDXの基礎があることでAIXが初めて可能になるという関係性です。あらゆる企業活動をデジタルデータとして蓄積し、デジタルツイン化しているからこそ、そこに知性=AIを組み込みことが可能になります。

生成AIは人類の「学び方」を変える可能性もある

しかし、生成AIが本当にユートピアをもたらすのかというと、課題もあります。

課題のひとつは、本当に生成AIを使いこなせる人はどれだけいるのか、という点です。以下は日本とアメリカでの生成AIの用途を比較したグラフですが、アメリカではアイデアの生成といった思考における「壁打ち」の用途が多い一方で、日本では答えを聞く用途が多くなっています。

しかし、生成AIには、知らないことも知っているかのように答える、という性質があります。ある分野の熟練者であれば、AIの回答を最初から鵜呑みにしないという態度が取れますが、未経験者や初学者が生成AIを単純に利用するのは容易にディストピアにつながります。

AIを使いこなせる人はビジネスの世界ですぐに頭角を現すようになり、一方でAIの結果を鵜呑みにする人は淘汰されていくことで、格差はますます広がっていくでしょう。

それでは、ディストピアの懸念をクリアしながら、スキルや経験が未熟な社員はどのように生成AIを活用していくべきなのでしょうか。例えば、個別指導用AIボットのように、「AIから学ぶ」という方法です。今までの人類の歴史では、学びのやり方には「人から学ぶ」「文字や動画から学ぶ」という2つの手段がありましたが、生成AIは第三の学び方になる可能性があります。

アトムとビットが融合したサービスを提供する存在は、必ず現れる

今回紹介した内容については、部分的にというよりも、すべてを取り込んでくる企業がいずれ登場するでしょう。……いえ、たった今「企業」とは言いましたが、アトムとビットがなめらかに融合したサービスを提供する存在というのは、もはや企業なのかどうかもわかりません。

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