日本のIT宮大工として国内の公共機関をご支援 ~テクノロジー コンサルティング本部 公共サービス・医療健康部門のご紹介
今回はテクノロジー コンサルティング本部 公共サービス・医療健康グループ アソシエイト・ディレクターTake, Hiroyukiが執筆した記事をご紹介します。記事内容は執筆当時のものです。
はじめに
テクノロジー コンサルティング本部 公共サービス・医療健康グループ アソシエイト・ディレクターの武弘之です。
日本の公共機関には、社会基盤を長年支え続けている超大規模システム群やマイナンバーなどに代表される新たなサービスなど、そのサービスを利用している国民の皆さんが想像する以上に多くのテクノロジーが関わっています。
前者の超大規模システム群については、1960年頃から統計、社会保険、登記、特許などの分野で大量の定型業務処理の省力化や正確性の向上を目指した大規模電子計算機の導入が始まり、その後連綿たる法制度改正への対応により、複雑さは他のあらゆる業界のシステムなど、及びもつかないものとなっています。
また、既にかなり昔の話にはなりますが、「業務・システム最適化指針(ガイドライン)」(平成18年3月各府省CIO連絡会議決定)に沿って策定された「最適化計画」において、多数の中央官庁の業務と情報システムの改革を一体的かつ計画的に行うこと示されました。
特に、いわゆる旧式(レガシー)システムについては、長年にわたり非競争な環境におかれていました。運用コストが高止まりになる傾向があったことを踏まえ、各業務・システムに係る最適化計画の一環として、汎用パッケージソフトウェアの利用、オープンシステム化、随意契約から競争入札への移行等を軸としたシステム刷新に今も取り組み続けています。
後者のマイナンバーなどに代表される新たなサービスについては、内閣官房から示されたデジタル社会の実現に向けた改革の基本方針や、令和3年に設置されたデジタル庁のもと「品質・コスト・スピードを兼ね備えた行政サービスの実現」というテーマで行政システムの整備及び管理に関する取り組みの基本方針が示されました。国民の生活やビジネスなどの社会活動を阻害せず、社会変革を誘発することが本来の役割として求められています。
デジタル庁から公表されている令和5年度に政府が投じた情報システム整備・運用費(一般会計ベース)は約5,900億円でした。これは4年度と比して約400億円の増加となっており、デジタル庁システム(政府共通クラウド、新しい府省間ネットワーク、マイナポータル、オンライン行政サービス)の拡充や中央官庁の総合ネットワーク構築などによる増加となっています。
公共機関による行政サービスの裏側
1億を超える人口に対し、一つの社会制度に基づく行政サービスを提供している先進国は数えるほどしかありません。
アメリカ合衆国の人口は約3億3千万人ですが、連邦制により行政サービスは州単位を基本に運営されていて、州別にみれば一番人口の多いカルフォルニア州でも人口は約4千万人になります。欧州で見るとイギリス(6千8百万)、ドイツ(8千4百万)、フランス(6千5百万)など、人口規模では日本の約半数から3分の2程度です。
いわゆる開発途上国は、社会基盤がまだ流動的で、今後一足飛びに新たな社会基盤を構築することが比較的容易です。つまり、日本の公共機関のシステムは、他国と比較しても大規模化・複雑化していく背景事情があるというわけです。
テクノロジーという観点からは、メインフレームからの脱却、クラウドへの移行、サイバーアタックへの備え(セキュリティ対策の実施)、データ活用、Generative AI(生成AI)など新しい技術への対応など、取り組むべきテーマは膨大です。
テクノロジーコンサルティング本部 公共サービス・医療健康本部の仕事とは
我々テクノロジー コンサルティング本部は、国内外のテクノロジーに関する業界横断の知見に加え、海外の行政機関における事例等をもとに、お客様へサービスを提供し、国内においては主に以下のようなご支援をさせていただいています。
- 大規模システム刷新の国家プロジェクト
- DX推進
- 都市OS・スーパーシティ
- クラウド・セキュリティ
- 業務トランスフォーメーション
- プロジェクト全体管理・調達支援
- デジタルヘルス
他国に目を転じると、アメリカ内国歳入庁IRSの基幹系刷新やドイツ労働行政の求職求人統合マッチングサービスIVLMなど(※関連リンク後述)、単なる企画検討やシステム構築をご支援するというよりも、大規模トランスフォーメーションの一連の取組みを責任とともに請け負い、パートナーとして遂行する、というものも見られます。
求められる『宮大工』
私は現在、国内の公共機関においても最大規模の基幹系システム刷新をお客様と一体となって推進するという極めて重要な仕事に関わらせていただいています。公共機関において最大規模というのは民間含めて国内最大規模であり、海外を見渡しても同等規模のものを探すことは難しいようなシステムです。
具体的には、複数台のメインフレーム、数十メガStepを超えるCOBOLプログラム、1,000本もの外部インターフェースを有するような大規模システムです。初期構築から40年超に渡って利用されているシステムであり、行政システムの特性として、管理するデータおよび機能は今後また数十年は利用され続けます。これらが担う行政実務・国民サービスの継続は、国民の皆様の生活を安全・安心に支え続けるために必須という、正に国家インフラとしての性質を有しています。
今回のシステム刷新においては、技術基盤・プラットフォームのオープン化と、現行システム資産のマイグレーションとリファクタリング、リビルドによる新規開発を組み合わせた構成を目指しています。
日本の公共機関をご支援することの難しさは、大きく3つに収斂すると考えます。
第一は、新旧のテクノロジーの混在です。40年以上前のハードウェアを前提としたアーキテクチャや様々な言語などのレガシーテクノロジーと最新のテクノロジーを混在・共存させながら刷新しなければなりません。業務の一貫性を確保しつつ、新旧テクノロジーをミックスしつなげ合わせていくことが求められます。例えば、データ管理と業務処理を安全確実に遂行するためのアプリケーション・データベース・基盤と、より良い業務・サービスのためのエンドユーザコンピューティングやデータ利活用のための機動力あるプラットフォームの両立のために、新旧のテクノロジースタックについて幅広く理解し、ベストミックスを導き出す必要があります。
次に、規模です。量はすべてを圧倒する、と言います。テクノロジーの世界においては、機能要件はシンプルに見えても、超大量処理を行うことにより、システム開発の難度が飛躍的に高まります。更にはそういった超大量処理は、法制度に基づく複雑膨大なケースバリエーションをカバーするため、既存プログラムの手直しにも億・兆レベルにのぼるパターンのテストを要する処理構造とプログラムから構成されていることが多々あります。その結果、公共機関の大規模システム刷新は数百億から数千億円予算で、期間も5年から7年というのが一般的です。
最後に、説明責任です。様々な判断・意思決定の経緯はもとより、設計書などの開発関連ドキュメントでも他の業界と比較して圧倒的な緻密さが求められます。これらは、税や社会保険料など国民の財産から徴収した国家予算を基に構築・運営されているためです。将来の情報公開請求や国会対応などにおいても、過去からの一貫性や判断内容の合理性などを証明可能な状態を確保する必要があります。
これらの難しさの全てに、技術者としての面白みが詰まっていると思います。様々な技術レイヤーで、新旧に渡る技術要素を適切に組み上げる。そのための高度で広範な知見をフルスタックにまとめ上げる。発注者=行政機関としての意思決定に資する合理的なテクノロジーにおける意思決定をサポートし、その論理の構成やエビデンス建てをご支援する。技術者冥利に尽きるテーマと役割だと思います。
しかしながら、これらに示す通り、本当に困難な状況、絶対に失敗の許されない状況に置かれているがゆえに、リスクを過剰に恐れ、部分的な手直しで抜本対応を先送りしているケースが多く見られるように思います。言わば、開けてはいけないパンドラの箱―よく耳にするキーワードではないでしょうか。
社会環境が凄まじいスピードで目まぐるしく変化する現代において、行政サービスだけが変わらずにいられるということはまずありません。それは本来実現すべき社会福祉や国民利益を損なう恐れがあります。行政サービスを安定的に継続させながら、多様化する国民のニーズに応えていくためには、“パンドラの箱”を開けることが不可避なのです。
社会環境やテクノロジーの進展に合わせて、定期的な行政実務とそれを担うシステムの全面刷新を行う。そうした国家事業を通じて、専門業務のノウハウや技術要素を点検し、その担い手たる行政職員や技術者を育成し、継承していく。あたかも日本の誇る素晴らしいレガシーである文化財を守り、その時代の最新技術を組み合わせながら後世に残し続ける、いわゆる「宮大工」のような役割が、こうした刷新の現場で求められています。
アクセンチュアは国内の公共機関向けのご支援を担う事業者としては後発の若輩者であり、まだまだ学ぶべきことが多いです。
しかしながら、いつかは開けなければいけない“パンドラの箱”に対して、世界中での実績に裏打ちされたテクノロジーの経験・知見に加えて、国内行政の業務知見も蓄積し、大規模刷新という国家事業を実現するパートナーとなりたいと考えています。
行政サービスの持続性確保と継続的変革に必要不可欠な「宮大工」部隊として、固有の知識・スキルを継承させていく、それを通じて官民問わずテクノロジーのチーム全体へ伝播させ、人材の質と量を合わせて向上させ実現していく、そういった組織に成長させていきたいと考えています。
そういえば、パンドラの箱を開けたのち、箱の底に残っていたのは希望だった、ということを胸に止めつつ、このダイアリーを締めくくりたいと思います。
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