高校生によるメタバースを活用したまちづくり「デジタル帰宅部」の立ち上げと今後の展望
私は昨年度から、福井県坂井市と高校生によるメタバースを活用したまちづくり「デジタル帰宅部」に取り組んでいます。高校生のシビックプライド醸成とスキル向上に非常に有効な取り組みのため、概要と今後の展望をご紹介します。
1. デジタル帰宅部とは
デジタル帰宅部とは、福井県坂井市に関わりのある高校生が、メタバースを活用してインバウンド向け観光施策のアイディアを議論し、坂井市長に提言・実現していくプロジェクトです。高校生の就業力強化と地方創生という二つの大きな目的があります。アクセンチュアは、福井県の地域活性化を目指す一般社団法人ゆるパブリックと福井県坂井市と協力し、Corporate Citizenshipの活動としてこの取り組みを支援しました。
2. 取り組みの背景
坂井市はかつて繊維業で栄えた地域で、現在は人口約9万人の地方都市です。ドラマなどでよく使用される景勝地「東尋坊」や古くからの街並みが残る「三国湊町」、歴史ある「丸岡城」といった観光資源があります。
ですが、産業の移り変わりもあって若者が進学や就職を機に都市部へ流出し、若者が減ることでさらに地域経済の縮小に歯止めが効かないという構造的な課題があります。そこで、都市部に出ていく前の高校生を中心として、これまで大人たちがあまり考えられてこなかったインバウンドに向けた観光施策を考えようと本プロジェクトが立ち上がりました。
地元について知り、深く考える機会や自分たちの施策が街づくりに反映される経験を通じて、地元地域への誇りと愛着、つまり「シビックプライド(Civic Pride)」の醸成を目指します。多感な高校生の時期にこうした体験をすることで、若者の地元就職やUターン就職の増加につなげたいという意図です。高校生への価値提供の観点から見ると、グループワークでのリーダーシップ経験や発表を通じたプレゼンスキルの獲得といった就業力強化が狙いでもあります。アクセンチュアのグローバルメンバーも含め、地域内外の様々な大人と関わるので、多様な価値観に触れることができるのも良い経験になるはずです。
3. プロジェクトの体制・進め方
プログラムの内容としては、高校生はまずオンラインの座学やフィールドワークで坂井市について学習します。次にマインクラフト(以下マイクラ)というメタバースプラットフォームを使用しアイディアを形にしていきながら観光施策を議論。インバウンド観光客に見立てたアクセンチュアのグローバルメンバーに向けてプレゼンを実施し、フィードバックを受けます。そして、最後は東尋坊・三国湊町・丸岡城の3つのグループに分かれてそれぞれの観光施策を坂井市長に提言する、という流れです。
坂井市の全面協力のもと、ゆるパブリックが高校生にプログラムを提供、アクセンチュアは全体のスキーム設計にはじまり、高校生が毎週火曜日の夜にメタバース上で集まる「部活動」に講師やファシリテーターの一部として参加、全体の進捗管理などを行いました。
4. まちづくりにおけるメタバースの魅力
メタバースは時間や地理的制限を受けづらいというメリットがあります。坂井市は東西に長い形をしており、市内の色んな場所に住む高校生が毎週対面で集まるのは難しいです。毎回保護者に車で送ってもらうわけにもいきません。また、目に見える形で作ってみる・壊してみるのが簡単なメタバースは、これまでにないアイディアを考えるのに適した環境だと考えました。最終報告会では作ったものを動画で流したり、実際にマイクラの環境に入ることで、体験を視覚的に分かりやすく説明しました。ただ、空想に終始しないためにも自分の目でじかに見る経験も重視し、フィールドワークもプログラムに組み込みました。市長への最終報告会も対面での実施です。
また、メタバースであれば、物理的なスペースの確保が不要であり、開催費用もメタバース空間の構築とファシリテーターの人件費程度と低額で賄えます。メタバースのプラットフォームの中でマイクラを選択したのは、若年層を中心したユーザーベース、ワールドのリアリティとユーザーの操作性のバランスが良いプラットフォームだったからです。また、まったく触ったことのない人でも直感的に操作が可能なツールで、実際、デジタル帰宅部で初めてマインクラフトに触れた高校生も、最終報告時には建築物を造ることができていました。
5. デジタル帰宅部の成果
昨年度開始した第一期のデジタル帰宅部はプログラムの全行程を完了しています。最終報告会の様子はテレビやネットニュースに取り上げられ、大きな反響を得ることができました。視聴者の方が住んでいる地域の市役所に「これはとても良い取り組みだからうちの市でもやってみては」と意見を伝えてくださったエピソードも伺っています。
また、参加した高校生アンケートでは、全員が「自分たちだけでは気づかないさまざまな視点や価値観を得られた」と回答し、91.3%が「デジタル帰宅部を通じて坂井市への愛着が高まった」と回答。さらに96%以上がチャレンジする力や、スライド作成、プレゼンテーションなどのスキルが身に着いたと回答するなど大きな成果を得ることができました。
6. 今後の展望
坂井市では2024年7月から第二期の募集が始まっています。また、最終報告会で坂井市長がおっしゃっていたのが、「ここからは大人のターン」ということ。第一期の高校生が考えたアイディアを坂井市が検討し実現していくのが今後の段階です。実現可能性も加味しつつ、実証実験に向けての議論が始まっています。
さらに、デジタル帰宅部は他地域での展開も決まっていて、福島県会津若松市で取り組みが始まっています。他にもやりたいと言ってくださっている地域が複数あるので、各地でスキームの検討を進めているところです。さらに将来的にはサミットのような、この活動に興味のある自治体同士が繋がる場を全国会議として設け、各地域で活動が進むようにしていけたらと考えています。
デジタル帰宅部の他地域展開にあたっては、デジタル帰宅部の手順・ノウハウのアセット化を進めています。最初のスキーム制作からコミュニティの立ち上げ、運営、最終的な発表までの進め方、ツールのセットアップ手順などをすべてパッキングし、興味を持ってくださった地域にすぐに渡せるように準備を進めているところです。
本投稿を読んで興味を持たれた方は、ご自身の関わりのある地域でのデジタル帰宅部の展開について、ぜひご検討ください!
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