JPYC 国内初の円連動の電子決済手段を読み解く
1. はじめに
日本時間2025年8月18日、JPYC株式会社が国内で最初の、日本円と1:1で連動する電子決済手段(ステーブルコイン)を発行可能な資金移動業者となった旨発表がありました。
資金決済に関する法律 第37条に基づく「資金移動業者」(登録番号 関東財務局長 第00099号)
前日の日本時間2025年8月17日には、日経新聞で先走りの記事が公開されていました。(この時点では、JPYC社からの公式発表はまだ)
2. ステーブルコインがなぜ必要か
法定通貨には 送金
特に 国際送金
に時間とコストがかかる課題があります。
また、暗号資産(以前は仮想通貨と呼ばれていました)には 価格変動
が法定通貨と比べるとかなり大きい課題があります。
上記の課題を解決する手段の1つとして、ステーブルコインが登場しました。
現状、USDTとUSDCが有名ですね。
日経新聞から引用 https://pbs.twimg.com/media/GylZRnhW4AARpBK?format=jpg&name=large
2025年8月18日時点では、暗号資産の時価総額ランキングでUSDTが4位(約24兆円)、USDCが7位(約10兆円)の規模になっています。
また前述した課題解決以外にも、スマートコントラクト
を活用したプログラム可能な貨幣、0.000001ドルの単位で送金可能なマイクロペイメント
、ブロックチェーンの全取引が記録できることによる 不正や資金洗浄の防止
といった付加価値もあります。
3. ステーブルコインは誰が使っているのか
個人と企業で見ていきましょう。
3.1 個人
- 海外出稼ぎ労働者: 母国への送金(手数料90%削減)
- フリーランサー: 国境を越えた即時報酬受取
- 投資家: 暗号資産取引の一時的な避難先
3.2. 企業
- カード会社: 加盟店への決済にUSDCを採用開始
- 決済会社: 独自ステーブルコインを発行
- サプライチェーン企業: 部品調達の国際決済
4. ステーブルコインがどれくらい使われているのか
取引量ですが、USDTだと24時間取引量は継続的に750億ドルを超えているのが現在の状況です。
銀行の営業時間外でも取引が止まらない、国境を意識しない、手数料が安い(1/10以下のケースも)といった面から既にUSDに紐づいたステーブルコインは使われていると言えます。
5. ステーブルコインは日常利用へ
ステーブルコイン登場から下記のような段階を経て、日常決済で使われつつあります。
実際SOLベースのSolayerやKASTといったUSDT/USDCベースで決済できるデビットカードが登場しており、日常での決済が確実に広まっています。
- 第1段階(2014-2020): 暗号資産取引の安定通貨
- 第2段階(2020-2024): 国際送金・決済の効率化
- 第3段階(2024-): 日常決済・給与・公共料金へ拡大
6. なぜJPYCが必要か?
ここで出てくるのが、USDT/USDCではなく、なぜJPYCが必要か?です。
この問いに答えることが、日本のWeb3やFintechの未来を理解するカギになるのではと考えています。
6.1. 為替リスクゼロの即時決済
ドル建てステーブルコイン(USDT/USDC)はグローバルでは標準的に使われていますが、日本企業が利用する場合は二重の為替変換が発生します。
円 → ドル → USDT/USDC → ドル → 円
例えば100万円の国際送金で、為替が1日で2円動けば2万円の差損が生じます。
一方でJPYCなら、円 → JPYC → 円で完結。特に中小企業の資金繰りでは、為替変動を意識せず決済できるメリットが大きいのです。
6.2. 日本の規制下での「正規ルート」
USDTやUSDCは日本法上「外国電子決済手段」として扱われ、以下の制約があります。
- 国内取引所での流通が限定的
- 銀行口座への直接償還は困難
- 会計処理上は「外貨建て資産」となり煩雑
一方、JPYCは金融庁の承認を受けた電子決済手段。銀行や上場企業が法的リスクを気にせず導入できる「正規ルート」になり得ます。
6.3. 円建てDeFi・Web3サービスを可能にする
現在のDeFi利用フローはこうです:
日本円 → 海外取引所 → USDT → DeFi → USDT → 海外取引所 → 日本円
手数料・為替リスク・税務処理が各段階で発生します。
JPYCなら以下のようにシンプルです。
日本円 → JPYC → 円建てDeFi → JPYC → 日本円
透明性と効率性が大幅に向上し、国内発の円建てDeFiやRWA(不動産・社債トークン化) が現実的になります。
6.4. 円経済圏の空洞化を防ぐ
ドル建てステーブルコインだけの世界では、日本の経済活動がドル圏に吸収されるリスクがあります。
- 日本のスタートアップがUSDCで資金調達
- 給与がUSDTで支払われる
- 国内取引までもがドル建てに
これは単なる技術の話ではなく、経済主権の問題 となる可能性があります。JPYCは円で生きる私たちのための経済的セーフティネットになり得ます。
6.5. 考え得るユースケース
直近実現できそうなこと
- フリーランサーへの即時報酬支払い(円建て源泉徴収対応)
- EC事業者による24/365の決済受付(現状リアルタイム決済になっていないケースもあり)
- 地方から都市部への送金コスト削減
将来的に期待されること
- 給与の一部をJPYCで受け取り、自動積立投資
- EV充電などIoTデバイス間のマイクロペイメント
- 災害時の迅速な支援金配布
6.6. グローバルとローカルの共存
ただ、JPYCはUSDT/USDCの対抗ではなく補完関係にあります。
- 国際取引・投資 → USDT/USDC
- 国内決済・円建て運用 → JPYC
- 両替・ブリッジ → 両者を繋ぐサービス
この使い分けにより、日本のWeb3やFintechが発展していくのではと考えています。
7. おわりに
JPYCの登場は、日本におけるステーブルコイン活用の 正規ルート
を切り開く大きな一歩です。これまでUSDTやUSDCを介した国際的な取引は広がってきましたが、円建てで利用できる手段は限定的で、為替リスクや規制上の不確実性が常につきまとっていました。JPYCは金融庁の承認を受けた電子決済手段として、円建ての即時決済・償還・会計処理をシンプルにし、企業や個人が安心して利用できる環境を整えます。特に、資金繰りに直結するリアルタイム決済や、円建てDeFi・RWA(実世界資産)の展開など、新しいユースケースの可能性は計り知れません。不正なお金の流れを防ぐこともできるでしょう。また、ドル圏に依存することなく、円経済圏をブロックチェーン上に再構築することで、経済主権の確保にもつながります。もちろん、流動性確保やユースケースの定着など課題は残りますが、JPYCは日本がWeb3時代に自国通貨で存在感を示すための重要なインフラとなるでしょう。
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