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60分でできる!マイSAP環境の構築

2024/12/31に公開

目次

1. はじめに

SAP BASISコンサルタントやエンジニアが、SAPを気軽に触って・壊せて・作り直せるように、SAPのハンズオン環境をAWS上に構築していきます。

AWS上に載せるSAPとしては、SAP Communityで紹介されている2024年にリリースされたABAP Cloud Developer Trial 2022 SP01を利用しています。
ABAP Cloud Developer TrialはDocker Hubでコンテナとして配布されているので、AWSやSAPの経験がない方でも、60分程度でSAPをAWS上で構築することができます。

ABAP Cloud Developer Trial

2. 前提

AWSのアカウントは既に持っていることを前提に説明していますので、お持ちでない方は作成をお願いします。
(作成方法はGoogleで検索すると出てきます)

3. 構築手順

構築手順は大まかに3つに分けることができます。
メインとなる作業は「1.」と「2.」です。
「2.」まで完了すれば、SAPのハンズオン環境の構築自体は完了です。
ただ、素の状態だと「利用できる期間が短い」や「トランザクションコード(T-cd)の実行が遅い」という問題があるため、「3.」を実施します。

  1. EC2インスタンスの作成およびネットワークの設定
  2. EC2インスタンスへのABAP Cloud Developer Trialのインストール
  3. ABAP Cloud Developer Trialへの接続および利便性向上のための設定

3.1. EC2インスタンスの作成およびネットワークの設定

3.1.1. EC2インスタンスの作成

  1. AWSマネジメントコンソールにログオンします。
  2. 検索バーに「EC2」と入力し、検索結果に表示された「EC2」をクリックします。

AWSマネコン

  1. 「インスタンスを起動」をクリックします。

インスタンス起動

  1. 以下の表の通りに、「名前とタグ」・「アプリケーションおよびOSイメージ」・「インスタンスタイプ」の項目を設定していきます。
項目 設定
名前 My SAP
Amazon マシンイメージ (AMI) Amazon Linux 2023 AMI
インスタンスタイプ t3a.2xlarge

設定1
設定2

  1. 「新しいキーペアの作成」をクリックし、以下の表の通りに、「キーペア」の項目を設定していきます。
    「キーペアの作成」をクリックすると、pemファイルがダウンロードされます。
項目 設定
キーペア名 MySAP
キーペアのタイプ RSA
プライベートキーファイル形式 .pem

設定3
設定4

  1. 「編集」をクリックし、「ネットワーク設定」の項目を設定していきます。

設定5

  1. 「新しいVPCを作成」をクリックし、以下の表の通りに、「VPCの設定」を設定していきます。
    「VPCを作成」をクリックすると、VPCが作成されます。
項目 設定
作成するリソース VPCのみ
名前タグ My SAP
IPv4 CIDR ブロック IPv4 CIDRの手動入力
IPv4 CIDR 10.0.0.0/24
IPv6 CIDR ブロック IPv6 CIDR ブロックなし
テナンシー デフォルト

設定6
設定7
設定8

  1. 「新しいサブネットを作成」をクリックし、以下の表の通りに、「VPCの設定」を設定していきます。
項目 設定
VPC ID My SAP
サブネット名 My SAP
アベイラビリティーゾーン アジアパシフィック (東京) / ap-northeast-1a
IPv4 VPC CIDR ブロック 10.0.0.0/24
IPv4 サブネット CIDR ブロック 10.0.0.0/28

設定9
設定10
設定11

  1. 以下の表の通りに、「ネットワーク設定」の項目を設定していきます。
項目 設定
VPC My SAP
サブネット My SAP
パブリックIPの自動割り当て 有効化
セキュリティグループ名 My SAP
説明 My SAP
タイプ すべてのトラフィック
ソースタイプ 自分のIP

設定12
設定13

  1. 以下の表の通りに、「ストレージを設定」の項目を設定していきます。
項目 設定
ストレージ 1 x 150 GiB gp3 ルートボリューム (暗号化なし)

設定14

  1. 「インスタンスを起動」をクリックします。

設定15

  1. EC2インスタンスの起動に成功すると、こちらの画面が表示されます。

設定16

3.1.2. インターネットゲートウェイの作成

  1. 検索バーに「VPC」と入力し、検索結果に表示された「VPC」をクリックします。

設定17

  1. 「インターネットゲートウェイ」をクリックします。

設定18

  1. 「インターネットゲットウェイの作成」をクリックします。
    設定19

  2. 以下の表の通りに、「インターネットゲートウェイの作成」の項目を設定していきます。
    「インターネットゲートウェイの作成」をクリックすると、インターネットゲートウェイが作成されます。

項目 設定
名前タグ My SAP

設定20

  1. インターネットゲートウェイ「My SAP」を選択し、「アクション」>「VPCにアタッチ」をクリックします。

設定21

  1. 項目「使用可能なVPC」で「My SAP」を選択し、「インターネットゲートウェイのアタッチ」をクリックします。

設定22

3.1.3. ルートテーブルの設定

  1. 左のメニューから「ルートテーブル」をクリックします。
    その後、VPC「My SAP」に紐づいているルートテーブルを選択し、「アクション」>「ルートを編集」をクリックします。

設定23

  1. 「ルートを追加」をクリックし、以下の表の通りに、「ルートを編集」の項目を設定していきます。
項目 設定
送信先 0.0.0.0/0
ターゲット インターネットゲートウェイ My SAP

設定24

3.2. EC2インスタンスへのABAP Cloud Developer Trialのインストール

3.2.1. EC2インスタンスへのSSH接続

  1. AWSマネジメントコンソールにおいて、EC2インスタンス「My SAP」が起動していることを確認します。

EC2起動確認

  1. EC2インスタンス「My SAP」を選択し、「接続」をクリックします。

EC2接続押下

  1. 「SSHクライアント」をクリックし、実行するコマンドを確認します。

SSHクライアント

  1. ターミナル(Windowsの場合、コマンドプロンプト)を開き、EC2インスタンスに接続するために、以下のコマンドを実行します。
    実行に成功すると、こちらの画面が表示されます。
chmod 400 "MySAP.pem"
ssh -i "MySAP.pem" ec2-user@<EC2インスタンス「My SAP」のパブリックIP>

EC2接続

3.2.2. Dockerを利用したABAP Cloud Developer Trialのインストール

  1. Dockerのインストール、およびDocker自動起動の設定をするために、以下のコマンドを実行します。
sudo dnf -y install docker
sudo systemctl start docker
sudo systemctl enable docker
  1. ABAP Cloud Developer Trial 2022 SP01のDockerイメージをダウンロードするために、以下のコマンドを実行します。
sudo docker pull sapse/abap-cloud-developer-trial:ABAPTRIAL_2022_SP01
  1. カーネル構成ファイル(/etc/sysctl.conf)を設定するために、以下のコマンドを実行します。
sudo vi /etc/sysctl.conf
  1. カーネル構成ファイル(/etc/sysctl.conf)に以下のパラメータを書き込み、保存します。
vm.max_map_count=2147483647
fs.file-max=20000000
fs.aio-max-nr=18446744073709551615

カーネル構成ファイル

  1. カーネル構成ファイル(/etc/sysctl.conf)に書き込んだパラメータを読み込むために、以下のコマンドを実行します。
sudo sysctl -p
  1. EC2インスタンス起動時に、ABAP Cloud Developer Trialが自動的に起動するように設定するために、以下のコマンドを実行します。
cd /var/lib/cloud/scripts/per-boot/
sudo touch mysap.sh
sudo chmod 777 mysap.sh
sudo vi mysap.sh
  1. mysap.shに、Dockerコンテナ「a4h」を起動する以下のコマンドを書き込み、保存します。
#!/bin/sh
cd /home/ec2-user
sudo docker start -ai a4h

Dockerコンテナ自動起動

  1. Dockerコンテナを作成・起動するために、以下のコマンドを実行します。
    これでEC2インスタンスへのABAP Cloud Developer Trial 2022 SP01のインストール作業は完了です。
sudo docker run --stop-timeout 3600 -i --name a4h -h vhcala4hci -p 3200:3200 -p 3300:3300 -p 8443:8443 -p 30213:30213 -p 50000:50000 -p 50001:50001 --sysctl kernel.shmmax=21474836480 --sysctl kernel.shmmni=32768 --sysctl kernel.shmall=5242880 --sysctl kernel.msgmni=1024 --sysctl kernel.sem="1250 256000 100 8192" --ulimit nofile=1048576:1048576 sapse/abap-cloud-developer-trial:ABAPTRIAL_2022_SP01 -skip-limits-check -agree-to-sap-license

3.3. ABAP Cloud Developer Trialへの接続および利便性向上のための設定

3.3.1. SAP GUI for Windowsのインストール

  1. ABAP Cloud Developer Trialを利用するためには、SAP GUI for Windowsというデスクトップアプリをインストールする必要があります。
    そのため、SAP社のサイト「Trials and Downloads」にアクセスし、「SAP GUI for Windows」をクリックします。

Trials_and_Downloads

  1. メールアドレスや会社情報の登録が求められるので、入力します。
    入力後、「Submit」をクリックします。

GUI1
GUI2

  1. 登録したメールアドレスに「Activate Your Account for SAP.com」というタイトルのメールが届きます。
    メールに記載されている「Click to activate your account」をクリックします。

GUI3
GUI4

  1. パスワードおよび「✔︎」を入力し、「Submit」をクリックします。

GUI5

  1. ユーザアイコンが名前のイニシャルになっていることを確認し、再度「SAP GUI for Windows」をクリックします。

GUI6

  1. 「Terms & Conditions」に「✔︎」を入れ、「Sumbit」をクリックします。

GUI7

  1. 「Click here to start your download」をクリックします。

GUI8

  1. ダウンロードされたrarファイルを解凍し、その中に含まれいているexeファイルを実行します。
    exeファイルを実行すると、「SAP Front End Installer」が起動するので、「Next」をクリックします。

GUI9

  1. 「SAP GUI for Windows」を選択し、「Next」をクリックします。
    クリック後は、「SAP Front End Installer」の指示に従うことで、SAP GUI for Windowsをインストールできます。

GUI10

3.3.2. ABAP Cloud Developer Trialへの接続

  1. SAP GUI for Windowsのインストール完了後、SAP GUI for Windowsを起動するために、デスクトップに新たに作成されたアイコン「SAP Logon」をクリックします。

GUI11

  1. 「新規」>「接続」をクリックします。

GUI12

  1. 以下の表の通りに、「新規システムエントリの登録」の項目を設定していき、「完了」をクリックします。
項目 設定
接続タイプ カスタムアプリケーションサーバ
内容説明 My SAP
システムID A4H
インスタンス番号 00
アプリケーションサーバ <EC2インスタンス「My SAP」のパブリックIP>

GUI13

  1. 名前「My SAP」のエントリを選択し、「ログオン」をクリックします。

GUI14

  1. 以下の表の通りに、ログオン情報を入力し、エンターキーを押します。
項目 設定
Client 001
User DEVELOPER
Password ABAPtr2022#01

GUI15

  1. ライセンスが間もなく有効期限切れになるとのメッセージが表示されるため、「✔︎」をクリックします。

GUI16

  1. ABAP Cloud Developer Trialへの接続に成功すると、こちらの画面が表示されます。
    A4Hのクライアント(CL)001にログオンしていることが確認できます。

GUI17

3.3.3. 新規ライセンスのインストール

  1. 新規ライセンスのインストールの準備として、トランザクションコード(T-cd):SLICENSEを実行します。

SLICENSE1

  1. 項目「Active Hardware Key」に記載されているハードウェアキーをコピーします。

SLICENSE2

  1. 新規ライセンスをダウンロードするために、「SAP License Keys for Preview, Evaluation and Developer Versions」にアクセスします。
    そして、「A4H - SAP NetWeaver AS ABAP 7.4 and above (Linux / SAP HANA)」を選択します。

License1

  1. 下にスクロールし、氏名・メールアドレスの入力、コピーしたハードウェアキーのペーストを実施します。
    そして、「Generate」をクリックすることで、「A4H_Multiple.txt」がダウンロードされます。

License2

  1. トランザクションコード(T-cd):SLICENSEにおいて、「Install」をクリックし、「A4H_Multiple.txt」を選択します。

SLICENSE3

  1. 「Allow」をクリックします。

SLICENSE4

  1. 「✔︎」をクリックします。

SLICENSE5

  1. 新規ライセンスがインストールされていることを確認します。
    そして、古いライセンスを選択し、「Delete License」をクリックします。

SLICENSE6

  1. 新規ライセンスのみがインストールされていることを確認します。
    また、項目「End Date」を確認し、新規ライセンスの有効期限を確認します。

SLICENSE7

  1. 「Refresh」をクリックし、「Current Settings」の項目「License Expires On」も更新されていることを確認します。

SLICENSE8

3.3.4. トランザクションコード(T-cd)の実行高速化

  1. トランザクションコード(T-cd)の実行を高速化するために、トランザクションコード(T-cd):SGENを実行します。

SGEN1

  1. 「Generate all objects of selected components」を選択し、「Components」をクリックします。

SGEN2

  1. 「Select All」をクリックし、全てのSoftware Componentsを選択します。
    そして、「Continue」をクリックします。

SGEN3

  1. 「All 16 components selected」と表示されていることを確認します。

SGEN4

  1. 下にスクロールし、「Continue」をクリックします。

SGEN5

  1. 何も変更せず、「Continue」をクリックします。

SGEN6

  1. 「✔︎」を入れ、「Start Job Directly」をクリックします。

SGEN7

  1. ジョブが実行されると、「The generation job was successfully scheduled or started」と表示されます。

SGEN8

  1. ジョブのステータスを確認するために、トランザクションコード(T-cd):SM37を実行します。

SM371

  1. 何も変更せず、「Execute」をクリックします。

SM372

  1. ジョブ「RSPARAGENER8M」の「Status」を確認します。
    ジョブが実行中の場合、「Status」は「Active」となります。
    また、ジョブが完了した場合、「Status」は「Finished」となります。

SM373

SM374

  1. ジョブ「RSPARAGENER8M」の「Status」が「Finished」となった後に、トランザクションコード(T-cd)の実行が高速化されたことを確認するために、トランザクションコード(T-cd):SU01やSTMSを実行します。
    トランザクションコード(T-cd)の実行が数秒で完了するようになっていれば、OKです。

4. おわりに

今回はSAPのハンズオン環境を構築する手順を紹介しました。
この記事が、SAPのハンズオン環境がなく困っているSAP BASISコンサルタントやエンジニアの一助になれば、嬉しいです。

Accenture Japan (有志)

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