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生成AIは「ただのツール」ではない——“対話相手”として使いこなせ!

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はじめに

今、あなたは 「生成AIはまだまだ使えない」 と思っていないだろうか?

でも、ちょっと考えてみてほしい。

・検索エンジンは登場当初「使えない」と言われたが、今や生活必需品になった
・スマートフォンも「パソコンに勝てるわけがない」と言われていたが、世界を変えた
・クラウドも「オンプレには敵わない」と言われていたが、今では常識

そして、今まさに生成AIもその転換期にいる

ここ1年の進化スピードは、もはや異常とも言えるレベルだ。
・ChatGPTが登場してからわずか1年で、「お遊びツール」から「実務に必須なツール」へ進化した
・数ヶ月ごとに新モデルが登場し、半年前の常識すら塗り替えられている
・すでに一部の企業では「AIなしでは仕事にならない」状況が生まれつつある

この流れはもう止まらない。

「5年後に後悔する」どころか、1年後には生成AIを使える人とそうでない人の間で決定的な差がついている可能性が高い。
それほどまでに、今は「AIが本当に使える時代」への変革の真っ只中にある。

それなのに、まだ「生成AIは大したことない」と言っているとしたら、それはAIがダメなのではなく、あなたがAIを正しく使えていないだけかもしれない。

本記事では、私がどのようにLLMと向き合い、どんな思考プロセスで生成AIを活用しているのかを紹介する。

「AIはまだまだ」と思っている人ほど、ぜひ読んでほしい。


生成AIを「ただのツール」と思うな。「対話相手」だと思え!

生成AIを最大限活用するコツは、AIを 「入力すれば答えが出る機械」 ではなく、 「対話相手」 として扱うことです。

AIと対話するための3つのポイント

  1. 「指示出し」ではなく、「意図を伝える」ことを意識する
  2. AIの誤回答を見て、「どこを誤解したのか?」を瞬時に判断する
  3. 「なぜ間違えたのか?」をAI自身に尋ね、修正を加える

このような姿勢でAIと対話を重ねることで、「ただのツール」ではなく、「賢いパートナー」として使いこなせるようになります。


【具体例】論理的思考問題をAIに解かせたら間違えた → どこが問題?

最近、o3-mini に対して論理的思考を試すプロンプトを投げてみたのですが、期待した回答を出してくれませんでした。

問題:全国営業大会の順位計算

以下のような問題を出しました。

指示内容

営業のセールストークスキルを競う全国大会が行われました。
1社につき必ず3人の社員が参加。
あなたの会社からはA,B,Cさんが参加したところ、以下の結果となった。
- Aさん:ちょうど真ん中の順位だった
- Bさん:Aさんより下の19位だった
- Cさん:28位だった。

いくつの企業が大会に参加したか答えよ。

正解:11社

しかし、生成AIは 「29社」 という間違った回答を出しました。

参考:生成AIの誤回答の全文

全体の参加者数は各社3人なので、会社数を n 社とすると全体は 3n 人です。

Aさんは全体の順位の中央、すなわち

\text{Aさんの順位}=\frac{3n+1}{2}

となります。

また、BさんはAさんより下に19位、すなわち

\text{Bさんの順位}=\frac{3n+1}{2}+19=\frac{3n+39}{2}

です。

Cさんは28位です。

さて、同じ会社の3人の中では「最も順位の良い人」(つまり順位が一番小さい人)が、その会社の代表的な成績となります。今回の3人の中で

\min\Bigl\{\frac{3n+1}{2},\,\frac{3n+39}{2},\,28\Bigr\}

がその値となります。

Bさんは明らかに一番順位が悪いので、比較するのはAさんとCさんです。

Aさんは全体の中央なので、後で n の条件と照らすと \frac{3n+1}{2} は必ず28より大きくなることが分かります(理由は \frac{3n+1}{2}>28 となるのは n>\frac{55}{3}\approx18.33 なので、n は少なくとも19社以上となり、この問題ではさらに後述する条件で n は28以上となります)。

よって、同社の中で最も良い順位はCさんの28位です。

ここで各社の中で最も良い成績(各社の「ベストランカー」)は全体の上位 n 位に入るはずです。

したがって、

28\le n

となります。

さらに、Aさんの順位 \frac{3n+1}{2} が整数であるためには 3n が奇数となる必要があります。これは n が奇数でなければならないことを意味します。

以上より、

  • n\ge28
  • n は奇数
    となります。最小の奇数は29です。

実際に n=29 とおくと、

  • 全体参加者は 3\times29=87
  • Aさんの順位は \frac{87+1}{2}=44
  • Bさんの順位は 44+19=63
  • Cさんは28位
    となり、条件をすべて満たします。

答え:29社


なぜAIは間違えたのか?

私はAIの精度を疑うのではなく、 「AIがどこで誤解したのか?」 を考えます。

まず、この設問文と生成AIの回答を見て、どこで誤解が生じたのか考えてみてください。
生成AIは何を勘違いしているのでしょうか? また、その原因は指示出しのどこにあるのでしょうか?

……どうでしょう? すぐにピンと来たでしょうか?

もし難しければ、一緒に分析していきましょう。

まず、生成AIの回答の中に 「間違った前提で組み立てられた数式」 があることに気づけるでしょうか?


また、BさんはAさんより下に19位、すなわち

\text{Bさんの順位}=\frac{3n+1}{2}+19=\frac{3n+39}{2}

です。


この数式は、設問の意図と異なる前提で作られています。
では、何が問題だったのでしょうか?

私はここで、

  • 「Bさん:Aさんより下の19位だった」 という指示が誤解されているのでは?
  • AIが「19位下がった」と解釈した可能性がある

と考えました。

ここでの思考プロセスをもう少し丁寧に説明すると以下の通りである。

  1. 生成AIの回答を見る
    • 数式を確認し、「Bさんの順位計算が間違っている」と気づく。
  2. どこで誤解が生じたか考える
    • 指示文を見返し、「Bさん:Aさんより下の19位だった」の部分を再確認。
    • 人間なら「BさんはAさんより下の順位で、19位の位置にいた」と解釈できる。
    • しかし、AIは「Aさんの順位から19位下がった」と誤読した可能性が高い。
  3. 修正案を考える
    • AIに誤解を与えないようにするには、指示をもっと明確にするべき。
    • 「Bさん:Aさんより低い順位である19位だった」に修正することで、意図を正しく伝えられる。

このように、生成AIの誤解を発見し、どのように修正すれば正しく理解してもらえるかを瞬時に考え、調整していきます。


「AIに間違えた理由を聞く」という発想

人間同士のコミュニケーションでは、相手が誤解したとき 「なぜそう思ったの?」 と尋ねることで、誤解の原因を明らかにします。

生成AIにも同じように 「なぜ間違えたのか?」 を尋ねてみましょう。
例えば、今回の順位計算の問題において、生成AIに次のように質問してみます。

質問の仕方の例

以下の計算が間違っています。「BさんはAさんより19したの順位」という意味ではなく、「Aさんより下の順位である19位」という意味です。何でこのような間違いをしたのか、理由を教えてください。

# 間違っている計算の箇所:
また、BさんはAさんより下に19位、すなわち
Bさんの順位 = (3n+1)/2 + 19 = (3n+39)/2

生成AIの回答例

私の解釈ミスが原因です。
具体的には、「Bさん:Aさんより下の19位だった」という表現を、「Aさんの順位に19を加えた順位」と読んでしまい、Bさんの順位を
Aさんの順位 + 19
としてしまいました。

本来、この表現は「Bさんの順位は全体で19位であり、なおかつAさんよりも順位が上(または下)である」という意味である可能性があるため、誤った算術的解釈をしてしまったのです。

この誤解は、自然言語における「〜より下の○位」という表現の曖昧さに起因しており、文脈を正しく把握できずに、順位の計算において「下の」という部分を位置の差として解釈してしまいました。

このように、生成AI自身に誤解の理由を説明させることで、「どのような認識のズレがあったのか」を具体的に把握 できます。


結論:AIを使いこなすには「自分の指示」を疑え

多くの人は、AIが期待通りの回答を出さないと 「AIがダメだ」 と思ってしまいます。

しかし、本当に大切なのは 「AIがどう誤解したのか?」を考える(想像する)こと です。

  • 指示が曖昧ではなかったか?
  • 必要な情報が欠けていなかったか?
  • 別の表現にすれば正しく伝わるのではないか?

こうした思考を持つことで、 「生成AIと対話できるスキル」 が磨かれ、AIを最大限活用できるようになります。

そして、もし 「どこで誤解が生じたのか?」が自分で判断できなければ、生成AI自身に聞いてしまうのも一つの手 です。

なぜこの答えになったの?」と尋ねることで、AIがどんな論理で考えたのかを把握し、誤解のポイントを明確にできます。
この対話を重ねることで、AIとのコミュニケーションの質が向上し、よりスムーズに正しい回答を引き出せるようになります。

生成AIを 「使えない」と嘆くのではなく、「使い倒す」ための思考を身につける。これが、AI時代を生き抜くための鍵です。

あなたは、どう使い倒しますか?

Accenture Japan (有志)

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