MCPがアプリケーション/インフラストラクチャー運用を変える
はじめに
私は、直近の仕事柄ビジネスプロセス(経理や人事等)の業務効率化に関わることが多く、AIの活用についてもこの視点で考えることが多かったです。一方で、直近のModel Context Protocol: MCPの動向を見るに、アプリケーション運用やインフラストラクチャー運用についても大きな変革を引き起こすのではという仮説が生まれました。本記事では、MCPの基本概念から、主要クラウドプラットフォームにおけるMCPサーバーの実装状況、そしてアプリケーション運用とインフラストラクチャー運用におけるMCPの影響と将来展望について解説します。
MCPの定義と基本概念
MCPとは
MCPは、Anthropic社が2024年11月に提唱・公開したオープンスタンダードプロトコルです。このプロトコルの主な目的は、AI(特に大規模言語モデル:LLM)と外部のデータソースやツールとの間の通信を標準化することにあります。
MCPはAIにおけるUSB-Cとも表現され、様々なデータソースやツールを統一的なインターフェースでAIに接続できるようにします。これにより、AIは訓練データに含まれていない最新情報や企業固有のデータに動的にアクセスし、より正確で関連性の高い応答を生成できるようになります。
(https://x.com/norahsakal/status/1898183864570593663)から引用
MCPとはについて、こちらの記事もぜひ参照ください。
また、コードレベルの理解は下記も参考になると思います。
アーキテクチャと主要コンポーネント
MCPは主に以下のコンポーネントから構成されるクライアント-サーバーアーキテクチャを採用しています。
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MCPホスト(Host):
ユーザーが操作するAIアプリやチャットUI、IDEなどLLMを用いたアプリケーション本体です。 -
MCPクライアント(Client):
ホスト内で動作し、特定のMCPサーバーとの通信を担当するモジュールです。接続時にサーバーの提供機能を問い合わせ、LLMがその機能を呼び出せるよう管理します。 -
MCPサーバー(Server):
各種データソースやツールへのアクセス手段を標準化インターフェースで提供する軽量サーバープログラムです。ファイルシステムやクラウドAPI、社内DBなどと接続し、LLMからの要求に応じてデータ取得や操作を行います。
機能分類とデータフロー
MCPサーバーが提供する機能は主に3種類に分類されます。
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ツール(Tools):
LLMが直接呼び出せる関数や操作(例:APIコール、データベースクエリ、メール送信など) -
リソース(Resources):
読み取り専用のデータ提供エンドポイント(例:社内Wiki、財務データ、GitHubの課題など) -
プロンプト(Prompts):
ツールやリソースを効果的に使うための定型テンプレート
AIがユーザーの質問に回答する際の一般的なデータフローは以下のようになります。
- ユーザーがAIに質問する
- AIがMCPクライアントを通じてMCPサーバーから機能リストを取得
- 必要に応じてAIがツールを呼び出したりリソースにアクセス
- 取得した情報を基に回答を生成
MCPの利点
MCPの主な利点は以下の通りです。
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統一されたインターフェース:
異なるデータソースやツールへのアクセスが標準化され、開発効率が向上 -
拡張性の高さ:
新しいデータソースやツールを追加するだけで、AIの能力を容易に拡張可能 -
セキュリティとガバナンス:
データアクセスの制御と監査が一元管理可能 -
最新情報へのアクセス:
AIが学習データ以降の最新情報にアクセス可能 -
企業固有データの活用:
社内システムやナレッジベースと安全に連携し、文脈に沿った応答が可能
主要クラウドプラットフォーム対応MCPサーバー
各クラウドプラットフォーム向けに様々なMCPサーバーが開発されています。以下に主要なものを紹介します。
AWS対応MCPサーバー
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AWS CLI MCPサーバー(alexei-led/aws-mcp-server)
- 特徴:AWS CLIコマンドをAI経由で実行可能。Unixパイプや典型タスク向けテンプレートも内蔵
- 用途:AWSリソース全般の操作・管理、Dockerコンテナ内で安全に実行
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AWS Core MCP Server(AWS公式)
- 特徴:他のMCPサーバーを管理・調整し、自動インストール、構成、管理を提供
- 用途:AWS環境全体のアーキテクチャ管理、複数MCP間の連携
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AWSドキュメント MCP(AWS公式)
- 特徴:AWS公式ドキュメントを検索・参照可能。内容をMarkdownで取得
- 用途:開発中のAWSサービス仕様確認、ベストプラクティス参照
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AWS CDK MCP Server(AWS公式)
- 特徴:IaCフレームワークであるCDKに特化。最適なコンストラクト提案、ベストプラクティスチェック
- 用途:インフラコードの自動レビュー、cdk-nagによるセキュリティチェック、効率的なクラウド構成提案
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AWSコスト分析 MCP(AWS公式)
- 特徴:AWS利用料金の分析専用。自然言語クエリ対応、コストレポート自動生成
- 用途:クラウド費用分析、コスト最適化提案、月次レポート作成
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Amazon Bedrock Knowledge Bases MCP
- 特徴:Bedrockのナレッジベースに自然言語で問い合わせ。データソースフィルタ、結果リランキング機能
- 用途:エンタープライズデータに対するAI駆動型検索、FAQや知識ベース検索
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Amazon Nova Canvas MCP
- 特徴:BedrockのAIモデルを使用した画像生成サーバー。テキストから画像を生成
- 用途:プロトタイピング、デザイン作業支援、ビジュアル生成
Azure対応MCPサーバー
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Azure MCP Server(Streen9)
- 特徴:DefaultAzureCredentialを使用した安全な認証、リソース管理、サブスクリプション処理
- 用途:Azureリソース全般の管理、テナント選択、サービス操作
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Azure CLI MCPサーバー(jdubois/azure-cli-mcp)
- 特徴:Azure CLIをラップし、LLMからAzureリソース操作を実行可能
- 用途:クラウドリソースの確認・変更、構成管理
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Azure Data Explorer MCP(pab1it0/adx-mcp-server)
- 特徴:Azureのビッグデータ分析サービスData Explorerと連携
- 用途:ログや時系列データのクエリと分析、運用監視データの質問応答
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Azure DevOps MCP(Tiberriver256/mcp-server-azure-devops)
- 特徴:Azure DevOpsサービスと連携し、プロジェクト、作業項目、リポジトリなどを管理
- 用途:開発プロジェクト管理、コードリポジトリ操作、CI/CDパイプライン管理
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Azure Cosmos DB MCP Server
- 特徴:Azure Cosmos DBデータセットへの安全なアクセスとクエリ
- 用途:NoSQLデータ管理、データクエリ
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Azure AI Foundry MCP Integration
- 特徴:Azure AI Agent Serviceと統合し、AIエージェント機能を提供
- 用途:エンタープライズAIエージェントの構築・管理
Google Cloud Platform(GCP)対応MCPサーバー
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GCP MCP Server(eniayomi/gcp-mcp)
- 特徴:ClaudeなどのAIアシスタントがGCPリソースと対話・管理可能、複数プロジェクト対応
- 用途:GCPサービス(Compute Engine、Cloud Storage、BigQuery等)の管理
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BigQuery MCP Server(LucasHild/mcp-server-bigquery)
- 特徴:BigQueryデータセットへの安全な読み取り専用アクセス、スキーマ検査、クエリ実行
- 用途:データウェアハウス分析、SQL自動生成
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BigQuery MCP Server(ergut/mcp-bigquery-server)
- 特徴:BigQueryへの読み取り専用アクセス、データ分析用SQLクエリ実行
- 用途:データ分析、ビジネスインテリジェンス
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Google Workspace MCP(MarkusPfundstein/mcp-gsuite)
- 特徴:Googleのメール・カレンダーと連携、Gmailの読み書きや予定表操作
- 用途:業務支援AIアシスタント、予定管理、メール処理自動化
その他/クロスプラットフォームMCPサーバー
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Kubernetes MCP Server(複数実装)
- 特徴:様々なクラウドプロバイダー上のKubernetesクラスターを管理・操作
- 用途:コンテナオーケストレーション、Kubernetesリソース管理
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Cloudflare MCP Server
- 特徴:Cloudflareサービス(Workers、KV、R2、D1)との自然言語対話
- 用途:エッジコンピューティング管理、CDN設定
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Multi-Cloud-MCP-Orchestrator
- 特徴:複数クラウドプラットフォームを統合管理
- 用途:マルチクラウド環境の一元管理、リソース最適化
MCPによるアプリケーション運用の変革
MCPの導入により、アプリケーション運用は従来の手作業中心のモデルから、どうAIと人間の協働モデルへと進化していくか見ていきましょう。
自動化と効率化
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モニタリングと障害対応の変革
- AIがリアルタイムログや監視データにMCP経由でアクセスし、異常パターンを検出
- 過去の類似事例をMCP経由で検索し、対応策を自動提案または実行
- 例:「先週同様のエラーパターンが検出されました。前回はJVMのヒープサイズ増加で解決しました。同様の対応を実施しますか?」
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インテリジェントなデプロイメント
- デプロイパイプラインの各ステージをAIが監視・最適化
- コードリポジトリ、CI/CDツール、クラウドサービスをMCP経由で連携
- 例:「このデプロイはトラフィックピーク時間帯に計画されています。リスクを軽減するためにカナリアリリースを推奨します」
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予測的メンテナンス
- アプリケーションの挙動データをAIが分析し、潜在的な問題を事前検出
- パフォーマンス指標の傾向分析から将来的なボトルネックを予測
- 例:「現在のトランザクション増加率では、DBコネクションプールが48時間以内に不足する可能性があります」
開発・運用フローの変化
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ナレッジ管理の変革
- 運用ドキュメントやトラブルシューティングガイドをMCP経由でAIが参照・更新
- チームの暗黙知を形式知化し、新メンバーのオンボーディングを効率化
- 例:「このエラーに関する解決策を社内Wikiに記録しますか?」
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エンドユーザーサポートの強化
- サポートチケットシステムとナレッジベースをMCP経由で連携
- ユーザーからの問い合わせに対する回答の自動生成と履歴参照
- 例:「このユーザーは過去3か月で同様の問題を報告しています。前回の解決策を適用しましょうか?」
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リソース最適化
- コスト分析MCPサーバーを活用した自動スケーリングと最適化
- 使用率パターンに基づいたリソース割り当ての動的調整
- 例:「先週末と比較して40%トラフィックが増加しています。自動スケーリンググループの最小インスタンス数を増やすことを提案します」
メリットと課題
メリット:
- 開発・運用サイクルの高速化
- ヒューマンエラーの削減
- 24時間365日の監視と対応の実現
- チーム知識の効果的な活用
- 運用コストの削減
課題:
- 初期導入コストと学習曲線
- AIに過度に依存するリスク
- セキュリティとアクセス制御の複雑性
- 運用スキルセットの変化への対応
- AIの判断に対する監査と説明責任
MCPによるインフラストラクチャー運用の変革
インフラストラクチャー運用においても、どのようにMCPはAIを活用した自律運用モデルへの移行していくか見ていきましょう。
AIによる自律運用
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インテリジェントな監視と予測分析
- AIエージェントがシステムの挙動を常時監視し、異常を検知
- 将来的な障害を予測して事前に対策を講じる
- 例:「ストレージI/Oパターンから、このEBSボリュームは72時間以内に性能低下が予想されます。事前にGP3へのアップグレードを推奨します」
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自律的な障害対応
- MCPを通じてクラウドプラットフォームのAPIと連携
- 障害検知時に自動的に対応策を実行し、人間の介入を最小化
- 例:「インスタンスのヘルスチェックに失敗したため、自動的に置き換えを実行しました。新インスタンスはID i-0abcd1234で稼働中です」
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最適化の自動化
- リソース使用状況を分析し、コスト効率の良いリソース配分を提案・実行
- 未使用リソースの特定と再利用または解放
- 例:「過去30日間使用されていないEIPを5つ特定しました。解放することで月額$10の節約になります」
クラウド連携の強化
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マルチクラウド環境の統合管理
- 異なるクラウドプロバイダーのリソースをMCP経由で統一的に管理・操作
- クロスプラットフォーム操作によるベンダーロックイン軽減
- 例:「AWSとAzureの両環境のセキュリティグループポリシーを比較します。不整合が3件検出されました」
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インフラストラクチャの「会話型管理」
- 技術者が自然言語でAIエージェントに指示
- コンテキスト認識型の対応による適切な判断と処理
- 例:「本番環境のWebサーバークラスタの状態を教えて」→「現在5インスタンスが稼働中、平均CPU使用率は42%、最新デプロイは昨日15:30です」
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Infrastructure as Codeとの統合
- AWS CDK、Terraform等のIaCツールとMCP連携
- コード生成、レビュー、最適化の自動化
- 例:「このCDKコードはセキュリティグループで全ポート(0-65535)を許可しています。ベストプラクティスに沿った修正を提案します」
メリットと課題
メリット:
- 運用コストの大幅削減
- システム可用性と信頼性の向上
- 迅速なインフラ変更とスケーリング
- 人的リソースの戦略的業務への集中
- クラウド環境の最適活用
課題:
- AIの判断ミスによるリスク
- セキュリティとコンプライアンス確保
- 従来型インフラエンジニアのスキル転換
- AIシステム自体への依存リスク
- ガバナンスとコントロールの複雑化
将来展望
技術の発展方向
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標準の成熟と拡張
- MCPの仕様は今後も進化し、より多様なユースケースに対応
- セキュリティやガバナンス機能の強化
- 複雑なワークフローとチェーニングのサポート向上
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AIエージェント間の協調
- 複数のAIエージェントがMCPを介して連携し、複雑なタスクを協力して解決
- 特定領域に特化したエージェントの登場と連携
- 例:監視エージェント→診断エージェント→修復エージェントの連携
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エッジコンピューティングとの融合
- エッジデバイスにもMCPサーバーが実装され、ローカルでのAIアクセスを実現
- クラウドとエッジを横断する統合運用モデルの登場
業界への影響
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DevOpsからAIOpsへの進化
- 従来のDevOpsプラクティスがAI中心のAIOpsへと進化
- インフラと開発の境界がさらに曖昧化
- 継続的知識獲得と学習のサイクルが組織文化として定着
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運用自動化レベルの向上
- レベル1(基本自動化)→レベル2(部分自動化)→レベル3(条件付き自律運用)→レベル4(高度自律運用)→レベル5(完全自律運用)へ
- 人間は戦略判断と創造的タスクに集中
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新たな専門職の出現
- AIオーケストレーター:AIシステムの設計と監督
- MCP設計士:企業固有のMCPエコシステム構築
- AI-人間インタフェース専門家:効果的な協働モデル設計
新たなビジネスモデル
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MCPを中心としたエコシステム
- MCP対応サーバーのマーケットプレイス形成
- 特定業界向けMCPソリューションの提供
- MCP統合コンサルティングサービスの需要増加
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AI増強型アウトソーシングモデル
- 人間とAIの協働によるハイブリッドサービス提供
- 成果ベース・SLA重視の契約形態への移行
- 継続的イノベーションを組み込んだ長期パートナーシップ
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自律運用プラットフォーム
- クラウドネイティブ環境を自律的に管理するプラットフォーム
- AIによる最適化と自動修復を核とした新サービス
- 従量制・結果ベースの課金モデル
おわりに
MCPは、AIとクラウド環境との統合を劇的に簡素化し、アプリケーション運用とインフラストラクチャー運用の両方に革命をもたらしつつあると考えています。標準化されたインターフェースによって、AIは様々なデータソースやツールにシームレスにアクセスし、より文脈に即した知的な判断と行動が可能になります。
MCPの概念と実装を理解し活用することは、AIとクラウドの力を最大限に引き出すために不可欠なスキルとなるでしょう。企業はAIと人間の新たな協働モデルを模索しながら、より効率的で俊敏なIT運用を実現していくことになります。
AIによる自動化と最適化が進む一方で、人間のエンジニアはより戦略的で創造的な業務に集中し、AIとのパートナーシップを通じて新たな価値を生み出していく役割を担うことになるでしょう。MCPはその転換を支える重要な技術基盤となると考えています!
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