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競走馬のピッチ・ストライド・速度と、その可視化

2025/03/24に公開

競走馬の運動能力を定量的に推し量るための要素は様々ありますが、ABELでは馬のピッチの高さとストライドの大きさが馬の能力や適性にどれだけ関係があるかの分析を行っています。

今後、ピッチとストライド系の分析記事を公開していく予定ですが、その前提となる競走馬一般においての ピッチの高さ速度、またそこから求められるストライドの大きさについて本記事では解説します。

ピッチの高さ:1秒間に何完歩か

ピッチの高さとは、馬がどれくらいの速さで脚を回転させているかを示す指標です。ピッチが高いほど脚の回転が速く、低いほど回転が遅いことを意味します。
人間の歩行では、片足ずつ地面に着くたびに「1歩、2歩」と数えますが、馬の場合は4本の脚があります。そのため、4本の脚すべてが順番に動き、最初の脚に戻るまでの一連の動きを「1完歩」と数えます。これは人間の「1歩」とは異なり、馬の動作全体を1単位として捉えたものです。
1秒間に何完歩するか=完歩/秒が、馬のピッチの高さを表す単位になります。

速度:移動速度 (時速)

速度はそのまま、馬が歩いたり走ったりしている時の移動速度、時速などです。

ストライドの大きさ:歩幅

ピッチの高さと速度から、1完歩におけるストライドの大きさ (単位:m/秒) を計算してみましょう。以下の計算式でストライドを求めることができます。

ストライド = 速度 ÷ ピッチ

ストライドは、一完歩あたりの馬の移動距離、つまり歩幅の大きさを表します。
速度が同じ場合、ピッチが高ければストライドは小さくなり、ピッチが低ければストライドは大きくなります。ストライドが大きいほど、1度の完歩で進む距離が大きく、ストライドが小さいほど、1度の完歩で進む距離が小さいことを意味します。

速度 ÷ ピッチ でストライドを求める手順

速度をピッチで割ることでストライドが求められる理由を、具体的な数値例を用いて説明

例えば、ある馬が200mの距離を15秒で走ったとします。これは競走馬のトレーニングでよく用いられる15-15ペースと呼ばれるもので、この時の速度を時速で計算してみましょう。まず、200mを15秒で走る速度を秒速で求めると、

200m ÷ 15秒 = 約13.33m/秒

これを時速に変換します。1時間は3600秒なので、

13.33m/秒 × 3600秒/時 = 約48000m/時 = 48km/h

つまり、200mを15秒で走る場合の速度は時速48kmとなります。
次に、この時、EQUTUMで計測されたピッチの高さが2.2だったとします。これは、1秒間に2.2完歩していることを意味します。ストライドを計算してみましょう。
ストライド = 速度 ÷ ピッチ の式に、速度 (秒速: 13.33m/秒) とピッチ (2.2完歩/秒) の値を代入すると、

ストライド = 13.33m/秒 ÷ 2.2完歩/秒 = 約6.06m/完歩

速度が48km/hでピッチの高さが2.2の場合のストライドは、約6.06mとなります、つまりこれは1完歩あたり約6.06m進んでいるということを意味します。

ピッチ × ストライド = 速度:速度はピッチとストライドの積

ここで、最も重要な関係性が出てきます。

ピッチ × ストライド = 速度

という関係式です。 速度は、ピッチとストライドという2つの要素に分解できる、と言えるのです。単位の関係で見ても、

(完歩/秒) × (m/完歩) = m/秒

となり、ピッチ(1秒間の完歩数)とストライド(1完歩あたりの距離)を掛け合わせることで、速度(1秒間あたりの移動距離)が求められることがわかります。

このピッチの高さ速度ストライドの大きさをABELで開発しているEQUTUMではセンサーのデータを利用して可視化しています。

EQUTUMとは

EQUTUMは、馬の四肢に装着したセンサーとスマートフォン、そして心拍センサーを用いて、トレーニング中の馬の動作と心拍数を詳細に記録し、それを可視化するシステムです。JRAの美浦・栗東トレーニングセンターの調教師の方々をはじめ、地方競馬、育成牧場など、幅広い現場でご活用いただいています。


四肢用のセンサー画像(実物)


センサーの着用イメージ(出演:アイドルホース・ソダシ)

https://abel-inc.com/equtum

ピッチの高さ

EQUTUMでは、トレーニング中にセンサーが捉えた脚の動きから、馬の「1秒間に何完歩」を時系列で算出しています。

速度

EQUTUMでは、トレーニング中の馬にスマートフォンを装着していただき、GPSなどを用いて時系列の位置情報データを取得して馬の移動速度を計算しています。


美浦坂路コースを駆け上がる軌跡を地図に表示し、位置情報から速度などを計算する

ストライドの大きさ

時系列のピッチの高さと速度から、時系列のストライドを算出しています。

ちなみに〜減速時のストライドについて

減速時にストライドが上がることがある

コースをゴールインした直後など、馬が減速していく際にピッチ・ストライド・速度の変化にある特徴が見られます。
馬が減速を始めると、脚の回転を抑えるため、ピッチの高さは急激に低くなります。しかし、速度は慣性の法則が働くため、意図して馬にブレーキをかけない限りはピッチほど急には落ちず、徐々に遅くなっていきます。
このピッチと速度の変化のずれによって、減速時にはストライドが一時的に大きくなることがあります。これは、計算式 (ストライド = 速度 ÷ ピッチ) からも理解できます。分母であるピッチが急激に小さくなる一方で、分子である速度は緩やかにしか小さくならないため、ストライドの値が一時的に大きくなってしまうのです。
EQUTUMで算出している一部の指標では、この減速時のストライドの増加をノイズとして捉え、データ分析の対象から除外するなどの処理を行う場合があります。


減速時にピッチは下がっていっても、慣性が働くためストライドは下がらない


この記事では、競走馬一般においてのピッチ・ストライド・速度について解説しました。

  • ピッチ (高さ): 1秒間に何完歩か (単位: 完歩/秒)
  • 速度: 馬の移動速度 (単位: km/h)
  • ストライド: 速度 ÷ ピッチ (歩幅の大きさ) (単位: m/完歩)
  • ピッチ × ストライド = 速度

今回の内容はEQUTUMに限った話ではなく一般的な内容となりましたが、今後のEQUTUMのデータ分析に関する記事では、これらの話を前提に話を進めていくことになります。
データ分析記事を楽しみにしている競馬ファンの皆様にとって、今回の記事でEQUTUMにおけるピッチ・ストライド・速度の基本的な考え方を理解しておくと、スムーズに内容が入ってくるのではないかと思います!

ABEL, Inc.

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