情シス本執筆のススメ(執筆メリット・ゆきさんインタビュー編)
本記事は「【初心者優先枠】corp-engr 情シスSlack(コーポレートエンジニア x 情シス)#3」の12/05枠として投稿します。まだまだ枠は空いているので、どんどん投稿をお願いします。
どんな記事なのか
本記事は法人の情報システム部門(情シス)に所属しているIT担当者のうち、自分の知見をまとまった形で共有したいと考える皆様に向けて書きました。法人によっては情シスが存在せず、総務部門などの中で個人としてITを担当している方もいらっしゃるかと思いますが、そのような方にもお読み頂きたいと思います。
本記事を書こうと思ったのは、自分がこれまで執筆してきた情シス本と呼ばれるジャンルの技術同人誌の執筆者がまだまだ少なく、書いてみようかなと思う方が増えることでこの界隈のアウトプットが増えれば良いなと考えたためです。
本記事は以下の2つの記事のうちの前者の記事です。後者の記事は12/11の情シスアドベントカレンダーの記事として公開予定です。
- 情シス本執筆のススメ(執筆メリット・ゆきさんインタビュー編)
- 情シス本執筆のススメ(執筆の流れ編)
記事の終わりには、情シス本の執筆者の先輩であるゆきさん(@yk_ichinomiya)へのインタビューもあります。僕の記事は最悪読まないでもいいので、ゆきさんのインタビューだけでも読んでください!
ちょうど現在技術書典12のサークル参加申し込み期間中ですので、是非申し込んでみてください!
情シス本を書くメリット
本章では情シス本を書くメリットを挙げていきます。人によって書くきっかけは様々かと思いますが、自身がメリットと感じるものに近いものを見つけてみてください。
自分の知見を共有してフィードバックを得られる
これは本の書き方のアプローチでもあると思うのですが、本を書くきっかけは大きく分けて以下の2つです。
- 自分がこれまでに身に着けたノウハウや知識を整理したり共有したい
- 本の執筆をきっかけにして新しいノウハウや知識を身につけたい
私がこれまで話してきた著者の方は前者のパターンが多かったです。
自分の知見を共有することのメリットは、共有したことに対するフィードバックが得られることです。
フィードバックは、「とても役に立ちました!」といった内容や「うちではこうしてるよ!」といった内容もあります。人から感謝されると単純に嬉しいですし、他の法人でどのようにしているかを知ることは視野が広がります。
スキルアップできる
前節の「本の執筆をきっかけにして新しいノウハウや知識を身につけたい」というモチベーションで執筆を行う方は、スキルアップできるという点をメリットと感じることができます。
知見が無いことについて書くのは勇気がいることです。
自分の興味のあることや詳しくなりたいことなのであれば「間違ってたら直すから指摘してね!」というモチベーションでいきましょう。
私が書いた情シス本の中で、以下のクラウドサービス本がスキルアップしたいという傾向が強い本です。
この本を出した頃は副業としてIT担当者に向けてコンサルを始めたいと考えており、学習するならクラウドサービスだろうと考えて勉強がてら本を書くことにしました。
ただ、情シス関連の業務は一切関わったことが無かったので、どう書くか迷いました。
迷う中で一つ決めたのは、自分が実際に動かしてみて良いと思ったサービスや使い方だけを紹介しようということです。
自分が実際に動かした内容だけを紹介すれば間違えることはありませんし、自分が良いと本当に思った内容であれば自信を持って紹介できるからです。
ただ、技術検証を伴うやり方は時間も掛かるので執筆期間は1~2ヶ月確保して臨むほうがよいです。
実際に本を書いてみた後で動かしたサービスについての質問に答えられるようになるなど、手を動かした分はスキルが身につくなということを実感しました。
同じようにスキルアップしたいという発想で、次の技術書典12は経験のないSaaSの個人開発に関する本を書こうとしています。頑張ります!
お小遣いの足しになる(こともある)
副業としてお小遣いを稼ぐ手段としても情シス本は期待できます。
なぜなら以下の記事の通り日本には264万以上の法人があり、各法人にIT担当者が最低1名いるとすると264万名(兼任含む)が潜在読者ということになるからです。
それだけの方がいれば、0.0001%にしか刺さらなかったとしても264名が買ってくれることになります。
前述のクラウドサービス本で私がいくら程度稼いだのかは、以下の資料に記載しています。
上述のクラウドサービス本を書いた後に、次回作はもっと広くIT担当者の方に読んでもらいたいと考えて、皆さんの関心が深そうな「評価」というテーマを選びました。
ただ、正確な集計ではないですが売上としては5万円程度であり、クラウド本を下回る結果でした。
技術的な内容の方がウケが良いというのもあるかもしれませんが、何よりもクラウド本のときのほうが自分がスキルアップしたいという目的があって執筆したので、その情熱がより読者に伝わったのかもなとも考えています。
このことから、広く読んでもらいたいと考えて書くよりも自分が関心が強い内容で書くのが一番だと学びました。
とにかく本を書きたいという欲求を満たせる
まれに理由もなく「本を書きてえな」と考える人がいます。その人がIT担当者だった場合は、自分の業務に関して書くのが近道となります。そのような人にとっては、本を書くということがゴールであり、書くことで欲求を満たすことになります。
実は私もこの気があります。執筆中は「なんでこんな大変なことをやっているんだろう。。。」と毎回考えるのですが、一旦書き終えるとなんともいえない開放感を感じます。
そして執筆が終わると日々の売上を数えたり、たまに感想をツイートしてくれたりするのを眺めたりという楽しい時間が始まります。
執筆という大変な思いをした後に楽しい期間があるため、アップダウンでとても楽しく感じます。そのため、その楽しさが忘れられずにまた本を書いてしまうのです。
これが私が本を書き続けている理由として一番大きいかもしれません。
情シス本著者ゆきさん(@yk_ichinomiya)へのインタビュー
ここからは、私が情シス本を書くきっかけとなった情シス本著者のゆきさん(@yk_ichinomiya)へ執筆についてインタビューした内容を掲載します。
ゆきさんの著書は以下で、1人情シスに向けて情シスの仕事の全体像や具体的な進め方を記載した素晴らしい本です。買いましょう。
以下からインタビュースタートです。
執筆しようと思ったきっかけ
一般参加者(買う側)で参加したのが技術書典2でしたが、技術書典全体で見たときに情シス本がほぼ無かったので誰かが書いたほうが面白いなと思いました。
自分が書いてみればジャンルとして盛り上がるのではないかと思ったのが直接的な理由です。商業誌をみても当時は情シス本は少ない状況でした。
あったとしても内容が薄かったり、ポジショントークになっていたりという印象でした。情シスはセキュリティやWindowsなどそれぞれの分野を勉強すればよいという意見もあるが、それでは情シスという仕事のイメージがつきづらいと思います。情シスがどんな仕事かわからないので、何から勉強していいのかがわからないのではないかと思いました。
あくまで情シスという観点でまとまった本があればいいよねと思ったのが執筆のきっかけです。
執筆をしてよかったこと、大変だったこと
よかったこと
同人誌というのは、投入した時間に対して売上というリターンは限られていると思います。ただ、活動を通じて色々なことが広がっていきます。例えば同業であるIT担当者との交流などです。技術書典の理念に、情報発信するところに情報が集まるというのがあります。自分にも情報が集まってくるというメリットを感じました。
また、自分の頭の中を整理しておきたいという考えもありました。日常の仕事の中で体系化せずにその場その場で考えて仕事をしているので、10年間の経験・知識を外部化したいという考えもありました。
人に伝えるときも伝えやすいです。実際に情シスの仕事から今は離れていますが、1~2年後に復帰したとしても自分の本を見ることでブランクを最小化して始められると思います。
復帰してすぐに新しい仕事を始めることもできます。
経験の浅い初心者の方にも著書を渡して知識をつけて業務をしてもらうこともできます。
自分の本だと、4月に買ってもらっている人が多く4月に情シスに配属される人が買っているのかなと思います。フォロワーさんの中にもそういう風に言ってくれている人がいて、そういう活用をされていると嬉しいです。
他に良かったことは、売上や会場での反応でモチベーションが上がることです。普段の業務は限られた人からのフィードバックであり、阿吽の呼吸で仕事をするので客観的なフィードバックとはいいづらいです。技術書の執筆により普段接しない人からの良いフィードバックをもらえます。
大変だったこと
大変だったこととしては、世の中に無い本だったので構成をどうすればよいのか決めれなかったことです。業務の範囲が広すぎて構成についてはどうすればいいかなと今も思っています。切り口やカバー範囲が広いので、どうすればよいかとにかく悩みました。
構成は、自身で考えて何パターンか組み替えてみて本の形っぽくなったパターンを採用しました。書く途中で想定よりボリューム増えたり、構成が変わることもありました。
最終的には締切があったので、できている範囲のもので出すことにしました。前例のない本は、完成度を高めるよりはまずは出すことが大事かと思います。自分よりスキルのある人がこの分野に参戦してくれれば、儲けものです。
商業誌は売れなきゃ駄目ですが、同人誌は読者や潜在著者とのコミュニケーションのツールでもあると思います。技術書典の傾向を見ても、参加者が著者になるケースは増えていると思います。
最近情シス本も増えてきて嬉しいです。
執筆に使用するツール
Visual Studio Codeでマークダウンで書いて、それをPandocでHTMLにしていきました。Vivliostyle(CSS組版ツール)を活用してブラウザでプレビューしつつ、最後はブラウザの印刷画面でPDFにしました。Vivliostyleを活用したほうがプレビューがしやすいです。
Re:VIEWに対するCSS組版の良さは、装飾などをカスタマイズできる点がいいです。これはページ数を圧縮したいときに良いです。ページ数が減ると印刷代が減ります。Re:VIEWをいじるとTeXを修正する必要があり大変です。
執筆スキルについて
文章の書き方に関しては、早いうちに勉強しておけばよかったと思います。『数学的文章作法』という本を早めに読んでおけばよかったなと思います。
デザイン的な部分はなかなかすぐには難しいですが、自分が一番慣れてるツールを使うのがいいかと思います。
印刷系のデザイナーさんは、Adobe InDesignを使ったりしてました。マークダウンからicmlに変換してAdobe InDesignのファイルに流し込むのが技術書には合うと思います。
おやかたさんがやっているような合同誌に参加してノウハウを学ぶのも良いです。チームでやるのが好きな人は向いているかもしれません。
本のネタについて
『基礎からのIT担当者リテラシー』という本をひな形や基礎として、自分がかけるなと思う応用範囲を考えていくのも良いです。
ネタ探しという意味では、切り口が色々あるので難しいものです。同じ技術でも情シスそれぞれによって使い方が違ったりします。
情シスのことを書く上で正論ばかりになってしまうと、読者を突き放すことになってしまうのが難しい点です。「正論はわかってるから、限られたリソースでどうやればいいか教えてほしい」ということになります。
情シス本を書く上で、実践という言葉は切っても切れませんが、それを考えながら書くのは難しいことです。自分は経験や勘所からこのあたりに対処してきましたが、全くの未経験から情シスになるパターンでは、勘所が全くわからないこともあります。
例えば、セキュリティーではリスク評価のバランスが取れない場合があります。
個人の感覚で進めるとまずいと思いますが、そのようなケースもあります。特にセキュリティーの場合は問題だと思います。最近よくあるケースでは、不審なメールが届いた場合にどのようなリスクにさらされていると理解できて適切に対処できているかという点です。Emotetの場合では送信元を詐称して不審メールがばらまかれます。その場合は、詐称元のメールアドレスの流出経路やどこまでばらまかれているのかの把握が必要になります。
そういった知識が無いと、とりあえずウィルスチェックをしようとなったりして、必要な対処が手遅れになってしまったりします。
そういった部分は、適切な知識が無いと対処が難しいです。一般の人にはなかなか分かりづらい部分なので、情シスが経営層に説明する際にとても困ることになります。セキュリティに精通した従業員が多ければ説明もしやすいですが、多くの会社がそうではありません。
いわば素人集団の中に置かれた専門家という状況になっています。せめてそのような方が最初に勘所がつかめればいいなと思います。
セキュリティの技術を解説する本は存在しますが、セキュリティ知識がどう実務につながり、なぜ必要なのかを教えてくれる本はあまりないなと思います。特にはセキュリティについては、このようなことを記載してくれている本の不足が顕著です。
最後に
インタビューは以上となります。
お読みいただきありがとうございました。
この記事をきっかけに情シス本を執筆してみようかなと思う人が少しでも増え、知見を共有する人が増えることが私やゆきさんの願うところです。
「情シス本のススメ(執筆の流れ編)」も後日公開予定ですので、是非お読みください。
再掲になりますが現在技術書典12のサークル参加申し込み期間中ですので、是非申し込んでみてください。本の締切ではなく、出展申し込みです。
今回はオンライン開催ですし、サークルといっても私のように個人で参加している著者は多くいます。
申込みといっても、カッチリした内容ではなく「こんなことを書こうとしている」というアイディアレベルでも大丈夫だと思います。少しでも興味のある方は是非申し込んでみてください!
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