事業の解像性を高める必要性
事業の不確実性
どのようなビジネスであっても、顧客に価値を提供し、利益を上げ、その利益をもとにさらなる価値を提供したり、出資者にリターンを返したりするというサイクルを理想とすることは共通しています。
ここで、事業を行う目的を「利益を上げること」とします。(実際には、企業価値の向上、株主への利益還元、会社のミッション・ビジョンの追求など、複数の目的が複合的に存在していると思いますが、いずれの目的も利益が上がって初めて達成できるという前提で話を進めます。)
こうすれば必ず利益が上がるという確実な手法は、残念ながら存在しません。
事業には必ず不確実性が伴います。例えば、今まで利用してくれていた顧客(会員)が突然離れてしまったり、予期せぬトラブルが発生したり。利益が上がらなくなる要因は無数に存在しえます。
そういった中でも、なるたけ確度高く利益を上げるには、「不確実性」をなるべく減らしていくことが必要です。
不確実性が減るということは、事業について知らないこと(メカニズムがわからないこと)が減ると言えます。
そうすれば、予期せぬリスクが減り、起こりうることに対して確度高く予測ができるようになり、結果として確度高く利益を上げることができるようになります。
そして、そうした事業の不確実性を減らすためには、事業を構成する要素を細かく分解して理解し、事業に対する「解像度」を高めることが必要です。
事業に対する解像度とは
では、「事業に対する解像度が高い」というのは、一体どういうことなのでしょうか。
簡単に言えば、事業が成り立つメカニズムを解明するということです。
利益は売上から費用を引いて算出されます。さらに、SaaSにおいて売上(定期収益)はおおよそ顧客数×顧客平均単価×平均契約期間で構成されます。そうすると、顧客数と顧客平均単価と平均契約期間(継続率)を高めることができれば、利益が向上するという仮説が立ちます。
次に、例えばどうすれば顧客平均単価を高めることができるか考えていきます。顧客の単価を決めるプラン構成はどうなっているのか、どうすれば顧客はそれぞれのプランを購入(または解約)するのか、といったように、要素を因数分解していくことになります。
このように、事業を構成する要素を分解・指標化し、どのように事業が成り立っているのかそのメカニズムを解明することで、不確実性を減らし、結果として確度高く利益を生み出すことができるようになります。
KPIモデルを解明する
前述のようにして事業を構成する要素を分解・指標化した結果として得られる産物を「KPIモデル」と呼びます。(詳しくは、記事「サブスクリプション経営におけるKPI」で詳述しているので、ご覧下さい。)
もちろん、最初から完璧なKPIモデルを作ることはできませんし、そもそも完璧なKPIモデルは存在せず常に改善がなされていきます。
そのため、KPIモデルを絶えずアップデートしていくことが必要です。
KPIモデルを解明するプロセス
KPIモデルを解明し、アップデートしていくには、以下のようなプロセスを繰り返したどることが考えられます。
- 現在の事業や現状のKPIモデル状況から、目標(KGIやKPI)に対する課題を特定する。
- 課題を深掘りしてさらに細かいKPIに分解し、課題を改善しうる仮説を立てる。
- 仮説にもとづいて施策を立案し、実行する。
- 施策の成否にかかわらず、なぜそのような結果になったのかを現状のKPIモデルと紐付けて考察する。
- 考察をもとに、KPIモデルの不備を改善する。
このように高速に試行錯誤を繰り返すには、物理空間での取り組みのみでは限界があり、ソフトウェアを用いた情報空間での試行錯誤が必要になります。(別記事詳述)
24時間年中無休ジムで考えてみる
実際に、24時間年中無休ジムにおけるKPIモデルを考えてみます。
前述のように、一旦目的を「24時間年中無休ジム事業の利益を上げること」とします。すると、利益というKGI(重要成果指標)は、例えば以下のように分解できます。(詳しくは、記事「サブスクリプション経営における管理会計」をご覧下さい。)
- 定期収益を増やす *俗に言う「トップラインを上げる」
- 会員数を増やす
- 継続率を高める
- 単価を上げる
- 定期費用や営業費用を減らす *俗に言う「コストカット」
- 研究開発費(R&D)を減らす
- 一般管理費(G&A)を減らす
- 営業マーケティング費(S&M)を減らす
- 本業以外での収益を増やす
- スポットでの売上を増やす
- …
- 本業以外での費用を減らす
- …
分解するとこのように複数の要素が考えられますが、すべてに対してアプローチするのは難しいです。
そこで、24時間年中無休ジム事業の解像度を高めることにフォーカスすることにします。すると、1, 2を伸ばすのがよいのではないかと考えられます。
次に、1, 2をさらに分解し、1, 2の数値を伸ばすために、どのKPIに注力して伸ばしていけばよいか仮説を立てていきます。(詳しくは、記事「サブスクリプション経営におけるKPI」に譲ります)
そして、それらの仮説をもとに施策を立案・実行し、結果を考察します。どの施策によりどの指標が高まり、それがどのようにKGIや他のKPIに影響するのかを観測・考察することが必要です。
物理空間に頼った試行錯誤の限界
こうしてKPIモデルを構築しようとしてみると、事業を構成する要素は複雑で、大量のKPIが考えられることは想像に難くないのではないでしょうか。
一方で、KPIモデルを構築・改善することで事業を成長させようとすると、KPIモデルをもとに施策を立案・実行し、KPIモデルをアップデートするサイクルを高速で回すことが必要になります。
複雑な要素・大量のKPIをすべて計測・観測し、高速でアップデートを繰り返すことを人力で行おうとすれば、たちまち破綻してしまいます。
この問題を解決するには、ソフトウェアの力を借りることが有効です。
この詳細については、後日別の記事でまとめようと思います。
余談:ソフトウェアによる自動化の行き着く先
最終的には、KPIモデルに基づく施策の投資対効果の予測・測定までを、ソフトウェアにより自動化することが究極の理想型になります。
それが達成できれば、人が担う仕事は
- ソフトウェアが示した内容をもとに最終的な判断を下すこと
- ソフトウェアが対処しきれない(複雑だったりデジタルに落とせなかったりする)問題に対処すること
に集約されていくのではないでしょうか。
まとめ
本記事では、事業の解像度を高める必要性と、そのためのKPIモデルを解明するプロセスについて説明しました。
本記事に記したことをもとに、世に言う「DX」とは何かを捉えると、より理解が進むことを願っています。
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