自律型エージェントの構築とベストプラクティス
効率的なエージェントを開発するための考え方とパターンをまとめた資料(Building effective agents)をAnthropic 社が発表しました。この資料は、どういうタスクには対してはどういうエージェントが適しているかという観点から、エージェントの設計についての指針を提供しています。
本記事は、この資料を3つのストーリーポイントに分けてキャッチアップしたもののひとつになります。
自律型エージェントの構築とベストプラクティス
自律型エージェントは、大規模言語モデル(LLM)を活用して、自律的にタスクを処理するシステムです。これらのシステムは、複雑なタスクを自律的に処理する能力を持ち、さまざまな分野での応用が期待されています。本記事では、自律型エージェントの概念、設計原則、ツール開発におけるベストプラクティスについて解説します。
自律型エージェントとは?
「エージェント」という言葉はさまざまな意味で使われますが、本記事ではLLMが自身のプロセスとツール利用を動的に決定し、タスクを遂行するシステムを指します。
従来のワークフローとは異なり、自律型エージェントは以下の能力を持ちます。
✅ 入力の理解:ユーザーの意図を適切に解釈
✅ 推論と計画:タスクを細分化し、最適な手順を決定
✅ ツールの利用:適切なAPIや関数を呼び出し、結果を取得
✅ 環境との対話:外部のフィードバックを活用し、動的に対応
この仕組みにより、事前に決められたコードフローに依存せず、より柔軟な動作が可能になります。
活用事例
自律型エージェントは、以下のような分野で活用されています。
- コード作成エージェント
- SWE-benchタスクを解決し、複数のファイルを編集
- コンピューター操作エージェント
- GUIやAPIを利用し、タスクを自動実行
- カスタマーサポート
- 顧客データや注文履歴をもとに、払い戻しやサポート対応を自動化
- 検索エージェント
- 複数の情報源を横断して検索・分析
自律型エージェントの設計原則
エージェントを効果的に構築するためには、以下の3つの原則が重要です。
シンプルな設計を心がける
- 過度に複雑なフレームワークよりも、シンプルで拡張しやすい構成を選択。
- 小さなモジュールを組み合わせる形で設計する。
透明性を確保する
- エージェントの思考プロセスをログとして出力。
- ブラックボックス化を避け、デバッグしやすい仕組みを構築。
エージェントとコンピュータ間のインターフェース(ACI)を最適化する
- ツールのドキュメントを充実させ、使用例やエッジケースを明示する。
- ユーザーが直感的に操作できるよう、わかりやすいパラメータ設計を心がける。
ツール開発とプロンプトエンジニアリング
エージェントが外部のAPIやツールを活用する際、ツール設計が重要になります。以下のポイントに注意しましょう。
✅ 適切なトークン管理
- モデルが「考える」ための十分なトークンを確保。
✅ 自然なデータ形式を使用
- モデルの学習データに近いフォーマットを採用し、誤解を防ぐ。
✅ オーバーヘッドを排除
- 不要なデータ変換やフォーマット処理を最小限に。
✅ ツールのわかりやすさ
- 明確なパラメータ名と説明を設定し、誤入力を防ぐ(ポカヨケ)。
✅ テストとフィードバックの活用
- エージェントが実際にツールを使用する際の挙動を検証し、改善を繰り返す。
TypeScriptによるツール定義の例
以下に、エージェントが使用するツールの実装例を示します。
import fetch from "node-fetch";
import fs from "node:fs/promises";
interface Tool {
name: string;
description: string;
parameters: { [key: string]: { type: string; description: string } };
execute: (args: { [key: string]: unknown }) => Promise<string>;
}
class FilePath {
constructor(public path: string) {}
}
class CodeContent {
constructor(public content: string) {}
}
// 検索ツールの定義
class SearchTool implements Tool {
name = "search";
description = "指定されたクエリでインターネット検索を実行。";
parameters = {
query: { type: "string", description: "検索クエリ" },
};
async execute(args: { [key: string]: unknown }) {
try {
// 実際の検索処理 (例: node-fetch)
const response = await fetch(
`https://example.com/search?q=${args.query}`
);
const result = await response.text();
return `検索結果: ${result}`;
} catch (error) {
console.error("検索エラー:", error);
throw new Error("検索処理に失敗しました。");
}
}
}
// コード編集ツールの定義
class CodeEditTool implements Tool {
name = "codeEdit";
description = "指定されたファイルのコードを編集。";
parameters = {
filePath: { type: "FilePath", description: "編集するファイルのパス" },
content: { type: "CodeContent", description: "新しいコードの内容" },
};
async execute(args: { [key: string]: unknown }) {
const { filePath, content } = args as {
filePath: FilePath;
content: CodeContent;
};
try {
// 実際のファイル編集処理 (例: fs モジュール)
await fs.writeFile(filePath.path, content.content);
return `ファイル ${filePath.path} を編集しました。`;
} catch (error) {
console.error("コード編集エラー:", error);
throw new Error("コード編集処理に失敗しました。");
}
}
}
// ツールストラテジー
interface ToolStrategy {
getTool(task: string): Tool | null;
}
class TaskBasedToolStrategy implements ToolStrategy {
constructor(private tools: Tool[]) {}
getTool(task: string): Tool | null {
// タスクを解析してツールを選択する
if (task.includes("検索")) {
return this.tools.find((tool) => tool.name === "search") ?? null;
}
if (task.includes("コード編集")) {
return this.tools.find((tool) => tool.name === "codeEdit") ?? null;
}
return null;
}
}
const searchTool = new SearchTool();
const codeEditTool = new CodeEditTool();
const allTools = [searchTool, codeEditTool];
const toolStrategy = new TaskBasedToolStrategy(allTools);
// エージェントがツールを利用する例
async function executeAgent(task: string) {
const selectedTool = toolStrategy.getTool(task);
if (selectedTool) {
try {
let args = {};
if (selectedTool.name === "search") {
args = { query: task.split("検索")[1] };
} else if (selectedTool.name === "codeEdit") {
args = {
filePath: new FilePath("sample.txt"),
content: new CodeContent(task.split("コード編集")[1]),
};
}
const result = await selectedTool.execute(args);
console.log(result);
} catch (error) {
console.error("ツール実行エラー:", error);
}
} else {
console.log("適切なツールが見つかりませんでした。");
}
}
executeAgent("TypeScript 検索");
executeAgent("sample.txt のコード編集しなさい。これは新しいコードだ");
executeAgent("ファイルを削除したい");
索引
用語 | 説明 |
---|---|
自律型エージェント | LLMが自身のプロセスを動的に決定し、タスクを遂行するシステム。 |
ワークフロー | 事前に定義されたコードパスに沿って処理を進める方式。 |
ツール | エージェントが外部サービスと連携するための機能。 |
ACI (Agent-Computer Interface) | エージェントとコンピュータ間のインターフェース。 |
プロンプトエンジニアリング | LLMがツールを適切に活用できるように最適化する技術。 |
まとめ
自律型エージェントの開発では、設計のシンプルさ・透明性・インターフェースの最適化が重要です。また、ツールの設計とプロンプトエンジニアリングを適切に行うことで、より信頼性の高いエージェントを構築できます。
技術の進化とともに、これらの原則を活かしながら、より実用的で効果的なエージェントの開発を進めていきましょう。
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